Dave Winfield イギリス軍主力戦車 Centurion Mark 5

いよいよ筆者の済む地方にも冬到来。アメリカでは疲れ気味のカードモデル作家がオーバールック・ホテルの冬季管理人として資料の山を抱え、ロッキー山脈を目指すシーズンとなった。
そんな、思いつきだけで書いたせいでどこにもつながらない文章をマクラに今回紹介するのは、デーブ・ウィンフィールド氏デザインのイギリス軍主力戦車 Centurion Mark 5 だ。

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「デーブ・ウィンフィールド」というと、メジャーリーグの殿堂入りを果たしているデービッド・マーク・ウィンフィールド(こないだ日米野球の始球式で捕手をやった)を思い出す読者もいるかもしれないが、きっと別人だ。
こちらのウィンフィールド氏はEcardmodelsを拠点に活躍するデザイナーで、第一次大戦前の極初期装甲車両から第二次大戦中の戦闘機、現代米軍の輸送機、さらにはホットロッドまで幅広く手がけているベテラン。
氏のページでは箱組のイージーモデルながら、フリーモデルも多数ダウンロード可能となっており、中でも撮影時にキットを小さく(組み立てスキルを高く)見せるための「巨大1セント硬貨」は必見だ。

今回、氏がリリースしたのはイギリス軍主力戦車「センチュリオン」。
第二次大戦勃発時、英軍は戦車を高速だが装甲が薄い「巡航戦車」と鈍足で重装甲の「歩兵戦車」に分け、それぞれに分業をさせるつもりだったが、いざ戦争が始まってみると巡航戦車は敵戦車に出会った途端にやられちゃうし、歩兵戦車は流動的な機動戦についていけないし、でサッパリ活躍できなかった。その結果、最後の巡航戦車となったA34コメット巡航戦車は「重装甲の巡航戦車」なんていうわけわからんものになってしまい、その後の英軍戦車は装甲、火力、機動のバランスがとれた「主力戦車」に一本化される。
センチュリオンは主力戦車として開発された最初の車両で、非常に高いレベルでバランスのとれた素晴らしい性能を持っていたが、試作車両が戦場に向かう途中でドイツが降伏し、第二次大戦には参戦していない。

センチュリオンがその高性能を発揮したのは戦後で、朝鮮戦争では中朝国境の鴨緑江まで前進した国連軍が突如現れた中華援朝義勇軍の大群に押し流されそうになるのをしんがりとなって踏みとどまり、大崩壊を防ぐ立役者となった。
この戦いで高い戦闘力を見せたセンチュリオンを米第一機甲軍団長John O'Daniel将軍は「センチュリオン戦車は戦車戦が新世代に突入したことを証明した。あいつらは山頂でさえ踏破する」と絶賛した。
ただし、センチュリオンも北朝鮮の極寒には悩まされ、夜間は履帯が地面に張り付かないようにワラを敷いた上に停車し、さらに30分に一度、エンジンを始動して吹かしながら全ギヤに一旦切り替えることでトランスミッションとエンジンの凍結を防がなければならなかったという。

ベトナムでは派手な活躍こそなかったものの、軟弱なベトナムの泥濘の中でも役割を果たした。なお、ベトナムでは巻き込んだ泥で履帯が外れるのを防ぐためにサイドスカートは外していたようだ。
イスラエルは購入したセンチュリオンを魔改造し、「ショット」(”Sho't”「天罰」)と名付けて運用。1973年の「ヨム・キプール戦争」では100輌のイスラエル軍戦車隊が押し寄せるシリア軍戦車(T-55/T-62)約500輌を撃退するなど活躍し、イスラエルの勝利に貢献。インド・パキスタン戦争でもインド軍のセンチュリオンはパキスタン軍のM48パットンを撃破した。
また、1990年の湾岸戦争ではセンチュリオンをベースとした装甲工兵車両が戦闘に参加している。

センチュリオンの堅牢さを物語る特筆すべきエピソードが「Atomic Tank」と呼ばれるオーストラリア軍のセンチュリオンMk3である。
日本ではあまり知られていないが、イギリスは1950年代、オーストラリアの砂漠で核実験を行っていた。
車体番号169041のセンチュリオンは1953年10月15日、「トーテム作戦1号」の実験標的として爆心地から500ヤード(460メートル)地点にエンジンをかけたまま設置された。
30メートルの鉄塔の上に置かれた10キロトンの核爆弾が炸裂、センチュリオン169041は爆風で1.5メートル後ろへ押しやられた。サイドスカートはひん曲がって車体から外れ200メートル吹き飛び、後部デッキのハッチは衝撃で跳ね上がっていた。また、爆風で叩きつけられた砂塵で爆心地に向かっていた車体正面方向の塗装は全て剥がれペリスコープのレンズは使い物にならなくなっていた。
しかし、満載状態の弾薬は暴発することなく、調査隊が到着した時に停止していたエンジンは単に燃料切れで停止していただけであった(その証拠に、センチュリオン169041は給油を行い自走して実験場から撤収している)。
ただし、実際に戦場でこの条件下で核爆発を浴びた場合、衝撃波により乗員は死亡しただろうと評価されている。

さて、この後センチュリオン169041がどうなったかというと、除染された上でMk5にアップグレードされ、1968年、なんとベトナム戦争に送られた。
1969年5月、センチュリオン169041は北ベトナム軍のRPG攻撃を受け一発が戦闘室左から貫通、右側面内壁にまで達した。砲塔乗員全員が負傷したが、重要コンポーネントにダメージはなかったためにそのまま戦闘に参加し続け、オーバーホールされたのは1970年になってからだった。
オーストラリア本土に帰還したセンチュリオン169041は1976年に予備役となり、現在は北部オーストラリアのロバートソン基地で保管されている。1992年にはH J Coates将軍の引退記念式典に参加するためにレストアされ、将軍を乗せてパレードで自走したというから保存状態はかなりいいのだろう。
歴史上、核爆発を浴びながら15ヶ月の前線勤務を含め23年現役であった戦車なんていうものは他に存在しない。

それでは、この桁外れに頑丈なセンチュリオン戦車の姿をEcardmodelsの完成見本写真で見てみよう。

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たぶん作者の家の庭で撮影されたセンチュリオンMk.5。素晴らしくエッジのシャープな仕上がりの前では、タッチアップの緑が明るすぎて目立ってるなんていうのは些細な問題だ。
あと、車体全体がなんだか歪んで見えるのは遠くからズームで撮影したからだろう。ちなみにマーキングはカナダ軍装備車両となっている。

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キットは陸もの標準スケールではなく、大迫力の16分の1でのリリース。40年前から、センチュリオン戦車の模型はちょっと大きいものと相場が決まっているのだ。

centurion_tank_photo_4_.jpg centurion_tank_photo_3_.jpg

細部にクローズアップ。ブローニング車載機銃のベルト弾帯がリアルだ。ディティールは細かいのだが、履帯や転輪を見ると決して細かくなり過ぎてはいない、制作可能なレベルでまとまっていることがわかる。なんとも上品な設計だ。
もちろん、腕に覚えの有るベテランモデラーなら、徹底的なディティールアップを施し究極のセンチュリオン制作に挑戦するのもいいだろう。

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後部デッキを外し、エンジンを見る。キットはややアッサリした感じではあるものの車内再現となっている。上部車体を外して展示するにはディティール不足に思えるかもしれないが、ハッチを開けて見るだけなら十分なクオリティは確保されている。

さらに詳細なディティールを見たい場合は作者自身の公開したこちらの動画を参照のこと。



cent_tank_instruct_example.jpg

組み立て説明書もインディーズレーベルとは思えない高クオリティ。立体的な組立図はわかりやすく、制作意欲を掻き立てる。

デーブ・ウィンフィールド氏デザインの素晴らしいイギリス軍主力戦車 Centurion Mark 5 は16分の1で完成全長約60センチのビッグモデル。難易度表示は「○○○○●」で、5段階中の「1」にも見えるが絶対そんなことはないので、「4」(難しい)だろう。定価はEcardmodelsで米ドル15.95(ダウンロード販売のみ)となっている。
大戦に間に合わなかったせいで優秀なのになんだかいまいちメジャーになりきれないセンチュリオン戦車をビッグスケールで手に入れるこの機会を、英軍戦車ファンは見逃すべきではないだろう。



画像はEcardmodelsからの引用。

*11/26 追記
コメント欄でさらなる情報をいただきました。
デーブ・ウィンフィールド氏のfacebookで、さらに詳細なディティールや制作過程を見ることができます。
うーん、やっぱり凄いクオリティだ。
深見俊介さん、情報ありがとうございます!
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テーマ : 模型・プラモデル・フィギュア製作日記
ジャンル : 趣味・実用

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プロトタイプの製作過程

いつも楽しみに拝見しております。
私も、この「Centurion Mark 5」は凄いなと思っていました。このデザイナーさんがfaicebookで、プロトタイプの製作過程の写真を公開していて、眺めていました。youtubeの動画も素晴らしいです!
※ 『Centurion MBT Prototype Build Walkthrough』
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.381239148698133.1073741830.137779413044109

それと、以前コメントさせて頂いた「肉の万世」の戦車のペーパークラフトですが、3点セットで1,500円だそうです(本当に商品化したんだ!)。ダウンロードすれば良いのでしょうが、どうしても印刷された紙の型紙が欲しくなってしまいます。今度、秋葉原へ行った際に買って来ようと思います。
https://twitter.com/manseimark/status/528402280249163776/photo/1

Re: プロトタイプの製作過程

深見俊介さん、こんばんは。コメントありがとうございます。
おおっ! 作例ではいまいちよく見えなかった車内ディティールもバッチリですね!
そして、肉の万世はどこへ向かおうとしているのか……
もういっそ、「ペーパークラフトの万世」(カツサンドのおまけ付き)としていけるところまで行っちゃいなYO!
情報ありがとうございました。
引き続きよろしくお願いいたします!
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