Heinkel Models アメリカ試作蒸気船 "Winans"

いよいよ新年度。配属部門が組織変更で「課」から「局」に変わったのに伴って肩書も変わったけど、まぁ、実質なにも変わってない筆者がお送りする世界の最新だったりそうでなかったりするカードモデル情報。今回紹介するのはスペインのデザイナー、Fernando Pérez Yuste氏のブランド「Heinkel Models」の新製品、アメリカ試作蒸気船 "Winans"だ。

The Steamer Winans 0

ネタに困った時はHeinkel ModelsかMurph's Modelsに行けばなんとかなる、というのはもはや定説となりつつあるが、今回もそんなノリで2012年のキットを今更紹介だ。
前回紹介したHeinkel Modelsのキットがスペイン試作潜水艦 "Peral"だったことを覚えていてくださった読者なら、「おいおい、またどっかの試作潜水艦?」と思ったかもしれないが、今回はさらに捻った一品だ。

まず、キット名の"Winans"(ワイナンズ)というのは船の名前ではなく、この船を開発した発明家の名前。じゃあ船名は、というと試作船なので特に船名はなく、「Winans Cigar Ships」とか「Winans Cigar Steamer」と呼ばれていたようだ。見ての通り、「葉巻船」というわけ。
開発したロス・ワイナンズ(Ross Winans)は鉄道の軸受けの特許取得から始まって機関車製造会社で財を成した人物。ワイナンズは「キャメルバック式」と呼ばれる形式の機関車の開発・製作を得意としていた。
キットとは直接関係ないがオモロイので説明しておくと、19世紀中盤、アメリカでは燃焼に使えない石炭屑は捨てていたが、ジョン・E・ウーテン(John E. Wootten)という人物がこれを燃やして走る機関車を作れば、タダ同然の燃料で機関車が走ってウハウハやで! と思いついた。様々な試行錯誤の末にウーテンは石炭屑を薄く平らに焚べた所に比較的穏やかな風を通しゆっくりと燃焼させることで蒸気機関を駆動させるに足る熱を得られることを発見したが、この「ウーテン式火室」には「とにかくデカい」という欠点があった。火室があまりにデカいので、その後ろの運転台から前が全く見えなくなってしまうのだ。
そこで、普通は後ろから「炭水車-運転台-火室-ボイラー」と並んでいるのを、「炭水車-火室-運転台-ボイラー」とすることで視界を確保したのが「キャメルバック」だ。もちろん、実際は火室とボイラーが離れてたら機関車が走らないので、運転台はボイラーに跨るような形で置かれた。

800px-Camelback.jpg
(Wikipediaより引用)

つまり、こういうこと。ただし、写真はワイナンズが作った機関車ではない。
もちろん、火夫は運転台にいたら石炭を焚べられないので炭水車と火室の間に乗っている。

さて、オモロイというだけで紹介したキャメルバックの話はこれでオシマイ。
ワイナンズは優秀な技術者だったが、天才だったので顧客のいうことを聞かずに自分が作りたい機関車を作って欲しい顧客に売るという素晴らしい商売スタイルを取っていたが、1860年台には飽きてこの商売から身を引いている。また、南北戦争中は北軍に属するメリーランド州議会議員でありながら明確な反連邦の立場を取ったために2度逮捕されている。
ワイナンズは他にも南北戦争中に蒸気の力で高速回転するドラムから遠心力で銃弾を次々に発射する「蒸気銃(Steam Gun)」というのを発明したらしいが、うまく動かなかったようだ。

800px-Frank_Leslies_Illustrated_Newspaper_-_1861-05-18_-_p1_-_Winans_Steam_Gun.png
(Wikipediaより引用)

蒸気を溜めてバルブ開いて銃弾飛ばした方が良さそうな気もするけど、圧力かけても漏れないようなパッキンが当時はなかったんだろうな。でもカタチは無闇とカッコいい。この武器はディスカバリーチャンネルの人気コンテンツ「怪しい伝説」で威力を検証されたこともあるが、その結果はションボリしたもんだったと記憶している。
ちなみにワイナンズの娘の夫の兄弟、つまり娘の義理の兄弟の一人がテレビを見ているオカンの姿を見事に描き出したことで有名なジェームズ・マクニール・ホイッスラーだそうだ。

それではそのワイナンズが発明した葉巻船の説明に入る前に、まずその姿をブランド公式ページ、及びecardmodels.comの商品ページから引用した完成見本写真で見てみよう。

IMG_7076.jpg

どう見ても潜水艦だが、潜水艦ではない。半潜航艇でもない。ワイナンズはこの船を、「全天候型渡洋船」として設計したのだ。そう、当時の船にとって時として致命的でもあった嵐や大浪をこの鋭い船体形状で突き抜けよう、というアイデアだったのだ。
……いや、これで渡洋(trans-ocean)するって、食料や燃料はどうするつもりだったんだろう……この試作船でうまくいったら、より巨大化するつもりだったんだろうか。

IMG_7072.jpg

葉巻船の独創的な部分はその船体形状だけには留まらない。留めて置いて欲しかったが留まらない。写真はなんだか出力120%で接続されるフライホイールのようだが、これがこの船の推進部である。この中央の羽根がついたリングがグルグル回って進むのだ。すご~い、超ラディカル~~。このスタイルなら、船が嵐でどんなに動揺してもスクリューが水面上に出てしまうことがないというアイデアだ。
計画機ファンの読者なら、ドイツ軍の計画機に似たようなアイデアのやつがいたのを思い出すかも知れないが、良く考えたら別に関係ないので思い出さなくてもいいだろう。

IMG_7065.jpg

葉巻船はその形状ゆえに甲板と言える場所が非常に狭かった。これでは渡洋中、乗員がほとんど船内に缶詰になってしまうがその辺の解決策も明らかではない。ちなみに船体は中央のスクリューリングを挟んで前後同じものを逆向きにつなげており、前後2基のエンジンでリングを回すようになっている。

この葉巻船が建造されたのは1858年。日本で言えば安政年間だ。黒船のかわりにこいつが浦賀に来ていたら夜も眠れないどころの騒ぎではすまなかったが、もちろん、そんなことは無理だった。
試運転の結果、ワイナンズの葉巻船はいくつかの、そして致命的な問題が明らかになった。
まず、このデザイン、一見葉巻型のスラリとしたいいフォルムに見えるが、中央のリングが回転するということは、前後の胴体をつないでいるのは基本的に1本の駆動シャフトだけである。当然、強度は足りないしリングを回転させる反動で船体がねじれようとする。だから、先ほどちょっとだけ話しが出たドイツ軍計画機のB&V P.192はちゃんとリングを挟んだ胴体前後が別のブームで保持されている。関係ないかと思ったらちょっとだけ関係あった。
さらに、全周に渡るリングを回すと飛沫の後流が船体の後ろ半分を洗い流し、ただでさえ少ない甲板面積のうち使える部分はさらに半分となった。

これらの問題を解決するためにワイナンズはスクリュー全周を覆うカバーを取り付けていたが、大して強度が稼げなかった上にカバーが受ける水の抵抗がすさまじく、せっかくのスリムな船体なのにさっぱり前に進まない。仕方ないので水面下となる下半分のカバーを取り外した(キットはこの状態)が、今度はそうすると強度が足りなくって八方塞がり。
ワイナンズは理想の直径:船体長を求めて船体を延長したり、スクリューの効率化を目指して羽根の枚数や大きさを調整していたが、問題はそこじゃなかった。
結局、ワイナンズの葉巻船は渡洋航海に出ることなく、数年間港に繋がれた後に解体された。

Heinkel Modelsからリリースされたアメリカ試作蒸気船 "Winans"はちょっと特殊な120分の1でのリリース。完成全長は58センチ、 難易度は5段階評価の「4」(難しい)。販売はダウンロード販売のみ、定価はHeinkel Modelsのショップページで7.75ドルとなっている。
スチームパンク感溢れるワイナンズ葉巻船はジュール・ベルヌの冒険小説に胸踊らせた空想科学ファンモデラーにとって見逃すことのできない一品と言えるだろう。

なお、ワイナンズは他にもう何隻か葉巻船を建造している(船体ど真ん中スクリューを採用したのはこの1隻だけ)が、WALDEN MODEL COというサイト(どうもフォントのデザインが本業らしい)で別のタイプのワイナンズ葉巻船のカードモデルキットを購入できる。こちらも船の下に潜水艦が張り付いたようなスタイルで前後に径が小さくなった全周スクリューが配置されている独特なスタイルで、「空中戦艦」と言っても通用しそうだ。
ワイナンズファンのモデラーならHeinkel Modelsのキットに加えてこちらも購入し、ダウンロード販売であることを生かして同スケールで並べてみるのもおもしろそうだ。



写真はecardmodelsとHeinkel Modelsのページから引用。

参考ページ:
蛇乃目伍長の「エアフォースの英国面に来い!」 Mk.2
ロス・ワイナンズの “Ciger Ships”
http://blog.livedoor.jp/janome_gotyou/archives/1916467.html
ワイナンズの葉巻船について素晴らしく綺麗に、詳しくまとめられています。日本で葉巻船の情報調べるなら、まずここ。

「ヴェルヌの時代」から葉巻船のページ。
http://www.vernianera.com/CigarBoats.html
http://www.vernianera.com/Winans/steamer.html
おそらくワイナンズ葉巻船については現在最も詳しいページ。
貴重な実物の写真有り。

ワイナンズの蒸気銃。
https://en.wikipedia.org/wiki/Winans_Steam_Gun

ロス・ワイナンズ(日本語)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%BA
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