WAK イギリス軍駆逐艦 HMS Hesperus

なんとかごまかしてきたI-16の不整合がいよいよ一箇所に集約されて、もはや大変なことになっているのを前に途方に暮れる筆者が送る東欧カードモデル最新情報。
今回紹介するのはポーランドWAK社からの新製品、イギリス軍駆逐艦 HMS Hesperus だ。

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砲を左右に振った警戒態勢で疾走する勇ましい表紙。後ろで水柱が立っているのは至近弾ではなく、自艦の投下した爆雷のものだろう。一番前の主砲の防盾を掴んでる水兵さんの手が見えるのがなんだか可愛いぞ。
WAKのロゴに「10」のエンブレムが誇らしげに輝いているが、これはWAKブランド10週年の記念エンブレム。これに合わせ、WAK公式ショップでは一部商品の割引セールも行っている。

イギリス海軍の戦間期駆逐艦は、第一次大戦の戦訓を取り入れて新規設計された「A級」駆逐艦以降、「I 級」までは小改良を繰り返しながら数を揃えていったので各級の差異はあまりなく、Hesperus(「ヘスペロス」、宵の明星を司るギリシャ神話の神)を含む「H級」も、前級となる「G級」とまとめて「G、H級」と扱われることもある。
しかし、H級のうち6隻はブラジル海軍の発注で建造されたG級の準同型艦(ヘスペロスもその1隻)を、第二次大戦勃発で1隻でも多く船が必要になったイギリス海軍が「やっぱうちで使います」と買い取ったのを便宜上H級に入れてるだけなのでまたややこしい。
なお、イギリスはブラジル以前にギリシャ、アルゼンチンにもG級を建造しているが、こちらは引き渡し済みだった。イギリスは敵対関係にある2国に兵器を売ろうとするのをやめなさい。

説明が長くなりそうなんで完成見本写真を適当に挟んでいこう。

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なんとも普通の駆逐艦だ。奥のカーテンの向こうになんか大型艦の船体が見えてるのが気になるぞ。
艦首下の突起物は、たぶんエコーの設備だろう。

元ブラジル海軍向け駆逐艦「Juruena」は英仏の対独戦線布告2日後の1939年9月5日にイギリス海軍に買い取られ、翌40年に「HMS Hearty」として任務についた。が、「Hearty(ハーティ)」という名前は同じH級の「HMS Hardy(ハーディ)」と滅茶苦茶間違えやすいのに気がついて2月27日に「ヘスペロス」に再度改名される。もう戦争始まってるのに、そんなゴタゴタで大丈夫なのか。
ブラジル艦を転用した6隻は当初スカパ・フローで対潜警戒に従事していたが、ドイツ軍がデンマークを占領したんでヘスペロスはデンマーク領フェロー諸島の占領支援に参加。続いてノルウェー作戦ではスコットランド連隊の輸送に従事したがJu-87スツーカ急降下爆撃から至近弾を受け損傷。1ヶ月の修理。
修理が終わったヘスペロスは大西洋の船団護送に任じられたが、41年1月、発達した低気圧に突っ込んで波濤が2番主砲のプラットホームを直撃。下から持ち上げられたプラットホームが歪んでしまって修理。
修理が終わったヘスペロスは地中海方面に配属となったが、ドイツ軍の急降下爆撃機がぶんぶん飛び回ってる地中海で対空装備の弱いH級はいいマトにしかならないと判断され、また大西洋方面に配属変えとなる。
8月、フランクリン・ルーズベルトとの洋上会談に向かうウィンストン・チャーチルを乗せた戦艦プリンス・オブ・ウェールズの護送船団の1隻として大西洋に漕ぎだすも、悪天候に遭遇して損傷。また修理。

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大迫力の艦首からの眺め。
たしかに2番砲のプラットホームは下からの力に弱そうだ。東洋艦隊とか北氷洋に配属にならなくて良かったね。
ちなみに1番砲は43年に撤去され、代わりに対潜迫撃砲「ヘッジホッグ」が装備されている(キットは41年末から42年始めにかけての状態を再現)。


ここまで損傷と修理しかしてなかったヘスペロスだったが、対空機銃を増設してレーダーを搭載した上でジブラルタル方面に再度転属となってからは活躍する。
1941年12月7日、ジブラルタル西方でヘスペロスは僚艦と共同してドイツ軍Uボート、U-208を撃沈。でもそれと前後してイギリスは日本海軍と戦争状態に突入したんでそれどころじゃなかった。
年が明けて1942年1月15日、船団護衛についていたヘスペロスはレーダーで浮上しているU-93を発見、これに体当たりをぶちかます。衝撃でUボート艦橋にいた艦長が吹っ飛んでヘスペロス甲板上の艦載艇に見事ホールイン・ワンを決める中、ヘスペロスは信管を鋭敏に設定した爆雷を水面にぶつけまくって破片の雨をUボートに降らせ見事撃沈した、とWikipediaに書いてあるが、ほんとなの?
本当だとしたら、たぶん夜間の戦闘だったはずだ。昼間だったらUボートは急速潜行しようとするだろうし、だったら艦長は外に出てたりしないだろう。映画「1941」じゃあるまいし。
ちなみに体当たりしたヘスペロスの方も、もちろん無事ではなく、船体前部は沈んで水浸しになり、右舷は歪んでしまったので修理となった。とほほ。

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今度は船体を後ろ上方から。艦尾に爆雷が並んでいるのが見える。これをU-93にボカボカぶつけたわけだ。なお、本来のH級は主砲が4門だが、元ブラジル向けの6隻は爆雷搭載量を増やすために4番砲が撤去されている。

1942年4月、修理の終わったヘスペロスは北大西洋の船団護衛に参加、発見したU-357に、よせばいいのにまたもや体当たりをぶちかまして撃沈した。案の定、今度は船底4分の1近くを切り裂かれて長期修理へ。とほほほん。
しかし、この修理でヘッジホッグを搭載して対潜能力が向上したヘスペロスは43年4月23日にU-191、5月12日にU-186を次々に撃沈。修理に帰ってこないところを見ると、今度は普通に撃沈したらしい。

その後、ヘスペロスは平穏に護送任務をこなし続けた。
最後に対潜攻撃を行ったのは1945年4月30日で、ショート・サンダーランド飛行艇が追跡中のU-242に対してボカボカと攻撃を仕掛けて撃沈したような気がしたが、戦後になって確認したらそれは2ヶ月ほど前に行方不明となっていたU-246の残骸だった。
なので、ヘスペロスの戦績は「U-ボート6隻撃沈」としているものと、「U-ボート5隻撃沈」としているものがあるが、5隻が正解。もちろん5隻撃沈でも大したもんで、「大西洋のトップ潜水艦キラー」と評されることもある。ちなみに太平洋のトップ潜水艦キラーは日本軍潜水艦6隻撃沈のアメリカ軍駆逐艦 USS England だ。

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船体中央部のディティールをクローズアップ。12.7ミリ4連対空機銃がものものしい。結果論から言えば、4連魚雷発射管も必要なかった。

ドイツが降伏すると、ヘスペロスは投降したUボートの護衛、ノルウェー亡命政権の帰国などに従事。戦後はしばらく対艦攻撃訓練の仮想敵艦を努めていたが1946年2月18日に予備となり、47年5月に解体された。

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テクスチャは汚しのないスッキリしたタイプ。カッチリした幾何学パターン迷彩もシャープな感じ。

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そして組み立て説明書は面をグレーで塗ったライン方式。これもなかなかわかりやすそうだ。

WAKの新製品、イギリス軍駆逐艦 HMS Hesperus は海モノ標準スケール200分の1で完成全長約50センチと手頃なサイズ。難易度も5段階評価の「3」(普通)、定価は39ポーランドズロチ(約1300円)となっている。金属製砲身セットが15ズロチ(約500円)で同時発売。

H級同型艦のキットは他にはないが、略同型のG級駆逐艦は亡命ポーランド海軍に供与されたORP.GarlandがQuestというメーカーから過去にリリースされていたが、これは今では手に入りにくい。また、同じくG級のHMS.Glowwormが以前にGPMから発売されており、こちらは今でもショップで手に入る。HMS.Glowwormはノルウェー作戦でドイツ軍重巡洋艦ヒッパーに体当たりをぶちかまして沈没した艦だ。英海軍駆逐艦では体当たりブームでも来てたのか。
なお、これらの艦は展開図がほぼ同一だが、全てデザイナーが Grzegorz Nowak 氏だからだ。体当たりファンのモデラーなら作り比べてそれぞれの違いを楽しみたい。
連合軍駆逐艦ファンなら、太平洋と大西洋、それぞれの潜水艦キラーを並べてみるのも面白いだろう。



写真はWAK社ショップサイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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無骨ですなぁ

イギリス艦らしく無骨なデザインですね!
体当たり戦法で潜水艦をやっつけるなんてまさに駆逐艦の鏡であります。しかしUボート船長のホールインワン事件は笑えますね。その後どうなったんだろその船長・・・。

Re: 無骨ですなぁ

azukenさん、コメントありがとうございます!

こんな連中がウロウロしてる大西洋に乗り出していくんだから、Uボートの乗員達もさぞ憂鬱だったことでしょう。
確認してみたところ、U-93が撃沈された時の艦長 Horst Elfe氏は47年までイギリス本土に拘留された後に帰国、2008年まで存命だったそうです。捕虜になってだいぶ経ってから一度昇進しているので、たぶん母国では戦死認定されていたんでしょうね……
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