スペイン装甲部隊史・2

前回までのあらすじ。
ルノーFTをなんとか手に入れたスペイン軍はそれを元に国産のTrubia A4戦車を完成させたが、ぶっちゃけパッとしない戦車だったので試作中に飽きた。

1936年、左派政権の誕生に反発したフランコ将軍が右派ナショナリストを率いて反乱を起こし、スペイン内戦が始まる。
内戦勃発時のスペイン軍戦車戦力の主力はルノーFT戦車10輌。マドリードとセビリアの2個軽戦車連隊に配備されていた。1個連隊あたり戦車が5輌しかない軽戦車連隊ってどんなんだ、と思うが、まぁいいや。
マドリードの第1連隊は共和国軍に組み込まれ、セビリアの第2連隊はナショナリスト軍に組み込まれた。
6輌あったシュナイダーCA1は、共和国軍に接収されマドリード包囲戦に防衛軍として参加。この戦いで破壊されたようだ。
試作車両4輌しか完成していないTrubia A4は3輌をナショナリスト軍が接収。残る1輌はまだ工場にあったが、工員が確保して共和国軍に引き渡したという。労働者バンザイ。しかし、4輌ともその後の行方は不明だ。
ちなみに開戦時スペインにはもう1輌、評価用に購入したイタリアのフィアット3000戦車があったがこれも行方不明で、どうやら開戦と前後して部品取りのために解体されてしまったようだ。

開戦と同時に両軍とも既存の戦車だけでは装甲戦力が全く足りないことを思い知り、トラックやらバスやらを手当たり次第に装甲して戦場に送り込んだせいで戦場は装甲妖怪百鬼夜行な感じになっており、これはこれでオモシロくてしょうがないのだが、この魔界に踏み込むと出てこれなくなりそうなので置いておこう(中にはソビエトから供与されたZiS-5トラックにBa-20風のボディを乗せたUNL-35なんていうマジメな装甲車もあって、これは120~200輌程度生産されたらしい)。

共和国軍には Trubia A4 計画で指揮を取っていたIgnacio Larrea大尉がおり、大尉を中心に大急ぎで戦車生産が行われることとなった。この戦車は造船所で生産されたので「Trubia naval modelo 1936」と呼ばれている。
Trubia naval は Trubia A4 と比べると面構成が複雑になったり、尾橇がなくなったり、斬新すぎてギャグにしか見えない2階建て砲塔をやめたりしたおかげで見た目はスッキリして実用性が増したようにも見えたがそれは気のせいで、エンジンルームと戦闘室の間に隔壁がなかったためにエンジン騒音で車内がメチャクチャうるさい上にあっとう間に車内は殺人的な暑さとなった。しかもベンチレーターは全く効き目がなくて30分以上車内に留まると排ガスで昏倒する恐れがあり、そもそもアンダーパワー過ぎて故障なしで20メートル(キロメートルではない)以上進めることはまれだった。もはや自走不可能なレベルじゃないか。
Trubia naval の生産数は15輌、20輌、30輌と資料によって差がありはっきりとしない。

そんな愉快なポンコツ戦車たちに変わって主力となったのが、内戦に干渉した各国から送られてきた戦車だった。
左派政権を助けてスペインを共産化させたいソビエトは281輌のT-26、50輌のBT-5をポーンと気前よく供与(代金としてスペイン銀行に貯蓄されていた貴金属をパクったとかパクらないとか云われている)。
これに対し、共産主義を宿敵とするファシスト国家からはイタリアがCV-33豆戦車を155輌、ドイツから1号戦車122輌がスペインに上陸したが、これらはナショナリスト軍に引き渡されたわけではなく、基本的にはそれぞれの国の「義勇軍」によって使用された。正規軍の軍人が正規軍の将校に率いられて完全編制で来ているのにどこが「義勇軍」なんだ、と言われたって、彼らが勝手に参加してるだけで国としては参戦してないよ、とそれぞれの政権が言うんだからしょうがない。
これら外国製の戦車は装甲の面ではそれぞれ数ミリから十数ミリしかなく大差はなかったが武装には大きな差があり、1号戦車とCV33の装備する機銃では共和国軍戦車を破壊するためには150メートルまで近づく必要があったが、T-26とBT-5が装備する45ミリ砲ではナショナリスト軍戦車を1キロ先から撃破可能であった。
ナショナリスト軍では1号戦車の砲塔を拡大してイタリア製ブレダ20ミリ対空機関砲を強引に載せたりもしてみたが、相手は45ミリ砲なんだからあんまり意味はなかった。

1937年、ナショナリスト軍の Félix Verdeja Bardales 大尉は共和国軍の戦車に対抗するためには新型戦車が必要だと考えていた。その戦車はT-26の攻撃力、BT-5の最高速度、1号戦車のカッコ良さを持つ事が期待された。CV-33はいいとこないので忘れられた。
大尉はドイツ、イタリアから送られてきたスペアパーツや撃破された戦車の残骸から試作車両を組み立てる。
驚いたことにこのホームメイド試作戦車はきちんと、しかも期待通りの性能で動いたためにナショナリスト軍はいい気になってこれを制式採用し、改修の上で「Verdeja(ベルデハ)」戦車として1000輌の生産計画をブチあげた。

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と、いうわけで長い長い前振りでやっと登場したポーランドMODELIK社の新製品、ベルデハ軽戦車。

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完成見本写真。
ベルデハの特徴はエンジン、トランスミッションを全て車体前部に置くことで乗員の生存率を上げようとしたこと。この発想はイスラエルのメルカバ戦車にも通じる。このレイアウトのおかげで車体前面は極端に傾斜した装甲となり、敵弾を弾きやすくなっていた。
いや、ちょっと待て。と、いうことは表紙絵のベルデハはもうもうと砂煙を上げながらバックしてるのか?? どういう場面なんだ。

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組み立て説明書と展開図のサンプル。ベルデハのT-26の足回りと前後を逆にした1号戦車の車体を組み合わせたようなスタイルが良く分かる。ところで資料によると「試作車両は時速70キロ出せた」と書いてあるベルデハだが、量産型のスペックは最高時速がいきなり44キロまで落ちている。理由はどこにも書かれていないが、おそらくこの足回りでは「70キロは出せる……出せると言ったが、出すと履帯が外れる」と、いうことなのだろう。

1000輌の大量発注が出されたベルデハだったが、誰も名前を聞いたことがないことでも分かる通り、実際には大量生産は行われなかった。
そもそもスペインは工業力が低く、しかも内戦で生産性はどん底まで落ちていた。できるだけ生産工程は省略したいし、大量生産しなくても誰かが戦車をくれるならそれに越したとはない。
そんなわけで、まずエンジンはフォードから調達することが予定されていたが、その交渉が難航しているのを聞きつけたドイツが「マイバッハエンジンを売ってあげようかな~(チラッチラッ)」と言い出した。
スペイン(内戦は1939年にナショナリスト軍の勝利で終わった)はこれに飛びついたが、しばらくしてからドイツは「うそうそ、うちだって戦車増産中で売る余裕ないって」とご破産にした。
この間、スペイン軍はベルデハの車体を前後逆に(普通の車両のレイアウトに)変更し、装甲厚も増した「ベルデハ2」を開発していたが、生産は止まっていた。
その後もベルデハの生産が始まりそうになるたびにドイツは「4号戦車のエンジンってさ、ベルデハ2に最適だと思わない?」「ちょっとだけ4号戦車を売ってあげるよ」「タイガー戦車も売ってあげちゃおうかな~~(チラッチラッ)」と乙女の心を弄ぶジゴロのように生産を妨害しまくった。
おそらく、スペインが自力で戦車を生産することで発言力を増すことを恐れたのだろうが、そのままドイツは戦争に負けてしまった。

終戦時、スペインの戦車戦力は4号戦車20輌、3号突撃砲10輌、T-26 116輌、1号戦車93輌という雑多で時代遅れな戦車で構成されていた。
一応、ベルデハの量産計画は無期延期となっていたが、もはや45ミリ砲の戦車を生産してもしょうがないことは誰の目にも明らかであった。

1954年、西側陣営に組み込まれたスペインに12輌のM47パットン戦車がアメリカから供与された。
同盟国には気前のいいアメリカが最終的に389輌のM47、131輌のM48、そして多数のM24、M41軽戦車をドーンと供与したことでベルデハ計画は最終的に破棄となった。現在ではベルデハ2の試作車1輌とベルデハの車体を利用した75ミリ自走榴弾砲1輌がマドリード郊外の装甲博物館に残るのみである。
その後スペインはフランスのAMX-30戦車、M60戦車を経て、現在は320輌のレオパルド2E戦車を主力としている。


MODELIKの新作、Verdeja戦車は陸モノ標準スケール25分の1で完成全長約18センチ。難易度は5段階評価の「4」(難しい)、定価は30ポーランドズロチ(約1000円)となっている。レーザーカット済みの芯材用厚紙は25ズロチ(約800円)での同時発売だ。
もしかすると第二次大戦序盤で大活躍をしたかもしれないような気もしてくるベルデハ戦車はスペイン軍ファンのモデラーには見逃せない一品と言えるだろう。



画像はMODELIK社サイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。



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