MODELIK フランス海軍装甲艦 LA HOCHE

7月も一週間が過ぎ、各地から梅雨明けのニュースも届き始めた。梅雨が明ければ、次にやってくるのはもちろん夏。せめて机の上だけでも涼しい気分になるために、本日はポーランドMODELIK社の新製品から艦船キットを一品、紹介しよう。
今回紹介するのはフランス海軍装甲艦 LA HOCHEだ。

Hoche okladka

こんな前フリで登場するのが19世紀の装甲艦というあたり、カードモデル界の進んでいく方向が心配というか、楽しみというか、とっても楽しみだ。
キットの名前は「LA HOCHE」となっているが、この”LA”はフランス語の冠詞(英語でいう”THE”)であって、艦の名前は「HOCHE」である。フランス語は単語に「性別」があり、性により冠詞が変化する、というのは有名な話だが、”LA”は女性に対する冠詞。どこの国でも大抵「船」の性別は女性で、英語でも船を指すときは「SHE」(彼女)を使う。ところが、フランス語の資料ではこのHOCHEは、「LE HOCHE」と男性扱いになっているのが面白い(英語版Wikipediaでは「SHE」と書かれている)。おそらく、艦名の由来であるフランス革命期の軍人、”Louis Lazare Hoche”が(当然ながら)男性なので、それに対して「LA」は違和感があるのだろう(ドイツ戦艦「ビスマルク」も男性扱いだったらしいぞ)。
なお、フランス語のカナ表記というのはなかなか難しいが、「HOCHE」は”オッシュ”という表記が多いようだ。

この時代の艦の艦種というのはまだ「戦艦」「巡洋艦」などにはっきりとは分かれておらず、オッシュもMODELIKのサイトでは「巡洋艦」、日本語版Wikipediaでは「戦艦」、英語版Wikipediaでは「鋼鉄艦(ironclad)」と、見事なまでにまちまちだ。そして、フランス語版Wikipediaでの表記は「cuirassé」となっている。「キュイラッセ」といえば熱心なネットゲーマーならすぐにピンとくるだろうが、本来は騎士が身につける鎧(胸甲)のこと。なので、ここでは「装甲艦」の訳語をあててみた。

19世紀末、まだ蒸気船、鋼鉄装甲、大口径艦砲の組み合わせにバランスの良いセオリーは存在せず、各国ともあーでもない、こーでもない、と試行錯誤を繰り返していた。そんな中、1891年に完成したオッシュは、ファイティングマスト(太い)、衝角(尖がってる)、装甲砲塔(フランス初)、タンブルホーム(下膨れ)を組み合わせた、なんともファンタジックな艦形となった。

Wikipediaから借りてきた画像で少し補足しておこう。「ファイティングマスト」というのは、それまでの帆を揚げるためのマストではなく、高いところから見張りをするついでに速射砲なんかも置いて、近づいてくる小艦艇にバリバリと上から銃弾の雨を降らせて追い払うためのものだ。

Hoche-Paul_Thiriat.jpg

絵は建造中のオッシュ。
この、スカイツリーみたいな背の高い塔がファイティングマストである。
続いてもう一枚。

Lancement_du_Hoche_mg_9695.jpg

こちらはフランス海軍博物館に収蔵されている「オッシュの進水」と題された絵画。右端の尖った部分が体当たりで敵艦を沈める「衝角」、甲板よりも喫水線の膨らんだ丸っこい形が「タンブルホーム」だ。鮮やかな色使い(進水式向けなのか?)もおもしろいが、この段階で進水してるのに、なんでさっきの絵ではもっと艤装が進んでるみたいなのにまた乾ドック入りしてるんだろう? 船って建造中に何度も浮かべたりドックに入れたりするもんなんだろうか。

そして、これが完成したオッシュの雄姿を模型で再現したものだ。

MuseeMarine-cuirasse-1900-p1000442.jpg

丸~い。なんだか「夢に出てきた超兵器」みたいな形がなんとも嬉しい。周りに広げられているのは、水兵さんの食事をまかなうための魚網ではなくて魚雷防御網だが、これのせいでなんだか空を飛びそうにも見える。なお、このステキな模型もパリのフランス海軍博物館収蔵。
今回はなんだか引用画像大目なのは、完成写真がないからだ。

上の模型は完成直後の艦形だが、狭い甲板(タンブルホームだから)にいろいろ積もうとしたせいで上部建造物の背が高くなりすぎて引っくり返りそうで危ないよ、ってんで後に両舷の副砲をおさめた装甲戦闘室や後ろ側のファイティングマストが撤去され、ついでに機関も交換して特長的なバカデカい四角い1本煙突が横並びの四角い二本煙突+細い丸煙突に変わっており、今回MODELIKが模型化したのはこの改装後の状態となる。

Hoche rys.1

画像はMODELIKのキットに付属する図面。まだまだファンタジックな艦形だけど、これでも近代化してんのよ。
近代化はしたけれども、より本格的な「戦艦」が出てくると、カタチはオモロイけど速度は遅いし、航続距離は短いし、おまけに引っくり返りそうな船は使えないので1913年、オッシュは射撃の標的として海没した。

Hoche ark.1Hoche ark.3

キットのテクスチャは汚しのないスッキリとしたタイプ。甲板の狭い艦なので、甲板木目が少し寂しい、というモデラーは自分で木目パターンを貼るのに挑戦してみるのもいいだろう。

Hoche rys.2Hoche rys.3

組み立て説明書は面をグレーで塗ったライン表現でクローズアップ方式となる。甲板上の小物は少ないが、それぞれはなかなか凝った作りのようだ。
このキットのデザイナーの”Michał Glock”氏は、あまり多作ではないがMODELIKで第一次大戦のフランス海軍戦艦「クールベ」や第二次大戦のイタリア海軍巡洋艦「ジュゼッペ・ガリバリディ」をリリースしている、ちょっとどうかしているデザイナーだ。

MODELIKのフランス海軍装甲艦、LA HOCHEは海戦スケールの200分の1で全長約50センチという手ごろなサイズ。難易度も5段階評価の「3」(普通)となっており、これから艦船を始めてみよう、というモデラーにもおすすめできる内容だ。定価は45ポーランドズロチ(約1500円)、レーザーカット済み芯材用厚紙は30ズロチ(約1000円)での同時発売となる。

第一次、第二次大戦ではさっぱり存在感のなかったフランス海軍だが、装甲艦黎明期には次々に新型の装甲艦を就航させていた。カードモデルでも、近代装甲巡洋艦の始祖といわれる「デュピュイ・ド・ローム」(1895年)がMODELIKから(これも、オッシュと同じくGlock氏のデザイン)、防護巡洋艦の先駆け「ラヴォアジエ」(1897年)がOrelから発売されるなど、この時代のフランス艦は無視できない勢力となっている。
フランス海軍ファンはこの夏休み、オッシュ、デュピュイ・ド・ローム、ラヴォアジエを机の上に並べ、史実より20年早く第一次世界大戦が始まって、フランス海軍が他国を圧倒して世界の海を手中に収める架空戦記に思いを馳せるのも楽しそうだ。



キット画像はMODELIK社サイトからの引用。
その他画像はWikipediaより引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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ジャンル : 趣味・実用

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しびれるチョイスに乾杯!

きてますねー。
まさか売り物でオッシュが出るとは・・・。
「買うやついるのか?」と,要らぬ心配をしてしまいたくなる製品化チョイスの素晴らしさに感激しています。
”Michał Glock”氏,読み方わかりませんが,はるか極東の島国で,あなたのデザインしたキットを基にして,RC船として楽しんでいる変なマニアが私です。

Re: しびれるチョイスに乾杯!

azu kenさん、こんばんは。
いやはや、本当にこんな艦を「待ってました!」と歓迎する層があるのか心配でならないのですが、見れば見るほどこの艦、楽しいカタチしてますねー。
自分は、まだ艦船キットは1隻も作ったことのない「おかモデラー」なのですが、艦船に手を出す時には、まずこの艦から作りたい! と強く思いました。艦船初体験がこんなところだと、その後もあらぬ方向へ進んでいく事が決まってしまいそうですが……(笑)
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