知られざるアメリカ海軍ドンガラ艦隊

2015年、あけましておめでとうございます。
今年も、まぁ、どうでもいいようなネタをツラツラを書き連ねて、読者をうんざりさせようって魂胆なんですが、とりあえず新年最初の更新は去年の年末から温めていたネタを披露させていただこうかと。
温めていたって言うか、書く機会がなくて放ったらかしになってただけなんですけどね。
太平洋戦争時、アメリカ海軍は空母艦載機のパイロットを急いで要請したい、でも外洋はUボートが怖い、というわけでカナダ国境の五大湖に「外輪空母」なんていう変なものを浮かべてたのは一部で有名な話なんですが、アメリカ海軍は以前にも五大湖に「戦艦」を保有してた時期があった、ってのが今回の話のはじまり。

1893年、シカゴで万国博覧会が開幕。19世紀末、帝国主義の絶頂に開催された(コロンブスのアメリカ大陸「発見」400周年、という御題目からしてその方向性は推して知るべし)この大博覧会にはだいたい46の国(資料によって数字が全然違う)が参加し、200以上の建物が2.4平方キロの会場に建設され、わずか半年の間に2千7百万人が訪れたという。
ちょうどそのころアメリカ海軍は近代化計画をぶちあげており、それまでの砲郭艦(装甲された胸壁に囲まれたエリアに裸の大砲が置いてある)に変わって、全周旋回可能な密閉砲塔を持つアメリカ海軍初の近代戦艦「インディアナ級」が就航目前であった。
国中が万博に浮かれているのを見て、海軍はせっかくなんでこの素晴らしい新型戦艦を万博で見せびらかして、世界中の海軍をびっくりさしたろうと思いついた。「砲艦外交」という言葉が現実味のあったころだ、「アメリカにはこんなすごい戦艦がありますよ、アメリカとは戦争しない方がいいですよ」ってわけだ。

しかし、この戦艦お披露目計画にはいくつか問題があった。まず、アメリカとイギリス(カナダは英連邦の一員)の間には1817年に締結された「ラッシュ=バゴット協定」ってのがあって、五大湖には武装艦艇が入れないことになっていた。
さらに、当時は「シカゴ衛生・船舶運河(サニタリー&シップス運河)」がまだ建設中だったので、外から戦艦が五大湖に入ってくることはできず、当然、五大湖で戦艦を建造してしまうとそれを海に出す方法がなかった。
さぁ、どうしよう。ここはトンチで解決だ。
と、いうわけでアメリカ海軍は万博会場に隣接してミシガン湖にインディアナ級戦艦の実物大模型を作ることとした。

開催地に敬意を表し、戦艦「イリノイ」と名付けられたこのニセ戦艦はレンガで台座が作られ、その上に木枠とコンクリート、鉄で上部建造物や砲塔が作られた。さらにボートダビット、手すり、イカリなどは同型艦の実物がそのまま流用されたという。
それでは大きめ画像で見ていただきましょう。これがアメリカ海軍万博展示用戦艦「イリノイ」の勇姿だ!

Battleship_Illinois_Replica.jpg

わお! すげークオリティ!

Oregon_(BB3)_1898.jpg

比較用に、こっちは本物のインディアナ級戦艦「オレゴン」。
さすが、本物の艤装を使ってるだけあって、ほとんど本物だ。どうやら上部建造物は内部も正確に再現されており、万博期間中は水兵達が本物の戦艦と同じ訓練生活を送っていたらしいというから本格的。
一応、識別のポイントを書いておくと、イリノイは主砲塔、副砲塔とも天井が狭い「プリン型」砲塔なのに対し、本物のインディアナ級の砲塔は「円筒形」。これは、インディアナ級戦艦の設計がもともと「プリン型」だったのが、砲塔容積が足りないことに気がついて途中で設計変更になったのがイリノイには反映されていないから。
どうしてもイリノイの模型が欲しいという人は、最近新製品のアナウンスがないDigitalnavy戦艦オレゴンを購入して砲塔を改造すると、それっぽくなるぞ。スケールは250分の1、ダウンロード販売のみで定価32ドル。カードモデルブログらしい情報も申し訳程度に記載だ。

「イリノイ」は万博期間終了後、イリノイ州海軍本部とする案もあったが、結局は解体された。
船の鐘、いわゆる「号鐘」はその後1901年に就航した本物のイリノイ級戦艦一番艦、「イリノイ」で使用され、現在はシカゴの埋立地、いわゆる「ネイビー・ピア」に保存されているとのこと。


さて、五大湖のニセモノ戦艦「イリノイ」が解体されて二十余年あまり後に話は飛びまして。
時は1917年、アメリカは第一次大戦に参戦、ジョニーよ、銃を取れ! と大号令をかけたものの、ニューヨーカーは冷めていた。
ニューヨーク市には2千名の募兵が割り当てられていたものの、志願してきたのはたったの900人。さすがにこれはまずい。
そこで、ニューヨーク市長、ジョン・P・ミッチェルは海軍と手を組んで新兵募集の秘密兵器を投入する。
それが、ニューヨーク、ブルックリンのユニオンスクェアパークに突如登場した募兵戦艦「USSリクルート」だ。

USS_Recruit_in_Union_Square_NYC_1917.jpg

ずどーん。
戦艦リクルートは基本的に完全木製。砲も当然ながら全てダミーだ。
前部に背負い式2砲塔、後部に1砲塔、連装砲塔を備えているが特定の艦がモデルというわけではないようだ。
雰囲気はそれっぽいものの、よく見ると前後に寸づまったデフォルメ艦形となっている。

640px-USS_Recruit_(1917).jpg

こちらは建造中。マンハッタンのビル街を背景に戦艦が鎮座してるのはなかなかシュールな光景。
「リクルート」は別にリクルート・ホールディングスに命名権を売ったわけじゃなくて、その名の通り艦内に志願受付所があり、水兵40人が常駐していた。さらに、参戦気分を盛り上げるための様々なイベントの舞台として利用されている。
リクルートの登場でさすがのニューヨーカー達も愛国心を刺激され、募兵戦艦リクルートは実に2万5千人の新兵を受け付けたというから大勝利と言っていいだろう。

その後、戦艦リクルートは1919年に第一次大戦の停戦に伴って解体された。
コニー・アイランドで組み立てなおし、遊園地の呼び物にする案もあったらしいが、解体後に行方不明となってしまった。おそらく、雨ざらしの木材はもう一度組み立てるのが危険なほど劣化していて処分されてしまったのだろう。


アメリカ海軍は戦後、駆逐艦の乗員養成のために何隻か陸上に駆逐艦を建造しているが、そのうちの一隻で、募兵戦艦リクルートと同名の「USSリクルート」がカリフォルニア州サンディエゴに現存している。1949年にディーレイ級駆逐艦の3分の2スケールで建造されたリクルートは新兵の基礎訓練に使用された。
1967年にリクルートは一旦閉鎖されたが、1982年、新型の「オリバー・ハザード・ペリー級」フリゲートっぽく改修された上で復帰。1997年に再び閉鎖となったが、まだ海軍のリストには在籍しているらしい。

ちなみにUSSリクルートから50メートルほど離れた場所にあるSushiyaサンディエゴ店では本格日本食も楽しめる。枝豆3ドル、揚げ出し豆腐4ドル、そしてマグロ、サケ、 ブリ、エビ、エビ天巻などに味噌汁、サラダが付いてくるスシヤ・スペシャルが15ドルとお手軽価格となっている。
サンディエゴまで行く機会があったら、アメリカ海軍ドンガラ艦隊の末裔、USSリクルートを眺めながら寿司を食うのもいいだろう。

画像は全てWikimediaからの引用。


本年もよろしくお願いいたします。
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