WAK イギリス製対空自走砲 Crusader III AA Mk.III

日本各地に大きな被害をもたらした台風26号。筆者在住の町は三十年ほど前まで、しょっちゅう川の堤が切れて水が流れ込んでいた土地なので嵩上げされた土地が多く家屋への浸水は少なかったものの、震災で波打ったままにされていた道路は各所で冠水し交通がマヒしてしまった。
そんな状況でも、発注元が「10月末までにある程度の成果物を提出していただかないと、激オコプンプン丸ですよ」と言うので工作の時間も取れず、Su-76iの進展もあんまりない筆者がお送りする東欧新製品情報、もはや自己紹介だか更新スッポかしたことの言い訳だかわからない枕を経て本日紹介するのはポーランドWAK社からリリースされた新製品、イギリス製対空自走砲 Crusader III AA Mk.III だ。

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そう言えば、そんな車輌もあったなぁ、という微妙な感じの車輌がカードモデルに堂々登場だ。表紙のクルセイダーAAも日曜朝の戦隊ばりに物理的根拠が良く分からない爆発を背景にキメポーズだ。

大戦序盤、フランス、北アフリカでドイツ空軍機に追いかけ回されたイギリス軍では機動戦に随伴できる対空戦力が求められていた。
とりあえず、小さすぎて地上戦ではあんまり使えないビッカースMk.VI軽戦車に7.92ミリ機関銃4丁を横に並べたオープントップ砲塔を載せた対空戦車を作ってみたが、7.92ミリではドイツ軍戦闘機が装備する20ミリ機関砲にアウトレンジされてしまう可能性が大きかった。
対空戦車が戦闘機にやられちゃしょうがないんで、より大きな機関砲の搭載が必要とされたが、なにしろビッカース軽戦車は小さくてこれ以上大きい砲を積むのは不可能。そこで、当時最新のクルセイダー巡航戦車の対空タイプが計画される。
現場は乗り気でなかったのか、「はいはい、砲がでかけりゃいいんでしょ」とボフォース40ミリ砲を積んだ、なんだか投げやりな感じのCrusader AA対空戦車が作られた。AAはアスキーアートじゃなくて、アンチ・エア、すなわち「対空」の略だ。
どうやら機甲部隊のお守りとして随伴する対空車輌に載せる砲として40ミリは大きすぎたようでこのタイプの生産は少数に終わり、続いて主武装を海軍で艦船の対空装備として使用されているエリコン20ミリ機関砲2丁を装備したCrusader AA Mk.II及びMk.IIIが新たに開発される。

それでは、あまり話が長くならないうちに公式ページの完成見本でCrusader AA Mk.IIIの姿を見てみよう。

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おお、なんか近代的でカッコいいぞ。
ちょっとホコリっぽい感じの汚しは、おそらくパステルかチョークを使ったものだろう。塗られてはいないが、キットのままではない。
車体正面ど真ん中にビヨーンと立ってる追加装備の無線アンテナが素晴らしいが、これはMk.IIIの特徴で、Mk.IIでは無線機は砲塔後部に収められている。

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密閉されているように見える砲塔は後ろ半分が開放されており、車内に見える砲尾からエリコン20ミリ機関砲が驚くほど長いことがわかる。

一見、機能的に見えるCrusader AAだが、試作車両の運用テストの結果は散々だった。
まず、エンジンがアンダーパワーな上に冷却が不足しており、すぐぶっ壊れる。でもあんた、そりゃ元のクルセイダー巡航戦車がそうなんだからAAのせいじゃない。
しかし、液圧式の砲塔駆動システムまでアンダーパワーなのは言い逃れできなかった。おかげで砲塔は動きが鈍く、ハリケーン戦闘機を相手にガンカメラでテストしてみたら追随できない上に、きちんと動作が止まらずにダラダラっと動いて目標を行きすぎてしまうことが多かった。そもそも、パワーが足りないので砲塔を回してるときは俯仰ができず、砲身を上げ下げしてる時は砲塔が回せないので立体機動してる飛行機は狙えないというお粗末さ。
また、長大なエリコン機関砲の砲尾は装填手の足に近すぎて危険な上に最大仰角をかけると液圧システムのパイプと干渉していたので、真上の敵を狙うと砲尾がパイプを押しつぶしてそのまま砲塔が動かなくなる可能性もあった。
要するに、Crusader AA試作型は敵戦闘機と申し合わせの上で真正面から真っ直ぐ突っ込んできてもらえれば、装甲が厚い分撃ち合っても勝つだろう、という程度の代物だったのだ。
それじゃあまりにも使えないんで、液圧動作のポンプを強化したが、こんどはそのポンプをどうやって冷やすかで冷却系の取り回しをいじったりしなければならず、開発はずるずると伸びていった。
それらの問題を解決し、1944年春にはまとまった数のCrusader AAが揃ったが、そのころにはすでに連合軍は制空権を掌握しており対空戦車そのものが無用となりつつあった。とほほ。

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キットのマーキングは、「PL」の表記と騎兵の羽飾りつき兜のマークでお馴染み、ポーランド第一機甲師団の所属車輌だ。400両ほど生産されたCrusader AAは、100両が訓練に回され、残る300両はポーランド軍に供与された。要するにいらなかったんだな。
ポーランド軍では、Crusader AAを主に対地目標の制圧に用いており、明確な対空戦果は記録されていないらしい。
なお、イギリス軍でも一部の部隊ではCrusader AAを実戦に使用しているようで、ノルマンディーに上陸するイギリス第22装甲旅団所属のCrusader AAの写真が残っている。
また、変わった所ではV1巡航ミサイル迎撃のために英仏海峡地帯に配備された車輌もあるようだ。
Crusader AAは1両が現存し、フランスのソミュール戦車博物館で見ることができる。

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キットのテクスチャは汚しのないスッキリしたタイプ。作例写真でもわかるが、上の画像のように砲塔は内部再現となっている。

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組み立て説明書はラインによる表現でクローズアップとステップ・バイ・ステップの中間といったところ。砲塔内部の構造、そして巨大なエリコン機関砲のディティールにも注目だ。

初期リリースでは欠点だらけ、なんとか解決したころには時代遅れという、まぁ、開発やってると良くあるよね……良くあっちゃいけないんだけどさ…………と切ない気分になってくるWAKのイギリス製対空自走砲 Crusader III AA Mk.IIIは陸モノスケール25分の1で完成全長約24センチ。難易度は5段階評価の「4」(難しい)、定価は45ポーランドズロチ(約1500円)、また同額45ズロチで立体彫刻履帯も同時発売となる。

カードモデルではたまにしかポツポツとしかリリースされない英軍戦車。英軍ファンのモデラーは、なんだか微妙な車輌でも気にせずにコレクションに加えてみてはどうだろうか。
また、プロジェクトがうまくいっていない技術者は机の上にこのキットを飾ることで、「Crusader AAよりはマシか……」と自分を慰撫するのもいいだろう。



写真はWAK社サイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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