GPM ポーランド軍軽巡洋艦 ORP DRAGON

カードモデル界における三大海軍強国といえば、大日本帝國海軍、ロシア帝国海軍、そしてポーランド海軍であることは東欧カードモデルに詳しいモデラーならすでに周知のことであろう。
そんな、陳列棚の大海原に覇を唱えるポーランド海軍最大の艦艇がついにポーランドGPM社からリリースとなった。
今回は、この注目すべき新製品、ポーランド軍軽巡洋艦 ORP DRAGON を紹介しよう。

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日本では誰も思い出せないかも知れないが、これが自由ポーランド海軍の保有した最大の軍艦、ORP DRAGON の勇姿である。ドラゴン、俺に従え! と言えば仮面ライダーウィザードである(朝に視たのでネタにしてみました)。

とはいえ、ORP DRAGON はポーランドがグディニア港でトンテンカンと建造した船ではなく、この艦はもともとイギリスが第一次大戦中に建造したダナイー級軽巡洋艦の一隻、HMS DRAGON であった。
ダナイー級は重武装化するドイツ帝国海軍の巡洋艦戦力に対抗するために、前級であるカーライル級軽巡洋艦の船体を延長し、武装を152ミリ2門+102ミリ8門から一気に152ミリ6門へと強化した設計だったが、完成したのは1918年夏のことですでにドイツ艦隊はキール軍港に引き篭もりになっており、それより第一次大戦が11月に停戦になった。
そんじゃあ、やることはないのかと言うと、ソビエトがバルト三国を占領するのは気に入らないので反革命軍のためにバルト三国で艦砲射撃を行なっていたら、HMS DRAGONは沿岸砲台の反撃を3発くらって小破した。

ロシア内戦も革命軍の勝利で終わってしまったので、1924年、当時最新鋭だったダナイー級は船団を組んで世界一周の旅に出る。ザンジバル島、セイロン島、ニュージーランド、フィジー諸島、カナダ、ジャマイカなどに寄港しながら世界を一回りしてきたHMS DRAGONはいよいよ本格的にやることがなくなったので水上機格納庫を撤去したり、カナダで他の船舶と接触事故を起こして海難審判に艦長が呼び出されたりしながら過ごした。
そんなこんなのうちにイギリス海軍には新型艦船が次々に就航、なにもしないうちに旧式化したダナイー級は一旦予備役に編入される。

毎度のことながら話が長くなりそうだし、公式ページの完成見本写真が多かったので、写真を挟みながら話を進めよう。

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艦形全体を捉えた写真を二枚。高速を暗示するスラリと細い船体と背の高い艦首乾舷が本艦の魅力と言えるだろう。なお、キットは1944年当時の姿を再現しているものと思われる。

第二次大戦勃発でHMS DRAGONは現役に復帰するが、すでに旧式化しているので華々しい最前線での活躍はさせてもらえずに北方でのU-ボートに対する警戒が任務だった。
1939年末にはドイツのポケット戦艦「グラーフ・シュペー」が南米に逃げた、ってんで急いで向かったけど到着する前にG・シュペーは自沈。とぼとぼと帰るついでに地中海に入ってダカールでボンヤリしてたフランス艦隊への殴りこみに参加、僚艦と一緒にフランスの潜水艦を沈めた。
その後は残るポケット戦艦、「アドミラル・シェーア」が出てきたらすぐに対応できるように西部アフリカでボンヤリと警戒。
1941年、日本が参戦したので船団護衛のためにシンガポールへ移動。そしたらシンガポールが陥落したのでオランダ艦隊と一緒にセイロンへ移動。日本軍のインド洋進出が落ち着いてきたんで今度はマダガスカルへ移動。
そんなこんなで世界中をウロウロしてるだけのHMS DRAGONだったが、1942年6月、本国へ帰還するよう命令を受ける。でも回航に必要な最低限な数を残してマダガスカルで船員を下ろしてしまったので、イギリスまでの帰還には半年もかかった。とほほ。

イギリスに戻ったHMS DRAGONは亡命ポーランド海軍に貸与されることとなり、ついでに近代改装も行われた。近代改装というか、戦うはずだったドイツ水上戦力がすでに壊滅状態なので、主砲1門と全ての魚雷発射管を撤去し、レーダーなどの電子機器を装備、対空防御火力を増強した。

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船体中央部の様子。なんだか心細いぐらいにスッキリした艦橋が目を引く。この露天艦橋に立って北氷洋を航海するのは勘弁願いたい。右写真右側にある、テレビアンテナを乗せた鳥かごみたいなものが後付のレーダー装備だろうか。右側写真の主砲はそのまま撃つと自分のレーダーふっ飛ばしちゃうから要注意だ。

改装が終わり、亡命ポーランド海軍に貸与された HMS DRAGON は艦名が ORP DRAGON に改められる。一見、艦名そのものに変更はないように見えるが実は別のものを意味している。英語の「DRAGON」はもちろん「竜」を意味するが、ポーランド語の「DRAGON」に「竜」という意味はない(ポーランド語の「竜」は「Smok」である)。じゃあ、「DRAGON」ってなんなのよ、と言うと、「Dragoon」(竜騎兵)のことだ。「Dragoon」は字面的に竜に乗ってランスを構えるとってもとってもファンタジーな騎士のことを思い浮かべがちだが、本来は火器を持った騎乗歩兵のことで、「竜」とは何ら関係ない(竜に乗った騎士は「ドラゴン・ライダー」だ)。
世にも珍しい、「同音異義改名」を受けたDragonは1943年夏にポーランド海軍に引き渡され、44年に訓練を終えてムルマンスクへの輸送船団護衛に従事する。

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完成見本の武装をぐぐっとクローズアップ。主砲の単装152ミリ砲は一見、砲塔式のようだがこの通りお尻が開いている。右写真の二基の主砲の間にあるのは連装102ミリ高角砲だと思うが、ポーランド海軍引渡し時には連装102ミリは撤去されていた、としている資料もある。写真は見切れているが、さらに右(艦尾方向)には爆雷が並べてある。

1944年6月6日、Dragonはノルマンディー上陸作戦の支援砲撃に参加。沿岸砲台の至近弾で若干の死傷者を出しながらもソード海岸に対し艦砲射撃を行う。8日にはジュノー海岸へ移動、ドイツ軍第21装甲師団に対して砲撃を行い反撃を粉砕。Dragonはその後も激戦続くカーン市周辺に支援砲撃を続けるが、18日に触雷して損傷した戦艦ネルソンをエスコートして一旦戦線を離脱した。
7月7日、Dragonはノルマンディー海岸へ戻るが、翌8日午前5時40分、ドイツ軍の超小型潜水艦(二本束ねた魚雷の上側に乗員が乗り、敵艦に向かって下側を発射する)「ネガー」の魚雷が命中。第三弾薬庫に火が回りただちに注水が行われた。
一時は9度まで傾斜したDragonだったが、全主砲を反対方向に向けることで砲身の重さで水平を回復。破孔は大きかったが、致命的なものではなく修理は可能だった。
しかし、連合軍は「旧式巡洋艦なんて、一隻ぐらい沈んでもいいんじゃない?」というなんとも太っ腹な決断をくだす。
取り外し可能な装備が全て回収された後、1944年7月20日にコンクリートケーソンを沈めて造られた人工港「マルベリー”B”」の近くまで曳航されたポーランド海軍最大の艦艇にして唯一の巡洋艦、Dragonは防波堤となるために自沈した。

なお、Dragonを喪失した亡命ポーランド海軍には同型艦にしてネームシップでもある「HMS Danae」が速やかに貸与され、「ORP Conrad」となった。ORP Conradは大戦を生き抜き1946年にポーランドから返還、48年にスクラップとして売却されている。

そんな、ポーランド海軍最大なんだけど沿岸砲台とボカボカ叩き合ってただけでパッとしない軽巡洋艦、ORP DRAGON は海モノ統一スケールの200分の1で完成全長約70センチというから、かなり小型の艦だ。ドイツや日本の大型駆逐艦と真面目に戦ったら負けるかも知れん。
難易度は3段階評価の「2」(普通)だが、これは「艦船にしてはそれほど難しくないよ」という程度に受け取った方がいいかも知れない。定価は80ポーランドズロチ(約2600円)、また金属製砲身、レーザーカット済みディティールアップパーツなどが同梱された「コンプリートキット」が120ズロチ(約4000円)となっている。
これまでにもどうでもいいような砲艦から、どうでもいいようなモニター艦まで、およそポーランド軍が水に浮かべたものならなんでもキット化されているカードモデルだが、意外にも本艦のキットはこれまでにリリースされたことはないようだ。なんだか順番がおかしいような気もするが、亡命ポーランド艦隊のコンプリートを狙っていたポーランド海軍ファンのモデラーにとって、このキットは正に待ちに待った一品となることだろう。



画像はGPM社サイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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No title

なるほど~、極東艦隊にもいたから何となく聞いたことあるような名前だったんですね。遥か昔のゲーム「提督の決断」にご出演されていたような、いないような・・・。
それが、まさかポ国海軍でご活躍されていたとは!?船の一生ってドラマチックですね~。
船のカードモデルとしては簡単な部類ということですので、このキットを契機に一人でも多くのペパクラ艦船モデラーが増えることを祈念いたします。

Re: No title

azu kenさん、こんにちは!
あー、言われてみれば「提督の決断」に、出ていたような、出ていなかったような……
それにしても、イギリス海軍のこの艦に対するやたら冷淡な仕打ちはなんなんでしょう。なぜかキットもなかなか出なかったし。
それにしても、東洋艦隊でうろうろしていた船がポーランド海軍の一隻としてノルマンディー上陸作戦に参加していたり、日本海海戦で遁走した巡洋艦オーロラが、十月革命の英雄として記念艦になっていたり、艦の一生って本当におもしろいです!
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