WAK イギリス軍戦車 Sherman III (M4A2)

さて、ここしばらく複葉機のキット紹介が続いたが、今回はがらりと方向を変えて筆者得意分野の戦車キットを紹介しよう。
紹介するのは、メジャーもメジャー、そりゃあもうジャイロボールを投げかねない程の超メジャーアイテム、M4シャーマン戦車だ。
実はシャーマン戦車のカードモデルキットというのは極端に少なく、ここ最近手に入るシャーマン戦車はGPMのキット番号188番、M4A3シャーマンのみだった。しかし、GPMのキットは手書きのデジタルリマスター版で、最近の目で見ると少々合いなどは厳しいだろう。だが、完成見本写真を見ると雰囲気はよさそうだ。
なお、英軍がシャーマン戦車に17ポンド砲を積んだ「シャーマン・ファイヤフライ」ならHALINSKIの超絶クオリティのパーフェクトグレードモデルがすでに存在することはカードデルファンなら当然ご存知だろう。HALINSKIのファイヤフライは、相互リンクしていただいているドッペルさんの「素人のペーパークラフト製作日記Part2」で鋭意製作中だ。

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なんだか写真が小さくて申し訳ないが、カードモデルではやたらと不遇なシャーマン戦車のニューキットをリリースしたのは当コーナーでは久々登場のポーランドのWAK社。ただし、ドイツの3号戦車だろうが、イタリアのAB-41装甲車だろうが、全部ポーランド軍部隊で使用中の車輌を模型化することで有名なWAK、今回のシャーマン戦車も英軍仕様のM4A2、英軍呼称「シャーマンIII」のポーランド軍部隊供与車輌でのリリースである。
それでは、さっそく公式ページの完成見本でWAKのシャーマン戦車を見てみみよう。

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うーん、シャーマン戦車だねぇ。
オリーブドラブ一色のイメージが強いシャーマン戦車だが、今回のキットは前述の通りポーランド第2軍団、第2装甲師団、第2ワルシャワ装甲旅団、第6装甲連隊(愛称「ルヴォフの子供たち」。第2ワルシャワ装甲師団は2個装甲連隊編成で、もう一つは第4装甲連隊「サソリ」)の所属車輌で、サンド系のベースにダークグリーンの雲形迷彩となっている。
ポーランド第2軍団は、1939年のポーランド侵攻でソビエト軍の捕虜となった将兵のうち、西側での従軍を希望した者が中東に移動させられ、それを中核に編成された部隊である。さすがのソビエトも、「同盟国イギリスのもとで戦いたいです」というポーランド人に「ダメ」とは言えなかった。
ポーランド第2軍団を率いていたヴワディスワフ・アンデルス将軍自身、ソビエト軍に捕まり悪名高いルビヤンカ収容所に送られ、独ソ開戦に伴って釈放されたものの、捕虜になったはずのポーランド士官の数が異様に少ないのをソビエト側に問いただしても「さぁ、しりませんな?」でごまかされた(すでにカチンの森に埋められていた)のに疑問を感じて西側に移動した、という人物である。

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上から見た見本写真では、この車輌がまだ装填手ハッチのない初期型砲塔を装備しており、上面が妙にのっぺりとしていることがわかる。幅の狭い主砲防盾、車体正面装甲から飛び出した操縦手席、無線手席など、シャーマン戦車初期型の特徴にも注目だ。
ところで、車体後部左右の弾薬箱は、実車ではどうやって車体にくっついているんだろう?

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ぐぐっと車体前部のディティールにクローズアップ。車体前のギヤハウジングケース、ベンチレータ上部、主砲基部などの曲面を、多数の切り込みで再現していることがわかる。わし、この方式苦手なのよ。とはいえ、曲面の多いシャーマン戦車では、他に表現のしようがない。その辺も、カードモデルでシャーマン戦車がいまいち不人気な理由の一つなのだろうか。

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テクスチャは汚しのないスッキリとしたタイプ。砲塔側面上部のエルビス・プレスリーの袖ばりのギザギザ切り込みが、なんとも勘弁してください、という感じだ。
車体の増加装甲部に書かれているパーソナルネームは”MACZUGA”で、ポーランド語で「棍棒」の意味。ポーランド第2装甲師団があるからには、もちろんポーランド第1装甲師団もあり(でも、「ポーランド第1軍団」というのは戦時中は存在しなかった)、そちらはイギリス本土で編成されノルマンディーに上陸、反撃に失敗してフランスから撤収しようとするドイツ軍を大包囲した、いわゆる「ファレーズ・ポケット」の戦いでは包囲の口を閉める重要な役割を担った。
しかし、それだけに脱出・連絡しようとするドイツ軍の両方向からの反撃が集中、戦力の2割を失うという大損害を被りながらも要衝262高地をカナダ軍の増援が到着するまで守り通しドイツ軍政部戦線崩壊のきっかけを作っている。
この262高地の戦いは、その激しさ故にポーランド軍に「MACZUGA」の名前で呼ばれており(ポーランド第1軍団スタニスワフ・マチェク(Stanisław Maczek)の名前をもじっているのカモ)、本車のパーソナルネームもそれにちなんでいるのかも知れない。

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組み立て説明書はラインによるクローズアップ方式。サスペンションなどの構成はかなり細かいようだが、組み立て説明図はスッキリした線でしっかりと描かれており、なかなかわかりやすそうだ。転輪をぶった切った形で解説するというのは、あまり見ない方式。

イギリス連邦軍に組み込まれたポーランド軍は祖国解放に燃え高い戦意を持っていたが、その分損害も多かった。
ポーランド第1装甲師団はファレーズで大損害を被ったが、第2軍団はイタリア半島最大の激戦、モンテ・カッシーニの戦いで大きな損害を被っている。
西側で連合軍に参加したポーランド将兵は戦後、ポーランドに誕生した共産政権に「裏切り者」の烙印を押され市民権を剥奪されポーランドへ帰ることは許されなかった。
ポーランド第2軍団を率いたアンデルス将軍もポーランドに戻れないままに1970年にイギリスで没している。
遺体は、たっての希望により多くの戦友が眠るモンテ・カッシーノの軍人墓地に葬られた。

西側連合軍ファンが待ちに待っていたWAKのイギリス軍戦車 Sherman III (M4A2) は、スケールはもちろん陸戦スケールの25分の1。難易度は丸みが難しいので5段階評価で堂々の「5」(とても難しい)だ。定価は45ポーランドズロチ(約1500円)で、レーザーカット済みの芯材用厚紙が25ズロチ(約800円)、レーザーカット済み組み立て式履帯(立体彫刻ではないらしい)が50ズロチ(約1600円)で同時発売となる。
シャーマンのサブタイプはいくつかあるが、このM4A2(シャーマンIII)はディーゼルエンジンを積んでいるのが特徴だ。しかし、米陸軍では車輌にディーゼルエンジンを使っていないので(だったら、なんでそんなもん作ったんだ)、船舶にディーゼルを使っている海兵隊、T-34を始めとしたディーゼルエンジンの戦車を主力としているソビエト、それと適当なこと言って押し付けたイギリス軍に供与されている。
そういった意味では、当キットはイギリス軍ファン、米軍ファン、ポーランド軍ファンのみならず、ソビエト軍ファンや海兵隊ファンにも訴求するワールドワイドな一品と言えるだろう。
M4シャーマン戦車ファンのモデラーなら、5~6輌は購入して各国仕様に塗装を施して並べてみるのも、ひょっとすると微妙に楽しいかもしれない。


写真はWAK社サイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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No title

のとっちょさん今晩は。
いつも、貴重な情報有難うございます。しかも今回はご紹介いただいて、とっても嬉しいです。
シャーマン戦車がイギリス、フランスのみならずポーランドまで供給された経緯が良くわかりました。
主砲基部などの曲面を、多数の切り込みで再現していることは、何の疑問もなく作っていましたが、それがシャーマン戦車がいまいち不人気な理由の一つだとは驚きました。なにせBT-5とファイヤフライしか知らないものですから。ではまた。

Re: No title

ドッペルさん、今晩は!
やはり鋳物で作ったような滑らかな形は紙での再現は難しいですね。
さらに戦車や飛行機のスケールモデルは、できれば実物に忠実な形をしたいということで、どうしても複雑な切り込みを大量に入れることになってしまい、自然難易度も上がってしまいます。なので、第二次大戦中盤までの溶接・リベット接合の戦車や、現代のカッチリした形の戦車に比べると、その間の滑らかな形状の戦車のキットはどうしても数が少ないように感じます。
ドッペルさんのファイヤフライは、いよいよ砲塔の制作ですね。シャーマンのキットの難易度を上げている砲塔側面、どのように組み上がっていくのか興味深く拝見させていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします!

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