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Murph's Models イギリス軍艦上対潜哨戒機 Short SB6 "Seamew"

太平洋戦争で戦場となったインドネシアの都市、バリクパパンのことを長らくバクリパパンだと思い込んでいた筆者がお送りする世界のカードモデル情報。本日紹介するのはアリゾナ州のブランド、Murph's Modelsからの新製品、イギリス軍艦上対潜哨戒機 Short SB6 "Seamew"だ。

DSCN2192.jpg

なんだろう……この、なにかが間違っているのだが、何が間違っているのかをうまく言葉にできないもどかしさは……いや、むしろ全てが間違っているのか。
ちなみに完成品の写真はこれ一枚のみ。ダウンロード販売なので表紙画像はなしだ。

第二次大戦中、ドイツ軍のUボートに苦しめられたイギリス海軍は戦後になってからはソビエト海軍の潜水艦戦力が増大してきていることに頭を痛めていた。
そこでイギリス海軍は、航空母艦から発進し敵潜水艦の捜索を行う「艦上対潜哨戒機」という機種を発注する。この機体には潜水艦を発見するための良好な視界とレーダー搭載能力、そして駆逐艦を誘導するまで接触を保つ長い航続距離が求められた。
これらを満たすためにフェアリー社が設計したのがフェアリーAS.4「ガーネット」で、この機体は求められる特殊な性能を満たすためにアームストロング・シドレー 「マンバ」ターボプロップエンジン2基を直結したエンジンで二重反転プロペラを回すという独特な機構を持っていたが、着艦性能を高めるために(着陸脚を短くするために)逆ガル翼にしたり、腹にレーダードームを抱えたりしたせいで「世界でもっとも醜い航空機」(写真は電子装備を追加し、レーダードームが巨大化してさらに残念なスタイルになった早期警戒型)と評された。さもありなん。
ちなみに、こいつに競争試作で負けたブラックバーンB-54という機体があるが、こっちもスタイルの残念さにかけては劣っていない。

ガーネットは求められた性能は満たしていたが、いささか機構に凝ったところがあり、割高な印象があった。なにしろガーネットはもともと速度性能は求められていないので空戦はできないし、もちろん対艦攻撃もできない。折しも戦後の軍縮の波を受けてイギリス海軍も予算は切り詰められている。
そこで、イギリス海軍は「性能はもっとそれなりでいいから、より安価な艦上対潜哨戒機求む」との仕様書を公布し、これに応じたのがオズワルド、ホレイス、ユースタスのシュート三兄弟が気球販売から立ち上げた「Short Brothers」、通称ショート社であった。なお、イギリスには造船界にもショート兄弟社(Short Brothers of Sunderland)というのがあるが、別に両者は関係ないらしい(造船のショート兄弟の方が先に会社を立ち上げている)。
ショートの専門は水上機で、第二次大戦中は傑作サンダーランド飛行艇を製造していたが、なにしろ飛行艇の任務は輸送や救出という地味なものだったので、いまいち印象が薄い。さらにショートはサンダーランド飛行艇の部品を流用してスターリング4発戦略爆撃機も開発したが、「4発飛行艇を作ってるショートなら重爆撃機も作れるだろう」という甘い見通しは外れ、高高度性能が悪い、爆弾倉が分割されているので大型爆弾が搭載できない、慣れない陸上機なんで脚の構造が脆弱、という散々な評価で戦時中に早々と戦線から引き上げられてしまっていた。
そんなショートが開発した艦上対潜哨戒機SB6、愛称「シーミュウ」(カモメ)は、ガーネットで2基連結していたマンバエンジンを1基とし、プロペラも2重反転から通常の形式にダウングレードされた。ショートでは当初、エンジンはスピットファイヤ戦闘機にも使われていたマーリンエンジンを希望していたようだが、イギリス海軍は「対潜哨戒なんて低性能の機体にガソリン大食いするマーリンはもったいない」としてマンバの使用を指示。これにはターボプロップエンジンはピストンエンジンに較べて振動が小さく、電子機器への悪影響を抑えられるという目論見もあった。
コクピットは良好な視界を得られるよう、エンジンの上に設置され、さらに足の間にレーダードームを抱えたせいで機体は異様に背が高くなった。なお、このレーダードームは取り外すことで爆弾倉を延長することができるようになっており、スターリング爆撃機で「爆弾倉が狭い」と言われたのがよっぽど悔しかったことが伺えるが、だからといってこんな機体の爆弾倉を延長して何を積むつもりだったのかは良くわからない。

こうして生まれた最も醜い飛行機ガーネットの醜い弟シーミュウは1953年8月23日、テストパイロット ウォルター・ランシマン(Walter J. Runciman)の手で初飛行を果たしたが、その結果操縦性が極端に悪いことが判明した。ショートはあちこちの動翼を手直しし、その結果量産機の納入は1956年まで遅れたが、それでも操縦性は満足とはいえず、航空専門誌「Aviation News」1990年7月19日によると「まともに飛ばせるのはランシマンただ一人」だったらしい。しかし、そのランシマンも1956年6月9日にシーミュウの事故で死亡(事故原因は不明)したので、誰もまともに飛ばせなくなった。
結局、いくら安いといってもまともに飛ばないシーミュウをイギリス海軍が購入するはずもなく、シーミュウの生産は26機で終了した。
そもそも1960年台には、よく考えて見れば海上発進する対潜哨戒機ってさぁ、ヘリを使えばいいんじゃね? とイギリス海軍が気がついて艦上対潜哨戒機というカテゴリーそのものが消滅しているが、君ら、1940年にも同じことやったよな?
機体に余裕がないためにガーネットのような早期警戒機に生まれ変わることもできなかったシーミュウは1957年には引退し、そのままスクラップになった。
最後まで残っていたのはパイロット訓練学校が中古で買い取った機体で、こんな操縦性の悪い飛行機に訓練生乗せるつもりかい? と思ったら、地上作業の練習用だったそうだ。この機体も1967年にスクラップとなり、シーミュウは全機が失われた。

間違った前提からは間違った結果しか生まれないという教訓をまたしても残したギリス軍艦上対潜哨戒機 Short SB6 "Seamew"、Murph's Modelsのキットは48分の1で販売価格は3ドル(ダウンロード販売のみ)というお手頃スケールお手頃価格。
このような残念機がキット化される機会はあまり多くはない。この手の姿も性能も使いみちも残念な機体が好きなモデラーなら、この残念スタイルを机上に飾ることができるこの機会を逃すべきではないだろう。



画像はMurph's Models公式ページからの引用。


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