Orel ソビエト軍潜水艦「K-21」

昨日、晩飯中に舌をひどく噛み口の中が血まみれになって自分でびっくりした筆者が、東欧のホットだったり、それほどホットじゃなかったりする新製品を気分次第で紹介する当コーナー、本日紹介するのはウクライナOrel社からリリースされたソビエト軍潜水艦「K-21」だ。

105_154.jpg

Orel社のソビエト潜水艦キットは、以前に「C-7」を紹介したことがあるが、あれは潜水艦建造技術を習得するためにダミー会社を通じ、1933年にドイツで設計されたものだった。それ以前の国産潜水艦、D型やP型はどうにも出来がアレだったのだが、C型の設計を手に入れたことでソビエトの潜水艦建造能力は大きく前進、1939年には沿岸防衛の小型潜水艦だけではなく、大型ディーゼルエンジン、高張力鋼の採用で航続距離が長く、水上速力も速い、いわゆる「巡洋潜水艦」であるK型を竣工させるまでになっていた。しかし、慣れぬ大型潜水艦の建造には困難も多く、特に高張力鋼の溶接では変形や亀裂が生じる事も多かったという。潜水艦でそれは致命的だと思うが、いいのだろうか。
K型は62隻という多数の建造が計画されていたが、第二次大戦の勃発により実際に建造されたのは12隻にとどまる。そのうち、5隻が戦争で失われた。
なお、K型は非公式に「カチューシャ型」の愛称で呼ばれていたそうだ。

それでは、さっそく完成見本写真を見てみよう。

ss1_167.jpg

とりあえず、もうちょっとなんとかいう撮影場所はなかったのか、ということが気になるが、それはそれとして、第二次大戦型潜水艦の模型というとドイツのUボートが「定番」だが、この上面を司令塔の前で大胆に絞ったレイアウトというのはUボートにはない形状だ。浮上攻撃用の100ミリ砲が、司令塔の前後に1門づつあるのもおもしろい。さらにその一段上に見えているのは45ミリ砲で、これも司令塔前後にあるので水上戦闘力もなかなかのものがある。そして、必殺の魚雷は533ミリ発射管が艦首6基、艦尾4基と、これもかなりの重武装。さらにさらに、定数ではK型は魚雷24発、機雷20発まで積み込むことになっていた。潜水艦に機雷って、ソビエト海軍はホントに機雷が大好きなのね。

ss2_195.jpg

これだけの兵装を積み込み、商船部隊や敵艦隊を漸減する長期任務をこなすために船体は大きく、K型は第二次大戦でソビエトが運用した潜水艦の中で最大のものであった。手塚治虫氏の漫画、「アドルフに告ぐ」で主要登場人物の一人がUボートに便乗して北極海の氷の下をくぐってドイツから日本に移動する際、ソビエトの潜水艦(らしきもの)に追跡されるシーンがあるが、Uボート乗組員が相手のことを「大きい」と言っているから、きっと相手はK型だったに違いない。
(そのソビエト潜水艦は最後にドイツ潜水艦に撃沈されてしまうのだが、あえて野暮なことを言えば、潜水艦が潜水艦を、双方が潜航状態で撃沈したのは海軍戦史上ただ一例、1945年2月9日のイギリス潜水艦HMSベンチュラの魚雷攻撃でドイツ潜水艦U-864が撃沈された例がある限りである(この例も厳密には潜望鏡深度であって、「アドルフに告ぐ」のような深深度での撃沈例はない)。そもそも、当時の潜水艦は長期の潜航はできなかったので北極の下を突っ切るのは不可能で、実際には日独間で潜水艦が移動する場合はインド洋を経由していた)

まぁ、そんな名作の重箱の隅をつつくのはやめて、キットの話に戻ろう。

-21-1__128.jpg-21-4__153.jpg

テクスチャは汚しのないすっきりとしたタイプ。艦船キットというと、大フィーバーして手に負えない感じの超絶に細かい展開図を「どうよどうよ!」と見せてくれることの多いOrelだが、今回は意外とすっきりした内容。難易度も3段階評価の「2」(普通)となっている

-_-_21_138.jpg-_-_21__198.jpg

組み立て説明書はちょっと懐かしい感じのラインによるクローズアップ方式。右側の画像をよく見るとわかるが、前後の45ミリ砲の間の部分が一見、水密構造のようで実は後ろが開いており、船体とその上部が細い管でつながっている構造も興味深い。

さて、キットになっているK-21、個艦についての情報だが、このK-21は北海艦隊の一員で、アメリカからソビエトに物資を運ぼうとしていたPQ-17船団を攻撃するために出撃してきたドイツ戦艦「ティルピッツ」に対し艦尾魚雷4本を発射、うち2本を命中させた大殊勲艦である。ティルピッツはこの損傷によりノルウェーのフィヨルドに逃げ帰るしかなく、そこから身動きが取れなくなってしまったのだからK-21の戦果は「撃沈に等しい」といっても過言ではないだろう。
……うん? ソビエト潜水艦が戦艦ティルピッツに魚雷を命中させた話なんて聞いたことがないって?? うん。わしも、そんな話、ついさっき聞いた。
K-21がティルピッツに魚雷4本を発射したのは間違いない事実。しかし、反撃を避けるために魚雷発射後即座に急速潜航したK-21は戦果を目で確かめることはできず、「2回の魚雷爆発音とそれに続く連続した弱い爆発音」を聞いたに過ぎない。しかし、この直後ティルピッツは突然に進路を変え帰港。これは、PQ-17船団が水上艦艇の殴り込みを恐れて散開したために、損傷を恐れて自発的に帰港したのだと言われている(その替り、散開すると航空機や潜水艦の攻撃には脆くなる。そのためPQ-17船団は33隻中22隻を失うという大損害を被った)。 
しかし、そんな事情のわからないソビエト側は「西側連合軍の恐れた戦艦ティルピッツを赤色潜水艦隊が行動不能にした!」と大フィーバー。K-21艦長、ニコライ・ルーニンはこの功績でソ連邦英雄になっちゃった。
2011年11月13日追記 ロシア史に関する貴重な資料が多数アップされているサイト、 「洞窟修道院」内のコンテンツ「ソ連軍資料室」の管理人様に詳しく御教授頂いたところ、「ニコライ・ルーニンがソヴィエト連邦英雄の称号を受けたのはティルピッツ攻撃より前(Shch-421艦長時代)なので、「ティルピッツ撃破」とは関係がないだろう」とのことでした。訂正いたします。

戦後、ドイツ側の記録などに魚雷命中の記事がないことが確認されたが、一人歩きを始めた伝説というのはなかなか簡単には消えない。ソビエトの著名な歴史作家、ワレンチン・ピクリが1970年代に発表した小説「Реквием каравану PQ-17 (PQ-17船団のレクイエム)」では「K-21の攻撃によりティルピッツは行動不能となったが、責任問題となることを恐れドイツ海軍はそれを隠蔽した」と書かれている。なお、この小説を原作として2004年に制作されたロシアのテレビドラマシリーズでも、この設定はそのままになっている。ロシア人ってのは、やたらと原作を尊重するねぇ。
歴史家М. Э. Морозов氏の調査では、K-21の発射位置からではそもそもティルピッツに魚雷は届かず、K-21乗員が聞いた爆発音は、魚雷が海底に衝突して爆発したのと、ドイツ側の爆雷攻撃を聞き間違えたのではないか、とのこと。
そんな「大戦果」をおさめたK-21は退役後記念艦となり、北海艦隊の港があるセヴェロモルスクに現存している

Orel社からリリースされたソビエト海軍潜水艦「K-21」は小艦艇スケール100分の1で1メートル近い堂々たる大型キット。それでいて難易度は3段階評価の「2」(普通)、定価は89ウクライナフリヴニャ(約1000円)と手頃な設定となっている。
上記の2004年に制作されたロシアのテレビドラマシリーズは、日本でも「PQ-17 -対Uボート海戦-」という名前でDVDがリリースされている(全4巻)。DVDを見ながらK-21の幻の大戦果に思いを馳せつつこのキットを制作するというのが、ソビエト軍潜水艦ファンモデラーにとって最高に贅沢なこの秋の過ごし方、となりそうだ。



画像はOrel社サイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
スポンサーサイト

テーマ : 模型・プラモデル・フィギュア製作日記
ジャンル : 趣味・実用

コメントの投稿

非公開コメント

ソ連といえば潜水艦

戦後のソ連海軍のイメージってわらわらと存在した原潜師団に代表される,巨大潜水海軍の感がありますが,数だけなら大戦前も世界一だったんですよね。
ビスマルク撃破の戦果に現実味を持たせるためにK-21が保存されているのも,あんだけたくさん潜水艦作ったのに,まともな戦果挙げてないことが国民にばれちゃうとまずいからだったのかもしれません。
しかし,この潜水艦船体前半は英国風で,後半はフランス風,艦橋は日本風と,アイデンティティー揺らぎまくりの姿をしていますね。戦後の独創的過ぎるデザインとはまるで違うあたりが面白いです。

Re: ソ連といえば潜水艦

azukenさん、今晩は!
考えてみると、ソビエトとドイツって両方陸軍国なのに異様な数の潜水艦を整備したり、そうかと思ったら突然世界最大の戦艦を作り始めたり、なんか似てますね。
ソビエトはあんなにたくさん潜水艦作ったのに、大戦中のソビエト潜水艦というと「世界最悪の海難事故を起こした」という話にしか出てこない、ってのがなんとも切ないので、せめて自分だけでもK-21の事は覚えておこうと思います。
展開図公開中
最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
プロフィール

のとっちょ

Author:のとっちょ
カードモデル初心者が苦闘するさまをご覧あれ。

検索フォーム
リンク(順不同、敬称略)
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード