GPM ポーランド軍防護巡洋艦 ORP BAŁTYK

カードモデルと言えば、世界各国の全く知らないアイテムが堂々リリースされてモデラー思わず苦笑い、というのが定番となりつつあるが、今回はそんな中でも特にわけわかんないアイテムを紹介しよう。
今回紹介するのはポーランドGPM社からリリースされた新キット、ポーランド軍防護巡洋艦 ORP BAŁTYKだ。

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これまた古そうな艦形。喫水線の膨らんだころんと丸い船体断面を見て「これは元フランス艦」と気づいた読者はなかなか目ざとい。そう、ORP BAŁTYKはもとはフランス海軍の防護巡洋艦D'Entrecasteaux(ダントルカストー)である。

重装甲に守られた「戦艦」は強かったが、なにぶん重いので走るのが遅い、乾舷が低い(凌波性に乏しい)ので長距離航海に向かない、という欠点があった。
そこで、遠洋で敵と戦うために装甲を薄くし、ちょっと弱いけど速度が速い「装甲巡洋艦」という艦種が作られ、これは後に重巡洋艦へと発展する。
しかし、ぶっちゃけ植民地反乱の制圧なんかに行くのなら、装甲巡洋艦でもまだ装甲・武装が過分である。どうせ相手は陸上から75ミリとかの野砲をポンポン撃ってくるだけだ。
フランスは19世紀末、まだ海外植民地を一杯持っていたので、そういう遠隔地に派遣するためにさらに装甲が薄く、速力と渡洋性能を重視した「防護巡洋艦」ってのを作った(厳密には、舷側装甲がなくて水平面と傾斜面からなる装甲甲板で守られてるのが防護巡洋艦)。こっちは後に軽巡洋艦に発展することになる。
これにより、戦艦、装甲巡洋艦、防護巡洋艦という戦闘力と渡洋力・速力のバランスがそれぞれ異なる艦種が揃い、様々な局面に対応することが可能となったのである。このころのフランス海軍は輝いていた。

「ダントルカストー」(フランスの海軍軍人、探検家のアントワーヌ・レーモン・ジョセフ・ドゥ・ブリュニー・ダントルカストーにちなむ。フルネームを艦名にしなくてよかった)は1899年に就航した防護巡洋艦で同型艦はない。排水量約8千トン、全長117メートルだからけっこう大きな艦だ。あれ、同時代の装甲巡洋艦よりも排水量が大きいぞ。どうなってるんだ。
どうも、このころのフランス艦は「重い装甲巡洋艦」「軽い防護巡洋艦」という単純な分類ではうまく分けられないようだ。速力も両者とも19ノット前後で大して変わらない。それなら中途半端な重防護巡洋艦なんか作らないで、ちゃんと舷側装甲のある装甲巡洋艦を作ればいいじゃないか。なんだか栄光のフランス海軍が急に怪しくなってきたぞ。
武装は24センチ単装砲塔2基がメインで、副砲として14センチ砲12門を装備している。これも、同時期の装甲巡洋艦が20センチ砲だからこっちの方が強力だ。冒頭でのしたり顔の説明が早くも破綻だ。

そんな筆者の混乱をよそに、完成したダントルカストーは極東艦隊配属となりフランス領ベトナムへと赴く。最初の仕事は義和団事件で騒然とする北京方面への派遣だった。弱い相手なら任せろ。
しかし、その後は特にすることもなく、時々ツーロンに帰って修理しながらインド洋とかジブチとかをうろうろしていた。
1907年3月9日、ダントルカストーはベトナム沖合の海南島近辺で浅瀬に艦底を擦りサイゴンで修理を受ける。
ん? なんか他にもこのころ座礁したフランス艦があったような……と思ったら、同年5月20日にフランス極東艦隊の装甲巡洋艦「Chanzy」が上海南方で座礁、離礁できずに廃艦となっている。なにやってんだお前ら。
1910年、旧式化したんで一旦予備艦となるも1911年に地中海方面で練習艦として復帰、でも1913年にまた予備に。
どいつもこいつも19世紀末のフランス艦は華やかに登場! 地味に退場! ってパターンばかりだ。

第一次大戦勃発と共に現役に復帰したダントルカストーは敵のいない地中海方面で陸上に対する艦砲射撃を行い、オトラント堰の警戒にも参加している。
が、まぁ旧式艦なんで特に派手な活躍もなく1918年にはもはや輸送艦として使われていた。
世界大戦が終わり再び訓練艦となったダントルカストーは1921年に武装が解除され、1922年にフランス海軍から除籍となる。
このまま廃艦になるかと思ったら、ベルギーが「いらないんだったらちょうだい」と言い出した。もともとオランダ領だったベルギーは独立を勝ち取った時に、オランダから「もうお前ら独立してもいいけど、うちの権利を侵害すんなよ」と釘を刺されて永世中立国となっていたので、海洋国家オランダに気兼ねして海軍を保有していなかったのだが、ドイツ帝国はそんなことは全くお構いなしに侵攻してきたので、「やっぱり海軍がなきゃダメだ」と大戦後に海軍整備計画をぶちあげており、練習艦としてダントルカストーが必要だったのだ。
すでに機関も降ろされていた(さらに旧式な沿岸モニター艦「Furieux」のボイラー一基が言い訳程度に積み込まれた)ダントルカストーは1922年、タグボートに引っ張られてベルギーにドナドナされていった。
と、思ったらベルギーは「やっぱり予算足りないから海軍いらないや」と思い直して1926年にダントルカストーをフランスに返還してきた。もはやババ抜き状態だ。

こんな、いらない子を引き受けたのが大戦後に独立したポーランド。
ポーランド共和国に282万2千フランという、妙に細かい値段で購入されたダントルカストーはまたもやタグボートに引っ張られてちゃぷちゃぷとグディニア港に到着。名前を一度「ORP Król Władysław IV」変えたが、すぐに思い直して「ORP Bałtyk(バウティク)」と再改名して海軍に編入される。
この時点でバウティクはポーランド海軍最大の艦艇だった。と、言うか、一般的に「ポーランド海軍最大の艦艇」と言われるORP DRAGON(軽巡洋艦)の排水量が5千トンだから排水量8千トンのバウティクは今にいたるもポーランド海軍史上最大の艦艇だ。自力航行できない上に武装は全部撤去されてる船を「艦艇」と言っていいのか、とも思うがちゃんと「ORP(ポーランド共和国艦艇)」がついてるから艦艇だ。例え艦内に海軍兵学校があり、訓練艦と言っても洋上には出られないから基礎訓練にしか使えなかったとしても、だ。
ちなみにこの時期のバウティクの「武装」は礼砲用のオチキス47ミリ砲4門で全部である。とほほん。

1939年9月1日、ドイツ軍がポーランドに侵攻する。
とは言っても「海軍テーマパーク」状態のバウティクにできることはなにもなかった。
初日のうちに爆撃され、さらに前ド級戦艦シュレスヴィヒ・ホルシュタインに砲撃を受ける。
11日に艦は放棄され、2日後に港が陥落。バウティクもドイツ軍に鹵獲された。
さすがに艦艇不足のドイツ軍にもこれに使い道は見いだせず、バウティクは1942年に解体された。

そんなわけで地味にも程があるORPバウティクがついにカードモデルとなって登場だ。
誰も覚えていないようなこの艦の姿を公式ページの完成見本写真で見てみよう。

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巡洋艦らしいすらりとした船体。わざとらしいほどズングリムックリしたタンブルホーム船体と艦首の衝角がいかにも19世紀末のフランス艦らしいスタイル。ネモ船長のノーチラス号と戦っていても違和感なさそうだ。
ところでこの艦、wikipediaに常備排水量1万3千トンと書いてあるが、絶対なんかの間違いだと思う。
それとも武装解除してから太ったんだろうか。バウティク時代の写真見ると、喫水が塗り分けよりもかなり上がっていて軽くなってるように見えるんだが。

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キットはバウティク時代とダントルカストー時代から選んで作成できるコンパチ方式。この見本写真ではバウティク時代で組み立てられているが、武装撤去されているので砲塔もケースメート戦闘室も砲身がなくてスッキリ。砲身作るのが面倒なモデラーには朗報だ。
ブリッジ周りのやたらと凝ってる手すりは、本当にそこまでする必要があったんだろうか。

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写真で見る限りではテクスチャは汚しのないタイプ。甲板の木目表現も単色のようだ。
それにしても、なんかやたらと救命ボートの多い艦だな。港につながれたまんまのくせに。

知られざるポーランド海軍最大の艦艇ORP BAŁTYKのキットは海モノ標準スケール200分の1で完成全長約58センチ。難易度は3段階評価の「2」(普通)、定価は70ポーランドズロチ(約2300円)、またレーザーカット済の芯材用厚紙がセットとなった「コンプリートセット」が150ズロチ(約5000円)となっている。また、ディティールアップ用真鍮製砲身が30ズロチ(約1000円)で同時発売になるが、バウティクとして組み立てるつもりのモデラーは買っても使い道ないので要注意だ。

ポーランド海軍コンプリートを目指しているモデラーならもちろん当キットを見逃すべきではないのは言うまでもないことだが、同時代のフランス装甲艦「LA HOCHE」フランス装甲巡洋艦「Chanzy」と一緒に並べることで栄光のフランス艦隊黄金期を机上に再現すると共に、こいつら結局何がしたかったんだ、と首をひねるのも面白そうだ。


画像はGPM社サイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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