Murph's Models イギリス軍飛行船迎撃機 Blackburn AD 'Scout' 他

歯の治療が終わってすっかりご機嫌な筆者が世界のカードモデル事情をさも詳しいかのように紹介する当コーナー、今回もご機嫌なキットを紹介していこう。
本日紹介するのはアメリカ、Murph's Modelsからの新製品、イギリス軍飛行船迎撃機 Blackburn AD Scout 。
今回のキットはオンラインでのデータ販売のみなので表紙はなしでいきなりの完成見本写真だ。

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なんだこの、やっちゃいけないことを全部やってみましてと言わんばかりのスタイリングは……
一応、カタログにはスケールが「28分の1」と書いてあるのだが、絶対にそんな大スケールじゃないぞ、これ。
定価は3ドルだが、同価格帯の他のキットのクオリティと比べると、この写真はミニスケール(100分の1?)の別キットのものを間違えて載せているんじゃないかと思われる。

第一大戦直前、イギリス海軍は海軍大臣ウィンストン・チャーチルの旗振りで「航空課(Air Department)」を立ち上げた。ここで海軍が使用する航空機を一括管理しよう、という意欲的な部門だったが、1915年になんだか微妙な感じの航空機を4種類ほど造らせただけでフェードアウトしたというトホホな結果に終わった。
航空課の主導でデザインした機体の一つが、このBlackburn 'Scout'だが、「スカウト」という名前の割には別に偵察機ではない。

1910年、アメリカ海軍のCleland Davisという人が世界初の「無反動砲」を完成させた。これは、後の無反動砲のような発射ガスを後方に逃がすタイプではなく、似たような質量の物体を反対に向けてぶっ放すことで反動を打ち消す仕組みで、後に「デービス砲」と呼ばれる形式だった。
ドイツ潜水艦の脅威を感じていたイギリス海軍ではこれを航空機に搭載し、対潜水艦用武器とすることを考えていたが、ついでにロンドン空襲にやってくるドイツ軍の硬式飛行船「ツェッペリン」に対しても使えないかと思いついた。思いつかなきゃ良かったのに思いついた。自衛能力の低い飛行船なんて、普通の戦闘機で銃撃すりゃいいじゃないか、と思うのだが、ドイツ軍が将来「装甲飛行船ゴリアテ」とか発明する前になんとかしようと無駄な気を回したのかもしれない。
そんな、出発点からして間違っているアイデアに全力疾走で付き合ったのが、ブラックバーン社の設計士、Harris Booth。普通の飛行機に無反動砲を積んでも十分、駄作機になるとしか思えないのに、Boothはさらに背が高い複葉の上翼に胴体を取り付け、4本の細いブームで尾部を保持するという、ひと目見るだけでお腹が痛くなる感じの飛行機を設計してみせた。

非公式に「Sparrow(スズメ)」の名前が与えられた AD Scout はブラックバーンで2機、AVROなどの下請けで航空機を生産していた Hewlett & Blondeau でもう2機が生産された。
が、よく考えてみたら単座の AD Scout では2ポンド無反動砲を操作してツェッペリン飛行船を砲撃し、さらに再装填するなんてことは不可能だった。当たり前だ。しかたがないので試作機には2ポンド砲を積まず、代わりにルイス機関銃を積むことになったが、この時点で AD Scout は「変わった任務のための変わった飛行機」から、単なる「変わった飛行機」になってしまった。
これで性能が良けりゃまだ良かったが、飛ばしてみたところ機体はあまりにもアンダーパワーな上に変なスタイリングのせいで挙動は緩慢、細いブームで保持された尾部は壊れやすく、地上滑走でさえ操縦が困難ということがわかった。なんで1機つくった時点で飛ばしてみなかったんだ。
イギリス海軍航空課では言い出した手前、一応 AD Scout を受け取ったが使わないまま1ヶ月ほどして4機ともスクラップになったという。

今回、そんなトホホ飛行機をキット化した Murph's Models はアメリカのアリゾナ州在住のデザイナー、Aaron Murphy氏の個人ブランド。このブランドのキットは密閉風防の場合は透明部分が水色に塗られ機内は再現されていないなど、ディティールは少し少なめで、ディティールよりも全体のスタイルを楽しむキットと言えるだろう。そのためか変わったスタイルの航空機がラインナップに多いのが特徴だ。
例えばこちら、イギリス軍試作爆撃機 Miles M.39B 'Libellula'

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これまた泣きたくなるような形。M.39Bは次世代の高速爆撃機の試作機(8分の5スケールダウン機)として制作されたが、試験飛行の後にプロジェクトごと破棄された。どこがどう、ダメだったのかは手元の資料にははっきり書かれていないが、まぁ、ダメだったんだろう。
なお右上の「E」マークでわかるように、こちらはEcardmodelsでのリリース。Murph's Modelsのキットは公式ページとEcardmodelsのショップで取り扱い商品が異なるので、両方チェックしておきたい。
M.39Bの定価は3ドル。スケール25分の1。

Murph氏はM.39Bのように主翼が後ろ、尾翼が前に来る「エンテ翼」機に入れ込んでいるようで、Ecardmodelsにはその手の機体のコレクションが現出している。

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エンテ機の定番中の定番、日本軍試作戦闘機「震電」。定価3ドル。30分の1。

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アメリカ軍試作戦闘機 Curtiss-Wright XP-55 'Ascender' 定価3ドル。34分の1。

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アメリカ軍からは三度の飯より無尾翼大好きノースロップの試作戦闘機、Northrop XP-56 'Black Bullet'もリリースされている。定価3ドル。46分の1。

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そして、完成してればそのカッチョ良さで物理的根拠なく米軍爆撃隊を壊滅させそうなドイツ軍計画機 重戦闘機 Henschel HS P.75 なんてのまでリリースされている。
これも定価3ドル。スケールは35分の1。

超高性能を目指したものの、結局はジェット機の登場によりみんな仲良くマクラを並べて討ち死にしたこれらの異形のレシプロ機を手軽に揃えるのにMurph's Modelsは最適と言えるだろう。あいにくとそれぞれスケールがバラバラだが、ダウロードでのデータ販売なのでなんなら拡大縮小してスケールを合わせてしまうのも有りだ。

もちろん、Murph's Modelsの魅力はこのようなどうかしてる飛行機だけではない。

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試作に終わった、ターボプロップ10発のイギリス製巨人旅客飛行艇 Saunders-Roe 'Princess'
定価8ドル。98分の1。

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試作に終わった、ジャンボジェットを超える大きさの「空飛ぶ豪華客船」 Bristol 'Brabazon'
定価5ドル。105分の1。

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試作に終わった、全幅97メートル、世界最大の航空機である Hughes HK-1 "Spruce Goose"
定価8ドル。125分の1。

なんていう、巨大機好きには堪らない、そして旅客機史においてはどうでもいい感じの機体が揃っている。
他にもスカイレイダーとかカタリナ飛行艇とか、まぁ、普通の飛行機もラインナップに含まれているのだが、スペースが足りないのでこの辺にしておこう。

変態機、巨人機を積極的にリリースするMurph's Models。そーゆーものが大好きなモデラーにとっては、目を離すことができないブランドと言えそうだ。


画像はEcardmodelsとMurph's Modelsのページからの引用。
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