Orel 日本軍装甲艦”扶桑”

2週間前、読みかけの本をどこかで落としたかと思ってガッカリしていたら、そいつがひょっこりと家の洋服掛けの足元から出てきて、素直に喜べばいいものを「なんだかガッカリし損だな」と複雑な思いを抱いている筆者がお送りする東欧最新カードモデル情報。
本日紹介するのはウクライナOrel社の新製品、日本軍装甲艦”扶桑”だ。

file0.jpg

そっちの扶桑かよ!
普通、日本海軍の軍艦で扶桑といえば、ド級戦艦の二代目扶桑の方を指すものだが、そこは日露戦争のよく知らない艦艇を次々にキット化することでは定評のあるOrel、あえて初代を選んできた。

1874年の台湾出兵によって日本の勢力範囲は南へと広がったが、それは同時に勢力範囲の重なる清国との間で対立が起こることも意味していた。
両国は来たるべき対決に備え海軍力の増強に乗り出すが、清、日本とも海戦の勝敗を決する新兵器、「装甲艦」を建造する能力はまだ持っておらず、双方とも欧米列強へと装甲艦の購入を打診していた。
そんなわけで日本がイギリスに装甲艦の売却を打診すると、ちょうどイギリスには建造中の装甲艦「インディペンデンシア(Independencia)」があるとのことだったが、この艦は南米ABC三国で大軍拡競争中のブラジルから発注されたものなので、購入するならブラジル政府から買って欲しいとのことだった。
日本が建艦費+αを支払えば、日本はすぐに装甲艦が手に入る! ブラジルは利ざやでホクホク! イギリスはブラジルからの再発注で装甲艦を2隻外国に売ってウハウハ! という三方一両得の素晴らしいアイデアに三国はワクワクしたが、そうは問屋が卸さなかった。

1874年7月16日、ロンドンで建造中のインディペンデンシアは船体が完成、三国の熱い視線を浴びながら堂々進水! するはずが、船台に張り付いたままピクリとも動かなかった。
進水しなきゃ進水式ができないんで、とりあえず進水式を2週間延期してそれまでになんとかしようと試行錯誤を繰り返しているうちに、今度は船体が船台からずりおちて船底をぶっ壊してしまう。なにやってんだ。
そのまま進水すると進水式が浸水式になってしまうんで、2ヶ月かけて船底を応急修理、さらに一部を解体して船体を軽くすることで9月10日、インディペンデンシアはなんとか進水したが、そのまま船底修理のためにドック入となった。
これを見ていた日本政府は、「あ、やっぱりその船いらないです」とブラジル政府との交渉を打ち切った。
なお、インディペンデンシアはその後ブラジルからも購入をキャンセルされ、建造したJ & W Dudgeon造船所は倒産した。一応、作っちゃったインディペンデンシアは仕方ないのでイギリス海軍が購入、装甲艦「ネプチューン」となったが、このネプチューン、後にポーツマス港で荒天下タグボートの牽引ケーブルが切れて漂流、記念艦になっていた帆船「ヴィクトリー」にぶち当たって舷側の一部を破壊するというオマケまでついてくる。

インディペンデンシアの一件をなかった事にした日本海軍は、「そんなありものをテケトーに買ってくるんじゃなくて、我が国向けの装甲艦を建造してもらおう」と新たな海軍増強計画をぶち上げる。
とりあえず、海防に必要な最低の艦船数を3隻とし、1隻130万から140万円、トータル390万円から420万でイギリスに発注するという案が海軍大臣川村純義から提出された。
「なんだ、装甲艦って新車1台ぐらいの値段で買えるのか。じゃあ、うちも一隻装甲艦を買うか」なんて言ってはいけない。米俵一俵が1円50銭だったころの400万円だ。
しかし、この額は明治維新から10年も経っていない日本政府にはとてもではないが支払える金額ではなかった。海軍大臣も台所事情をもうちょっと考えてあげて。
結局、政府が承認したのはたったの230万円。これでは2隻購入することもできない。海軍では装甲艦1隻を購入して、残ったお金で横須賀海軍工廠で見よう見まねであと2隻コピー艦を作る、なんて案も出たが、イギリス側との交渉の結果、最終的には装甲艦1隻と、木造帆船に装甲板を張った装甲コルベット2隻(初代「金剛」「比叡」)を購入する、という妥協案でなんとか意見がまとまった。

1877年4月14日、在英国公使、上野景範の妻、幾子女史が最初のハンマーを打ち込み建造が開始される。
Samuda Brothers造船所(インディペンデンシアの船底を修理したのもここ)は進水に失敗するようなことはなく1878年1月に艦は完成、「扶桑」と名付けられた。装甲艦1隻+装甲コルベット2隻をお値打ち価格で売ってくれた英国は、さらに「いまなら回航も我が国持ちです!」とテレビショッピング顔負けのサービス精神を発揮し、長期航海の経験がない日本人船員に代わって日本まで扶桑を運んでくれた。途中、スエズ運河で船底をちょっとコスったが、それぐらいは気にしない気にしない。

扶桑は東洋唯一の近代艦として堂々就役したが19世紀末の装甲艦の進歩は著しく、扶桑はあっという間に時代遅れになってしまった。
1890年台までに扶桑は帆走能力の廃止、それに伴い帆走用の3本マストを2本の戦闘用マストに交換、機関も換装、と大規模な改装を受けている。さらに水面下2本、甲板に2本の魚雷発射管が設置され、扶桑は日本海軍で始めて魚雷を発射した艦艇となったが、甲板の魚雷発射管は水面から離れすぎていたため、発射した魚雷はほとんどが水面に当たった衝撃でぶっ壊れた。

それでは、ここらで公式ページの完成見本写真で初代扶桑の姿を見てみよう。

file3.jpg

丸い。うーん、丸いぞ。
冗談のようだが、SDモデルではなく、本当にこんな艦形だ。扶桑は何度か改装を受けているが、今回は1904年の日露戦争時の姿でのキット化。片弦2基づつあるのが主砲のクルップ24センチ砲、前後の上甲板にあるのが副砲のアームストロング15センチ砲だと思うが、あんまり自信はない。
*12/07追記 やっぱり武装配置を勘違いしていたので訂正。 片弦2基づつある露天の砲はアームストロング12センチ砲で、主砲の24センチ砲はその下の船体バルジ(写真では左側12センチ砲の下にほとんど隠れている)にケースメート式に装備されていたそうです。

1894年、ついに日清戦争が勃発。扶桑は1984年9月17日の「黄海海戦」では日本艦隊のしんがりを務めた。
扶桑は清国艦隊の滅多打ちを食らい15センチ砲弾が何度も命中したが、さすが舷側23センチの装甲は全ての砲弾を跳ね返し、この戦いでの扶桑の死傷者はわずかに死者5名、負傷者9名に過ぎなかった。
なお、扶桑も黄海海戦では主砲29発、副砲32発、75ミリ砲136発、2.5ポンド及び3ポンド砲164発、機関砲(ノルデンフェルト 1インチ機砲)1500発以上を発射している。

日清戦争後、「富士」「敷島」などの大型、強力な新型艦種「戦艦」が海軍に登場すると旧式な扶桑ははっきりと見劣りするようになってしまった。
さらに、1897年10月29日には強風で錨鎖が切れ、漂ったあげくに防護巡洋艦「松島」の衝角に自分で突き刺さって沈没。
沈没してる間に扶桑は二等戦艦に種別変更され、98年7月7日に再浮揚。1900年までに修理は完了したが、1904年に勃発した日露戦争では完全に旧式しており、日本海海戦でも主力についていくことができず、砲艦と一緒にうろうろしているだけに終わった。
1908年除籍。1910年ごろ、スクラップとして売却された。

file1.jpg file2.jpg

組立説明書と展開図のサンプル。こんな微妙な艦でも、Orelの見やすい組立説明書と美しいテクスチャは健在だ。

日本海軍黎明期の主力艦、扶桑は海モノ標準スケール200分の1で完成全長約34センチという慎ましやかなサイズ。でも難易度は3段階評価の「3」。価格についてはウクライナフリヴニャが乱高下していて、ついでに定価もコロコロ変わるんで安定しているGPMのショップサイトで52ポーランドズロチ(約1700円)となっている。

プラスチックモデルでは、まぁインジェクションキット化されることはないであろう当艦の貴重なカードモデル化を日本海軍黎明期艦艇ファンのモデラーは見逃すべきではないだろう。
また、扶桑ファンのモデラーなら、Halinski、Answerの2ブランドから同スケールでリリースされている2代目扶桑と並べることで、新旧扶桑、夢の競演を机上に再現するのも楽しそうだ。



画像はOrel社サイト公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
スポンサーサイト

テーマ : 模型・プラモデル・フィギュア製作日記
ジャンル : 趣味・実用

コメントの投稿

非公開コメント

No title

こいつは凄いアイテム出ちゃいましたね!本当にあちらの方々がキット化する際の基準を知りたいと思う今日この頃であります。
どう考えても採算重視ではないですよね?いや、もしかすると日本人もよく知らない扶桑(初代)が、ウクライナでは大人気!?なんてことがあるんですかね。

Re: No title

azukenさん、コメントありがとうございます!
いや、本当になんで初代扶桑なんてものが唐突にリリースされたのやら……日本海海戦の日本艦隊コンプリートを目指してるにしても、装甲巡洋艦とか、もうちょっとオイシそうなものがまだまだ残されてると思うんですが、デザイナー氏はショートケーキのイチゴは最後に食べる派なんでしょうか。
ん? まてよ、この勢いだと、日本艦隊時代の鎮遠がキット化される可能性も!?
展開図公開中
最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
プロフィール

のとっちょ

Author:のとっちょ
カードモデル初心者が苦闘するさまをご覧あれ。

検索フォーム
リンク(順不同、敬称略)
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード