GPM アメリカ軍艦上戦闘機 RYAN FR-1 "Fireball"

プリンタのインクの蓋が緩んでて手が真黄色になった、という話を書こうと思ったら漢字変換で「末期色」と変換されてなんだかダメージを受けた筆者がお送りする東欧カードモデル最新情報。本日紹介するのは先週に続きポーランドの老舗、GPM社からリリースされた新キット、アメリカ軍艦上戦闘機 RYAN FR-1 "Fireball"だ。

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ファイヤボー!
ファイヤーボールというと、高飛車お嬢様型アンドロイドの登場するアニメと勘違いされる読者も多いかもしれないが、残念ながら艦載機だ。なお、今回の書き出しは「ピンクの鎧を着た王宮戦士がついにメラを習得したのかと思った読者も~」とどちらにしようか悩んだことも書き添えておこう。
「FR」という機種コードは馴染みがないが、「F」は任務を示す戦闘機のF、「R」は製造メーカーのライアン社を示す(同一任務、同一メーカーの機体2機種目からは「グラマンF2F」のように間に数字が入る)。

1943年6月、アメリカ陸軍は初のジェット戦闘機P-59"エアラコメート"を発注した。が、こいつは最高時速が約666キロというションボリした性能だったのですぐに忘れることにして、1944年1月、最高時速960キロという抜群の性能を持つP-80"シューティングスター"が初飛行したことでアメリカ陸軍航空隊はジェット時代に突入する。
陸軍が新時代に突入したとなれば、当然、海軍も新時代に突入したくなる。しかし、海軍にはジェット機をほいほいさっさと採用するわけにはいかない理由があった。
初期のジェットエンジンは信頼性が低く、また推力調整への追従が悪く安定しなかったのだ。
つまり、離陸時にドカンと出力を一気に上げてダッシュすることができない。だから短い滑走路では離陸できず、ましてや空母の甲板から飛び立つなんて芸当はできそうになかった。
また、着陸時に推力を絞ると、今度は突然燃焼が止まってしまうこともよくあった。陸上なら慌てずにグライダー滑空して飛行場近くの草原にやんわりと着陸すればいいのだが、艦載機でそれをやると海に沈んでさようなら、ということになる。
って言うかさ、そもそもこの時期に空母にジェット機載せる必要ってなんなの? 空母艦載機で戦う相手なんて日本軍に決まってるけど、日本海軍が急にジェット機満載した空母を大量に就航させる可能性に配慮してるの?
そんな疑問もあるかも知れないが、海軍としては陸軍が持っているものは欲しいのだ。いらなくても欲しいのだ。

ジェットは欲しい、でも空母じゃジェットは運用できない。この難問に対してジョン・S・マケイン提督(2008年にオバマ候補に大統領選挙で敗れたジョン・マケイン候補の祖父)が出したトンチの効いた答えが「だったら、レシプロエンジンとジェットエンジンを両方積めばいいじゃない」というものだった。つまり、微妙な推力調整が必要な発着艦時はレシプロエンジンで回すプロペラで飛行し、飛び立ったらジェットエンジンを吹かしてダッシュするといういいとこ取りの欲張りさんなアイデアだ。
この素晴らしいアイデアに応募してきた各社の設計案のうち、海軍はライアン・エアロノーティカル社社の案を採用し、試作を命じる。
「ライアン・エアロノーティカル」というのはなんだか聞き慣れない名前だが、ポッと出のベンチャー企業ではない。アイルランド系アメリカ人、T・クラウド・ライアン(Tubal Claude Ryan)が1922年にカリフォルニア州サンディエゴに立ち上げた企業で、リンドバーグの大西洋横断挑戦機「スピリット・オブ・セントルイス」の製作で有名である。戦前にはギンギンのベアメタルと派手派手な陸軍航空隊塗装が妙に似合う練習機、PT-22"リクルート"を2千機も生産した実績もあった(ちなみに現在ライアン社はノースロップ・グラマンに吸収され、無人機の設計を行っているようだ)。
1943年2月、ライアンは機体モックアップを提出。まだ飛んでもいないのにこれに満足したした海軍は勢いにまかせて43年の末に100機の発注を行った。

それでは、あまり説明が長くならないうちに公式ページの完成見本写真でFR"ファイヤーボール"の姿を見てみよう。

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なんというか……うろ覚えで書いたスカイレイダーみたいなカタチの飛行機だ。
一見、単なるちょっと無骨なレシプロ機にも見えるが、尻にジェットエンジンのノズルがある

ファイヤーボールの初飛行は1944年6月25日。この時はまだジェットエンジンが装備されておらず、ただのレシプロ機だったが、すぐにジェットが実装され変形双発機となった。しかし、テストフライトで飛んでみると、どうも水平安定性が足りず、背びれを追加することとなった。
ところが10月13日、試作1号機が墜落してしまう。どうやら主翼強度が足りずに飛行中に破損したようで、リベットの数を増やすなどの対策がとられることとなった。
あっちをなおしたりこっちをなおしたりして、1945年にどうにか海軍の評価テストまで持ち込んだが、3月には試作2号機が高度1万メートルからの降下から引き起こせずに墜落。さらに4月には飛行中に突然風防が吹っ飛んで試作3号機が墜落した。

海軍での評価は「レシプロエンジンがオーバーヒート気味なんで、電動式のカウルフラップを追加しましょうや。あと脚の強度が心配なのと、着艦フックの位置がおかしいよ」という程度で、意外にも大きな問題は見られなかった。
このテストで発着艦にも成功したファイヤーボールはなんと堂々1千機の大量発注を受ける。

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細部にクローズアップ。レシプロエンジンはシリンダーがテクスチャで表現された簡易なもの。このエンジン(ライト・サイクロン)は発着艦に使う補助的なものなので、出力1350馬力と米海軍としては控えめ。機種にエンジンがあってジェットの吸気口を設けられないので、吸気口は内翼前縁に開けられている。車輪は前輪式。ちなみに艦載機なので実機は主翼が折りたためる。

1000機の大量発注を受けてウハウハのライアン社だったが、66機を生産したところでウハウハタイムは終わった。日本が降伏したのだ。一応、1945年3月にVF - 66戦隊がファイヤーボールを受領しているが、戦闘に参加する前に戦争が終わった。
一応、作っちゃったもんはしょうがないので運用は続けたが、現場での評判は悪かった。強度が足りないのだ。
特に前輪の強度が足りず、着艦時に前脚を折る事故が続出した。一応フォローしておくと、正しい着艦では3つの車輪が同時に着地する3点着地が求められ、そうしていれば前脚の強度は問題ないはずだった。しかし、実際には尻を下げて着艦フックを引っ掛け、主脚2輪が着地してから機首がドン、と着地するパターンも少なくはなく、それをやるとファイヤーボールの前脚は折れた。

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と、いうわけでやっちゃいけない着陸姿勢の例。爆弾が機内色で塗られてるのがちょっと珍しいが、こういうもんなんだろか。ちなみに武装は12.7ミリ機銃4丁+1000ポンド爆弾2発(約900キロ)。

前脚が折れるだけならまだしも、直したはずの主翼の強度もなんだか怪しくて、編隊長が機体をバレルロールに入れたら主翼が折れて僚機を巻き添えに墜落したこともあった。1947年6月には着艦時に胴体が千切れる事故が発生。8月に「機体強度が不足しており危険」として全機が予備に下げられた。

このころにはジェットエンジンの性能、安定性が向上し、発着艦にわざわざレシプロを使う必要性はなくなっていた。高速飛行時にはなまじプロペラが邪魔になるためにファイヤーボールは最高時速が650キロとレシプロ機なみと言うか、むしろF8Fベキャットよりちょっと遅いぐらいなので、”本物のジェット艦載戦闘機”グラマンF9Fパンサー(最高時速860キロ)が47年11月に初飛行すると、みんなファイヤーボールのことはレシプロ・ジェット複合機というアイデアと共にあっさりと忘れることとなった。
ファイヤーボールは現在、1機のみが現存しロサンゼルスのチノ航空博物館に展示されている。


コンセプトからして、まぁ、ダメだろうな、と思ったらやっぱりダメだったRYAN FR-1 "Fireball"、GPMのキットは空モノ標準スケール33分の1で完成全幅37センチ。難易度は3段階表示の「2」(普通)、そして定価は50ポーランドズロチ(約1600円)となっている。また、レーザーカット済みの芯材用厚紙は20ズロチ(約650円)だ。

ファイヤーボールは1945年11月6日、空母着艦のための侵入中にレシプロエンジンが止まってしまい、パイロットが咄嗟にジェットエンジンを始動させたことで「史上初めてジェットエンジンで着艦に成功した飛行機」として名前を残している。
そういう、歴史になんだか微妙な1ページを記録した飛行機ファンのモデラーなら、当キットは見逃すべきではないだろう。



画像はGPM社サイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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