Orel ソビエト軍戦艦 "Советский Союз"

お陰さまで本職の方がどうやら夏頃まで忙しそうで、更新も不安定になるかもしれないのですが、まぁ、できる範囲で頑張って更新して行こうと思っている筆者のお送りする最新カードモデル情報、本日紹介するのはウクライナOrel社からの新製品、ソビエト軍戦艦 "Советский Союз"だ。

file0_20160306120507466.jpg

いつもトラクターとか、ダイナマイト巡洋艦とか極初期装甲艦とか微妙なアイテムばかりリリースしているOrelも、当キットで200作となる。
ウクライナの政情不安定などの苦難を超えてきたOrelが記念すべき200番目に選んだのは、なんとソビエト海軍の未完成戦艦「Советский Союз(ソビエツキー・ソユーズ「ソビエト連邦」)」!
本艦は未完成に終わったために資料も多くはなく、また、ぶっちゃけソビエト海軍なんかみんなどうでもいいためにキットに恵まれておらず筆者が知るかぎりではプラモデル界でもインジェクションキット化されたことはないはずだ。その、史実としても模型としても「幻の戦艦」であったソビエツキー・ソユーズがOrelのカードモデルとして堂々の登場だ。


ソビエトの戦艦建造計画の発端は1931年7月11日に遡る。この日、ソ連国家防衛委員の会議席上で最高指導者ヨシフ・スターリンは突然「思ったんだけどさぁ、ソビエトも戦艦建造した方がいいよね。第二次五カ年計画で作ろうか」とか言い出した。
これは、1930年代初頭にイタリアのリットリオ級、ドイツのシャルンホルスト級、フランスのダンケルク級が相次いで竣工し、イギリス、日本、アメリカでも新型戦艦の建造に着手していることを念頭に置いた発言だろ思われる。
とは言え、そんなことをいきなり言われても大陸軍国であるソビエトとしてはそれまで潜水艦戦力と陸上基地で運用される海軍航空隊を主力とする「小さい艦隊」を目指していたのに、いきなり「大きい艦隊(Большой флот)」を建造するよ! と言われても困ってしまう。大型艦の建艦計画もなければ建造実績もない。
しかし、スターリン閣下の声はソビエト人民の声なので、これに反対すれば「人民の敵」としてヤバいことになってしまうので海軍では急遽建艦計画をでっち上げると同時に、いきなり戦艦建造するなんて無理なんで外国に戦艦の建造を発注する計画が建てられた。
とりあえずソビエト政府はイタリアの名門アンサルド社と、アメリカのあんまりメジャーじゃないジブス&コックス社に戦艦の設計を発注したが、イタリアから上がってきたプランはほとんどリットリオ級の設計図のコピー&ペーストで、新しみもなければ真剣さも感じられないものだったので却下となり、アメリカから上がってきたプランにいたっては「戦艦の上部構造の上に飛行甲板を載せて航空機を運用する『戦艦空母』ですよ、新しいでしょう!」なんていう、他人の国家予算でオモシロ兵器の試作をするのはやめてください、という設計だったのでこちらも却下となる。
しかたないので自分たちで戦艦を設計することにしたソビエト海軍は1936年2月21日、排水量5万5千トン、主砲46センチ砲9門、最高速度36ノットという、戦艦大和級の武装と重巡洋艦の速度を併せ持つというとってもアンビシャスな性能要求をまとめたが、海軍司令官ウラジミール・オルロフ(Владимир Митрофанович Орлов)は「アホかおまえら」と排水量4万5千トン、主砲40センチ、最高速度30ノットに訂正させた。

1936年、ソビエトは「10カ年大艦隊建艦計画」をまとめる。内容は、10年をかけて大型戦艦8隻、小型戦艦16隻(30センチ砲)。、軽巡洋艦20隻(重巡洋艦は計画に含まれていない)、嚮導駆逐艦17隻、駆逐艦128隻、その他もろもろ合計で533隻130万トンを建造して北方、黒海、バルト海、太平洋の4個艦隊を編成するという夢を見るのは寝てからにして欲しいシロモノであった。このキモとなるのが後にソビエツキー・ソユーズとなる23号計画艦8隻で、これらは1941年に最初の1隻が完成するものとされた。何もないところから5年で戦艦作るのか……
同じ年の秋、ソビエトはスペイン内戦で戦う共和国軍への支援を開始するが、イタリア海軍の支援を受けたスペイン海軍の働きでソビエトは輸送船3隻を相次いで失う。ソビエトの艦船は旧式でファシスト軍の攻撃から十分に輸送船を守ることができず、これはソビエト海軍のメンツを大きく傷つけることとなった。
1937年9月、建艦計画は大型艦を減らし駆逐艦を増強した小回りの利く形に修正され、大型戦艦6隻、小型戦艦14隻(36センチ砲に拡大)、旧式戦艦3隻、航空母艦2隻、重巡洋艦10隻、軽巡洋艦22隻、旧式巡洋艦3隻、嚮導駆逐艦20隻、駆逐艦144隻などとなった。これだって相当なもんだが、けっこうマトモに見えるのは1936年案がすごすぎるからだ。

一時期、「小さい艦隊」方向へ進路を変えつつあった建艦計画だが、なんとかして大艦隊計画を現実的なものにしようと頑張っていたウラジミール・オルロフ提督が大粛清に巻き込まれ1937年7月10日に逮捕、1938年に処刑されるとまたも風向きが変わってくる。
オルロフ提督逮捕と前後して、設計部が「新型戦艦ですけど、やっぱり排水量もっと大きい方がいいと思うんですよ」と言い出すと、スターリンは即座に「大きい戦艦、超イイネ!」と同意して新型戦艦の排水量は5万6千トンに修正される。
新型戦艦は度重なる修正により設計さえまだ完了していなかったが、すでに大艦隊建艦計画は承認されており、これ以上の遅延は認められないというところまで来ていた。
1938年7月15日、まだ細かい部分での設計が詰められていないまま1番艦ソビエツキー・ソユーズの建造がバルト海に面した第189「オルジョニキーゼ」造船所で開始される。次いで10月31日、黒海に面した第198「南アンドレ・マルティ」造船所で2番艦「ソビエツカヤ・ウクライナ」建造開始。
建造を開始してすぐに、ソビエト造船界にこの巨大戦艦を建造する能力が無いことは明らかになった。それまでにソビエトで建造された最も大きな軍艦は排水量約8千トンのキーロフ級巡洋艦で、それに較べてソビエツキー・ソユーズはあまりに巨大だった。
黒海方面では40センチ砲塔を組み立てる能力がなく、その他の造船所でもメインシャフトの製作がおぼつかなかったためにシャフトはドイツとオランダに外注をせざるを得なかった。そもそもソビエトは鋼鉄の生産量が需要に追いついておらず、1939年中に要求された装甲板1万トンに対し実際に納入されたのは1800トン。しかもそのうち半分は不良品だった。さらに、要求される23センチ厚装甲板の製作は不可能で、装甲厚は20センチに減らされる。
しかし、一度動き始めた計画はもはや止めることは不可能であった。
1940年7月22日、白海に面した第402造船所で3番艦「ソビエツカヤ・ロシア」建造開始、1939年12月21日、同じく第402造船所で4番艦「ソビエツカヤ・ベラルーシ」が建造開始となる(S・ベラルーシの方が着工が早いので日本語の資料ではS・ベラルーシを3番艦、S・ロシアを4番艦とすることが多いが、船体番号がS・ロシア:101番艦、S・ベラルーシ:102番艦なのでS・ロシアが3番艦らしい。建造開始が前後している理由は不明)。
なお、1940年にS・ベラルーシのために納入された7万本のリベットが品質を満たさない不良品であることが発覚。S・ベラルーシの建造は10月19日をもって中断される。
S・ソユーズ級4隻まとめての建造費は11億8千万ルーブル。これは1940年の海軍軍事予算3分の1に匹敵する値であった(ちなみに1940年のソビエトの国家予算は1802億ルーブル。うち568億ルーブルが国防費だった)。

もはやソビエトの建艦計画は完全に現実から乖離してしまっていた。
1939年8月6日にまとめられた10カ年大艦隊建艦計画修正案では、1946年までにソビエツキー・ソユーズ級戦艦16隻(15隻、14隻とする資料もある)、クロンシュタット級重巡洋艦15隻、軽巡洋艦28隻、嚮導駆逐艦36隻、駆逐艦144隻が建造されるものとなっていた。
1941年、独ソ戦の開始に伴いソビエト軍は現実に引き戻され、7月10日に残る3隻の建造も中断された。

1945年にソビエトは戦争に勝利したが、独ソ戦で造船所ごとドイツ軍に占領されたS・ウクライナ(約18%が完成していた)はドイツ軍が撤退時に船台の支えを爆破していったために船体が5度から10度傾いてしまい、建造続行は不可能な状態であった。また約20%完成していたS・ソユーズはレニングラード防衛のために取り外し可能な部品や取り外し不可能な部品が片っ端からもぎられた上に空襲と砲撃で残骸状態になっており、S・ベラルーシとS・ロシアはまだ完成度1%で船と呼べる状態ではなかった。そして、時代はすでに巨大戦艦を必要としてはいなかった。
S・ソユーズを除いた3隻は1947年3月27日に解体が決定。S・ソユーズはスターリンの「せっかく始めたんだからさぁ、1隻ぐらいは完成させようよ」との意向でしばらく放ったらかしになっていたが、やっぱり邪魔なので1948年5月29日に解体が決定された。

それでは、スターリンが夢見た巨大戦艦ソビエツキー・ソユーズの姿を公式フォーラムの見本写真で見てみよう。

file1_20160306120509761.jpg

いやさ……史実で未完成だったからって、なにも見本も未完成にすることないじゃない……まさか、これで完成品ってキットじゃないだろうな。

file5.jpg file3_20160306120520c9f.jpg file4.jpg

file6.jpg file7.jpg file8.jpg

仕方ないので展開図と組立説明書の見本から雰囲気を掴みとろう。
艦船モデルなので当然細かいことは細かいのだが、最近流行の「これでもか!」というほどの細かさはないようだ。腕に覚えのあるモデラーなら、甲板の木目はメリハリつけて貼り直すのもいいだろう。

Orelの200作目を記念するソビエト軍戦艦 "Советский Союз"は海モノ標準スケール200分の1で完成全長約1メートル35センチという堂々たるもの。難易度は3段階評価の「3」、そして価格はポーランドGPMのショップで190ポーランドズロチ(約6300円)となっている。
本作はソビエト海軍ファンのモデラーなら絶対に見逃すことはできないだろう。できれば同キットを16隻購入し、幻のソビエト大艦隊を完成させるのも面白そうだが、自分の現実的な建艦能力への配慮は忘れないようにしたい。



画像はOrel社サイト公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
ソビエツキー・ソユーズについて。
https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9B%D0%B8%D0%BD%D0%B5%D0%B9%D0%BD%D1%8B%D0%B5_%D0%BA%D0%BE%D1%80%D0%B0%D0%B1%D0%BB%D0%B8_%D0%BF%D1%80%D0%BE%D0%B5%D0%BA%D1%82%D0%B0_23
10カ年大艦隊建艦計画。
https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%91%D0%BE%D0%BB%D1%8C%D1%88%D0%BE%D0%B9_%D1%84%D0%BB%D0%BE%D1%82
戦前のソビエト経済。
http://protown.ru/information/hide/5002.html
スポンサーサイト

テーマ : 模型・プラモデル・フィギュア製作日記
ジャンル : 趣味・実用

コメントの投稿

非公開コメント

No title

うわっ!こんなんモデル出たんですね。
ソ連海軍に熱い視線を注ぎ続けてきた私としては、是非ともモデル化したいところですが、135センチのダイナマイトボディーは手に余りますなぁ・・・。

Re: No title

azukenさん、コメントありがとうございます!
ついに出ちゃったんですよ、こんなのが……まったくもって、あちらの人のアイテム選択は複雑怪奇です。
さすが巨大戦艦、小学生の身長並の135センチは圧巻ですが、azukenさんならきっとS・ソユーズはおろか、氷山空母や金田艦もそのうちラジコン化してくださることと信じております!(無茶振り)
展開図公開中
最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
プロフィール

のとっちょ

Author:のとっちょ
カードモデル初心者が苦闘するさまをご覧あれ。

検索フォーム
リンク(順不同、敬称略)
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード