Orel ロシア帝国海防戦艦 "Генерал-Адмирал Апраксин"

やっと本業の方が一息ついて、これまで放ったらかしになってた諸々を少しづつ片付けなければと思いつつもくたびれて何にもしてない筆者がお送りする世界のカードモデル最新情報。今回紹介するのはウクライナOrel社からの新製品、ロシア帝国海防戦艦 "Генерал-Адмирал Апраксин"だ。

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あれ、この船って前にも紹介しなかったっけ? と思ったら以前に「マイナーアイテム」としてちょっとだけ紹介してた。こんなマイナー艦の話題が何度も出て来るのも驚きだが、このブログ5年以上もやってるってことに一層の驚きを禁じ得ない。昔の文章は安定してなくってハズカシイね。

アメリカ南北戦争でモニター艦が鮮烈なデビューを果たすと、各国海軍は「どうもこれからは既存の木造艦に装甲板貼っただけじゃダメそうだぞ」と思い始める。ロシア帝国でもクリミア戦争でロシア艦隊を率いて戦い、早くから蒸気軍艦について注目していたグリゴリー・ブタコフ少将(Григорий Иванович Бутаков)が、ハンプトン・ローズのわずか二ヶ月後には「いまや甲鉄艦に対する愚かしい疑問は、最終的に解決されたブヒ!」と堂々宣言した。なお、「ブタコフ」という名前のインパクトだけでブタキャラにしてしまったが、別にブタコフ提督は太った人ではない。すまぬ。
そんなわけで1863年、アメリカに派遣した技術者がパセイク級モニターの設計図をもらってホクホクで帰ってくると、ロシア海軍はさっそくモニター艦隊の建造に着手する。

このころ、ロシア北方では17世紀ごろから仲の悪かったスウェーデンが海軍力を高めつつあった。スウェーデンはモニター艦発明者のジョン・エリクソンがスウェーデンの出身だったこともあり(すでに1848年にアメリカ国籍取得済みだったが)、技術者を派遣し「モニター艦について教えて下さいよー」とお願いしたところ、こちらも新型モニター艦の設計図をもらって帰ってきた(もちろん、工場や造船所も念入りに見てきた)。スウェーデンはこの設計図を参考に、その名も「ジョン・エリクソン級モニター」の建造を開始する。アメリカさんは誰にも彼にも設計図を上げすぎなんじゃないだろうか。
ロシアとしては、スウェーデンがバルト海で大きな顔するのは面白くないので新型艦をどんどん建造、バルト海にじゃぶじゃぶ投入していく。時はまさに大モニター艦時代、なにしろモニター艦が「装甲艦に対抗できるのは装甲艦だけ!」ということを明らかにしちゃったせいで、一夜にして世界中の木造艦は無用化して海軍力はリセットされてしまい、大国も小国もまた一から艦隊の作り直しになってしまったのだ。

1889年、ロシアは「スウェーデンの海防戦艦”スヴェア”、ドイツの海防戦艦”ジークフリート”、あとついでにギリシャの海防戦艦”イドラ”に負けない海防戦艦」として、海防戦艦「アドミラル・ウシャコフ」級の建造に着手する。ドイツはともかく、なぜ唐突にギリシャの海防戦艦の名前が出てくるのかは良くわからない。
ところで、この”アドミラル・ウシャコフ級”という名前、なぜかロシア語の資料だけ、他の国では2番艦扱いとなっている「アドミラル・セニャーウィン」の名前を取って”アドミラル・セニャーウィン級”と表記されている。セニャーウィンの方が1年も起工が後だが、船体番号はウシャコフの方が後とか、そういう理由なんだろうか。
あと、当初の計画では実際に完成した「アドミラル・ウシャコフ」「アドミラル・セニャーウィン」「ゲネラル=アドミラル・アプラクシン」に加えてもう一隻、ロシア海軍の装甲艦化を進めた功績が認められ「アドミラル・ブタコフ」という名前の4番艦が建造される予定だったが、これはキャンセルされている。「アドミラル・ブタコフ」の名前は後にスヴェトラーナ級軽巡洋艦の名前として復活する予定だったが、この船もロシア革命で建造中断。接収したソビエト政権は艦の名前を「プラウダ」「ヴォロシーロフ」「オーロラ」とせわしなく変えながらいじくりまわしていいたが全然完成せず、独ソ戦で損傷受けたりした結果1950年代になってどうでもよくなって解体廃棄されている。個人的には艦娘「ブタコフ」も見てみたかった。ブヒブヒ。

今回キット化されたG・A・アプラクシンはウシャコフ級3番艦だが、他の2艦の砲塔が2連装2基で主砲4門なのに対し、アプラクシンだけ後部砲塔が単装で主砲3門に減らされている。これは、どうやら当時急速に存在感を増している大日本帝国に対抗するため、バルト海に対して荒れる東洋にも回航できるように上部構造物の重量を減らすのが目的だったようだ(当初は装甲厚を減らす案もあった)。
なお、「ウシャコフ」は18世紀末の海軍軍人、フョードル・ウシャコフ(Фёдор Фёдорович Ушако́в)、「セニャーウィン」はその相棒のドミトリー・セニャーウィン(Дми́трий Никола́евич Сеня́вин)から名前を取られているのでいわば「ペア」。アプラクシンはそれより100年も前の軍人で、「ガングート海戦」でスウェーデン軍を破ったフョードル・アプラクシン(Фёдор Матвеевич Апраксин)から名前を取っている。それから、英語では「General Admiral Graf Apraksin」と「Graf」が挟まる(以前に自分が書いた記事も英語表記に従っている)が、もとのロシア語表記では別にそういったものはない。ちなみに「アドミラル」は海軍中将、「ゲネラル=アドミラル」は海軍大将に相当するようだ。

1899年にバルト艦隊に就航したG・A・アプラクシンだが、その年の11月にいきなりフィンランド湾で座礁した。なにやってんだ。実は、2年前の1897年にもバルト艦隊では戦艦ガングート(第2次大戦後まで生き残ったド級戦艦ではなく、初代の方)が座礁というか、艦底を破ってしまって沈没している。まぁ、バルト艦隊は1981年にもウィスキー級原子力潜水艦がスウェーデン沖で座礁する「ウィスキー・オンザロック事件」ってのをやらかしてるんで、水深の浅いバルト海ってのはそれだけ航行が難しいんだ、ってことにしておこう。
暗礁の上でグラグラしているアプラクシンだが、離礁のために強引に引っ張ればガングートの二の舞いになりかねない、ということでどうしよう、どうしよう、とやっていたら極寒のバルト海は凍り始めてしまった。こりゃもう、艦を捨てるしか無いか……こないだ完成したばっかりなのに、とガッカリしていた水兵たちに驚きの命令が下る。アプラクシン乗員は艦を保持するために氷に閉ざされつつある艦に留まれというのだ。そんなこと言ったって、長期航海の準備をしてるわけでもないのにどうやって? 暖房の燃料は? 食料は? 孤立したアプラクシンで、なにか(例えば、ボルシェビキの反乱とか)あったらどうすんだ?
この難局に対し、ロシア軍は2つの「新兵器」を投入する。一つは1899年に就航したばかりの、世界初の本格的砕氷艦「イェルマク」(Ермак)。頑丈な船首で氷にのしかかり、2メートルの厚さの氷をぶち割りながら進むことのできるイェルマクがアプラクシンへの補給を受け持つ。そしてもう一つ、1895年にアレクサンドル・ポポフ(Александр Степанович Попов)が実験に成功していた無線でアプラクシンとクロンシュタット軍港を結び、常時連絡を取り合うようにした。「無線の発明者」は普通イタリアのグリエルモ・マルコーニの功績とされるが、実は無線の実験はポポフの方が4ヶ月も早く成功させていたが、なぜかポポフは特許を取得するのを怠ったために栄誉はマルコーニのものとなってしまっていた。

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写真はWikipediaからの引用で、手前にアプラクシン、奥にイェルマクが一つのフレームにおさまっている貴重な一葉。荒天に備えてそびえ立つような高い乾舷のイェルマクに対して、アプラクシンは大きく傾斜していることもあり甲板が非常に海面に近いことがわかる。
この前代未聞の大胆な作戦は成功し、春となり氷が溶けると潜水夫がアプラクシンが乗っかっている岩礁の根本を爆破し、アプラクシンは脱出に成功。「砕氷艦」という艦種の有用さと無線の持つ可能性を世界に知らしめた(しかし、当のロシア海軍は無線に対してはあまり興味を示さなかった)。
なお、このアプラクシンの維持及び脱出作戦の責任者は、後にバルチック艦隊を日本海まで回航することになるジノヴィー・ロジェストウェンスキー(Зиновий Петрович Рожественский)提督であった。

1905年、ウシャコフ級3隻は遠路はるばると日本海まで回航されたバルチック艦隊第3戦隊に組み込まれていたが、旧式艦船を集めた第3戦隊が戦場に到達するころにはすでに第1、第2戦隊は壊滅状態であった。夜陰に乗じて残存艦を集めながらウラジオストクへ向けて前進を続けていた第3艦隊は5月28日朝、日本軍連合艦隊に捕捉・包囲され衆寡敵せず全艦が降伏する。なお、アドミラル・ウシャコフのみ夜間航行中に第3戦隊からはぐれ単独航行となっていたが、日本軍装甲巡洋艦に包囲されても降伏せず、滅多打ちを受けて沈没した。
その後、アプラクシンは日本軍に接収され海防艦「沖島」(おきのしま)となる。1922年除籍、1924年廃艦。艦体は福岡県で記念艦となる予定であったが荒天で座礁(座礁位置が記念艦としての係留位置なのか、それとも異なるのかはどうもはっきりしない)。そのまま打ち捨てられていたが1939年に現地で解体された。

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キットの完成見本写真はないので、展開図のサンプル。Orelは10年ほど前にも一回アプラクシンをリリースしているが、今回のキットはリライト版となっており、木目などのテクスチャ表現のリライトと、ビルジキールなど一部デティールの追加がされているそうだ。

微妙な艦なのになぜか定期的にリリースされるロシアウシャコフ級海防戦艦 "Генерал-Адмирал Апраксин"、Orelのキットは海モノ標準スケール200分の1で完成全長約40センチと意外なほど小柄な艦だ。難易度は3段階評価の「3」(難しい)、そして定価は264ウクライナフリブニャ(約1000円)となっている。
ロシア帝国海防戦艦ファンなら、さらに美しくなったG・A・アプラクシンを手に入れることができるこの機会を見逃すべきではないだろう。



表紙、展開図画像はOrel社サイト公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
https://ru.wikipedia.org/wiki/Генерал-адмирал_Апраксин_(броненосец)
G・A・アプラクシンについて。
https://ru.wikipedia.org/wiki/Броненосцы_береговой_обороны_типа_«Адмирал_Сенявин»
ウシャコフ(セニャーウィン)級について。
それぞれの英語版、日本語版も参考とした。
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