WAK イギリス軍重戦闘機 Westland Whirlwind Mk.I

静岡ホビーショーで模型熱を充填した筆者が心機を一転、装いはそのままにお送りする東欧最新カードモデル情報。今回紹介するのはポーランドWAK社からの新製品、イギリス軍重戦闘機 Westland Whirlwind Mk.I だ。

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いつものWAKとタッチが違う表紙。なんだかMODELIKの表紙のような……と思ったら、いつもMODELIKの表紙描いてるWojciech Sankowski氏の表紙絵だった。最近MODELIKの新作ペースが落ちているのでWAKの表紙も手がけるようになったのだろうか。

なんというか、どうにもなんか変なデザインの Whirlwind(”旋風”。カナ表記はホワールウィンドが一般的だが、「ワールウィンド」の方が発音的には近いらしい)は、大方の予想どうり1930年代の双発戦闘機ブームの際にデザインされた戦闘機だった。
イギリス空軍ではこの時期、航空機の速度が大きくなることで、より射撃タイミングが短くなることことを心配していた。
高速の戦闘機同士がすれ違う一瞬に相手を倒す方法としてイギリス空軍が考えた方法は
1・より多数の機銃を装備し、一瞬で相手を蜂の巣にする。
2・より強力な機銃を装備し、一瞬で相手を粉砕する。
という、なんか会議が長引いて面倒くさくなったから一応結論出しておきました、という感じの対策だった。
まぁ、それでも一応結論は結論なんで、2つの方針のうち、1番に従い当時新鋭のホーカー・ハリケーン戦闘機はヤケクソ気味に主翼にずらりと8門もの7.7ミリ機銃を並べていた。
一方、2番の要求を満たす戦闘機はまだなかったので、イギリス空軍は1935年、仕様書F.37/35を制定する。
これは20ミリ機銃4門を積み時速600キロを出すこと、という過激なものだった。
この仕様に対して設計案を提出してきたのがボールトン・ポール、ブリストル、ホーカー、スーパーマリン、そしてウェストランドという、ある意味そうそうたる面子の5社。
1936年5月の審査では、スーパーマリンらしい美しい曲線で構成されたスーパーマリン・タイプ313が有望とされたが、当のスーパーマリンが「あたしらスピットファイアの設計で忙しいから、双発戦闘機作ってるヒマないですよ」と言い出した。じゃあ、なんで設計図出してきたんだ、とも思うが、もしかすると途中で双発重戦闘機なんて、なにをどうやってもモノにならないことに気がついたのかもしれない。そういう危ないプロジェクトを敏感に嗅ぎ分ける能力も名門メーカーには必要だ。
しかたがないので、空軍はスーパーマリンの他に、危ないプロジェクトに片っ端からハマりまくるボールトン・ポールとウェストランドの案を試作に進ませることとした。
中でも設計が進んでいたのがウェストランドの設計「P.9」で、1937年2月に試作機2機の発注が行われ、それと合わせて残り2社の設計はボツとなった。

ウェストランドの設計士ウィリアム・エドワード・ウイロゥビー・ペター(通称「テディ」、ライサンダーをデザインしたのもこの人)がデザインした新型重戦闘機は、いつも通り変な形だった。キャノピーは世界初の本格バブルキャノピーで高い位置で胴体から突き出していた。尾翼はT字尾翼。これでも初期設計案の双胴形式よりはおとなしくなったらしい。2基のエンジンはエンジン径ギリギリまで絞ったナセルに納められ、機首よりも前に飛び出す形で装備される。そして、その機首には4門の20ミリ機関砲が睨みを効かせていた。
エンジンは軽量、小型であるためにケストレル系列の究極形とも言える、ロールスロイス・ペリグリンエンジンが選ばれたが、この選択が仇となった。
このエンジンは設計段階では双発機用に回転方向が反対になる逆転バージョンをサポートすることが予定されており、「それならスピナーに逆転ギヤを入れないでいいから、普通のエンジンよりもさらに軽くなるよ!」という触れ込みだったのだが、実際に設計してみたら逆回転をサポートするための内部構造が複雑怪奇になることがわかり、結局この機構を組み込むことは断念された。

そんなこんなでペリグリンエンジンの調達が遅れ、試作機の初飛行は1938年10月11日までずれこんだが、試験飛行の結果は良好。機動性に優れ最高速度も十分。わずかに滑走中に蛇行しやすい癖があったが、大した問題ではなかった。
空軍では性能に満足し、「ホワールウィンド」と名づけ、まず200機を発注。さらにそれが完了次第もう200機の第二次発注が行われることとなった。
この数はヒット作のなかったウェストランドには負担となる数字だったため、ウェストランドは新工場の建設支援を政府に申請している。

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この辺で公式ページの完成見本写真を。
細い胴体、デカいナセル、後ろの「カプチーノ」の文字に要注目だ。

ホワールウィンドの前途は輝かしいものに思われたが、1939年9月、第二次大戦が勃発すると状況は大きく変化する。
イギリス空軍が、これから戦力化するホワールウィンドよりも、すでに生産が開始されているスピットファイアを優先することを決めたのだ。
この決定により、まず新工場の建設がボツとなった。さらに悪いことに、ロールスロイスはスピットファイアに装備するマーリンエンジンの生産・開発を優先するためにペリグリンエンジンの改良は全て中止。生産も遅れに遅れ、量産機用のエンジンがウェストランドの工場に届いたのは1940年になってからだった。
このエンジン調達の遅れの影響は単なる生産の遅れにとどまらなかった。1940年にはスピットファイアに20ミリ機関砲装備型が登場し、ホワールウィンドは格別重武装でもなくなってしまったのだ。
機体が小型であったために護衛戦闘機として使うにはホワールウィンドは航続距離が短く、夜間戦闘機として使おうにもレーダーが搭載できなかった。なにより致命的なのは、ギリギリまで切り詰めた設計のためにエンジンを一回り大きく重いマーリンエンジンに換装することができないことであった。
どんどんホワールウィンドの立場がなくなっていく、っていうのにエンジンの納入は泣きたくなるほど遅く、1940年7月になってようやく第263航空隊がホワールウィンドで編制されたが、装備機はたったの5機だった。とほほん。

折しも時はまさに「バトル・オブ・ブリテン」のクライマックス。イギリス南部上空を英独の航空機が乱舞する中、「かくも少数」の英国戦闘機部隊はジリジリと押されていた。
空戦司令室を訪れたチャーチルの「予備機は何機あるのかね?」という質問に対し、戦闘機軍団司令官ヒュー・ダウディング大将はこう、答えた。
「ございません、閣下」(このやりとりは資料によって発言者が異なる)
スコットランドで編成中の第263航空隊は1機でも戦闘機が必要であろうと南部への移動を進言したが、ダウディングに「この忙しいのに、『お客様』に泊まってもらう部屋なんてない」と遠回しにボロクソに言われてしまう。なんと予備機にも数えてもらえないホワールウィンドであった。

ちなみにこの時期、ホワールウィンドは初めての損失機を出している。離陸時に車輪がパンクしたまま飛び立ってしまったため、着陸を危険と判断した管制官の指示でパイロットがベイルアウトしたのだ。この時墜落した機体はそのままみんな忘れていたが、1979年10月になって地元の有志の手で残骸が発掘されている。

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コクピット内部の完成見本。キャノピーが大きく見えるのは胴体が細いせいで、かなり狭い機内であることがわかる。

1940年12月7日、ついに第263航空隊は作戦行動可能と判定され、海峡方面へと移動した。主な任務はドイツ軍の魚雷艇狩りで、41年2月8日にはAr-196を撃墜し、ホワールウィンドによる初撃墜を記録した(ただし、撃墜したホワールウィンドも勢い余って海に突入した)。
41年9月、2番めのホワールウィンド戦闘機隊として第137航空隊が編制される。こちらは主にドイツ軍占領地域での鉄道攻撃を受け持った。また、42年夏に両航空隊のホワールウィンドは爆弾架を増設し、戦闘爆撃機に改造されている。
その後も2つのホワールウィンド隊は独海軍海峡突破作戦に対する攻撃、シェルブール空襲などの戦いに投入され、1944年初頭に「旧式化した」とされ両戦隊はホーカー・タイフーンに機種転換となった。
ホワールウィンドの総生産数は約110機。ちなみにペリグリンエンジンも約300基しか作られなかった。

ホワールウィンドは低空での空戦能力に優れ、メッサーシュミット109の優勢な編隊に囲まれても数機を返り討ちにし、損失なしで帰還したこともあるという。また、エンジンが前方に飛び出したレイアウトのためにプロペラブレードが飛散したりエンジンが爆発するようなダメージを受けてもコクピットには被害が及ばない、という長所もあった。「テディ」はこういう細かいところに気が利く。
一般的に「信頼性が低かった」とされるペリグリンエンジンだが、実際には後継機タイフーンの装備するネイピアエンジンよりはよっぽどまともに動いた、とする意見もある。
引退したホワールウィンドは全てスクラップとなり現存機はないが、79年に回収された残骸を元に不足部分を作り直し、もう一度ホワールウィンドを飛ばそうという団体が存在する。好きな人は好きなんだな、ホワールウィンド。

ポーランドの人もホワールウィンドがよっぽど好きなようで、過去にも何度かキット化されている。
最近では2004年にはanswerからシャープなデザインのホワールウィンドMk.2(爆装可能とした戦闘爆撃型)が発売されており、てっきり同じキットのリメイクかと思ったらどうやら全然別設計のようだ。ホワールウィンドファンのモデラーなら、ぜひ両者を作り比べてみたい。Bf110やライトニングなど、他国の双発戦闘機と作り比べてみるのも面白そうだ。

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テクチャは軽い汚しの入ったタイプ。第263航空隊の塗装を再現している。組み立て説明書はCG表現。
スケールは空モノ標準スケールの33分の1、難易度は5段階評価の「3」(普通)、定価は35ポーランドズロチ(約1100円)となっている。

もし、ペリグリンエンジンではなく、もっと調達しやすいエンジンを装備していればホワールウィンドは名機になっていたかも知れないし、ペリグリンエンジンだからあの性能だったのかも知れない。駄作とも、傑作とも言えない、なんとも奇妙な飛行機だ。




写真はWAK社ショップサイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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