Murph's Models アメリカ軍試作ヘリコプター X-49 "Speedhawk"

ようやく咳の取れてきた筆者が曜日を間違えて一日遅れでお送りする最新カードモデル情報、今回紹介するのはアメリカはアリゾナ州のブランド、Murph's Modelsからの新製品、アメリカ軍試作ヘリコプター X-49 "Speedhawk"だ。

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オモシロ天才、パイアセッキ博士の発明した超音速攻撃用ヘリコプターX-49は、その公開実験の日、パイアセッキ博士自身の手で北アフリカ某国へ運び去られた。
CIA特別作戦部長の依頼を受けたスピードホークは、友人と共に北アフリカへ潜入。パイアセッキ博士と対決し、X-49を奪い返すが、そのままアメリカ西部の砂漠地帯に隠してしまう。

ぺーぺれぺぺーぺれぺぺーぺれぺぺー(メインテーマ)
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それなりの量を書いておいてこういうことを言うのもなんだが、上の文章は全てウソだ(特に「超音速」の部分)。いや、パイアセッキが天才だったのは本当だが、他はウソだ。
ちなみにあれの機体は黒く塗ったベル222がベースだったらしい。

1990年代、アメリカ海軍はヘリコプターをパワーアップさせるために尾部に推進式プロペラを搭載する「複合推進」の実験機制作を開始した。
複合推進は1960年代にも、無駄にカッコいいAH-56「シャイアン」攻撃ヘリで試験され、対抗馬のAH-1を50キロも上回る最高時速400キロを記録したが、シャイアン攻撃ヘリは構造が複雑すぎて生産コストが高くつくとか、そもそも攻撃ヘリとしては被弾に弱いとかの問題がクリアできずにお蔵入りとなっていた。
この、新・複合推進ヘリ計画の試作を頼まれたのが、シャイアン攻撃ヘリと同時期にこれまた無闇にカッコいいModel 16H「Pathfinder」複合推進ヘリを試作していた(シャイアンを制作したのはロッキード社)、パイアセッキ社だった。

「パイアセッキ」というのはなんとも奇妙な名前だが、これは創始者フランク・パイアセッキ(Frank Piasecki)の名前を冠した社名である。「パイアセッキ」というのはポーランド系の苗字で、フランク・パイアセッキも実家はポーランド移民の経営する仕立屋だそうだ。
パイアセッキ姓には他にも20世紀中盤を代表する反共作家セルギウス・パイアセッキ(Sergiusz Piasecki)や、現在活躍中のヴォードヴィリアン、クシシュトフ・パイアセッキ(Krzysztof Piasecki)などの著名人がいる。
ちなみにYoutubeの動画でポーランド語を聞いた感じでは「パイアセッキ」というよりも「ピアセスキ」に近いようだ。

1919年生まれのF・パイアセッキは早くから航空機、中でも回転翼機に興味を示し、高校在学中にすでにオートジャイロ制作の工房でアルバイトをしていたという。
ペンシルバニア大で工学を本格的に学び、ニューーヨーク大で学士号を取ったパイアセッキは1936年、同級生のハロルド・ベンジー(Harold Venzie)と一緒に「PV技術集団」(PV Engineering Forum)を設立する。無理やり直訳したら中国語みたいになってしまった。
PV技術集団は1943年4月11日、一人乗り小型ヘリコプター「PV-2」完成させる。PV-2は1機しか制作されなかったが、軽快に飛び回りPV技術集団の技術力の高さを印象づけた。
PV-2に興味を示したアメリカ海軍は大型の輸送用ヘリの開発をPV技術集団に依頼。当初、PV-3として試作された新型ヘリは1944年、「HRP"Rescuer"」として米海軍、海兵隊、沿岸警備隊に採用され28機が制作された。
HRPの特徴は経の大きいローターを機体前後に搭載したタンデムレイアウトとしたことだが、同調にあまり自信がなかったのか互いのブレードが接触しないよう回転面を大きくずらすために機体後部が跳ね上がり、胴体が「逆『へ』の字」となっていることで、その形から「フライング・バナナ」とも呼ばれる。
HRPは米軍初の輸送ヘリとして成功したが、鋼管フレーム羽布貼り構造だったために強烈なロータの風で外皮が剥がれてまくれ上がり、ローターに絡みつくという事故がちょいちょい起こっていた。そこで1949年には機体を金属外皮として各所のメカニズムを洗練した「H-21"Workhorse"」が開発された。
H-21は約500機が生産されるベストセラーとなり、西側諸国にも輸出された。日本も救難用に航空自衛隊が10機、陸上自衛隊が2機を購入、「ほうおう」の愛称で運用している(所沢航空発祥記念館に1機が現存)。

H-21の開発に先立ち、PV技術集団は組織名を「パイアセッキ・ヘリコプター」に変更している。一緒に会社作ったハロルド・ベンジーがどこに行ったのかはどこにも書いてないのでわからない(H・ベンジーは1975年まで存命だったようだ)。
さて、この「パイアセッキ・ヘリコプター」が21世紀になってX-49を作ったのか、というとそうではなくて、1955年、フランク・パイアセッキは重役会で「リーダーシップ不足」として会社を追い出されてしまった(資料によってはパイアセッキの方が自分から主力設計者を伴って会社を去っていったとしている)。
Pヘリ社を出たパイアセッキは、ただちに新会社「パイアセッキ航空機」(Piasecki Aircraft)を立ち上げる。いわば「元祖パイアセッキ・ヘリコプター」と「本家パイアセッキ航空機」だ。真打ちはまだか。
いかにももめそうな雰囲気の両社だが、なにしろパイセッキ本人がいるのが本家パイアセッキ航空機なんで、元祖パイアセッキ・ヘリコプターは名前を「Vertol航空機」(垂直離着陸、vertical take-off and landingからの造語)と変更。さらに内規を改正し、「ライバル会社を作ったパイアセッキは当社の重役になることができない」という条文を加えた。えげつないのー。

そんなわけで元祖と縁が切れた本家パイアセッキだが、この後、航空史上においてパイアセッキの名前を冠した大量生産機は登場しない。しかし、現在も社が存続しているところを見ると、どうやら軍の新型航空機研究に影に日向に協力する実験チームとなったようだ。
例えば、本家パイアセッキは1962年に、空飛ぶジープ「VZ-8"Airgeep"」を制作している。
VZ-8は、見た目は悪ふざけにしか見えないが、驚くべきことに飛行は非常に安定しており、レーダーで捕捉できない超低高度を最高時速130キロで這うように飛行可能なことはもちろん、さらに高度1000メートルまで上昇することもできたというから大したものだ。競争試作となったクライスラーVZ-6(車メーカーがこういうものに手を出すこと自体、受け狙いとしか思えない)とかカーチス・ライトVZ-7が本物のガラクタだったのに対しVZ-8は完全に性能で凌駕していたが、発注した陸軍が「ごめんごめん、良く考えたら『空飛ぶジープ』なんて戦場で使い道ないわ」ととんでもないことを言い出して計画そのものが破棄されてしまった。
また、パイアセッキは1986年に飛行船の下にヘリの胴体を置いて飛行船とヘリのいいとこ取りを目指した「PA-97"Helistat"」を開発。ヘリだけでは不経済な重量物の輸送用を狙っていたが、いらないヘリの胴体を組み合わせた試作機のフレームが振動で分解、ブレードが飛行船部分を引き裂いて墜落するという事故を起こしたこともあり計画は破棄されてしまった。
しかし、この「ヘリ+飛行船」というアイデアはイギリスで引き継がれ、数年内に新型巨人ヘリ飛行船が飛び立つ予定だ。
この1986年にF・パイアセッキは革新的、重要な技術を開発した発明家に与えられる「アメリカ国家技術賞」(1985年制定)を受賞。ロナルド・レーガン大統領から直接、賞を受け取った

その後もパイアセッキは米軍の無人機計画などに関与していたらしい。
そして、2000年からパイアセッキは海軍の新型複合推進ヘリ設計に取り組む。
X-49はシャイアンのように単に推進式にプロペラを装備するだけでなく、それをリングで囲ったダクテッド・ファンとしているのが特徴だ。さらにファンの後ろには整流板が取り付けられ、後流の向きを変えるベクター・スラスト機構も備えており、高速なおかつ高機動な飛行が期待できそうだ。
健康を害していたF・パイアセッキは2007年のX-49初飛行を見届け、2008年2月11日、自宅で死亡。88歳だった。
本家パイアセッキ航空機は息子、ジョン・パイアセッキが引き継いだ。また、別の息子フレッド・パイアセッキが同社の主任設計士を務めているという。

そうそう、「パイアセッキに二度とうちの敷居は跨がせない!」と意気込んだ元祖パイアセッキ・ヘリコプター改めバートルだが、しばらくはF・パイアセッキデザインのヘリを売っていたが技術的には鳴かず飛ばずもいいとこで、米軍の依頼でVZ-2というガラクタっぽい変体飛行機を1機試作しただけでボーイング社に吸収、合併され消滅した。
なお、F・パイアセッキは生涯で7人の子供に恵まれたが、彼の娘ニコール・パイアセッキはボーイングの商業戦略部門の副代表を務めているとのことである。
因果ってのは廻るもんだ。まるでヘリコプターのローターのように。我ながら良いこと言った。

アメリカヘリコプター史の創世から、この先の未来までをも見つめてきたF・パイアセッキの遺産、アメリカ軍試作ヘリコプター X-49 "Speedhawk"は40分の1スケールでのリリース。ディティールよりもスタイル重視のMurph's Modelsのキットなので、難易度は「普通」としておこう。公式ページでの販売価格は5ドル。パイアセッキファンのモデラーなら、是非ともおさえておきたいアイテムだ。
Murph's Modelsからは複合推進ヘリ好きのモデラーのために、36分の1でAH-64シャイアン攻撃ヘリもリリースされている(3ドル)。デジタルデータなのでスケールを合わせ、新旧やたらとカッコいいヘリの共演を楽しむのもいいだろう。


画像はMurph's Models公式ページからの引用。
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