Heinkel Models アメリカ装甲艦 "USS Dunderberg"

明日受診予定の、会社指示の健康診断を思うと今から面倒で気が重い筆者がお送りする世界のカードモデル最新情報。今回紹介するのはスペインのデザイナー、Fernando Pérez Yuste氏のブランド「Heinkel Models」の新製品、アメリカ装甲艦 "USS Dunderberg"だ。

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なんだこれ。そう言わずにはいられない、相変わらずの「ハインケル節」が炸裂した素晴らしいアイテム選択だ。
船名に思い当たらなくても、このキツイ傾斜のついた船体に幅の狭い鉄板を巻きつけたような構造からアメリカ南北戦争で世界初の装甲艦同士の戦いを戦った南軍装甲艦「バージニア」を連想した読者もいることだろう。まさしく、このUSS Dunderbergも同時期の艦船であり、さらに当時アメリカ最大の装甲艦だったのである。

1861年、アメリカ合衆国から南部諸州が離脱を宣言し、アメリカ南北戦争が始まる。東海岸のバージニア州は州内での意見の調整がつかずに連邦に残ろうか、それとも離脱しようかと逡巡したが、最終的には連邦離脱を宣言し南部連合へと加わる(離脱に対して反対意見が強かったバージニア州の西部は、逆にバージニア州から離脱して「ウェストバージニア州」として合衆国に再加盟している)。
バージニアには現在もアメリカ最大である造船所、ノーフォーク海軍造船所(当時は「ゴスポート造船所」)があったが、合衆国政府は放棄するにあたって造船所の設備、建造中の艦船を急いで焼き払って撤収。焼却された艦船の中には当時アメリカ最大の艦船であったスクリュー式フリゲート艦「メリマック」も含まれていた。
造船所を占領した南軍はメリマックが上部建造物は焼失しているものの、船体そのものは意外とダメージがないことに気づきこれを浮揚し装甲艦への改造に着手した。

一方、どうやら南軍が鉄板を貼り付けたすごい軍艦を準備してるらしいぞ、との情報を察知した合衆国政府(北軍)は1861年8月、「装甲艦委員会」(Ironclad Board)を立ち上げる。委員会では「装甲艦のアイデアお待ちしています。みんな奮って応募してね!」と装甲艦の設計の公募を始めたが、なぜか条件はただ一つ、「喫水が浅いこと」だった。
寄せられたアイデア16案の中から委員会は3つのアイデアを採用したが、その直後にどうやら南軍は本気で装甲艦を建造してるらしい、しかもけっこう改装も進んでるらしい、との情報が寄せられ「南軍のヤバい船が完成しそうだから100日以内に完成させてね」という条件で最終選考に残った3案のうちでも最も簡単に完成させられそうな案、「USSモニター」を発注する。

ところが、1862年3月にメリマックを改装した南軍装甲艦「CSSバージニア」(排水量3千トン~4千トン。資料によって数字が違う)が実際に戦場に現れると、排水量千トンのモニターでは明らかに見劣りした。バージニア、モニター両者はハンプトン・ローズ沖で相まみえ、この時は互いの装甲を破るすべを持たずに引き分けに終わったが、ゴスポート造船所を持つ南軍が次々に装甲艦を就役させれば北軍のちっちゃい装甲艦ではいずれ手に負えなくなることは明らかであった。
これに衝撃を受けた合衆国政府の装甲艦委員会は、もっとたくさんモニター作るよ! その間にもっと強い装甲艦も作るよ! と決定、装甲艦大増強に着手する。
こうして建造が決定したのが、排水量8千トン、全長107メートルの巨大装甲艦「USS Dunderberg」であった。

それでは、南軍の装甲艦をやっつける「決戦兵器」(予定)であるUSS Dunderbergの姿をecardmodels.comの商品ページから引用した完成見本写真で見てみよう。

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うーん、すごいスタイルだ。
先ほど、Dunderbergのことを「巨大装甲艦」と表現したが、実は同時期のイギリス装甲艦、「HMSウォーリア」(排水量9千トン)に比べれば大した大きさではない。しかし、ウォーリアがいたって普通の形状であるのに対し、Dunderbergのこのスタイルでこの大きさというのは他に例がない。

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低い乾舷、傾斜した上部建造物など南軍の「バージニア」との類似点は多い。これがバージニアに影響されたものなのか、それとも当時完全装甲の艦を作ろうと思ったら他にやりようがないのかはちょっとわからなかった。甲板まで装甲されているのが目立つが、煙突の中にまで破片が飛び込むのを防ぐ装甲格子が入っていたそうだ。

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武装は15インチ砲4門、11インチ砲12門、とかなり強力(南軍のバージニアは12インチ砲2門、9インチ砲6門など)。
なお、設計時は上部建造物の長さがもっと短く、船体の前後に連装砲塔(38センチダールグレン砲)が載せられることになっていたが、いくらなんでもやり過ぎなんで建造途中で設計変更になった。

Dunderbergは最強の装甲艦を目指して建造されたが、なにしろ巨大であるために必要な建材の調達からして困難であった。装甲板にするための鉄材は火砲や機関車、鉄道レールにも必要であるために必要量を調達できず、船体を形作る(装甲板がその上に貼られる)木材も全く足りないために本来ならしっかりと乾燥させた木材を使わねばならないところを、切ったばかりの木材を加工して使用しなければならなかった。このことは完成後に亀裂、変形、腐食、虫食いなどの問題を引き起こし、艦の寿命を著しく短いものとした。
さらに、ただでさえ慣れない装甲艦の建造は解決しなければならない技術的な問題が多いところに、前述の砲塔廃止のような設計変更が建造の遅れに拍車をかけ、そのうえ頼みの熟練工は全米で不足していた。
1865年7月22日、ついにDunderbergは進水したが、南北戦争はすでに南軍の降伏で終結していた。とほほん。

1867年、政府はいまさら完成したDunderbergをテストするが、計画値で15ノット出るはずだったのに11.3ノットしか出なかったので、戦時中にバカスカ作っちゃった軍艦を持て余してた政府はこれ幸いと「計画と違うから受け取れませーん」と受領を拒否した。
Dunderbergを建造したW.H.ウェッブ(William H. Webb)は、「じゃあいいです」と建造費を政府に返還、Dunderbergを買い取ると、外国への売り込みを開始する。
これに興味を示したのが建艦競争を繰り広げていたイギリスに対して遅れを取っていたフランスだった。フランスはDunderbergを購入すると艦名を「Rochambeau」(アメリカ独立戦争時にアメリカ軍を応援したフランス軍人、ジャン=バティスト・ド・ロシャンボー伯爵にちなむ)と変更し、武装をフランス式に変更した。メチャクチャ乾舷の低いこの船で大西洋横断するのは大変だったろうな。
オーバーホールしたRochambeauは1868年に性能試験が行われるが、あら不思議、フランス人は「最高速度、ちゃんと15ノット出ましたよ」と報告している。これがフランス軍の整備能力の高さを表しているのか、それとも買い取りたくないアメリカ政府がわざと性能を低く判定したのかは判断材料がないので決めつけないでおこう。

せっかく整備したRochambeauだったが、やっぱり過渡期の艦船だけあって旧式化は早かった。おまけに前述の通り、使用された木材が不適切であったために船体は急速に老朽化していた。
1870年の普仏戦争でRochambeauは出撃したが、特になにもせずに帰ってきた。
1872年4月、腐食により危険となったためにRochambeauは廃船となり1874年に解体された。

なお、新造当時の船名、「Dunderberg」というのはアメリカ海軍公式の「海軍戦闘艦辞典」(Dictionary of American Naval Fighting Ships)によると、「スウェーデン語で「雷の鳴る山」の意味」ということらしいが、なんでスウェーデン語の名前がついてるのかは解説がない。それとは別にニューヨークには「Dunderberg」という名前の山があって独立戦争時に戦場にもなっているが、こちらはオランダ語由来。単に海軍戦闘艦辞典が間違ってるだけのような気もする。

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展開図見本。甲板に貼り付けられた装甲板や木目甲板の表現が美しい。装甲板の都合なのか、艦首と艦尾の形状がなんか造船官が途中で面倒くさくなったみたいな直線になっているのも当艦のチャームポイントの一つだろう。

Heinkel Modelsからリリースされた幻の北軍巨大装甲艦、"USS Dunderberg"は海モノ標準スケールよりも大きい200分の1で完成全長53.7センチというビッグなサイズ。難易度は5段階評価の「4」(難しい)。そして定価は12.5ドルとなっている。
南北戦争期の装甲艦ファンなら、当キットは絶対に見逃すことのできない一品と言っていいだろう。Heinkel modelsからは当艦以外にも南北戦争期のなんか見たこともないような装甲艦が多数リリースされているので、北軍装甲艦隊、南軍装甲艦隊を机上に再現するのもおもしろそうだ。



写真はecardmodelsとHeinkel Modelsのページから引用。

参考ページ:
https://en.wikipedia.org/wiki/USS_Dunderberg

http://www.steelnavy.com/CombrigDunderberg.htm
軍艦模型のレビューサイトの1ページだが、実際の艦についてかなり詳しく紹介されている。
ちなみにレビュー対象となっている700分の1、レジン製DunderbergはロシアのCombrig Modelsというメーカーの商品で、ここは日本初の国産巡洋艦「高雄」(重巡じゃなくて初代の方)や、日清戦争で日本が鹵獲した砲艦「平遠」など、誰向けだかわからないような商品を精力的にリリースしている要注目メーカー。
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