SZK フィンランド軍沿岸防衛艦 Väinämöinen

まだまだ夏季休業の続く東欧カードモデル界。いよいよネタのストックも危機的状況だが本日は嬉しいニュースから記事を始めることができる。
去年の年末にイカダやらクレーンやらを大量紹介したポーランドのブランド「SZK」だが、その後音沙汰がなかったのは公式ページが404になってしまったからだ。てっきり廃業したのかと思っていたら、先日、新しい公式ページを発見した(.plドメインから.euドメインになってた)上に、新製品もいくつか追加されていたので再発見を祝し、SZKの新製品からフィンランド軍沿岸防衛艦 「Väinämöinen」を紹介しよう。

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なんというか、かわいくデフォルメされたように見える艦形だが、実際にこういうカタチをした船である。
もしかすると環境によっては名前がちゃんと表示されないかも知れないので補足しておくと「Vainamoinen」の「a」と「o」の上に‥がついている。カナ表記は「ワイナミョイネン」とも書かれるが、ミリタリー界隈では英語読みの表記「ヴァイナモイネン」が一般的だろうか。
なお、キットの写真はこれ一枚でおしまいだ。

1917年、十月革命によるロシア帝国の崩壊に伴い独立を果たしたフィンランドはロシア帝国から接収した30隻ほどの艦艇で海軍を発足させたが、その経緯故に保有する艦船はみな旧式化して状態が悪く、ぶっちゃけ戦争がなくても嵐で壊滅しかねない(実際、1925年に魚雷艇が嵐で沈没し多数の死者を出している)状況だった。
そこでフィンランド議会は1927年、新生フィンランド海軍整備計画をぶちあげる。これは潜水艦5隻、魚雷艇4隻、そして大型装甲艦2隻を調達するという大規模なものであった。
この中でも大型装甲艦2隻がこの計画のキモだったが、フィンランドの特殊な風土を考慮すると適当な国の中古艦船を譲ってもらう、というわけにはいかなかった。例えば、言うまでもないことだがフィンランドは寒い。冬には海まで凍ってしまうので砕氷能力がなければならない。また、泣きたくなるほど細かい島嶼の多いフィンランドでは喫水の深い艦船は運用できない。しかも、いつ攻めてくるかわからない危険な隣国ソビエトが保有する主力艦、ガングート級戦艦に対抗できなければそもそも意味が無い。
オランダNV Ingenieurskantoor voor Scheepsbouw社はこの困難な注文の設計を成し遂げ、1929年からフィンランドのトゥルク港で新型装甲艦の建造が始まる。

1931年、ヴァイナモイネンが竣工。次いで1932年には姉妹艦「Ilmarinen(イルマリネン)」が竣工する。なお、完成はヴァイモイネンの方が早いが発注はイルマリネンの方が早かったためにどちらをネームシップとするかは混乱がある。
2隻の名前はフィンランドの一大叙事詩「カレワラ」に登場する鍛冶と創造の神「イルマリネン」と、そのマブダチでカレワラの主人公とも言うべき英雄「ヴァイナモイネン」に由来する。
ヴァイナモイネンは母の胎内に700年もいたせいで、生まれた時から老人だったり、イルマリネンと美しい乙女を取り合って「先に娘のもとに馳せ参じた方が旦那になるってことで」と約束したら、先に到着した老人ヴァイナモイネンと結婚するのがイヤで娘は海に身を投げて命を断ってしまったり、まぁ、なんと言うか、他国の文化を自国の価値観で安易に批評してはいけない、という事を教えてくれる英雄だ。

完成した艦は254ミリ連装砲塔2基、砲塔正面装甲厚100ミリというなかなかの重武装、重装甲だったが、前述の通り遠浅で暗礁・岩礁の多い沿岸部を航行できるよう喫水を浅くする必要があり、また国力的にも本格的な大型艦艇は保持できないためにできるだけ小さな船体に偽装を詰め込んだ結果、表紙写真のような妙なカタチができあがった。

比較対象として、似たような2砲塔の大型装甲艦、280ミリ三連装砲塔2基のドイツ・ポケット戦艦と比較してみよう。

    ヴァイナモイネン  ポケット戦艦
武装  254ミリx2x2   280ミリx3x2
装甲  100ミリ       140ミリ
全長  93メートル     186メートル
排水量 4千トン       1万5千トン
出力   5千馬力      5万馬力

いや、ちょっと待て。全長はともかく排水量「4千トン」ってなんだ。日本海軍の軽巡「球磨」だって5千トンはあるぞ。
しかも機関は一般的な重油燃焼缶やトンチの効いたディーゼル機関ではなく、ディーゼルエンジンで発電機を回すディーゼル・エレクトリック式。これは凍った海面を進むさいに氷を押しのける低速高トルクでのスクリュー回転を得るためと、氷を割るために前身・後退を繰り返すためであったが、それにしても艦に不釣合いな出力のちいさい機関を積んだせいで煙突が異様に小さくなった。
と、言うか、そもそも航海そのものがほとんど想定されておらず、最大速度わずかに16ノット(日露戦争時の戦艦「三笠」だって18ノット出た)、さらに燃料搭載量なんとたったの90トンで航続距離は1500キロしかなかった。これは、燃料満載で東京を出発したら沖縄のちょっと手前で燃料切れになる短さだ。
要するに、ヴァイナモイネンは海上航行して洋上で敵艦と決戦を行うための艦ではなく、自力航行可能な浮き砲台にすぎないわけだ。
この航続距離のせいで、新生フィンランド海軍のお披露目となった1937年5月のジョージ6世戴冠記念国際観艦式に参加しようにも航続距離の足りないヴァイナモイネンはスウェーデンの海防戦艦ドロットニング・ヴィクトリアに曳航してもらったほどである。
この時、英国では口さがない連中は「フィンランドの海上戦力は侮りがたい。見よ、彼らは灯台船にまで主砲塔を積んでいる」とジョークをささやき合ったという。とほほん。
あまりに異様なこの艦をどのカテゴリに入れるかは混乱があり、日本では「海防戦艦」と記載されることが多いが、戦艦と言うにはあまりに小さい。しかし、「モニター艦」「砲艦」というには大きい。英国は「沿岸防衛艦(coastal defence ship)」に分類したが「巡洋艦」としている資料もある。なお、フィンランド語では分類は「Panssarilaiva(装甲艦)」だそうだ。

ヴァイナモイネン、イルマリネンの2隻は39年の「冬戦争」では沿岸防衛の任につき赤色艦隊の来航を待ち受けたが、赤色艦隊の活動が不活発だった上にすぐに海面が凍ってどちらも行動不能となったので大型艦艇と撃ちあうようなことはなかった。
つづく「継続戦争」では開戦と同時にドイツ軍がボカボカ機雷を落としてクロンシュタット軍港の出口を塞いでしまったせいで、やっぱり赤色艦隊はフィンランドまでやってこなかった。
とはいえ、ソ連海軍がこないからって本当に灯台になってるわけにもいかず、2隻は艦砲射撃に駆り出されたが1941年9月13日、バルト海に浮かぶサーレマー島へのドイツ軍上陸作戦を支援するために航行中のイルマリネンが機雷原に入り込み触雷、沈没した。
戦況は次第に枢軸軍に不利となり、ヴァイナモイネンは幾度と無くソビエト軍機の爆撃目標となったが終戦まで大きな損傷を被ることはなかった。

フィンランドは1944年9月にソビエトと休戦し、10月には対独宣戦布告を行ったが終戦後は敗戦国として扱われた。
戦争を生き残ったヴァイナモイネンは1947年に戦後賠償としてソビエトに引き渡される。
もらってはみたものの、戦後ただでさえ急速に大型戦闘艦の価値が減少していく中、武装灯台船に艦艇としての使い道などなく「ヴィボルグ」と改名した上でタリン港で兵舎として使われた後、1966年に解体された。

SZKのフィンランド軍沿岸防衛艦「ヴァイナモイネン」は海モノ標準スケール200分の1で完成全長約46センチというお手頃サイズ。難易度表記はないが、小柄な艦なので5段階評価の「4」(難しい)としておこう。定価は55ポーランドズロチ(約1800円)。
さすがのカードモデル界でもここまで微妙な艦艇はなかなかキット化されない事は言うまでもない。フィンランド海軍ファンのモデラーは栄光のフィンランド海軍を象徴する沿岸防衛艦を手に入れるこの機会を見逃すべきではないだろう。
また、沿岸防衛艦ファン、ハンザ同盟諸国ファンのモデラーなら、やや時代は異なるもののMODELIKから以前にリリースされたデンマーク軍海防艦 SKJOLDと並べてみるのもおもしろそうだ。



画像はSZKサイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

*10月7日追記
相互リンクしていただいているポーランドのモデラー、Krzysztof氏から当キット作者自身による制作記事のリンクを教えていただきました!

SZK フィンランド軍沿岸防衛艦 Väinämöinen

どっから見ても変な形のヴァイナモイネンの勇姿がたっぷり拝めちゃいます。
dziękuję Krzysztof!
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