Mega Graphic イギリス軍戦闘機 Supermarine Spitfire Mk. Vb

繊細なガラス工芸が有名なチェコは、隣国ポーランドと同様にカードモデルが盛んな国である。しかし、インターネットが盛んなポーランドに比べ、海外からチェコ製カードモデルを手に入れるルートは少なく、これまでは知られざるカードモデル大国だった。だがここ数年、チェコのブランドも販路を広げており、ポーランドとはまた違ったラインナップが世界のカードモデラーを惹きつけつつある。そんな気もしたりしなかったりする。
今回は注目度急上昇中のチェコカードモデル界からの新製品。本日紹介するのはチェコのブランドMega Graphicからの新製品、イギリス軍戦闘機 Supermarine Spitfire Mk. Vbだ。

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Mega Graphicは新製品情報としては初登場となるブランド(以前に蔵書の紹介で一回だけ出てきたことがある。このころは、まだ公式サイトがなかったっぽい)。
チェコには「ABC」という1957年創刊の青少年向けの雑誌があるのだが、これが最新科学技術やPCゲームや映画情報など、けっこうなんでも載ってる本で、この本の名物コーナーに切り抜いて作るペーパークラフトのページがある(現在も各号に掲載)。
この「ABC」にペーパークラフトを提供していたMichala Antonického氏とPavla Skokana氏が1995年に立ち上げたのが「Mega Graphic」ブランドである(もともとの本業は各種パンフレットのデザイン及び印刷)。

これまでMega Graphicの製品は、どう考えても権利関係がレッドゾーンなF1カーや、西側では誰も実物を見たことがないカロサの路線バス、シュコダのラリーカーなどが多かったのだが、今回、非常にメジャーなアイテムが登場となり解説もしやすそうなので新製品コーナー初登場となったわけだ。

それでは、いつもの長い長い話を後回しにして、今回はまず公式ページの完成見本を見てみよう。

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非常に美しい、極めてスタンダードな仕上がり。ヨーロッパの紙質特有の微妙な色合いのツヤ消し印刷がスケール感に合致していていい感じだ。

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Mk.Vは高高度からのダイブ戦法で優勢に立ったメッサーシュミットBf109F型に対抗するために過給器を積んだ最初のタイプ。
特徴的なバブルキャノピーは透明フィルムでは再現不可能で直線的な形状となっているが、Mega Graphicではバキュームフォームのオプションパーツも制作していた(現在は品切れ中なのかカタログ落ちしている)。

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裏面はパネルラインを強調した感じ。脚納庫はあっさりした感じに見えるが、実機もこんなもんだ。

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コードレターはMT○F、英国空軍第122飛行中隊「ボンベイ」飛行隊長機。1942年5月、北フランス。
第122飛行中隊はイギリス人中隊だったが、飛行隊長はイギリス人ではなく、チェコ人だった。
今回の長い話はこのFrantišek Fajtlについて。

チェコ語というのは独特な綴り方をする言語で、極端に母音が少ないのでちゃんと学習しないと読み方さえわからない。
”Fajtl”という名前も、ぶっちゃけどういうカナ表記がチェコ語の発音に近いのかわかならい。Youtubeで関連動画などで聞いた感じではどうも「ファイトル」っぽいけれど自信がないからFajtlのままでいこう。ちなみに”František”の方はカナで「フランティセク」と書かれる、チェコでは良くある名前。

1938年、ドイツのズデーテンランド割譲要求に対して断固戦うつもりのチェコスロバキアだったが、ミュンヘン会談でヒトラーにいいように言いくるめられた英仏首相が「ヒトラー君は、ズデーテンランドが最後の領土要求だって言ってるからさ、ここは一つ世界平和のために話し合いで問題を解決することにしたよ。チェコスロバキアを犠牲にして」と言い出したために戦おうにも大国の援助が一切得られないこととなりドイツに屈服。ドイツとの国境に構築していた要塞地帯も全部ドイツに取られちゃったもんだから翌39年に「やっぱりチェコ全土を占領することにしました。テヘペロ」とドイツが言い出した時にはこれを受け入れるしかなく、チェコはドイツに編入されスロバキアは保護領となった。

チェコ空軍の将兵はこの結末にもちろん不服で、多数が機体ごと隣国ポーランドに亡命、そのままポーランド空軍に加わったり、そこから英仏に脱出してそれぞれの国の空軍に加わり断固としてドイツと戦う事を選んだ。
チェコ空軍士官だったFajtlはこの時フランスに脱出、ドイツ軍がフランスに侵攻するとモランソルニエMS406、ブロシュMB152に乗ってドイツ軍機と戦ったが、MS406はともかくMB152は泣きたくなっちゃうほどの駄作機だったし、そもそもフランス陸軍があっという間に負けちゃったんで大したこともできないうちに地中海を船で渡って北アフリカに脱出、さらにジブラルタルに戻ってそこからイギリス本土へ渡り、今度は英国空軍に参加する。ど根性だ。

折しも英国本土は「バトル・オブ・ブリテン」の真っ最中。英国空軍中尉となったFajtlは貴重なベテランパイロットとして第1飛行中隊、第17飛行中隊などを渡り歩いた後に、亡命チェコスロバキア人で編成された第313中隊へと移った。
ここで飛行隊長として優れた手腕を見せたFajtlは空軍少佐に昇進し、第122飛行中隊へ移動。英国空軍で初めてのイギリス人部隊のチェコ人飛行隊長となる。

1942年5月5日、北フランスリール近郊への爆撃行の護衛機として出撃したFajtlは被弾し不時着。もちろん、そこは強固な大西洋防塞の内側、ドイツ軍の占領地域だ。普通ならこれで彼の戦争はおしまい、となるところだがど根性Fajtlはそんなことでは諦めない。彼は北フランスのドイツ軍占領地域からビシー政権フランスへ脱出、さらにピレネー山脈を超えてスペインに脱出する。ここでFajtlはスペインの警察に逮捕され刑務所に投獄されるが英国外務省との取り決めにもとづいてわずかな日数で釈放。ジブラルタルへ脱出し、9月にイギリス本土の自分の中隊へと戻ってきた。まじかよ。
(「キットは撃墜70週年を記念してデザインされた」って公式ページに書いてあるので、実は新製品じゃないかも)
この冒険でFajtlは殊勲飛行十字章を受勲、さらに空軍中佐へと昇進した彼はオークニー諸島に退き、戦闘機隊司令室勤務となったが、43年9月には「やっぱり前線がいいや」と自分から第313中隊へ戻ってきて飛行隊長になっている。ちなみに、戦闘機司令室から中隊飛行隊長への移動は「降格」である。

1944年、ロンドンに置かれていた亡命チェコスロバキア政府からの要請に応じてFajtlはソビエトに渡り、ここで第1独立チェコスロバキア戦闘機連隊の基幹要員となる。ドイツ保護領のスロバキアは接近するソビエト軍に呼応してドイツ軍に対し軍民が一斉蜂起する作戦を進めており、それを支援するためにわざわざソビエト空軍が指揮下にチェコスロバキア人飛行隊を編成したのだった。ソビエト軍にしちゃなかなかイキなはからいだね。
しかし、この蜂起計画を察知したドイツ軍は急遽スロバキア全土の軍事占領を布告。これに対抗するかたちで不完全なまま開始されたスロバキア人民蜂起は完全に準備不足であった上に、共産系パルチザンとの連携がうまくいかずに各地で優勢なドイツ軍に各個に撃破されてしまう。
FajtlもラボーチキンLa-5、La-7を駆って出撃を繰り返したが、結局、蜂起は大規模な報復と国土の荒廃、そして後からやってきたソビエトによる共産化を強めるだけに終わった。
(ワルシャワ蜂起もそうだが、蜂起させるだけさせてソビエト軍は応援にやってこない、という展開を東欧圏を共産化するためのソビエトによる「陰謀」であったとする西側資料は多い。しかし、東側資料によると当時ソビエト軍はバグラチオン作戦のために集積した物資を使いきっており、支援しようにも身動きがとれない状態であった)

1945年、戦争が終わりFajtlはプラハに英雄として帰還。当然、彼は新生チェコスロバキア空軍に迎えられたが1948年2月、突如として空軍から追放される。
そして1950年、Fajtlは共産政権により「イギリスのスパイ」として逮捕された。そういうことするから、あんたらの親分がやったことも「どうせ陰謀なんだろう」って言われんだよ。
裁判なしの判決に伴う17ヶ月の強制労働の後にFajtlは釈放されるも公職からは追放され、プラハへの立ち入りは禁止された。
1968年のいわゆる「プラハの春」で一部の待遇は改善されたものの、Fajtlの名誉が回復されるのは1989年の「ビロード革命」によるチェコスロバキア民主化を待たなければならなかった。

遅ればせながらチェコ陸軍中将に任命され、チェコ共和国最高位の「白獅子勲章」を授与されたFajtlは民主化と共に精力的に執筆活動を始める。中でも代表作「撃墜」はチェコ映画「Tmavomodrý svět」のベースになった(日本では「ダーク・ブルー」の邦題でDVD化されている。また「撃墜」は共産政権下でもすでに出版されていた、とする資料もある)。どこまでも不屈な人だ。
2006年9月4日、チェコスロバキア、フランス、イギリス、ソビエトの空軍で戦った空の英雄は妻と二人の娘に看取られ、この世を去った。

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最後にwikipediaより拝借してきたFajtl将軍、英国空軍時代のポートレート。三国志の武将のような素晴らしい笑顔。

Mega Graphicの新製品、イギリス軍戦闘機 Supermarine Spitfire Mk. Vbは空モノ標準スケール33分の1でのリリース。
難易度は5段階評価の「4」(難しい)。そして定価は150チェココルナ(約750円)となっている。
チェコのカードモデルというのは、いつもは芯材がなくて単一の紙で組まれることが多いのだが、今回のキットは芯材が必要となっており、レーザーカット済芯材用厚紙が80コルナ(約400円)で同時発売となる。また、チェコの飛行機キットは展開図が「ひらき」になっている事が多いのだが、これも輪切りになった胴体をつなげるポーランドやウクライナでよく見かける方式となっており、チェコ製キットに馴染みのないモデラーにも安心な内容だ。
チェコスロバキア空軍ファンのモデラーなら、不屈のFajtl将軍のど根性にあやかるためにも当キットは見逃せない一品と言えるだろう。



写真はMega Graphic公式サイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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