GPM ドイツ軍レーダー FuMG 65 "WURZBURG RIESE"

拙ブログと相互リンクしていただいている、紙模型静岡工場様の表現をお借りすれば、国内の猛暑を上回る熱さを見せているのが今夏のポーランドカードモデル界だ。いったいどうしたんだ、ポカモ業界。突如ブラック化したのか。
だが、せっかく暑い中リリースされたカードモデルだ、ネタが熱いうちに紹介しておこう。
今回紹介するのはポーランドGPM社の新製品、ドイツ軍レーダー FuMG 65 "WURZBURG RIESE"だ。

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ジャン、ジャンジャジャジャン、ジャージャジャンジャンジャンジャン、と伊福部昭氏のマーチが聞こえてきそうなステキフォルムの新製品の登場だ。音楽をカナで書き表すということがこんなに無理だとは思わなかったが、そのまま先へ進もう。

対象に電波を照射し、その反射を感知することで所在を把握する、というアイデアは19世紀末にヘルツ博士(周波数の単位に名前を残す)が電磁波の研究を進めていたころにはすでに存在し、1900年代初頭にはドイツで実験的に航行する船舶を捉える極初期型のレーダーが完成していた、というからおどろきだ。こいつを対馬海峡に設置すれば東郷提督も枕を高くして眠れるぞ。
しかし、当時の弱い出力、精度の低い感知器ではあまり意味のある成果は出せず、レーダー技術の本格的運用は1930年代を待たなければならない。

1934年、ドイツは さぁ、これから再軍備しちゃうゾ! と気合を入れていた頃だが、海軍のエーリヒ・レーダー提督は「海軍に必要なのは、レーダーだ!」とダジャレとしか思えないことを言い出した(なお、レーダー提督のスペルは「Raeder」。電探の方のレーダーは「Radar)」)。 
レーダー提督は「潜水艦よりも巨大戦艦を並べたZ艦隊でイギリス艦隊と堂々海上決戦だ!」とドリーミーな計画を吠えてたりしたせいで旧態依然の古いタイプの軍人だと思われがちだが、「ポケット戦艦」みたいなちょっと変わったものにGOサインを出す柔軟な部分もあった。
海軍は電波研究を進めていた研究者を連れ、ドイツ最大の無線・放送業者であるテレフンケン社に話を持ちかけたが、テレフンケン側の技術者は「SFの話には興味ありせんな」とつれない返事で計画は御破算に。
トボトボと帰った海軍御一行は、仕方ないので「Gesellschaft für Elektroakustische und Mechanische Apparate」(電気及び機械設備会社)、略して「GEMA」を設立、ほそぼそとレーダー実用化へ向けての研究を開始した。
ちなみに、このGEMAの情報がイギリスに伝わった時、どこがどう間違ったのか「ドイツが殺人電波の研究部門を立ち上げた!」と伝わった。びっくりしたイギリス軍は無線の専門家ロバート・ワトソン=ワット博士(蒸気機関車を実用化したジェームズ・ワットの子孫)に相談したら、ワット博士は「そりゃ、殺人電波じゃなくてレーダーっすよ」と答え、ついでに簡単なデモンストレーションを行なってみせた。イギリス軍はこの結果に興味を示し、1940年のバトル・オブ・ブリテンまでに海岸地帯をカバーするレーダー網を完成させる。

GEMAは1937年、「フライヤ」(北欧神話の女神にちなむ)レーダーを完成させる。このシステムは巨大な焼き網型のアンテナが特徴で、映画「プライベート・ライアン」で本当に攻撃が必要だったのかどうだったのか意見のわかれるレーダーステーション攻撃の対象が、たぶんこのフライヤレーダーだ。
1939年、イギリスが参戦するとフライヤは飛来する英軍のウェリントン爆撃の編隊をなんと110キロ彼方で捕捉、これに従って発進した迎撃隊はそのうち半数を撃墜するという大戦果を上げてみせ、電波兵器に懐疑的な連中を沈黙させた。
これに先立ち、1930年代後半にフライヤが着々と実験成果を積み上げていくのを見て、テレフンケン社は「ごめんちゃい」と頭を下げ、レーダー開発部門を立ち上げた。
テレフンケンでは、より短い波長で精度の高い観測ができる射撃用レーダーの研究を進め、1940年ごろに実用的な「Würzburg」(ワルツブルク、ウルツブルグとも。都市名にちなむ)レーダーを完成させた。
ワルツブルクはフライヤが遠距離で捕捉した機影を近距離で引き継ぎ、さらに詳細な情報を高射砲部隊に送る(フライヤは垂直方向の解像度が低かった)ことになっていたが、初期の「ワルツブルクA」ではあまり正確な数値は得られず、最終的にはこれまで通りサーチライトでの照射が必要だった。
精度を増すために補助的に赤外線を照射する「ワルツブルクB」が計画されたが、これはゴチャゴチャやってる最中に実現不可能なことに気がついて中止。
続く「ワルツブルクC」はパラボラの真ん中の主アンテナとは別に左右2本の小アンテナを立てることで精度を上げている。
ここまでの3種類は直径3メートルのパラボラを台車の上に乗せたもので、長距離移動の時にはパラボラを真ん中から折りたためるようになっている野戦用「モバイルレーダー」だったが、次の「ワルツブルクD」は直径7.4メートルのパラボラとより強力な出力をもった、さらに本格的なレーダーであり、「ワルツブルク・リーゼ」(巨大ワルツブルク)と呼ばれた。これが、今回リリースされたタイプだ。

それでは、説明がえらく長くなったのでとりあえずはこのワルツブルク・リーゼの姿を公式ページの完成見本写真で見てみよう。

Würzburg-2

おいおい、こんなの、どうやって紙で作るんだよ、という感じだが、実はこのキットはいわゆる「カードモデル」ではなく、レーザーカット済みのパーツを組み立てるレーザーカットキットである。ハヴァ・ナイスデー。
見ての通り、巨大なパラボラはもはや移動不可能なので設置型となった。個人的には4脚の上に載せて、それぞれの足の下にタイガー戦車の車体を置けばミステリアンにも対抗できていいと思うのだが、どうだろうか。

Würzburg-3

ワルツブルク・リーゼは70キロの探知範囲を持ち、精度は水平0.2度、垂直0.1度という十分な性能を持っており、1500基ほど設置されたと考えられている。
ワルツブルク・リーゼは数機が現存しているが、今回のキットはベルリン・ガトゥのルフトヴァッフェ博物館に現存している実機を参考としているようだ。
他には、フランスノルマンディー地方に一基が防衛施設と共に現存しているが、こちらはキャビン部分の構造が異なっている。これは現役時代から差があるのか、いずれかが戦後に改修されているのかはちょっとわからない。また、イギリスのダクスフォード空軍基地にもキャビンの失われたパラボラ部分のみが現存しているらしい。
なお、ドイツ軍はさらに高出力な「ワルツブルク・リーゼ・ギガント」(巨大巨人ワルツブルク)という、お前は城壁でも膝蹴りで壊すつもりなのか、というなんかヤケクソ気味な名前のシステムも計画したが、さすがに試作もされなかった。

Würzburg-1

このパラボラ部分の骨をエッチングで再現しようとしたら、とんでもない価格のキットになってしまうだろう。そういう意味では、カードモデルでしかできないアイテムであり、GPMの着想の良さには関心させられる。同じぐらいの頻度でアイテムが奇抜すぎて頭を抱える。

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ちょっと見づらくなってしまったが、組み立て説明書のサンプル。メッシュ部分もキットに含まれるように見えるのが、実際はどうなのか、ちょっとわからない。また、キャビンの中はあっさりした作りのようだ。
なお、当キットはレーザーカット済みパーツによるホワイトモデルなので、着色には塗料の準備が必要だ。

GPMの新機軸、レーザーカットキットの新商品、ドイツ軍レーダー FuMG 65 "WURZBURG RIESE"は陸モノスケールではなく、35分の1、48分の1、50分の1というちょっとカードモデルでは珍しいスケール各種でのリリース。しかし、これはプラモデルでは「王道スケール」であり、GPMがプラモデルの情景としてこのキットを推していることがわかる。なお、35分の1は公式ページでも場所によっては「33分の1」と書いてあるので、本当のところはどうなんでしょう。気にはなるが、こういう時は細かい事は気にしない「カードモデル精神」で乗り切りたい。
難易度は書いていないが、特殊なキットなのでカードモデルはベテランでもここは素人気分で挑戦した方が良さそうだ。また、定価はスケール関係なしに全て220ポーランドズロチ(約7千円)となっている。スケール関係なしに価格が一緒なのは、なんか納得いかない気もするが、たぶん同じCADデータをスケール変えて出力してるだけなんで価格も一緒なのだろう。

当キットはカードモデルとしては正直高額であるが、同格のエッチング+簡易インジェクション(あるいはバキュームフォーム)キットに比べれば、安価かつ工作しやすいキットであり、第二次大戦中のレーダーファンのカードモデラーのみならず、レーダーのある情景を作成したかったプラスチックモデラーにも見逃せないキットと言えるだろう。
このカードとプラスチックの間を取り持つ「レーザーカットキット」、今後どのように発展していくのか目を離すことはできなさそうだ。


画像はGPM社サイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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