Heinkel Models スペイン軍装甲巡洋艦 ”Infanta Maria Teresa”

もう9月も半ばだというのに暑さはぶり返す、新製品は出てこない、と散々な今日このごろ。例年なら今頃はネタが尽きて頭を抱えているころだが、今年はカードモデラー/デザイナーの楽園、「ecardmodels」という強い味方がある。
と、いうわけで今回はecardmodelsを拠点に活躍するスペインのデザイナー、Fernando Pérez Yuste氏のブランド、「Heinkel Models」の新製品、スペイン軍装甲巡洋艦 ”Infanta Maria Teresa”を紹介しよう。

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「ハインケルモデル」というブランド名から、いかにもドイツ軍の航空機が得意なように見せかけて、主力商品はスペインの装甲艦と南北戦争の装甲艦という反応にこまるラインナップ(航空機は唯一、ecardmodelsに無料モデルとしてドイツ軍成層圏ロケット爆撃機「オイゲン・ゼンガー」を提供している)。
ハインケルモデルの公式ページに来歴がないので詳しいことはわからないが、Fernando Pérez Yuste氏はたしか2010年、ecardmodels立ち上げのころから同サイトで精力的にキットをリリースし続けているドマイナー艦船キット界の重鎮だ。
なお、当キットはリリースが2013年5月で、あまり「新製品」でもないのだが、最新作は南軍装甲艦CSSアトランタだったりするのでこの辺で容赦していただきたい。

それでは、毎度おなじみ、読者うんざりの長い長い説明が始まる前にecardmodelsのページから引用した完成見本写真で艦形を見てみよう。

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艦首の飾りがなんとも嬉しくなっちゃう、1893年完成。マストも無線空中線がなく、縄のシュラウドが張ってあるんで帆船みたい。しかし、考えてみればUSSサスクハナ(いわゆる「黒船」)からたった40年でここまで来たんだから、科学の進歩ってのは大したもんだ。

スペインは16世紀に無敵艦隊が無敵のはずなのにイギリス海軍にボコ負けした上に、18世紀にはナポレオンに国土が占領されたりされなかったりしたこともあり、19世紀にはその国際的地位がかなり低下していた。
いや、まだスペインには大航海時代に世界中に作った貯金の残りがあるYO! と思っていたら19世紀末、遅れて列強クラブ入りしたくせに態度のデカいドイツ帝国が世界各地で列強各国の植民地を脅かす姿勢を取り始めた。ここでみすみす植民地を奪われるようでは海洋国家としておもろくない。とは言ったものの、スペインは工業化が遅れていてドイツ帝国が建造している新型の「戦艦」なんていう恐ろしげなものを作る力はない。
とりあえずスペインはドイツと犬猿の仲のフランスに戦艦を発注、前弩級戦艦「ペラヨ」を手に入れたが、遠洋航海能力の乏しい戦艦を手に入れても遠く離れた植民地は守れないので同時に装甲巡洋艦の整備にも乗り出す(こちらは分厚く巨大な装甲板を鍛造する必要がないのでスペインで国産された)。
こうして建造されたのがInfanta Maria Teresa(インファンタ・マリア・テレサ)級装甲巡洋艦3隻である。

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完成見本写真から船体中央部。
やたらと積んである艦載艇が目を引くが、I.M.テレサ級(に限らず、このころの艦船全て)は内装などに木造のものが多く、耐火能力が低かった。また、弾薬庫の防爆装備も原始的なものであり常に引火爆沈の危険にさらされていた。
舷側に並んでいるのは14センチ副砲。I.M.テレサ級はこの副砲を単装10門装備しており、さらに76.2ミリ砲10門、47ミリ砲10門などの自衛火力を持っている(小口径砲はどこに配備されているのか良くわからない)。

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I.M.テレサ級は排水量7千トン、全長約111メートル。主砲は28センチ砲が前後に単装1基づつ。武装は列強の水準に達していたが防御力は不足気味で、写真では一見ドーム天井の砲塔に見える砲郭の天井は防弾能力のないカバーに過ぎず、装甲されているのは周囲胸壁のみ(厚さ23センチ)だった。また、船体側面の装甲も当時の装甲艦の常として水線部に細長い板状の装甲板を貼り付ける方式で、完全には装甲されていなかったがI.M.テレサ級はこの装甲板の高さが低く、長さも全長に足りず限定的であるという弱点があった。

もともとドイツ帝国に対抗するために整備されたスペイン艦隊だったが、陣容が揃った頃にはスペインは別の敵からの圧力にさらされていた。アメリカ合衆国である。
カリブ海に浮かぶキューバはスペインの植民地だったが、スペイン人の農園主がアフリカから連れて来られた奴隷労働者を酷使するという前近代的な農園経営が続いていた。奴隷解放によって高まったナショナリズムをもって南北戦争を戦いぬいたアメリカとしては、これは許せない。アメリカ世論はキューバの独立派を支援し、キューバを圧政から解放せよ、と声を上げていたが、なかなかそんな理由では開戦できないもんだ。
ところが、1898年2月15日、暴動からアメリカ居留民を保護するためにキューバに入港していた装甲巡洋艦メイン(「戦艦」メインとしている資料も多いが、戦艦メインはこのメインの後に建造された別の艦)がなんか良くわからないが爆沈。
どうやらこれは石炭の自然発火による事故だったようだが、「スペイン人がアメリカの軍艦を爆破した!」とメディアが煽ったせいでアメリカはスペインに宣戦布告、米西戦争が始まってしまった(カリブ海の利権を牛耳りたい財界からの圧力もあった)。

キューバへ向かう予定だったI.M.テレサは開戦時、アフリカダカール沖のポルトガル領サン・ヴィンセンテ島に停泊していたが、ポルトガル政府が国際法にのっとり「うちは中立国なんで24時間以内に出港してください」と言ってきた。
砲弾、石炭の補給も途中のまま、急いで出港した艦隊はとりあえずカリブ海の入り口、ドミニカ近くに浮かぶフランス領マルティニク島に入港したが、当然ここでも退去を求められた。次にオランダ領クラサオに寄ったが、ここも同じ。海外植民地の少ない国の悲哀を散々に味わう羽目になった。
なんとかオランダに泣きついて石炭を補給してもらった艦隊はキューバへ向かい、サンチャゴ・デ・キューバにやっと入港したが、たちまち港は優勢なアメリカ艦隊に包囲される。そりゃそうだ、アメリカの方がキューバにずっと近いんだから。

陸戦も現地ゲリラの助けを借りたアメリカ優勢に進み、サンチャゴ・デ・キューバにもアメリカ陸軍部隊が接近していた。
1898年7月、スペイン艦隊は陸から占領され全艦隊が鹵獲されるのを避けるために決死の脱出を敢行する。
計画は夜陰にまぎれての脱出を基軸としていた。もし、発見されたとしてもアメリカ艦隊は火力は優勢だが足が遅い。唯一スペイン装甲巡洋艦隊に追いつける装甲巡洋艦ブルックリンをI.M.テレサが牽制、場合によっては衝角攻撃(体当たり)で足を止め、その隙に残りの艦艇はアメリカ艦隊を振り切るという、勇ましいというか、悲壮なものだった。
ところが、まず上陸して陸戦に参加している水兵を招集するのに手間取り、出港は朝になってしまった。
おまけにサンチャゴ・デ・キューバの入り口に米軍が不要な艦船を沈めて閉塞していたために、スペイン艦隊は狭い通路をノロノロと注意して進まなければならず、港外に出た途端にアメリカ艦隊に包囲されてしまう。
スペイン艦隊の装甲巡洋艦4隻(I.M.テレサ3隻とイタリア製装甲巡1隻)は必死に抵抗したがアメリカ軍戦艦4隻の砲火を浴びてたちまち炎上。28センチ砲では戦艦の重装甲を撃ちぬくことはできず、一方的に全艦が撃破された。アメリカ側の損害、死者1名。
この戦いに観戦武官として接した日本海軍の秋山真之参謀は戦艦の装甲を撃ちぬくことの難しさ、火災が及ぼす戦闘力への影響などを観察し、この教訓は後の日本海海戦に活かされたという。

艦隊を失ったスペインはアメリカの条件をのんで停戦に応じた。米西戦争によりキューバは独立したが、アメリカの圧倒的資本が流れ込み、結局はアメリカの経済植民地となってしまう。
また、アメリカはこの戦争でスペイン領フィリピンも獲得するが、これは太平洋の海上権益がアメリカの国内問題になることを意味した。
その結果、アメリカは米西戦争の40年後、太平洋において利害の対立する日本との戦争へ突入することとなる。

サンチャゴ・デ・キューバ海戦で炎上し、沈没を避けるために座礁して降伏したI.M.テレサは米西戦争後、アメリカに接収され、修理のために曳航されて離礁したが嵐に遭遇。バハマ沖で船体が折れ沈没した。

あっという間に終わったスペインの栄光、Heinkel Modelsのスペイン軍装甲巡洋艦 ”Infanta Maria Teresa”は海モノ標準スケール200分の1で完成全長約50センチ。難易度は5段階評価の「5」(非常に難しい)、そして定価は$13.95となっている。ecardmodels、もしくはHeinkel Modelsのページからデジタルデータのみでの販売。どちらも支払いはPayPalのみだ。
Heinkel Modelsからは同時代のスペイン海軍の戦艦「ペラヨ」も発売されている。スペイン海軍ファンのモデラーなら、2隻とも手に入れ机の上に栄光のスペイン装甲艦隊を再現するのもいいだろう。



画像はecardmodelsからの引用。
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