Orlik スペイン軍装甲艦 "Pelayo"

あけましておめでとうございます。遅ればせながらも2016年も引き続きよろしくお願い申し上げます。

さて、それはそれとして正月から一日寝そべってテレビを見ながらモチを食ってるだけなので、腹回りがヤバげな筆者がお送りする東欧最新カードモデル情報、新年最初の紹介記事は、ポーランドOrlik社からの新製品、スペイン軍装甲艦 "Pelayo"だ。

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2016年、年明け一発目の紹介記事が19世紀のスペイン装甲艦で大丈夫なのか、とも思ったが、2015年は最初の紹介記事が南軍装甲艦だったので全然大丈夫だ。

19世紀、かつての栄光よもう一度! とスペインは装甲艦を中心とした近代艦隊の編成に着手する。
が、ナポレオンが国内を荒らしまわっていったせいで、スペインはまだ工業力が低く、主力となる巨大装甲艦の装甲板を製造することができない。そこで、1884年11月、スペインは当時バンバンと新型装甲艦を建造して建艦モードの先端をいっていたフランスに新型装甲艦の建造を発注、フランスはたった4年でほいほいと装甲艦を完成させ、スペインに引き渡す。
なんだかあっさりと新型艦を手に入れたスペインは、8世紀に西ゴート王国を崩壊させたイスラム軍を退け、アストゥリアス王国の初代国王となった英雄、ドン・ペラヨにちなんでこの装甲艦を「ペラヨ」と命名。ペラヨは新生スペイン無敵艦隊の主力として姉妹艦がどんどん建造される(一説には6隻建造予定)はずだったが、完成直後、スペインは太平洋へ進出してきて今からでも植民地にできる土地はないかと統治が曖昧な島を探していたドイツ帝国と衝突。ドイツ艦隊とスペイン艦隊が太平洋で激突する可能性が出てきた。
ところがそうなると、ペラヨの重装甲が逆に欠点になってしまった。ペラヨは重装甲であるために足が遅く、最大速度がたったの16ノットしか出なかった。さらに航続距離も5500キロしかなく、これは東京から燃料満載で出港しても、ハワイの手前で燃料切れになる距離だった(しかも、燃費が良くなる巡航速度は10ノットと、さらに絶望的な数値)。ちなみに、建艦時にはこのみじかい航続距離をフォローするためにペラヨには帆走装備も備えられていたが、どう考えても排水量1万トンの装甲艦を帆走させるというのは無理があったので帆走装備は竣工時に撤去されている。
*1月6日追記 拍手コメントから、「当時の機関は性能が不安定だったので1万トン級でも帆走装備を備えているのは普通のことだったのでは」との御指摘をいただきました。確認したところ、1870年台中盤から後半にかけてイギリスで建造された1万トン級装甲艦、ネプチューン級、インフレキシブル級も帆走装備を持っていました。ペラヨは機関の信頼性が向上したために竣工時に帆走装備は不要と判断されたようです。謹んで訂正させていただくとともに、ツッコミ頂いた事にお礼申し上げます。

結局、スペイン海軍は植民地での紛争にすぐに駆けつけることができるよう、快速のインファンタ・マリア・テレサ級装甲巡洋艦の建造に予算を転用、ペラヨ級の調達は単艦に終わった(このため、ペラヨは「Solitario」(ひとりぼっち)のアダ名を頂戴する)。

19世紀末の装甲艦の発展はめざましく、竣工から10年ですでにペラヨは旧式化してしまっていた。そこでペラヨはフランスの造船所に里帰りし、改修を受けることとなったが、その最中にスペインはアメリカとの戦争、米西戦争に突入する。
とりあえずバタバタと改修を終わらせたペラヨはスペイン沿岸へのアメリカ艦隊殴りこみを阻止するためにスペイン領海で睨みを利かせていたが、米西開戦から一週間もたたない1898年5月1日、新型装甲巡洋艦4隻を主力とするアメリカ海軍アジア艦隊がスペイン領フィリピンに来寇、小型防護巡洋艦2隻と非装甲巡洋艦4隻からなるスペイン艦隊はたった6時間で壊滅(アメリカ側損害、負傷者7名)してしまった。
東洋の拠点、フィリピンがいきなりガラ空きになったのにビックリしたスペイン艦隊は、「重装甲のペラヨなら、必ずアメリカ艦隊を撃滅してくれるはず……!」とペラヨを主力とする第二戦隊を結成、急いでフィリピンへ向けて送り出したが、「戦隊」なんて言ってみたものの、ペラヨの他は客船を急いで改造した仮装巡洋艦2隻、駆逐艦3隻、輸送船1隻というとほほな編制だった。

しかし、そもそも「足が遅くて太平洋の戦いに間に合わない」として姉妹艦の調達がキャンセルされたペラヨが太平洋の戦いに間に合うはずもなかった。1898年6月17日にジブラルタル海峡を抜けた艦隊は地中海をどんぶらこっこと進んで26日にエジプト、ポートサイドに到着。ここで給炭を行おうと思ったら、毎度おなじみの「中立港なんで出て行ってください」攻撃を受けて立ち往生。「給炭させて」「させない」の押し問答に時間を無駄にした艦隊が給炭を諦めて出港し、スエズ運河に到着した7月5日にはフィリピンどころかキューバでもスペイン艦隊は壊滅していた。
スペイン海軍は、「やっぱりアメリカ艦隊がスペインに攻めてくるかもしれない!」と怖くなって第二戦隊に帰港を命じ、7月25日、スペインに戻った第ニ戦隊は解散した。
8月12日、アメリカ艦隊がスペイン沿岸にやって来るまでもなく米西戦争は終結。スペインはこの戦争で艦隊と太平洋を失い、列強クラブからは除外されてしまった。
結局、ペラヨにとって米西戦争はスエズ運河まで行って帰ってきただけで終わった。

20世紀に入り旧式化していたペラヨは1909年、第二次リーフ戦争でモロッコ人暴徒に向けて艦砲射撃を行ったが、これがペラヨ唯一の実戦での発砲となった。
1910年、ペラヨは再近代化改装をするも1920年には訓練艦となり、1925年に解体された。

それでは、この全然役に立たなかったペラヨの姿を公式ページの写真で見てみよう、と思ったのだが、Orlikのページには完成見本写真がなかったので組立説明図サンプルのCGで見てみよう。

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キットは竣工した1888年当時の姿。
表紙絵ではわかりづらいが、フランス艦らしいタンブルホーム船体と舷側にずらりと突き出した12センチ副砲が帆船時代の戦列艦のようで面白い。

スペイン軍の黎明期装甲艦のカードモデルキットといえば、当コーナーで以前紹介したスペイン「Heinkel Models」のスペイン軍装甲巡洋艦 ”Infanta Maria Teresa”があるが、なんでOrlikは突然スペインの装甲艦なんてリリースしたんだ、と思ったら当キットもHeinkel Models主筆、Fernando Pérez Yuste氏のデザインだった。
氏のサイトではペラヨのダウンロードキットの販売も行っているので、細部はそちらの完成見本写真を拝借しよう。

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キット紹介の動画からのキャプチャなので解像度は高くないが、細部の雰囲気は伝わるだろう。
吹きさらしの艦橋、後部砲塔前の明かり採りの両脇になんとなく置いてあるベンチなど、19世紀の艦船特有の装備が興味深い。

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主砲はシュナイダー・カネー32センチ砲単装x2、副砲は同じくシュナイダー・カネー28センチ砲単装x2。「カネー砲」はシュナイダー社の技術者ギュスターヴ・カネー(Gustave Canet)が設計した砲で、日本軍の単装巨砲艦「松島」の主砲としても有名だが、ペラヨの主砲と松島の主砲では年式が異なり、スペックにも差異がある。
なお、各砲が収められているのは側面だけ装甲されているバーベット(砲郭)で、天井はただの雨除けの薄い鉄板で防弾能力がないので厳密な意味での「砲塔」ではない。

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少々画質が悪いが、配置が良く分かる真上からの写真。カネー砲の砲身が異様に長いことも分かる。日本海軍も本当は、定遠・鎮遠に対抗するためにこういう艦が欲しかったんだな、きっと。

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木目甲板の美しいテクスチャサンプルと、CG表現の組立説明図見本。
なお、HeinkelModelのダウンロード版とOrlikの印刷版では、サンプルを見る限りではパーツ配置に差異がある。これが印刷の都合によるものか、それとも少々古いキット(HeinkelModel版は2010年リリース)をOrlik版出版にあたりリメイクしたためなのかは不明。

スペイン軍装甲艦隊主力になりそこねた装甲艦 "Pelayo"は海モノ標準スケール200分の1で全長約60センチ。難易度はHeinkelModelのページで5段階評価の「5」(とても難しい)、定価はOrlikの印刷版が45ポーランドズロチ(約1500円)、HeinkelModelのダウンロード版が12.5USドルとなっている。
当キットはスペイン海軍ファン、19世紀装甲艦ファンにとっては間違いなく見逃せない一品と言えるだろう。



キット画像はHeinkelModelk公式ページから、それ以外はOrlik公式ページからの引用。


*Orlik印刷版の定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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