GPM フランス軍戦闘機 SPAD-VII C.1

2011年の年末に突如として訪れた複葉機ブームは、Douglas O-2H とか Thomas-Morse S-5 とかの、なんか良く知らない飛行機をリリースしただけでは終わらない。本日は2011年末にカードモデル界をなんとなく賑わせたような気もする複葉機ブームの中で、ポーランドGPM社からリリースされたフランス軍戦闘機 SPAD-VII C.1 を紹介しよう。

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SPAD-VII(ローマ数字の「7」)は、フランス航空界の黎明期を担った名デザイナー、ルイ・ベシュローのデザインした戦闘機である。ルイ・ベシュローは、「ドゥペルデュサン」という難解な名前の会社の設計技師で、ベシュローが開発したドゥペルデュサンレーサー機は、国際飛行機レースのシュナイダー杯レースの第一回大会で見事優勝、フランス航空界の先進性を見せつけた(第二回大会の優勝機が、こないだのソッピース・シュナイダー)。
「ドゥペルデュサン」というのは、創業者のアルマン・ドゥペルデュサンの名前を取ったものだが、ドゥペルデュサンはさらに社名を「ソシエテ・プロヴィゾワレ・デザパレイユ・ドゥペルデュサン」(Société Provisoire des Appareils Deperdussin)という、もう長いわ言いにくいわで嫌がらせのような名前に変更するが、あまりにも長いのでみんな頭文字をとって「SPAD」と呼ぶようになった。
なお、ドゥペルデュサンはその後すぐに横領で逮捕されてしまい、経営はブレリオ単葉機を作ったルイ・ブレリオに引き継がれ、社名も「Société Pour Aviation et ses Derives」と、ドゥペルデュサンの名前を外したものに変わった。ここに、フランス航空界黎明期を担った二人の名デザイナー、ベシュローとブレリオの夢のタッグが成立したのだ。

1914年、第一次大戦が勃発。もちろん、SPADも軍用機の開発に乗り出し、高速が売りのSPADでは軍用機の花形、戦闘機の開発に着手した。
当時の戦闘機の課題は、どうやって敵を攻撃するか、であった。プロペラ軸線上に弾がダダダっと飛べば、パイロットの視線の先にいる敵機に弾が飛んでいくので命中率はグーンとアップする。しかし、まだプロペラ同調機がない当時の戦闘機ではプロペラ回転面を通して機銃を発射するのは自分のプロペラをふっ飛ばしてしまうという致命的な問題があった。
ブレリオ :「ベシュローどのー一大事でござるー」
ベシュロー:「よーし、ポクポクポク、チーン」
と、いうわけでこの難問に対するSPAD流トンチの利いた解決がSPAD A2戦闘機であった。これは、普通の戦闘機のプロペラの前に、棒で吊るした銃座があって、そこから機銃を撃つからプロペラに弾当たらない! こっちの弾はたくさん当たる! ビバ! という、まぁ、クレイジーというか、穏便な表現をすれば「なに考えてんだ」というスタイルであった。ちなみに、このSPAD A2はドイツの「Der kampfflieger」というブランドからキットが発売されている(48分の1と72分の1)。なに考えてんだ。
一方、ドイツ軍はオランダ系のアントン・フォッカーが実用化した(プロペラ同調装置そのものは戦前にすでに特許が取られていたとする史料が多い)プロペラ同調装置をフォッカー戦闘機に搭載、これはギヤとカムでプロペラが機銃の前にある時は弾が出ないようにするという単純なものだったが、その威力は凄まじくフォッカー機は連合軍戦闘機をバタバタと叩き落とした。
イギリス人をもって「フォッカーの懲罰(Fokker Scourge)」と言わしめたこの危機に、SPADは「じゃあ、うちも」とあっさりプロペラ同調機の仕組みを拝借。受けを狙った変な銃座も外してリファインした機体を「SPAD VII」として完成させる。
さすがフランス航空界のツートップが関与しただけあり、新型機は小型な機体と強力なエンジン、そして頑丈な機体構造と前方機銃のバランスが見事に決まった名機となった。SPADは同じくフランス戦闘機で前方機銃を備えたニューポール戦闘機と共にフォッカーに立向かい、連合軍の航空劣勢を覆す大役を果たしたのである。

それでは、第一次大戦のフランス空軍の名機、SPAD VIIの姿を公式ページの完成見本写真で見てみよう。

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支柱が多いためにともすればやや大型の機体に見えるSPADだが、コクピットが機体幅ギリギリなのを見ればわかる通り、かなり小柄な機体だ。
SPADを名機たらしめたイスパノ・スイザ系V8形式180馬力エンジンの排気管がまるで第二次大戦の夜間戦闘機の消炎排気管のように長く伸びているが、これは排気管が火を吹いた時に翼に燃え移らないようにするためだろう。当時の飛行機は帆布を塗料でコテコテに塗り固めてあるので、良く燃えたのよ。

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液冷エンジンなのに、冷却のために機首に大穴が開いているのがおもしろい。第一次大戦中に5600機という破格の大量生産が行われたSPADは戦時中に連合軍各国に供与され、さらに戦後余剰となった機体は世界中に売却された。その数、実に20カ国を超える。
写真の機体はポーランド空軍の機体だが、所属やパイロットは確定できなかった。一部の史料では、Ludomił Rayskiの乗機が同様の塗装をしているが、ちょっと確証がない。
ちなみにLudomił Rayskiは第二次大戦勃発時には空軍参謀として多大な苦労をした人物で、日本語版Wikipediaではポーランドを代表する戦闘機PZL.P11の前身、PZL.P7の試作機を落っことした人としか名前が出てこないが、第一次大戦でオーストリア=ハンガリー軍、トルコ軍に従軍、第二次大戦ではポーランド軍、フィンランド軍、フランス軍、フランス外人部隊、イギリス軍に従軍したという大変興味深い人物である。

そして、今回のキットは表紙でわかるようにスキンが二種類から選べるようになっている。
ニワトリの絵が特徴的なもう一種類のスキンは、SPAD第48中隊のJacques Roquesの機体。Roquesはスイス人だが(生まれはパリ)フランス空軍で戦い、第二次大戦でもフランスでレジスタンス活動を戦い抜いた人物。なお、史料によっては第48中隊の機体のニワトリは逆を向いている(機体の前を向く)。
また、Roquesの機体には、友人であった画家、ジョルジュ ルパプ(Georges Lepape、ファッション誌「ヴォーグ」の表紙なども手がけた)の手による少女の顔が機体右側面にアールデコ調で書かれた機体もあったようだが、このキットで再現されているかはわからない。

二種類からスキンが選べてお得なGPMのフランス軍戦闘機 SPAD-VII C.1は航空スケールの33分の1で翼幅約24センチという小柄な機体。難易度はなぜか表示がない。そして、定価は25ポーランドズロチ(約800円)となっている。

ところでこのキット、実は同じもののデータ版が「ECardmodels」というサイトで購入することができる。こちらのキットではスキンは一種類で、もう一種類は別売りとなっている
このECardmodelsというサイトは、世界中のデザイナーのデザインしたキットを手数料を取って販売しているサイトなのだが、MODELIKのソッピースシュナイダーや、Thomas-Morse S-5も同じFitter's modelsのブランドで販売されている(他にも、プロトンロケットやドイツ軍の秘密兵器など、見たことあるキットがいくつもある)。
どうやら、去年年末にポーランドカードモデル界に突然に訪れた複葉機ブームは、このFitter's modelsが複葉機キットが得意だったために起きた現象らしい。つまり、Fitter's modelsが「メジャーデビュー」し、その作品が一気に複数のメジャーブランドから発売されたというわけだ。
これまでデータ販売のみだったFitter's modelsのアイテムに印刷版が準備されたことにより、2012年に、なんか太陽のフレアがなんかして、その結果、なんか電磁場がなんかして、なんかインターネットが使えなくなった時にSPADがどうしても作りたくなったらポーランドまでちょっと行って買ってくればいい、という事もできるようになった、ということも評価されてしかるべきだろう。
もちろん、同人ブランドのキットがMODELIKやGPMといった「名門」から発売されるというのは興味深い展開であることは言うまでもない。
2012年はカードモデル界のさらなる躍進が期待できそうだ。



画像はGPM社サイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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成程~

そういう理由だったんですね~それでS-5組んだ時に違和感を感じたのか~(笑)多少リファインされてんですかね?少なくともS-5は完成品の写真とはちっと違いましたね~。

Re: 成程~

ナオさん、こんばんは!
ラインナップからの推測なんですが、おそらくはそういうことなんだと思います。
そのうち、他のfitterのキット、ブレゲー19とか、ホーカーフューリーなんかもGPMかMODELIKから出るんじゃないでしょうか。
それにしても、別にどこも変わってないようなのにちゃんと試作してるキットがあったり、手を入れてるっぽいのにそのまま昔の試作写真を使ってるキットがあったり、その辺の基準がわかりません(笑)
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