オスマントルコ帝国 防護巡洋艦 ”MECIDIYE”

先日ものもらいを患い、ひどい喧嘩でもしたかのように片目が腫れて難儀した筆者がお送りする世界のカードモデル最新情報。今回紹介するのはウクライナOrel社からの新製品、オスマントルコ帝国防護巡洋艦 ”MECIDIYE”だ。

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いままで散々に変なものを紹介してきた当コーナーでも初登場となるオスマントルコ帝国もの、しかもめちゃくちゃイメージに乏しいオスマントルコ帝国海軍の装甲艦である。
当コーナーでは以前、ブルガリア海軍水雷艇”Дръзки”というドマイナーにも程がある(そっちもOrelの商品)アイテムを紹介した時に「敵役」としてオスマントルコ帝国海軍の防護巡洋艦「ハミディーエ」が登場したが、今回紹介する「MECIDIYE」(メシディーエ)はそのハミディーエの準同型艦である。だったらДръзкиと合わせられるようにハミディーエの方をキット化すりゃいいのに。

オスマントルコ帝国海軍というと、1571年のレパントの海戦でキリスト教国連合艦隊に大敗した後再建されずに放ったらかしになっていたかのようなイメージがあるが、実際にはもちろんそんなことはなくて中世屈指の国力を誇るオスマントルコ帝国は艦隊をすぐに再建している。その後もキリスト教国と小競り合いを繰り広げながらオスマントルコ帝国艦隊は勢力を広げていったが、ヨーロッパ諸国が民主主義と蒸気機関を発明したことで国力を飛躍的に増大させると次第に遅れを取るようになっていった。

1829年、ヨーロッパ諸国の支援を受けてオスマン帝国領ギリシャが独立戦争を経てギリシャ王国として独立。ギリシャ人はオスマントルコ帝国の中で造船、水夫など海軍・海運の主要部分を受け持っていたため、ギリシャの独立でオスマントルコ帝国海軍は人的リソースを丸々失ってしまった。
トルコ的にこれはヤバかった。どれぐらいヤバかったかと言えば、1853年のクリミア戦争でロシアの蒸気船艦隊がトルコ海軍の帆船艦隊が停泊するシノープ湾に突入、12隻のトルコ艦隊のうち11隻を撃沈して港湾を艦砲射撃で破壊した後、1隻も失うことなく悠々と引き上げていったぐらいヤバかった。

とは言え、今から海軍の人材をホイホイと育成して明日明後日に精鋭海軍が出来上がるはずもないので、オスマントルコ帝国は列強から装甲艦を売ってもらい、とりあえず船の数を揃えることにした。以前は「オスマントルコの国力を削ぎ落とさねば」とギリシャを応援して独立させた英仏だったが、このころには「ちょっとロシア帝国は調子ぶっこいてね?」と警戒感を強めており、ロシアに対する牽制としてオスマントルコの海軍力増強に手を貸したのだった。19世紀の帝国列強ってのはエゲツないね。
国家予算をジャブジャブつぎ込んだ増強の結果、1875年にオスマントルコ帝国海軍は装甲艦21隻を擁した世界第3位の規模まで急速に膨れ上がるが、1876年、近代化、西洋化に頑なに反対していたオスマントルコ帝国第32代皇帝アブデュルアズィズが「いい加減、近代化しようぜ」と急進派クーデターにより退位させられ、ついでに第33代皇帝がアル中気味だったので在位93日で退位させられると、第34代皇帝アブデュルハミト2世は「海軍予算多すぎ!」と思って海軍予算をバッサリ大胆カットした。
今度は突然予算不足になった海軍では装備は劣化、旧式化、給料遅配で水兵は絶望、燃料買えないので訓練はしないで艦隊は浮かんでるだけ、で急激に弱体化していった。

1890年、オスマントルコ帝国海軍をこんな状況に追い込んだ張本人、ギリシャ王国海軍がフランスから最新鋭のイドラ級海防戦艦3隻を購入する。ギリシャ海軍が新型戦艦を購入してまで戦いたい相手なんて、オスマントルコ海軍しかない。こりゃ、ギリシャとまた一戦あるで! と気がついたオスマントルコ帝国は慌てて海軍増強に乗り出すが、旋回砲塔に後送ライフル砲を搭載し、鋼鉄で装甲されたイドラ級海防戦艦に対し、砲郭に前装砲を装備し普通の鉄で船体を覆っただけのオスマントルコ海軍装甲艦はあまりにも見劣りした。
やむを得ずオスマントルコは乏しい予算をやりくりしてイタリアに旧式装甲艦の大改装を依頼。イタリアの匠の技で帆走マストの撤去、上部建造物を新たに増設、砲塔を増設、近代艦橋を増設、とどこに原型が残ってんだかよくわからないぐらいの劇的ビフォア・アフター(改装前 改装後)を受けた装甲艦を「防護巡洋艦みたいでしょ」と粋がってみたものの、北アフリカの領土を巡って当のイタリアと1911年に伊土戦争に突入したら、イタリア海軍にあっさりボコられた。なんということでしょう。

こりゃいよいよオスマントルコ帝国はオワコンやで、と意気込んだバルカン諸国(中世以来、オスマントルコ帝国にずっといじめられてきた)は同盟を組んでトルコに宣戦を布告、1912年に第一次バルカン戦争が始まる。
対トルコ連合海軍の主力はもちろんギリシャ王国海軍。ギリシャは前述のイドラ級3隻に加え、イタリアから最新のイェロギオフ・アヴェロフ装甲巡洋艦を購入し、さらに戦力は増強されていた。
ちなみに装甲巡洋艦イェロギオフ・アヴェロフ購入資金の約3分の1はギリシャの海運王、イェロギオフ・アヴェロフ個人が出資しおり、世にも珍しい出資者の名前を冠した軍艦であると同時に、現存する唯一の装甲巡洋艦である。
対するオスマントルコ帝国海軍は改装装甲艦に加えてドイツから購入したブランデンブルグ級戦艦2隻(中古)、イギリスから購入した防護巡洋艦「ハミディーエ」、そしてアメリカから購入した防護巡洋艦「メシディーエ」を主力としていた。

では、ここでやっと登場したメシディーエの姿を公式ページの完成見本写真で見てみよう。

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完成写真はこれ一枚。すらりとしながらもやっぱりどこかズングリした艦形と艦首の衝角が時代を感じさせる。メシディーエはハミディーエと「準同型艦」として扱われることが多いが、これは同じ基本設計を元に米英にそれぞれ発注されたため。なんでそんな面倒なことしたんだ。

なんだか数の上では優勢っぽいオスマントルコ帝国海軍だったが、開戦劈頭に防護巡洋艦ハミディーエはブルガリア海軍水雷戦隊の雷撃をくらって大破、戦線を離脱する。
黒海はバルカン諸国の水雷艇がウヨウヨしていて怖いんで、残る艦隊はダーダネルス海峡を抜けて地中海でひと暴れしようとしたが、今度はギリシャ海軍がそれを許さなかった。
両艦隊は1912年12月16日に接触したが、ギリシャ海軍は重装甲の海防戦艦が砲撃を引きつける間に快速の装甲巡洋艦が後方へ回り込むという巧みな機動でオスマントルコ帝国海軍を翻弄。オスマントルコ側は大混乱の中で互いの射線に僚艦が入り込んで射撃できないという体たらくで、旧式とは言え本来「格上」のはずのドイツ製戦艦が装甲巡洋艦の滅多打ちをくらって中破炎上。戦意を喪失したオスマントルコ帝国艦隊はなんとか包囲を脱して退却した。この「エリの海戦」でオスマントルコ帝国側の大口径弾で命中したのはイェロギオフ・アヴェロフへの命中弾1発。しかも弾かれた。
続く1913年2月18日、オスマントルコ艦隊はもう一度ダーダネルス海峡へ出撃するが、またもやギリシャ海軍の迎撃を受ける。今度の「レムノスの海戦」ではせっかく修理したドイツ戦艦2隻がまた炎上、ついでに装甲艦も1隻炎上、オスマントルコ帝国艦隊は逃げ帰った。ギリシャ側の損害、負傷者1名。

もはやオスマントルコ帝国海軍の劣勢は誰の目にも明らかであった。
今度こそ一発逆転してやろうとオスマントルコはイギリスに弩級戦艦2隻を発注。この2隻は完成したが第一次大戦が勃発すると「うちで使いますんで」とイギリスが接収してしまった。これでガックリ来てしまったオスマントルコに近づいたのがドイツ帝国で、新型巡洋戦艦「ゲーベン」を気前よく譲ってくれた。これに気を良くしたオスマントルコ帝国は第一次大戦にドイツ帝国側で参戦、この大戦に敗退したオスマントルコ帝国は崩壊し、600年の歴史を閉じた。

さて、今回の主役のメシディーエだが、第一次大戦では連合軍側のロシア帝国主要軍港、オデッサを攻撃しようとしたらロシア軍の機雷に触れ着底、破棄された。
ロシア帝国はメシディーエを引き上げて修理、「プルート」と名付け黒海艦隊に加えたが、後はロシア帝国黒海艦隊のお約束、ロシア革命でウクライナ人民共和国が鹵獲したり、赤軍が奪ったり、ウクライナが奪還したり、ドイツ軍が接収したり、で最終的にはドイツ帝国がオスマントルコ帝国に「これ返す」と返還した。
オスマントルコ帝国では艦名を元の「メシディーエ」に戻したが、程なくしてオスマントルコ帝国が崩壊。後を継いだトルコ共和国はメシディーエを改装の上で軽巡洋艦として運用した。1940年にメシディーエは練習艦となる。
トルコ共和国は第2次大戦に参戦しなかったので、特筆すべきこともなくメシディーエは1947年3月1日に退役。1950年台中頃に解体されたようだ。

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展開図と組立説明図のサンプル。甲板の木目調が美しい。組み立て説明書もスッキリしたライン表現に影で立体感をつけたタイプでわかりやすそうだ。

Orelの新製品、オスマントルコ帝国防護巡洋艦 ”MECIDIYE”は海モノ標準スケール200分の1で完成全長約50センチ。難易度は3段階評価の「3」(難しい)。そして定価がどこにも書いてない上にポーランドのショップにはまだ並んでないんで幾らするんだかわからないが、当キットはオスマントルコ帝国海軍ファンとしては、絶対に見逃せないキットであることは間違いないだろう。
なお、オスマントルコ帝国海軍の艦船としては巡洋戦艦「ゲーベン」(トルコ海軍名称「ヤウズ・スルタン・セリム」)がポーランドJSCから過去にリリースされている。このキットはスケールが250分の1、展開図も手書き時代のものだが今でもJSCのショップで入手可能なので、メシディーエとのスケール違いなんて細かいことには目をつぶり、オスマントルコ帝国海軍最後の栄光を机上に再現するのもいいだろう。



画像はOrel社サイト公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
https://ja.wikipedia.org/wiki/メジディイェ (防護巡洋艦)
https://ja.wikipedia.org/wiki/イェロギオフ・アヴェロフ (装甲巡洋艦)
https://ja.wikipedia.org/wiki/オスマン帝国海軍

エリの海戦、レムノスの海戦についてはイェロギオフ・アヴェロフの記事に詳しい。
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