MODELIK イギリス製 ロードローラー Aveling & Porter 1865

庭の柿の木になった実がいい具合に色づいてきたので、お一つ味見させていただこうか、と手を伸ばしたら葉っぱの裏に隠れていたイラガの幼虫に触ってしまってビビビと手に電気が走った筆者のお送りする東欧カードモデル最新情報。ちなみに柿はおいしかったです。
本日紹介するのは、夏が終わってからは積極的なキットのリリースが続き、以前の勢いを取り戻しつつあるポーランドMODELIK社の新製品、イギリス製 ロードローラー Aveling & Porter 1865 だ。

Walec okladka

さぁ、すごいのキタコレ。
MODELIKはここ2年ほどリリースペースがガクンと落ちていたのだが、復帰した早々に出てくるキットが19世紀のスチームローラーとかアメリカのモニター艦とかで大丈夫なのか。

19世紀、農場で人間の代わりに仕事をしてくれるのは大自然の力と動物の力しかなかった。
大自然の力、というのは大気中に含まれるマナのパゥワーをドルイドがエンチャントしてゴーレムをアクティベイトするとか、そういう話じゃなくて、要するに風車とか水車を使うということだ。これは川や風には餌を与えたり面倒みたりする手間がなく、放っておけるという利点があったが、なにしろ気まぐれな天気任せなので思いどおりに動いてくれる保証がないという欠点があった。
一方、馬やロバなどの動物ならきちんと人間の要望通りに働いてくれるものの、そのためにはしっかりご機嫌をとらないといけないので、いろいろと手間がかかる。
これらに代わり、安定して強大なパワーを生み出し続けることのできる蒸気機関は18世紀にすでに発明されていたが、こいつはなにしろ呆れるほどデカくて重く、設置しようと思ったら目が飛び出るほどの予算と手間がかかった。
鉱山の排水用ならそんな高価な蒸気機関を設置してもそのうち元が取れるだろうが、農場ではそうはいかない。基本的に農場では年に一度、脱穀や製粉のためだけに動力が欲しいので、蒸気機関なんて入れてもいつになったら元が取れるか知れたもんじゃない(それでも、18世紀末から19世紀初頭にかけて、蒸気機関を設置した大農場がいくつかあったようだ)。

1839年、イギリスのウィリアム・タックスフォード(William Tuxford)という人が、ボイラーを蒸気機関車のように水平に置き、その下に4つの車輪がついた台車を配置した「ポータブル・エンジン」を開発した。つまり、これを村で一台購入すれば、後は使う時に使用料を払って自分の農場までゴロゴロ引っ張っていき製粉機なり脱穀機にベルトでつなげば、後は石炭と水を補給するだけで24時間シュッシュポッポと動き続けてくれるというわけだ。ありがたや。
このアイデアは絶賛され、イギリス中でポータブル・エンジンの製作が始まった。ポータブル・エンジン製作最大手の「Clayton & Shuttleworth」社では1890年台までに2万6千台のポータブルエンジンを製作し、世界中に輸出したという。

ポータブル・エンジン万々歳、これで全ての問題は解決! と思ったが、これに全然満足していない人物がいた。
イギリスのロチェスターで農業機械(風車など)の修理・製作業を営んでいたトーマス・アベリング(Thomas Aveling)はポータブル・エンジンが馬に引かれて農場から農場へ移動していくのを見て、「ナンセンス極まる」と思っていた。
なぜ、十分なパワーを生み出すことができるエンジンを、馬で引かなければならないのか。
それは「蒸気船を帆船で引っ張るようなもの」であり、「科学に対する侮辱である」という言葉まで残している。
そこでアベリングは1858年にClayton & Shuttleworthのポータブル・エンジンのパワーをチェーンで車輪に伝えるように改造。このチェーン駆動システムで特許を取ったアベリングはClayton & Shuttleworthと組んで自走式エンジン、「トラクション・エンジン」の製作に乗り出す。

しかし、この最初のトラクション・エンジンには重大な欠点があった。
方向が変えられないのだ。
鉄道なら、レールが目的地までつながっているが、地面を走るトラクション・エンジンではそうはいかない。蒸気船のような舵で前輪の向きを変えようにも、べらぼうな重量が乗っかっている前輪の向きを人力で向きを変えることはできず、結局は向きを変えるときには前輪につないだ馬が頑張って前輪の向きを変えるという、なんのために自走できるようにしたんだか訳がわからない構造になってしまった。
これじゃあやっぱりナンセンスで科学に対する侮辱なんで、試行錯誤の末にアベリングはハンドルを回すとギヤを介してチェーンが巻き上げられ、そのチェーンにつながった前輪がジワジワと向きを変える、というシステムを考案。これによりついに完全なトラクション・エンジンが完成した。
1862年、アベリングは事業化のために資本家のリチャード・ポーター(Richard Porter)と提携、「Aveling & Porter」社を設立する。

それでは、ここでAveling & Porter社が1865年(日本ではなんと慶応元年)に製作したロードローラーの姿を公式ページの完成見本写真で見てみよう。

walec foto2

すごいクオリティの作例だ! すごすぎて、ストレートに組んだ時の仕上がりが全然想像できないぞ!
ちょっと見、なにがなんだか良くわからないので一部推測も交えて機構を説明しておくと、ボイラーの上にあるのはシリンダー(1気筒)。往復運動を回転(円)運動に変換する際に位相が違う複数のシリンダーを使わないと、ロッドが伸びきった時と縮みきった時は力がゼロになってしまうので、そのままだと回転したりしなかったり、ものすごい振動で脱穀してる間にエンジンがガタガタ揺れてどっか行ってしまう。なので、1気筒の蒸気機関でははずみ車を使うのがお約束。この写真でも、奥の方に巨大なはずみ車が見えているが、これってむき出しで危なくないの?

walec foto1

前の方から。
鎖をつかったステアリングシステムの様子が良く分かる。この鎖がないと向きが変えられないので、艦船模型用やアクセサリー用のチェーンを使うといいだろう。
金の馬はAveling & Porterのロゴマーク。
大方の予想どうり、ガソリン機関が実用化されるとやたらと重くて手のかかる蒸気自動車は次第に廃れていくが、重砲の牽引やロードローラーなど、逆に「重い」ことが利点となる一部の車種でしばらく生き残った。
Aveling & Porterでもガソリン機関への転換を一時は検討したものの、第一次大戦の勃発でガソリンが手に入らなくなるとガソリン機関の研究を止めて蒸気トラクターの製作に全力を注ぐ。しかし、これは裏目に出て第一次大戦後にガソリンの供給が安定すると蒸気自動車の需要は一気に落ち込み、Aveling & Porterは1933年に建設機械を製作している「Barford & Perkins」社に吸収合併された。一応「Aveling-Barford」というスチームローラーのブランドは残り、エンブレムも金の跳ね馬のままだったが、これも2010年ごろに身売りしてしまったようだ。

walec foto3

後ろから。計器らしい計器がたった一つ(たぶん圧力計)しかないが、どうせ精一杯頑張っても最高時速20キロも出ないからこんなもんでいいのか。ちなみに1865年にイギリスでは「機関車法」というのが定められ、蒸気自動車は郊外で時速6.4キロ、市街で時速3.2キロ以上出してはいけない、と決められた。しかもその速度を出すときは通行人に注意を促すために車の前には赤い旗を持った先導者がテクテクと注意を呼びかけながら歩くこと、というトホホな法律だった。
右側の車輪の後ろにある駐鋤のようなものは、もしかしてブレーキ?

walec foto4

ボイラーと運転台のみだとこんな感じ。計器の下のバルブから下がっているカンテラのようなものは水面計かな? 水面計とか石炭とかパイプとか、カードモデルであることを忘れさせるようなクオリティとはまさにこのことだ。まったく勘弁してください。
それにしても、はずみ車とか歯車とか、わかりやすくもファンタスティックな機構が満載だ。

walec ark1 walec ark2 walec rys2 walec rys1

テクスチャは汚しのないスッキリしたタイプ。現役の建設機械風に汚しを利かせるのもいいし、作例のように博物館の展示車両風にピカピカに仕上げるのもいいだろう。組立説明図は面をグレーに塗ったライン表現で、なかなかわかりやすそうだ。

MODELIKからの新製品、イギリス製 ロードローラー Aveling & Porter 1865 は陸モノ標準スケールで完成全長約20センチと、蒸気機関車に比べると意外と小柄。難易度は5段階評価の「4」(難しい)、定価は40ポーランドズロチ(約1300円)となっている。また、レーザーカット済みの芯材用厚紙は15ズロチ(約500円)で同時発売となる。
スタイルのユニークさの割に模型化されることが非常に少ないスチームローラー。蒸気機関ファンのモデラーなら、当キットを見逃すべきではないだろう。また、ロードーローラーファンのモデラーなら、以前にMODELIKがリリースした最近のロードローラー(ソビエト製)と並べることで、新旧ロードロラー夢の競演を楽しむのもいいだろう。



画像はMODELIK社サイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
スポンサーサイト

テーマ : 模型・プラモデル・フィギュア製作日記
ジャンル : 趣味・実用

コメントの投稿

非公開コメント

展開図公開中
最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
プロフィール

のとっちょ

Author:のとっちょ
カードモデル初心者が苦闘するさまをご覧あれ。

検索フォーム
リンク(順不同、敬称略)
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード