ロシアン・インペリアル・モンスターズ

今回の記事は新製品紹介しようと思って書き始めたんですが、あんまりにも関連情報がおもしろくて、そこまでたどり着きませんでした。なので、カードモデル関係無いです。相変わらずいい加減ですね。

時は今から100年前の1915年。前年の8月に始まった第一次世界大戦は塹壕と機関銃、そして徴兵制と鉄道輸送の前に完全に膠着状態となっていた。
この状況をなんとか覆そうと、フランスの発明家達が絶望と爆笑を積み重ねていたころ、中央帝国軍を挟んだ反対側、ロシア帝国でもドイツ軍の塹壕を突破し、ついでに後世のモデラーを笑い殺そうという新アイデアが続々と誕生していた。今回は、それら陽が当たらなかったアイデアの数々を苦笑いと共に見ていこう。なお、画像は全てWikipediaからの引用だ。

「ロシア帝国」というと、どうしても近代化が遅れた泥臭いイメージがつきまとうが、もちろん近代兵器の生産能力が全くなかったわけはなくて、1915年ごろにはシコルスキーが世界初の実用4発機「イリヤ・ムロメッツ」を製作するなど、若い技術者も着実に育っていた。
そんな若き設計陣の一人、航空設計師のA・A・ポロホフシチコーフ(Александр Александрович Пороховщиков、古い日本語資料では「ポルコフスキコフ」)は1911年、若干19歳で自作単葉機を飛行させることに成功。1914年には世界発の双胴機を飛ばすなど、才能溢れる技術者だった。
才能溢れるポロホフシチコーフが塹壕戦を突破するアイデアとして思いついたのが、この「陸上戦艦」だ。

Polevoy_Bronenosets_of_Porokhovchsikov.jpg

うん……若さ溢れる、元気のあるデザインだね。
応急架橋みたいな丸いのが並んでいるのは中空のローラーで、この中にそれぞれエンジンが入っていて外周をごろごろ回転させて前に進むらしい。砲塔は76.2ミリ砲か、100ミリ砲か、152ミリ砲か、なんかテケトーに乗せて、他に自衛用にマキシム水冷機関銃40丁を装備する。乗員72名、全長35メートル。35分の1のMMスケールで模型化しても全長1メートルだ。素晴らしい。
ポロホフシチコーフの「陸上戦艦」はとってもドリーミーなアイデアだったが、どう考えても実現困難なために不採用となった。

陸上戦艦が不採用となったポロホフシチコーフには一旦退場願って、お次に登場するのは海軍の造船技師、B.D.メンデレーエフ(Василий Дмитриевич Менделеев)。「メンデレーエフ」といえば、元素周期表を作成したことで科学史に燦然と名を残すドミトリー・メンデレーエフが思い浮かぶが、こちらのヴァシーリー・メンデレーエフはドミトリーの息子。ちなみにメンデレーエフは生涯に2回結婚し、7人の子供に恵まれたがヴァシーリーは一番下の子だった(マリアという双子の姉もしくは妹がいる)。
メンデレーエフの「戦車」は世界大戦が始まってから、「塹壕をなんとかしなくちゃ」とでっちあげたアイデアではなくて、戦前の1911年から温めていたアイデアだったが、まさか第一次大戦があんなことになるとは思わない軍は興味を示さずに放ったらかしになっていたものだった。

Mendeleev_tank.jpg

わーい、超強そうー。
このメンデレーエフ戦車は見た目だけではなく、スペック表も超強そうで、ズドンと突き出た主砲は艦砲を転用した12センチ砲。さらに天井の銃塔に自衛用にマキシム機関銃が1門。正面装甲はなんと150ミリ。タイガー戦車とぐらいならまともに撃ちあうことができそうだ。タイガー戦車が移動しなければ。全長は11メートル(砲身含まず)、重量170トン。
一応、250馬力のエンジンで最高時速25キロで走れる計算になっていたが、長距離移動の場合には鉄道線路上を移動することも考えられていた。どうもスペック表などを見ると、メンデレーエフ戦車は野戦で敵陣地に殴りこみをかける、いわゆる「戦車」ではなく、移動式装甲沿岸砲台を目指していたようだ。
そんなわけでメンデレーエフ戦車はやや過大な印象はあったが、丁寧に研究を続けていけば十分に世界初の戦車となりうる可能性もあった。しかし、前述の通りロシア軍はこの斬新な車両に興味を示さず、イギリス軍の戦車が実戦投入されてからメンデレーエフのアイデアの先進性に気づいた時にはすでにいろいろと手遅れだった。
ちなみにロシアには、メンデレーエフの戦車によく似た「ルビンスキー戦車」という計画があった、とする資料もあるのだが、これは資料が少なすぎてよくわからなかったのでパスしよう。
↓こんなの

Rybinsky_tank_possible_view.jpg

お次のアイデアは発案者がはっきりしない。どうもナフロツキー(Навроцкий)という人物の発案らしいのだが、詳細どころかフルネームさえはっきりしない。

Navrotskys_Battery_(The_Tortoise).jpg

ナフロツキーの戦車、通称「Черепаха(チェレパハ、亀)」は径の大きい主車輪1つと小さい副車輪2つで支えられる3輪車だった。まぁ、三輪車じゃ不整地性能に不安があるが、「陸上戦艦」に比べれば少しはマシかな……と思ったら、なんとこいつ、重量120トン、主砲は203ミリ砲、さらに副砲で152ミリ砲4門、76.2ミリ砲8門、自衛装備としてマキシム機関銃10門を装備するという超超巨大車両だった。でけぇよ!
こいつもやっぱり、「実現性が低い」として不採用に終わった。

120トンのカメ装甲車とか、35メートルの陸上戦艦とかで驚いていてはいけない。帝政ロシアには、さらに破格の装甲車両のアイデアがあった。
とりあえず画像から見ていただこう。これがI.F.セムチシン( Иван Фёдорович Семчишин)によって提案された「要塞破壊機 Обой」だ。

Oboj_02.jpg

………………は?
なにこれ。チョコボール? チョコボールで要塞破壊するの??
内部図解はこちら。

Oboj_01.jpg

うむ。なにがなんだかわからん。
実はこれ、偏芯重りによる回転力で敵陣に向かってゴロゴロ転がっていく超戦闘兵器なのである。
すごいのはそのスケールで、なんと全高600メートル、横幅が900メートルだという。「センチ」の間違いではない。「メートル」である。世界で最も高い建造物、ブルジュ・ドバイだって高さ830メートルしかないってのに。ちなみに陸モノ標準スケール25分の1でキット化すると、横幅36メートルのチョコボールが完成する。出入り口は左右の頂点にあったそうだが、そうなると地上から高さ300メートルのところが出入り口になってしまうんで、縄梯子を使う予定になっていたらしい。って、おい、東京タワーのてっぺんぐらいにある入口まで、縄梯子を登っていかせるつもりだったのか!
一応、スペックを書いておくと、装甲というか、殻の厚みは100ミリ。最高転がり速度は時速500キロ。転がるだけで敵軍を粉砕できるので非武装、としている資料もあるが、戦史研究家ユーリ・バフリン(Юрий Бахурин)によると、重火器の搭載も考えられていたらしい。どうやって積むんだか知らないが。乗員は「数百人」というアバウトさ。なんかヤケクソ気味な数字だ。
提案者のセムチシンは別に技術者ではなく、ただの市位のアイデアマンだったようだが、このアイデアを直接にロシア皇帝ニコライ二世に手紙で送りつけた。ドイツとの戦争の成り行きに頭を痛めていた皇帝はこのアイデアにビビッと衝撃を受け、陸軍に「この超凄い兵器を研究せよ!」と命令したが、しばらくして返ってきた返事は「実現不可能です」というものだった。そりゃそうだ。こんなもん、100年経った今でも実現不可能だわ。

「要塞破壊機 Обой」(楽器の「オーボエ」のことだと思われる。名前の由来は良くわからなかったが、なんだか冷戦時代のソビエトのSF映画の邦題みたいでカッコいい)は軍によって差し止められたが、中にはノリノリになった皇帝を止めきれずに実際に製作されてしまった「戦車」もある。
それが、この「レベデンコ戦車」またの名を「ツァーリ(皇帝)戦車」である。

800px-Tsar_tank.jpg

あーぁ、やっちまったな、という感じの車両だが、なんとこのツァーリ戦車、このたびポーランドのブランド、WEKTORでキット化された。

Car Tank 01

ずどーん。
しかし、こいつの説明をしてるとまだまだ話が長くなりそうなので、今週はチラ見せするだけ。この手のやっちまった車両ファンのモデラーは次週刮目して待て!


*キット表紙画像はWEKTOR公式サイトからの引用、それ以外の画像はWikipediaからの引用。
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初期戦車計画は大型車輪と履帯の2つがメインかと思っていたのですが質量をそのまま活かす物を考えるとはやはりアヴァンギャルドの国ですかね。

Re: タイトルなし

火災瓶さん、コメントありがとうございます!
なんというか、普通は思いついても検討はしないようなアイデアが、皇帝陛下の鶴の一言で堂々と記録に残ってしまうのが専制政治の怖さと言うか、オモシロさと言うか……(笑)
最初に画像見た時は、全く意味がわからなかったです。まさしくアヴァンギャルド!
展開図公開中
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