YG-model ソビエト軍試作戦闘機 И-17

熱心なカードモデラーなら、ウクライナのメーカーと言えば、ロシア/ソビエト黒海艦隊という、どこに向かっているんだかよく分からない道を一歩一歩、着実に迷走しているOrel社のことがすぐに思い浮かぶことだろう。
本日はウクライナから新たに群雄が割拠する「東欧カードモデル戦乱期」に参戦すべく旗揚げした新興メーカー、YG-model社からリリースされた新製品であるソビエト軍試作戦闘機 И-17 を紹介しよう。

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Orelの名前が出たのでついでに書いておくが、以前に「ソビエト潜水艦K-21艦長のニコライ・ルーニンは、幻の「ティルピッツ撃破」でソビエト英雄になったんだぜ!」とドヤ顔で吹聴したが、ロシア史に関する貴重な資料が多数アップされているサイト、 「洞窟修道院」内のコンテンツ「ソ連軍資料室」の管理人様に詳しく御教授頂いたところ、「ニコライ・ルーニンがソヴィエト連邦英雄の称号を受けたのはティルピッツ攻撃より前(Shch-421艦長時代)なので、「ティルピッツ撃破」とは関係がないだろう」とのことでした。赤軍潜水艦隊ファンの皆様に御迷惑をおかけした事を謹んでお詫びするとともに訂正させていただきます。

YG-modelは、来歴がサイト内にないので正確な創設時期はわからないが、ごく最近にカードモデル界に参入したブランド。ソビエト軍用機をメインとしているようだが、アメリカの高速実験機、「ベルX-1」やドイツ軍の「メッサーシュミットBf109」などもリリースしている。まだラインナップはNo7まで(なぜかNo4がカタログ落ちしてる)しかないが、その独特なアイテムチョイスにはこれからの活躍を期待せざるを得ないだろう。

今回紹介するИ-17は1934年にソビエトで試作された戦闘機で、設計は戦前ソビエトの戦闘機を一手に引き受けていたポリカリポフ設計局だ。И-17(I-17)は正式採用された場合に割り振られる予定だった番号だが、実際には量産はされておらず、ЦКБ-15、ЦКБ-19、ЦКБ-19бисという3機の試作機が制作されたにとどまる。
新型戦闘機を模索していたポリカリポフ設計局は、前作I-16のオモシロ過ぎる形をすっぱり忘れ、1934年、全く新しいスタイルの試作機、ЦКБ-15を完成させた。これまでの寸詰まりな胴体はスラリと長いものとなり、エンジンはヒスパノ・スイザ系の液冷となり、全体のフォルムはシュナイダートロフィーレースで勝利し、スピットファイア戦闘機の原型となったスーパーマリンS6Bレーサー機に似たものであった。
この試作機を操縦したのは、事故死後に名前が巡洋艦につけられたテストパイロットのバレリー・チュカロフ。チュカロフはこの時期、ポリカリポフの専属テストパイロットだったようで、I-16の原型機のテスト飛行も受け持っていた。
ЦКБ-15に対するチュカロフの評価は「操縦性、安定性ともI-16に勝る」というものだった。まぁ、そりゃ安定性は寸詰まりなI-16には勝るだろう。速度は計画値よりやや遅く、時速500キロにわずかに届かなかったが、スピットファイアやBf109が飛ぶ1年前にこの性能は十分なものだろう。武装もすでに7.62ミリ機銃4丁を主翼に装備していたらしいので、「試作は傑作、量産は駄作」みたいなパターンにもはまらないで済みそうだ。
しかし、チュカロフは同時に「着陸脚(引き込み式)の機構に不安がある」と報告しており、案の定その後のテスト飛行で片脚が出なくなるというトラブルが発生した。チュカロフはなんとか片脚での不時着に成功したが機体下部は当然破損。新たに試作機を準備する必要が生じ、正式採用は遅れることとなった。
なお、このЦКБ-15はモスクワ東方のニジノ・ノブゴロド市、チュカロフ(地名)にある「チュカロフ記念館」に現存している。損傷した機体下部はテケトーに修復され固定脚となり、武装は外されているがオリジナルの塗装を残しているらしい。

続いて制作されたЦКБ-19は脚回りを改修、さらに冷却系なども改善し性能もわずかながら向上した。このスマートな戦闘機の完成がよっぽど嬉しかったのか、ЦКБ-19は1936年のメイデーでは赤の広場上空を堂々飛行、さらに最新鋭戦闘機の試作機なのに1936年パリ航空ショー、1937年ミラノ航空ショーで地上展示までされてしまった(一応、「スポーツ機ですよ!」という名目になっていたが、そんな寝言に騙される航空関係者は少なかっただろう)。
この時、航空ショーで撮影された写真(どちらの航空ショーかははっきりしない)でЦКБ-19のプロペラが二重反転プロペラのように見えるものがあり、そのせいで一部の資料(チェコ語のものに多いそうだ)には「ЦКБ-19が二重反転プロペラを装備していた」と書かれているらしいが、この写真は人物がボンヤリとした影のように写っており、シャッタースピードがかなり遅かったことが伺える。機首の横にもうっすらと人影らしきものが写っており、どうもこの人物がプロペラをキコキコして遊んでいたのがブレて写ってしまったようだ。

脇道となるが、「二重反転プロペラ」と言えば、ソビエトの重爆撃機ツポレフТу-95”ベア”が有名だが、YG-modelからはこの「ベア」のキットもリリースされているので、そちらを見て一息入れよう。

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こちらがYG-modelのТу-95表紙。スケールは33分の1。えっ!? 33分の1? 全幅50メートルある巨人爆撃機のキットが33分の1??

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デカい! デカ過ぎるよ!! あまりのデカさにキットの試作も半分だけだ!

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あ、でもこの飾り方はちょっと斬新。
ちなみにТу-95の定価は160ウクライナフリヴニャ(約1800円)だ。

閑話休題。
ЦКБ-19が外回りをしているうちに作られたのが3番機、ЦКБ-19бисである。コクピットの開き方が変わり、武装が主翼機銃2丁とエンジン軸の20ミリ機関砲になった以外には大きな変更はない。
飛行試験やさらなる改装の試み、細かな調整、改修などが続いたが1939年初頭、突如としてプロジェクトは打ち切られた。
ソビエト軍は「ポリカリポフ設計局は空冷エンジン機をやりなさい」と決定したのだ。
この方針に従って、何年もかけてじっくりと設計を洗練させてきたI-17は放棄され、新たにI-180が急いで設計された。I-180はI-16を手直ししたようなスタイルだったが性能は不十分で信頼性は低く、チュカロフはこのI-180のテスト飛行中に事故死した。ポリカリポフはI-180の失敗から立ち直れず、ポリカリポフ設計局は解散となる。
なお、ポリカリポフ設計局の解体に伴い独立したミグ設計局はI-17の設計をもとにMig-1を設計したとも言われている。言われてみれば、よく似たスタイルだ。
もちろん、レーサー機のようなスタイルのI-17には欠点も多かった。高速性能のためにコクピットは極端に狭く、小柄なものしか搭乗できなかった。防弾性にも不安があり、速い着陸速度は不慣れなパイロットには危険だっただろう。しかし、他国に先駆けて「高速戦闘機」というコンセプトに挑戦したことは評価されてしかるべきである。もし、ソビエト空軍がI-17を破棄せずに量産化していれば、あるいは独ソ戦初期の空中戦はその様を変えていたかもしれない。

ЦКБ-19とЦКБ-19бисのうち、少なくとも1機は戦後まで残っていたことがわかっている。それはモスクワのモニノ空軍博物館の屋内に展示されていたが、1980年代に博物館が荒廃した際に失われた。おそらく、管理者たちによって屑鉄として売られてしまったのだろうと考えられている。


さて、それではそんな悲運の戦闘機、И-17のキットをさっそく公式ページの完成見本で見てみよう。

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派手な塗装と相俟って、いかにもレーサー機といった雰囲気だが、これでも立派な試作戦闘機だ。
この派手派手塗装はチュカロフ記念館に現存するЦКБ-15と同じ(よく見ると、赤と青の塗り分けがちょっと違う)で、キットもЦКБ-15を再現している。

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チュカロフに「ちょっと危なくない?」と言われた足回りもこの通り再現。少し前に投げ出した感じの脚が独特だ。ЦКБ-15はこの通り、脚を外側に引きこむようになっていたがЦКБ-19では内側に引きこむように変更されていた。

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風防はまだ組み立てられていない。また、おそらく色合いも写真は試作のためのプリンタ刷り出しのもので実際の印刷とは異なると思われる。

ウクライナの新メーカー、YG-model ソビエト軍試作戦闘機 И-17はスケールは航空スケールの33分の1。難易度は表示がないからわかんない。そして、定価は24ウクライナフリヴニャ(約250円)という為替レートが疑わしくなるような価格設定となっている。
ソビエト軍試作機ファンなら、もちろんこのキットは見逃すべきではないだろう。

なお、当記事を書くにあたって、I-17の情報は主にMassimo Tessitori氏の運営するソビエト機研究サイト、「VVS research page」(英語)内のI-17に関するページを参考とさせていただいた。文中で話題となっている「I-17が二重反転プロペラに見える写真」なども掲載されているので、興味を持たれた方は是非訪れてみていただきたい。
Massimo Tessitori氏の研究では、一部の資料にはI-17は「ノモンハンで日本軍と戦った」、「独ソ戦初期にドイツ軍と戦った」と載っているがI-17は量産されておらず、当然戦闘実績もない。また、フィンランド軍の撃墜記録の中にI-17が含まれているそうだが、これはMig-1/3の誤認であろう、とのこと。
前掲の氏のページの最後には、「I-17が実戦配備になった場合」というコラージュ画像が掲載されている。機体番号が書きこまれ、ソビエト軍パイロット好みに開放風防に改修されたI-17の並ぶその画像には、悲運の戦闘機に対する氏の愛情が実に深く感じられるではないか。
…………ところでYG-modelのI-17のキット、表紙写真がこのコラ画像と同一なんだけど………………大丈夫?



画像はYG-model社サイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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安っ!

I17があまりにも安いので、本当かよって調べてました。
本当でした。物価の差を感じますねー
I17の完成見本の下の線図が「VVS research page」にありますね。
ここのサイトを参考したのかな?

Tu-95主翼が片方だけなのに、水平尾翼は両方あることに目が行ってしまいましたw
しかし、1/33は大きいですよね。1/72とかで作る気はないのかなー

Re: 安っ!

あっさいさん、今晩は!
ウクライナのキットは、ポーランドのキットに比べても圧倒的に安いですね。いい販路がないのか、ウクライナ国外のショップで買うと何倍にもなってしまいますが、それでもまだ安いです。万が一、ダウンロード販売なんて始まったら飛びついてしまうかも(笑)
「VVS research page」は、I-17についての情報がまとまっているので見たことがない、とは思えないのですが、表紙の画像についてはちゃんと許諾取っているんでしょうかね?

そして、Tu-95は……このキットにハサミを入れるのは、いつもとは別の意味で度胸が要りそうです(笑)
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