Orel ロシア帝国軍戦艦 Евстафий

昨今のカードモデル界が、空前の黒海艦隊ブームに湧いていることはカードモデルファンならすでにご承知のことだろう。本日は、そんな一大「黒海艦隊ムーブメント」の発信地、ウクライナOrel社の新製品、ロシア帝国軍戦艦 Евстафий を紹介しよう。

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これまで、第二次大戦中に黒海艦隊で活躍したり、しなかったりした艦船を精力的にリリースしてきたOrel社だが、「第二次大戦の黒海艦隊で満足しているのは黒海艦隊ビギナー。本当の黒海艦隊通なら前ド級艦」と言わんばかりにさらに誰もいない方向へと快進撃。もはやこのラインナップにはついていくだけでも精一杯だが、今回もWikipedia様の力を借りてなんとか頑張ってみよう。

Евстафий(エフスターフィイ)は黒海艦隊の戦艦(当時の分類では「装甲艦」)として1904年から建造が始まった。名前の「エフスターフィイ」というのは、それまでの「ロシアの偉人シリーズ」から突如一転し、キリスト教の聖エウスタキウスからとられている。余談になるがこの聖エウスタキウスという聖人は、有名な「ファラリスの雄牛」(金属製の雄牛の像の中に被害者を閉じ込め、炎であぶり殺す)によって殉教した人物である。
ところが、エフスターフィイを作ってる最中に日本海大海戦が発生、不沈のはずだったロシア戦艦隊はコロンコロンと沈没してしまったために設計にはその戦訓が取り入れられることとなった。改修の主な点は上部建造物の簡略化で、これにより重心の低下が図られている(日本海大海戦では、戦艦は爆沈せずに横転沈没していた)。ところが、あっちを直し、こっちを直し、ついでにそっちも直し、としているうちに1906年、イギリスでド級戦艦ドレッドノートがドキューンと就航。これによりエフスターフィイは完成前に旧式化。ションボリして建造は鈍化し、完成したのは1911年になってからだった。しかも、完成直後にルーマニア沖で座礁。幸い損傷なく離脱したものの、なんともカッコ悪い。

一気に艦歴を書いてしまうと字ばっかりになって目が疲れるので、公式サイトのフォーラムから完成見本写真を引用しつつ話を進めよう。

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デザイナーの台所(たぶん)に鎮座するエフスターフィイ。「完成見本」と書いてしまったが、よく見ると細かい偽装がまだなので制作中だった。冷蔵庫の脇に、別の艦の甲板らしきものが突っ込んであるのも気になるポイントだ。前ド級艦としては最後期のグループに属し、戦訓を取り入れてすっきりとした上部建造物が特徴といえる。

さて、ションボリとエフスターフィイが組み込まれた黒海艦隊だが、仮想敵は黒海対岸のトルコ、当時のオスマン・トルコ帝国であった。
1914年、第一次世界大戦が勃発。当初、トルコ帝国は当初はどちらの陣営につくか決めかねていたが、戦前に国民の献納金でイギリスに発注していたド級戦艦(ただし、南米向け戦艦が途中でキャセルになって余っていた中古)をイギリスが「ちょっとドイツと戦争するのに必要だから」と接収し、自国海軍に編入してしまったことでトルコ世論は英仏露からなる連合軍憎しにぐぐぐっと傾いた。
さらに、そんなブロークン・ハートなトルコに大接近したのがドイツ。ドイツはド級巡洋戦艦「ゲーベン」を気前よくトルコに売却(と、どの資料にも書いてあるが、実際に代金は支払われたの?)。連合軍の追尾を振りきって黒海に突入したドイツ巡洋戦艦ゲーベンはトルコ戦艦「ヤウズ・スルタン・セリム」に生まれ変わった(乗員はドイツ人のままで、ロシア側は最後まで「あれは『ゲーベン』!」とドイツ時代の呼称で通した)。
このビッグなプレゼントに喜んだトルコはドイツ・オーストリア側で参戦。連合軍はドイツからトルコまで続く「中央帝国」側陣営によって左右に分けられてしまった。
ロシアにとって、これは問題だった。戦争継続能力の低いことを自覚していたロシアは西側連合軍からの物資援助が必要だったが、地中海から黒海を通じての補給ルートがこれで閉ざされてしまったのだ。ド級戦艦を手に入れたトルコに対し、黒海艦隊にド級戦艦が就航するのはどんなに急いでも1年後。それまでは旧式の前ド級艦でなんとかするしかない。

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前部砲塔回りのクローズアップ。前ド級艦らしい長丸型砲塔と、より近代的なスッキリした艦橋の組み合わせがおもしろい。副砲の射界を得るために甲板が段々に削ってあるのにも注目だ。

「ゲーベン」を獲得したトルコ海軍は参戦後、さっそくロシアの黒海沿岸をぼっこんぼっこんと砲撃。ロシア側は旧式艦に急いで近代改装を施し戦力化を図ったが、如何せん新型巡洋戦艦の最高速力25ノットに対し、旧式戦艦16ノットは分が悪い。しかし、旧式といえども数の上では旧式戦艦5隻を保有するロシア艦隊の方が優っている。
質と量、そちらが戦いを制するのか、その問を試す時は11月に訪れた。
1914年11月15日、トルコの海上通行を破壊するためにロシア黒海艦隊が出撃。これに対し、トルコ側はヤウズ・スルタン・セリムが出撃。これを察知したロシア艦隊はトルコ艦隊迎撃へと転進する。
11月18日。この日、クリミア半島南端のサールィチ岬周辺は深い霧に包まれていた。その霧の中、ロシア黒海艦隊の旧式艦の中でも一応最新鋭ということで旗艦になっていたエフスターフィイは距離7キロという予想外の近距離でヤウズ・スルタン・セリムと遭遇、「サールィチ岬海戦」が始まった。エフスターフィイの最初の斉射はヤウズ・スルタン・セリムの副砲戦闘室に命中、これを吹き飛ばす。これに対するヤウズ・スルタン・セリム側の反撃はエフスターフィイの中央煙突と無線送信アンテナを破壊した。一見、エフスターフィイの被害は大したことないようだが、これは重大な意味を持っていた。日露戦争での戦訓からロシア艦隊は全艦の射撃を旗艦が制御するシステムを採用していたからだ。この結果、旗艦を除く後続の4隻は照準の修正ができなくなったが、そもそも3隻目以降の艦は最初っから霧が深くてトルコ艦を視認できなかった。
この結果、戦いは近代的な海戦というよりも、帆船時代のような単艦同士の殴り合いとなった。30センチ連装砲塔2基のエフスターフィイと28センチ連装砲塔5基のヤウズ・スルタン・セリムは近距離で砲弾を発射し合ったが、ロシア側にはまだ一点、有利な点があった。ロシア側は、仮に数艦を失っても来年には新たに新型ド級戦艦が就航する。だが、トルコ側はヤウズ・スルタン・セリムを失えばもはや新しいド級戦艦が手に入るのぞみはないのだ。
結局、トルコ側は十数分で決戦を切り上げ、優速を生かし戦場を離脱する。海戦史上他に例のない前ド級艦とド級艦の殴り合いは、前ド級艦の気迫勝ちであったと言っていいだろう。

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まだ細かい部品がのっていないが、上部建造物中央付近の様子。この三本煙突の真ん中がトルコ艦隊の砲撃で破壊された。副砲の密閉式ケースメイト戦闘室の装甲が射界を得るために曲面となっているのが前ド級戦艦らしくない感じだ。

サールィチ岬海戦の後も、互いに修理を受けたロシア黒海艦隊とトルコ艦隊は度々衝突を繰り返し、沈没した艦こそないものの互いに命中弾を与えている。
しかし、エフスターフィイの華やかな艦歴は革命により一変する。革命による混乱で停泊したままとなっていたエフスターフィイは1918年5月、クリミアまで前進して来たドイツ軍に接収される。11月にドイツは停戦、艦の権利はイギリスへ。その後、クリミア半島はロシアに変換されることになったが、革命政府の海軍力が増すのが気に入らないイギリス軍はしっかりと機関をぶっ壊していった。その後はロシア内戦で白軍が取ったり、赤軍が取ったりを繰り返しているうちに、双方が「相手が使用できないように」と破壊を繰り返したもんで状態はどんどん悪化。1921年、最終的にはソビエト政府がエフスターフィイを確保したが、もはや残骸となっていた艦を再建することはできずに22年から23年にかけて解体され、25年に艦籍が抹消された。
なお、解体される前にソビエト軍は艦の名前を「Революция(革命)」と変更している。

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見本写真はホワイトモデルだったが、こちらはカラーのテクスチャ見本。テクスチャはもちろん汚しのないスッキリしたタイプ。ベテランモデラーなら、甲板をより質感溢れるパターンに貼り直してもいいだろう。ロシア艦の目印である、お尻につく鷲の紋章にも注目だ。

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組み立て説明書はOrel艦船キットの定番、グレースケールのCG表現による細部クローズアップ方式。短艇や小口径砲など、細かい部分まで作りこまれていることが読み取れる。

Orelよりリリースされたロシア帝国黒海艦隊の栄光と滅亡を体験したロシア帝国軍戦艦 Евстафийは前ド級艦なので艦船スケール200分の1で完成全長約60センチというやや小柄なキット。しかし、さすが難易度は3段階評価の「3」となっている。定価は145ウクライナフリブニャ(約1600円)。
エフスターフィイと対決したトルコ戦艦ヤウズ・スルタン・セリムは、「ゲーベン」としてのキットがJSCからリリースされている。スケールは残念ながら250分の1と、標準艦船スケールとは異なっているが黒海艦隊ファンなら是非とも両者とも揃えておきたいところだ。

黒海艦隊を大プッシュするOrel社。果たして次の黒海艦隊キットは第二次大戦時のどうでもいいような小艦艇になるのか、それとも第一次大戦のさっぱり知られていない艦になるのか、はたまた露土戦争とかのわけわからん装甲艦となるのか、これからもOrelの新製品情報からは目を離すことが出来なさそうだ。



キット画像はOrel社サイト公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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何でまた黒海艦隊なんでしょうね?

こりゃまた,随分マニアックな船ですね。
ロシア・ソ連艦船にとって,日露戦争以後~ミサイル艦出現までの時期って,いいとこなしの男子中学生の青春みたいな時期で,人気はダントツに低い気がします。
しかし,敢えてか勘違いか分かりませんが,そこを突きまくってくるOrel社のラインナップは素晴らしいですね。

Re: 何でまた黒海艦隊なんでしょうね?

azukenさん、今晩は!
一体、何がOrelをそこまで駆り立てるんでしょうね? ウクライナ人にとって、海と言えば黒海なんでしょうか。それにしたって、空母クズネツォフとか、先にやることはたくさんありそうな気もしますけれども。
考えてみれば黒海艦隊続々リリース! という「誰もいないところで大暴れ」という感じのラインナップは、第二次大戦のソビエト黒海艦隊の地味な大活躍に通じる部分があるかも知れません(笑)
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