WAK フランス軍重戦車 Char B1 bis

今年も夏が終わり、季節は「クラフトの秋」へと移り変わろうとしている。
鬱陶しい暑さと湿気におさらばできる喜びと共にこの季節の大きな楽しみが、夏休みに充電していた東欧デザイナーたち渾身の新作発表だ。
今年も続々と素晴らしい新作の情報が届き始めているが、本日はその中からポーランドWAK社の新製品、フランス軍重戦車 Char B1 bisを紹介しよう。

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おおっ! なかなかプラモデルキットに恵まれないフランス戦車の中で、タミヤから堂々キットの発売された「出世頭」シャールB1様がカードモデルに登場だ!

東欧カードモデル事情に詳しいモデラーなら、「以前にウクライナのOrelがカードモデルキット出してなかったっけ?」と思うかもしれないが、あれは難易度が3段階評価の「1」(易しい)であったことでもわかる通り「イージーキット」で、組み立て易いのはいいのだが、完成品は残念ながら細密感溢れるとは言いがたい内容であった。
それにしても、どうしてOrelはわざわざフランス戦車をイージーキットで出したのだろうか。フランス戦車に興味津々だが、カードモデルはまだ作ったことはない、という層が「よーし、パパ、ウクライナのカードモデル作っちゃうぞー」と興味を示してくれることに期待したのだろうか。

今回のWAKのキットは、日本軍のどうかしてる車両を次々にリリースして、そのアイテム選択とクオリティの高さで日本人モデラーを狂喜させた”M. Rafalski”氏のデザインしたもので、かなり本格的な内容となっている。
今回は、公式ショップの作例写真を見ながら、アイテム紹介を行おう。

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完成品のディティールアップが凄まじすぎて、全然キットの紹介になってない事の多いRafalski氏の完成見本だが、今回は珍しく塗装前の状態で紹介されている。リベットなんかは絶対に展開図のままではないが、それを別としてもかなり細かいところまで再現されていることがわかる。なお、砲塔のみレジンみたいな色になっているが、これは鋳造砲塔の雰囲気を再現するためにいろいろと試行錯誤と試作を繰り返したためらしい。

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「重戦車」として見た場合、主砲は砲塔、車体に副砲、というレイアウトだと考えられるが、もともとのシャールB1のコンセプトは車体の砲で敵陣をふっ飛ばしながら塹壕を乗り越えて進む「突撃砲」だったので、実は車体の短砲身榴弾砲の方が主砲だ。
そのため試作車では砲塔には機銃しか装備していなかったが、設計中に「せっかくなんだから戦車とも戦えるようにしよう」と砲塔の武装を対戦車砲としたので主副がひっくり返ってしまった。
なおこの車体の榴弾砲、車体幅を狭くおさえるために左右に振る機構がなく、照準は操縦士が車体を旋回させて行った。塹壕は逃げて行かないので、榴弾砲を敵陣に打ち込むだけならそんなんでもいいのさ。

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「シャールB1重戦車」と呼ばれることの多い本車両だが、「シャール(Char)」というのはフランス語の「戦車」なので、これでは「戦車B1重戦車」になってしまう。そのため「ルノーB1」と呼ばれることもあるが、実はこれも正しくはないらしい。
敵陣地をぶっ飛ばす重突撃戦車としてのB1の開発は第一次大戦の余熱冷め切らぬ1921年に始まった。
フランス軍の機械化を一手に担い、シャルル・ド・ゴールも師事した「フランス戦車の父」、Jean Baptiste Eugène Estienne(日本語の資料では時々「エティエンヌ」と表記されるが、Sは発音せずに「エティエンヌ」の方がたぶん実際の発音に近い)砲兵大将は、第一次大戦でシュナイダーとサンシャモンの両戦車が担当部署のセクショナリズムとメーカーの秘密保持によって互いに同じ技術を別々に開発しなければならず、生産が遅れに遅れたことに腹を立てていたので「次世代戦車のトライアルをやるけど、完成した設計図は全部軍が管理する。開発に伴う特許も、全部軍に譲渡させる。それに納得できないならトライアルには参加させない」というムチャクチャな条件をメーカーに叩きつけた。
でも、採用となれば千両単位の発注もあるかも、と渋々条件を飲んで設計図を提出したのがルノー、シュナイダー、サンシャモン、FCMの4社(ルノーとシュナイダーは共同開発)。
1924年にそれぞれのメーカーは、熱が出た時に夢に出てくるようなオモシロ形状の戦車をそれぞれ試作する(ルノー&シュナイダーのSRASRB、サンシャモンのFAMH、FCMのFCM21)。
どれも形がオモシロイ以外は一長十短ぐらいの問題山積みな設計だったが、比較的SRBがマトモだろう、ということでこれを基礎に、他社の設計のいいところを組み合わせることとなった。なにしろ、設計の権利は自動的に軍が全部もらっちゃったもんね。

1925年の年末に実物大木製モックアップの制作が開始され、1927年には生産型の試作が始まった。
しかし、エティエンヌ大将が、「正面装甲は野砲に耐えられる40ミリはないとダメ」「エンジンがぶっ壊れても少しぐらいなら直せるように車内からアクセスできるよう防火壁にハッチをつけろ」「履帯が緩んだ時に車外に出ないでいいように、車内からピッチ調整できる機構をつけろ」と、無茶と言えば無茶、妥当と言えば妥当な注文をバンバンつけた上に、フランス軍は「戦車よりもマジノ線をつくるザンス」と予算を渋ったもんで試作はずるずると遅れ、最初の量産車両が完成したのはなんと1934年になってからだった。
このころになると、自慢の重装甲と頼みの対戦車砲、ついでに機動力もちょっと時代遅れになり始めてたので、主砲を40口径から42口径に、装甲は最大40ミリから60ミリに、エンジンは250馬力から300馬力に、とそれぞれパワーアップした「B1-bis」に生産が切り替わった。
このような経緯があったために、生産はルノー182両、AMX47両、FCM72両、サンシャモン70両、シュナイダー32両と各社に分散された。従って、設計、生産ともルノーの果たした役割は大きかったが、正式には「ルノーB1」という名称は使用されていない。

こんなに苦労して作ったB1戦車だったが、実戦では整備性が悪く、燃費が悪すぎて満タンでも6時間しか行動できないなどの問題が多く、後付でのっけた砲塔も車長一人しか入らないので車長が指揮、装填、照準/発射を全部やらなきゃいけないのでは快速のドイツ戦車と戦うことは難しかった。
あまり実車の現存情報を聞くことのないフランス戦車だが、現在シャールB1が1両、B1-bisが10両現存している(この数字は射撃練習場に放置してあった残骸状の車両も含んでいる)。

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テクスチャは汚しのないスッキリしたタイプ。フランス戦車独特の塗り分けに黒い線が入る迷彩パターンもバッチリだ。
パーソナルマークはフランス第3戦車師団所属、第41重戦車大隊第3中隊338号車「CHARENTE(シャラント:地名)」。
この車両は1940年5月18日夜間に無線が故障したまま後退中に斜面にはまり込んで行動不能となり遺棄された。表紙画像では勇ましく戦っているが、実際には乗員はいそいそと脱出を試みたものの、ドイツ軍に発見され車長、操縦士が戦死。残る乗員3名が捕虜となったらしい。
なお、履帯が切れフェンダーがまくれ上がるなどひどく破損した本車の写真が残されているが、これは29日のフランス軍砲兵による砲撃か、あるいはドイツ軍の試し撃ちによるものだそうだ。

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組み立て説明書はラインによる表現で、ステップバイ・ステップとクローズアップの中間的な方式。単純に見えて意外と複雑な車体形状がこみいった芯材の構造でよくわかる。

ついに登場したフランス戦車の「決定版」、WAK製フランス軍重戦車 Char B1 bisは陸モノ統一スケール25分の1で完成全長27センチの堂々たるもの。難易度は5段階評価の「4」(難しい)、定価は50ポーランドズロチ(約1600円)、オプションのレーザーカット済み芯材用厚紙は45ズロチ(約1500円)となっている。また、今回は珍しく125ズロチ(約4000円)と高価ながらレジン製履帯も同時発売となるので、よりリアルな仕上がりを目指すモデラーなら同時に購入するのもいいだろう。
艦船、複葉機と最近その存在感を増しているフランス兵器。当キットは、フランス軍ブームの火付け役となるのか、カッコいいけど、どーでもいい感じの戦車ファンとしては当分東欧カードモデル界の動向から目を離すことはできなさそうだ。



写真はWAK社ショップサイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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