装甲砲艦キット2種

毎年、虫にやられて全滅する庭の栗の実を今年こそは収穫させてもらおうと、殺虫剤(毒物・劇薬じゃないやつ)を噴霧して収穫を心待ちにしていたものの、台風、台風、台風の連発でだいぶ実が落ちてがっかりしている筆者がお送りする世界のカードモデル情報。ちなみに、殺虫剤の匂いがなんか嗅いだことのある匂いだな、と思ったら成分の約三割がレジンの溶剤と同じキシレンでした。
今回は過去にリリース済みのキットの中から、なんか気になったキットを今更紹介しようという企み。
まず紹介するのは、イギリスのブランドPaperShipwrightから2004年にリリースされた装甲砲艦 HMS Staunch & HMS Kite だ。

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PaperShipwrightは基本的には灯台と民間船が主力のブランドなのだが、なぜか19世紀の装甲艦も各種リリースしている。逆に言うと、軍艦は19世紀の装甲艦と第一次大戦の英軍モニター艦しか扱っていない。なんでそんなに偏ってるんだ。PaperShipwrightの19世紀装甲艦シリーズの中には、アメリカ装甲砲艦 "USS MONITOR"と南部連合装甲艦 "CSS Virginia"もあるのだが、前にそのあたりを話題にした時に紹介するのをすっかり忘れていた。ごめんご。それにしてもCSSバージニアはなんだって何度も、それもウクライナとかスペインとかイギリスとかで模型化されてるんだろう。みんなそんなにバージニアが好きなのか。

今回紹介する HMS Staunch と HMS Kite は、砲艦として、また装甲艦としてもごく初期の装甲艦揺籃期に属する船。
ナポレオンの時代から、敵海軍の来寇を防ぐために沿岸砲台任せではなく、水上に大口径の沿岸砲を載せたハシケを浮かべよう、というアイデアはあったが、帆船では敵艦に思うように砲を向けられない(旋回砲塔の発明はもうちょっと後)し、かと言って櫂船で砲艦ってのもいろいろ無理があるんで、本格的な砲艦の登場は蒸気船の登場以降となる。
イギリスでは1860年代、アームストログ社とミッチェル造船所(後にアームストロング社に吸収される)が共同して新型軍艦の設計を行っていた。このプロジェクトの指揮をとったのが船舶工学者のジョージ・レンデル(George Wightwick Rendel)で、完成した船は彼の名前をとって「レンデル砲艦」(Rendel gunboats)、または形状が似てるために「アイロン砲艦」とも呼ばれた。
レンデル砲艦で最初に完成したのが HMS”Staunch”(「頑丈な」、あるいは「強固な」。形容詞 )で、1867年、日本で言えば大政奉還の年に就航した。これは、排水量わずか164トンの船体に9インチ(228ミリ)前装砲を積んだものだったが、さすがにこれは船体が小さすぎたようで、次に船体を193トンまで拡大したHMS”Plucky”(「勇気がある」、「元気がいい」)が試作され、最終的には船体241トン、主砲を10インチ(254ミリ)前装砲とした「アント(蟻、あり)級」が20隻建造された(ほぼ同型の「ガドフライ(虻、あぶ)級」4隻を含めた24隻とすることもある)。それまでの威勢のいい名前が急に弱そうな虫の名前になってしまうのはなぜなんだ。なお、同型艦の名前は虫の名前には限られておらず、「スネーク」とか「ブルドッグ」とかもある。

それでは、世界初の本格的装甲砲艦と言えるHMS”Staunch”と、その「量産型」であるアント級のHMS”Kite”(鳶、トビ)の姿を PaperShipwright 公式ページの完成見本写真で見てみよう。

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なんというか……いろいろと、どうにかならなかったのかと聞きたくなるようなカタチだ。アイロンというよりもスリッパのようにも見える。ちなみにマストが立ってる黄色煙突の方が、10インチ砲の量産型「HMS Kite」、灰色煙突の方が9インチ砲の試作型「HMS Staunch」だ。Staunchの方は、なんだってわざわざ砲口を擁壁に設けたアーチの中に突っ込んでるんだろう。最初、航行中に砲身が揺れるのを防ぐトラベリング・ロックかと思った。あるいは射界を制限するための安全装置なのだろうか。よく見ると砲の下に円弧状のレールがあり、砲尾が振れるようになっていることがわかるが、射界は非常に狭い。ただでさえ装填が遅い前装砲でこれしか射界がなかったらどうやって戦うつもりだったんだろうか。あるいは、低いシルエットを生かして戦列艦の砲列甲板の下に潜り込んで至近距離から一方的に舷側をドコドコ叩き続けるつもりだったのか。

イギリス軍は1880年代後半までにこの手の船を40隻配備したが、「沿岸防衛」としての実戦は経験していない。
おそらく唯一レンデル砲艦で沿岸防衛の戦いを行ったことがあるのはイギリス海軍ではなく、略同型艦(480トン、28センチ砲)を購入・配備していた清国海軍北洋水師で、6隻が北洋水師司令部のある威海衛の守りについていた。
だが、いざ日本艦隊が攻めてくるとレンデル砲艦艦隊は1発か2発発射しただけで側面に回り込まれてしまい、手も足も出なくなって後退せざるを得なかった。まぁ、当たり前と言えば当たり前だが、何事もやってみなきゃわからんもんだ。なお、実戦で全く役に立たなかったとしてもレンデル砲艦は「その砲威力をもって敵の侵攻を抑止した」と評価する考え方もある。また、相手が動かない陸上目標に対する艦砲射撃ではレンデル砲艦も実戦で一定の戦果を上げており、完全に無駄であったわけではない。
ちなみに北洋水師の6隻のレンデル砲艦(「鎮東」「鎮西」「鎮南」「鎮北」「鎮中」「鎮辺」)は北洋水師降伏後に日本軍に引き渡され、そのままの名前で日本艦隊に組み込まれている。

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展開図。250分の1で完成全長10センチの非常に小柄な船なので、A4で2枚のこれで全部の展開図。

さて、せっかくなので今回は良く似たコンセプトの艦のキットをもう一つ紹介しておこう。お次に紹介するのはドイツHMV社のキット、装甲砲艦 SMS Wespe & SMS Natter だ。こちらは初版は2000年のキットだが、現在出回っているのは2015年に再版されたセカンド・エディション版。

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なんかさっきのレンデル砲艦よりも随分細かいように見えるが、こっちは排水量1100トンもある船なので単純比較してはいけない。小型の船体に限定された射界の巨砲を一門だけ積むという、レンデル砲艦とほぼ同じコンセプトで作られている艦だが、名前もイギリス海軍アント級砲艦の「HMS ガドフライ(アブ)」に対して「SMS ヴェスペ(ミツバチ)」、「HMS スネーク(ヘビ)」に対して「SMS ナッター(ヘビ、ナミヘビ科)」と対応しているのがおもしろい。もちろん、どちらも沿岸防備の浮き砲台なので相手と張り合うつもりはなかっただろう。
SMS ヴェスペをネームシップとするヴェスペ級は北海・バルト海の港湾防衛のために建造された船で、全部で11隻が建造された。
それでは、さっそくHMV公式ページから引用した完成見本写真を見てみよう。

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イギリスのアント級に比べると砲の周りが一段嵩上げされて砲員を守るようになっているなど、細かいところで進化していることがわかる。
こうやって見ると、一般にまるでトンチキな発明だと思われがちな円形砲艦ノブゴロドだって、建造当時(1874年)は砲艦の効果的な形状を模索中だったことを考えればそれほどあさっての方向へぶっ飛んでるわけでもないことがわかる。よくノブゴロドの欠点として「円形で抵抗が大きいために極度に鈍足だった」と言われるが、千トンのヴェスペ級が最高速度9ノットなのに対し、2千トンのノブゴロドが6.5ノットしか出なかったとしてもそれほど驚くほどの鈍足ではないし、そもそもこの手の装甲砲艦は単なる「移動可能な浮き砲台」なので速度は大した問題ではないだろう。まぁ、砲撃すると船体がクルクル回っちゃうのは大問題だが。

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細部にクローズアップ。主砲はアント級よりさらにパワーアップしたクルップ製30.5センチ後装砲。旅順港攻防戦で有名な、日本軍の28サンチ榴弾砲と雰囲気が似ているがそれもそのはず、28サンチ榴弾砲(もとは沿岸砲)はクルップの火砲を参考にイタリア軍が製作した砲を原型としているので、この30.5センチ砲とは親戚関係ということになる。つまり、いうなればレンデル砲艦というのはあの28サンチ榴弾砲を海に浮かべよう、というコンセプトだったわけだ。

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右写真に写っている不思議な形状のものは自衛用の8.7センチ砲。変な砲架は発射するとギッチョンと折りたたまれて背が低くなり、側壁の下に隠れるというオモシロギミックらしい。

アント級、ヴェスペ級とも19世紀終盤には旧式化してしまい、次々に退役した。船体形状が航行に向いてない(幅が広く喫水が浅い)ために、退役後は物資貯蔵庫や運搬船などに転用された船が多いが、変わった所としては、ヴェスペ級の SMS Hummel が第2次大戦で防空船(Flakschiff)194号として使用されており、1945年5月4日に爆撃により撃沈されている。また、はっきりしているところではヴェスペ級の SMS Viper は1962年までクレーン船台として使用されていたそうだ。

現代の目で見ると見るからに役に立たなそうで、やっぱり役に立たなかった装甲砲艦、PaperShipwright の HMS Staunch & HMS Kite は250分の1で完成全長約10センチ、定価は6.5イギリスポンド(約900円)。PaperShipwright はダウンロード版を扱っているキットもあるが、このキットは印刷版のみでのリリース。そしてHMVの SMS Wespe & SMS Natter は250分の1で完成全長約18センチ、定価は正規販売サイトの fentens Papermodelsで 17.99ユーロ(約2200円)となっている。
両方とも250分の1という東側キットのスタンダードとは異なるスケールなのが残念だが、まぁ、こいつらと組み合わせるような船は他にないし、別にいいだろう。
しかし、19世紀装甲砲艦ファンのモデラーなら、両者を並べ英独装甲砲艦の夢の共演を楽しめるこの機会を見逃すべきではないだろう。



写真はPaperShipwright、HMVそれぞれのページから引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
https://en.wikipedia.org/wiki/Flat-iron_gunboat
レンデル砲艦について。

https://en.wikipedia.org/wiki/Ant-class_gunboat
アント級について。

https://de.wikipedia.org/wiki/Wespe-Klasse
ヴェスペ級について。

http://www.maritima-et-mechanika.org/maritime/models/wespe/wespeclass.html
主にヴェスペ級について扱っているが、装甲砲艦全般についても記述されており、貴重な図版・写真も多い。
でも、一部の画像のリンクが「file:///Users/~」と、自分のローカルファイルの位置になっちゃってるのは教えて上げたほうがいいんだろうか。
160分の1で素晴らしいクオリティのSMSヴェスペの模型も製作しているが、残念ながら2009年で更新が停止している。
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