Orel アメリカ軍ダイナマイト巡洋艦 USS Vesuvius

久々の温かい陽気となったこの週末、工作に精を出すカードモデラーも多いことだろう。そんな陽気と熱気に負けないよう、本日もHOT風味なカードモデル情報を紹介しよう。
今回紹介するのはウクライナOrel社の新製品、アメリカ軍ダイナマイト巡洋艦 USS Vesuvius だ。

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ダイナイマイト巡洋艦ってなんだ……
ネームシップが「USS ダイナマイト」という「ダイナマイト巡洋艦」ではなく、あくまでも「ダイナマイト巡洋艦」という艦種である。

19世紀終盤、極めて爆速の速い「HE」(high explosive、高性能爆薬)が開発された。日本軍が日露戦争で使用した「下瀬火薬」などが有名だが、下瀬火薬の主成分であるピクリン酸やニトルセルロース(ダイナマイトの原料)はまだ不安定で取り扱いが難しかった。
しかし、もしこの爆薬を砲弾に詰め込んで敵に撃ち込むことができれば、その爆発力は敵を圧倒できるだろう。重装甲化が進みますます撃沈が困難となりつつある「装甲艦」に対して撃ちこめば、撃沈はできなくとも上部建造物を薙ぎ払って戦闘力を喪失させることができるかもしれない。なんとかして、発射時の高温と衝撃から砲弾内の爆薬を守ることができないだろうか。
この難問に挑戦したのがポーランド生まれのアメリカ人、エドムンド・ルイ・グレイ・ザリンスキー(Edmund Louis Gray Zalinski)だった。”ザリンスキー”というと、映画「ミクロキッズ」に登場した博士を想像する読者も多いかもしれないが、たぶん関係ない。あと、語尾に「ザリ」をつけて喋る「ザリンスキー」という名前の政治将校が登場する戦車ゲームがあったような気がするのだが、どうしても名前が思い出せないのでいっそ忘れてしまおう。
*4月15日追記。 コメント欄で「DSの”タンクビート”ではないか」との情報を火炎瓶さんからいただきました。 ああっ! そうだった! すっきりした~ でも確認したら政治将校の名前は「ザリンスキー」ではなくて、「ザリーツィン」でした。どうりでいくら検索しても見つけられないわけだ……

1849年生まれのザリンスキーは1864年、年齢を偽って南北戦争に北軍兵士として参加。65年には戦闘での功績を認められ少尉に昇進し、ニューヨーク第2重砲連隊に配属となる。
南北戦争終戦時に、膨れ上がっていた陸軍は大規模に縮小されほとんどの兵士は復員したがザリンスキーは軍からの要請に従って常備軍に残留。1866年にもう一回少尉に昇進してるが、これは戦時体制の解除で一旦降格となったためだろう。ちなみに後に大統領になったアイゼンハワー将軍も第一次大戦が終わった時に中佐から大尉に降格している。と、いうか、大尉が本来の階級で、臨時に中佐まで昇進していただけだ。

マサチューセッツ工科大で軍事技術の講師も勤めたザリンスキーは1880年代、高性能爆薬を詰めた炸裂弾の発射装置として、圧縮空気プロジェクターに注目していた。ようするにバカデカい空気鉄砲でニトロセルロースを詰めた砲弾をスポン、と打ち出そうというわけだ。これなら高熱は発生しないので、砲弾の中のニトルセルロースが発射時に爆発してしまうこともない。やったね。
この「ダイナマイト砲」に興味を示したのが、潜水艦の研究をしていたジョン・フィリップ・ホランド。ホランドは潜水艦に載せる水上兵器として妥当なものがないことに頭を悩ませていた。なにしろホランドの潜水艦は排水量が60トンぐらいの小柄なものだったので、普通の大砲を積むことはできない。そこでダイナマイト砲ですよ、と意気投合した二人は「ノーチラス潜水艦会社」を立ち上げ試作潜水艦の制作に着手する。ちなみにザリンスキーはホランドの意見をあまり聞こうとせず、ホランドはいろいろと苦労したようだ。
1885年9月、試作潜水艦、通称「ザリンスキー艇」(Zalinsky boat)が完成した。ザリンスキーの名前がついてるあたりに、ホランドの「わしの言うこと聞かないなら勝手にやれば」感がにじみでている。
ザリンスキー艇は全長15メートルの小型艦で、資金難のために大部分は鉄のタガをはめた木製であった。
ダイナマイト潜水艦、いざ出港! した途端に、海底の杭に船底がぶち当たって貫通、沈没した。まぁ、木製だもんな。
残骸を引き上げ修理をし、もっと安全な川に移動して試験を行ってるうちに資金が尽き、ザリンスキー艇は出資者への返金のために解体売却された。
ちなみにホランドは後にアメリカ海軍初の近代的潜水艦「ホランド」の開発者として名を馳せるが、ホランド潜水艦は武装としてダイナマイト砲を積んでいる。心広いなぁ、ホランドさん。

そんなわけでダイナマイト潜水艦は不発に終わったが、アメリカ海軍はダイナマイト砲に興味を示し、1887年にダイナマイト巡洋艦「ヴェスヴィアス」を建造する。艦名はもちろん、イタリアの火山から。噴火みたいにパワフルな火力を発揮しちゃうぜ! ということか。アメリカにだって火山はある(1980年に山体が半分吹き飛ぶ大噴火をしたセント・ヘレンズ山が有名)のに、イタリアの火山の名前をつけちゃった理由は良くわからない。未知の新兵器、ダイナマイト砲が大外しだった時の保険か。
それでは、ダイナマイト砲3門を装備したダイナマイト巡洋艦「ヴェスヴィアス」の姿を公式フォーラムの完成見本写真で見てみよう。

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「ザーリザリザリ! これが我輩の発明した新兵器、ダイナマイト巡洋艦ザリよ!」
と気前よくは言ってみたものの、誰がどう見てもわかる通り「ヴェスヴィアス」は全長75メートル、排水量950トンの小さな船だった。なんで「巡洋艦」なんて言ってしまったのか。ダイナマイト砲艦でいいじゃないか。
*4月15日追記。 コメント欄で「手持ちの資料ではヴェスヴィオスが巡洋艦に区分される理由は石炭の最大積載量が多く(152t)速力も20ノット程有ったからではないかと推測しています(光人社NF文庫「巨砲艦」より) 」との情報を火炎瓶さんからいただきました。
なるほど、渡洋性能を評価しての「クルーザー」なわけですね。「巡洋艦だったら、駆逐艦より大きくて戦艦よりも小さいはず」なんていう海軍軍縮条約後の常識を19世紀の船に当てはめちゃいけませんでした。
ツッコミありがとうございました!


右側が艦首で、そこに15インチダイナマイト砲が三門並べて装備されている。ちょっとこの写真ではわかりにくいので、Wikipediaから実際の艦の写真を拝借してきた。

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大迫力。
というか、もはや砲には見えない。
どう見ても旋回するように見えないが、もちろん旋回はできなくて固定砲である。なので、目標に向けようと思ったら船をそちらに向けるしかなかった(射距離は圧搾空気の量で調節する)。
なんでこんなことになったのかというと、圧搾空気での発射は爆薬みたいに一瞬でドカン、と行われるわけではなく、砲身の中で徐々に加速していくために長い砲身が必要で、砲塔の中に収まりようがなかったからだ。

USS_Vesuvius_dynamite_guns_LOC_4a13992v.jpg

再びWikipediaから。
この通り、船艇まで長い砲身が艦を貫いている。ここに蒸気コンプレッサーで圧縮した空気を入れ、ゲル状ニトロセルロース満載の250キロ砲弾(安定のために捻った尾びれがついている)をスポーンと放り出す。射程は1マイル(1.6キロ)。重さ100キロの軽量弾なら3.7キロまで射程を伸ばすことができた。意外にも発射速度は早く、約1分で1発を発射できたという(たぶん3基の合計)。

1890年に北大西洋戦隊に組み込まれたヴェスヴィアスは1898年に米西戦争が勃発するとキューバへ向かい、サンティアーゴ・デ・クーバに対してダイナマイト砲で艦砲射撃を行った。
射撃は夜間に行われたが、発射音もしないでいきなり爆薬を詰め込んだ砲弾が飛んできて爆発し、誰も発射炎を見ていないダイナマイト砲による砲撃は、実際の戦果はともかくスペイン軍に与えた心理的効果は大きかったという。

しかし、ダイナマイト砲の活躍はそこまでだった。ダイナマイト砲はあまりにも射程が短く、また発射速度が遅いために弾道が安定せず対艦戦で使用するのには無理があった。さらに二十世紀初頭にはトリニトロトルエン系、いわゆるTNT火薬が実用化された。安定したTNTは雷管ぶっさして榴弾につめてドッカンドッカン撃ちまくることが可能で、こうなるとわざわざオモシロダイナマイト砲を使う理由はなくなってしまった。
結局、1904年ごろにヴェスヴィアスはダイナマイト砲を撤去、代わりに魚雷発射管を装備し各種魚雷の発射試験に使われた。
1915年には発射した魚雷がなぜか円を描いて戻ってきて自分の尻にあたったが、故意に座礁することで沈没は免れた。
ヴェスヴィアスは修理されたが、1922年に解体のため売却された。

もしかすると一時代を築いたかもしれないが、まぁ無理そうなアメリカ軍ダイナマイト巡洋艦 USS Vesuvius は海モノスケール200分の1でのリリース。前述の通り小柄な船なので、完成全長は約40センチ弱となる。難易度は3段階評価の「2」、定価は225ウクライナフリヴニャ。フリヴニャは一時期に比べて倍近くも円に対して安くなってるが、一応古いレートで換算して約2500円だ。
奇艦・珍艦がキット化されることの多いカードモデル界においても、当艦は極めつけのレアアイテムと言える。ダイナマイト好きのモデラーなら、唯一無二のダイナマイト巡洋艦を手にいれるこの機会を見逃すべきではないだろう。



キット画像はOrel社サイト公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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手持ちの資料ではヴェスヴィオスが巡洋艦に区分されてる理由は石炭の最大積載量が多く(152t)速力も20ノット程有ったからではないかと推測しています。(光人社NF文庫
「巨砲艦」より)
ゼリンスキーの出てくるゲームは恐らく「タンクビート」とゆうタイトルのDSのソフトだったと思います。

Re: タイトルなし

火炎瓶さん、コメントありがとうございます!

ああ! 「タンクビート」! そうでしたそうでした!
急いで確認してみたら、政治将校の名前は「ザリンスキー」ではなくて、「ザリーツィン」でした。どうりでいくら検索しても見つけられないわけだ……

「巡洋艦」の根拠について御教示ありがとうございます。
なるほど、渡洋性能を評価しての「クルーザー」なわけですね。「巡洋艦だったら、駆逐艦より大きくて戦艦よりも小さいはず」なんていう海軍軍縮条約後の常識を19世紀の船に当てはめちゃいけませんでした。
ツッコミありがとうございます!
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