GPM イギリス軍駆逐艦 ”CAMPBELTOWN”

300号を機に、これまでの専属デザイナー路線から、外部のデザイナーの作品をバシバシ買い上げて出版する方向へと大きく舵を切った(とわしが想像している)ポーランドGPM社の夏の大量リリースから、今回も外部デザイナーの作である一品を紹介しよう。
本日紹介するのはイギリス軍駆逐艦 ”CAMPBELTOWN”だ。
本作のデザイナーは”Maciej Herbut”氏。Herbut氏はAnswerブランドで作品を多数リリースしており、当ブログでは以前にAnswerのT-34ファミリーの設計者として名前が出ている。

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おっ! 久々のメジャーアイテム!
いや、「海の特攻大作戦」、CAMPBELTOWNを「メジャーアイテム」と言いきってしまうのもどうかしてると思うが、少なくともポーランド軍のモニター艦よりはメジャーだ。活躍もしたし。

駆逐艦”CAMPBELTOWN”(「キャンベルタウン」、古い資料では「キャンベルタウン」と表記されることもある)は、もともとは第一次大戦中に米軍がワッショイワッショイと111隻も建造してしまったウィックス級駆逐艦の一隻である。「ウィックス級」というのはあまり聞かない名前だが、太平洋戦争の海戦ゲームなどでは次級のクレムソン級なんかと一緒に「平甲板型」と一まとめにされていることもある。
なんで第一次大戦時のアメリカ海軍の駆逐艦がイギリス海軍にいるのかと言うと、1940年(参戦前)、Uボートによる海上封鎖が懸念されたイギリスに対し、アメリカ様が旧式とはいえ気前良く駆逐艦50隻をポポポ~ンと貸してくれたからだ。この供与は無償というわけではなく、複数の大西洋上の英海軍基地を米海軍が使用する権利と引き換えだったそうだが、それだって大西洋に米海軍が進出する足がかりなんだからイギリスとしては味方が増えるばかりで損することは何一つない。
そんなわけで、借りた駆逐艦も使ってドイツ潜水艦隊と仁義無き戦いを繰り広げていたイギリス海軍だが、彼らにはもう一つ頭の痛い敵がいた。ドイツ海軍の誇る最新鋭巨大戦艦「テルピッツ」である。
姉妹艦ビスマルクはなんとか撃沈したが、その過程において英海軍は巡洋戦艦「フッド」が真っ二つに折れて爆沈するという大損害を被っている。戦闘能力に優れる上に足まで速いティルピッツが、もし大西洋に出てきて商船隊をボッカンボッカン沈め始めたら、島国イギリスはたちまち干上がってしまう……という悪夢に英国首相チャーチルは連日連夜うなされていた。
だが、戦艦ティルピッツにも弱点があった。巨大すぎて寄港できる港が限られているのだ。特に、ティルピッツ級の大きさの船を入れて水門を閉め、完全に水を抜いて大修理が行える「乾ドック」となるとドイツ占領下のフランス、サン・ナゼールにある通称「ノルマンディー・ドック」ただ一箇所しかなかった。この名前は、超豪華客船「ノルマンディー」建造のために拡幅されたことにちなんでいる。
よし! じゃあ、この「ノルマンディー・ドック」を使用不可とすれば、修理不能のリスクを犯してティルピッツが大西洋に進出してくる可能性はグーンとDOWN! と思った英軍はこれを破壊する計画をたてたが、これがなかなか難しい。まず、空軍重爆隊が集中爆撃で粉砕する計画が立てられたが、当時の爆撃精度ではサン・ナゼール市街がぶっ飛ぶぐらいの爆撃を行わなければならないことが判明。いくらなんでも占領下のフランスの町をふっ飛ばしちゃうのはマズイでしょう、というわけで却下。次に、特殊部隊を潜入させ、こっそりと水門に爆薬を仕掛ける計画がたてられたが、なにしろ巨大ドックの巨大水門なので、必要となる爆薬が莫大になってしまい実行不可能としてこれも却下。地中海のナバロン要塞を爆破したミラー伍長なら、トンチでなんとかしてくれそうなもんだが、きっと他の案件で忙しかったんだろう。
最後の手段、として考案されたのが「爆薬を詰め込んだ駆逐艦で水門に乗り上げ、乗員は小型の魚雷艇で退避、駆逐艦を爆発させて水門を破壊する」というクレージーなアイデアだった。赤壁の戦いじゃないんだから。しかし、他にナイスなアイデアがなかったためにこの作戦は「チャリオット作戦」として認可される。
この「チャリオット作戦」のための突入艦として選ばれたのが、借りてた旧式駆逐艦「キャンベルタウン」だった。借りたものをそんな風に使っていいんだろうか。
1942年3月26日、この任務のために改造された駆逐艦キャンベルタウン、それと護衛と撤収を受け持つ小型魚雷艇はイギリスコーンウォールを出発、途中にUボートに遭遇したり、フランスの漁船に遭遇したりして「奇襲がバレたかな?」とヒヤヒヤしつつも28日午前1時にサン・ナゼールに到達。キャンベルタウンはドイツ軍艦旗を艦尾に掲揚し、「ボクちん、通りがかりのドイツ駆逐艦ですよー」と口笛吹き吹きドックへ近づいたが、もちろんドイツ軍は騙されなかった。たちまち銃火が集中する中、ドイツ軍艦旗を捨てて英海軍旗を揚げなおしたキャンベルタウンは増加装甲で強化された艦橋で敵弾を跳ね返しながら猛然とノルマンディードックの水門へ向け突進する。サン・ナゼールは遠浅な港で、艦艇の侵入できる進路は本来限られている。そのため、ドイツ軍はその水路に火砲の照準を合わせていたが、キャンベルタウンは砲塔、雷装、爆雷、さらに内装と舷側装甲も一部を剥がして軽量化、喫水を上げて浅瀬から突っ込んできた。ドイツ軍の砲火をくぐったキャンベルタウンはサーチライトに目が眩みながらも見事水門へ突入、完全に乗り上げる。乗船していたクルーと陸軍特殊部隊「コマンド」はさらに艦から飛び降り、さらなる港湾施設破壊へと向かったが、思わぬ誤算があった。キャンベルタウンは装甲を強化してたからいいけど、他の小艦艇はノルマンディー・ドックに近づけなかったのだ。ばびんちょ。
退路を失った上陸部隊は勇敢に戦ったが、結局は降伏するしかなかった。この作戦に参加した英軍兵士622人のうち、英国に真っ直ぐ戻ることができたのはわずか228人。169人が戦死し、215人がドイツ軍の捕虜となった。
なお、上陸部隊のうち5名はフランスとスペインを縦断、ジブラルタル経由でイギリスに戻っているというから、これまたタフな話だ。

さて、肝心の駆逐艦キャンベルタウンは翌日の昼、時限装置が作動し艦首に詰め込んであった爆薬4.5トンが爆発。さすがの巨大水門もこの大爆発で吹き飛び、ノルマンディー・ドックは終戦まで使用不可能となったのである(表紙右上の写真は、突入後爆発前に撮影された水門に乗り上げているキャンベルタウンの貴重な写真)。
そして、戦艦ティルピッツは大西洋に入ることなく、1944年、隠れていたノルウェーのフィヨルドで英軍重爆隊の爆撃を受け、横転、転覆した。

この現代の「苦肉の計」を受け持ったキャンベルタウン、もちろんGPMのキットもこの突入時をモデル化している。さっそく、公式ページの完成見本写真を見てみよう。

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もともとのウィックス級駆逐艦はひょろ長い4本煙突だが、キャンベルタウンはそのうち二本を切り倒し、さらに残る二本も斜めにカットすることで「ドイツ駆逐艦風」に艤装されている。エリコン対空機銃の細かいディティールにも要注目だ。

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「ドイツ風」かはともかく、4本煙突を斜め二本煙突にしただけでなんだか艦形がスラリと近代的になったような気がするのだからなかなかおもしろい。装甲の付与されたという艦橋の様子をもっと詳しく見てみたかったが、そこは「購入してからのお楽しみ」としておこう。慾を言えば、通常状態と突入時のコンパチキットとしてもらいたかったが、そうすると完成した時に使わなかった上部建造物のパーツがまるまる1隻分余ってる、ということになりそうなので仕方ないだろう。なお、実際のキャンベルタウンを改造する作業は機密保持のためか、たったの10日間で行われたという。

GPMよりリリースされた、無謀とも思える大胆な作戦でドイツ海軍の大西洋進出を防いだイギリス軍駆逐艦 ”CAMPBELTOWN”はスケールは艦船スケールの200分の1、駆逐艦なので完成サイズは約47センチとお手ごろな大きさとなる。駆逐艦なら山のような対空銃座や無限に艦載機を作る必要もないので、難易度は3段階評価の「2」(普通)だ。
そして定価は50ポーランドズロチ(約1600円)、専用エッチングパーツは60ズロチ(約2000円)、レーザーカット済み芯材用厚紙が30ズロチ(約1000円)での同時発売だ。
まるでアリステア・マクリーンの小説のような冒険を成し遂げたキャンベルタウンは、艦船モデラーのみならず、特殊作戦に興味のあるモデラーにとっても見逃す事はできない一品といえるだろう。
とは言え、客船「ノルマンディー」を建造しているモデラーのお宅の玄関に完成したキャンベルタウンをぶつけてくるのは、ただの迷惑だからやめておくべきだろう。



写真はGPM社サイトからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。


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こいつはたまらん

客船ノルマンディーを建造しているへっぽこモデラーでございます。
1/200キャンベルタウンの完成品を持って突撃された日には,迷惑どころか大歓待でございますよ。
しかも,煙突カットで装甲版盛りのお洒落仕様ときたもんだ!
こちらも突撃仕様のお船と言う事で,第一次大戦中のジーブルージュ強襲作戦で有名な,イギリス海軍イントレピッドをスクラッチしてお待ちするしかなさそうでやんす。

Re: こいつはたまらん

おおっ! 紙船界のノルマンディー・ドック、azu kenさん自らお越しいただきありがとうございます!
ちょうどタイムリーにGPMがキャンベルタウン(しかも突入仕様)なんて出すもんだから、どうしても絡めて紹介したくて勝手ながら勢いでazu kenさんのノルマンディーにも触れさせていただきました。
強襲狙いでいくなら、イギリスのハッシュハッシュクルーザー(改装前)なんてのも見てみたいですね。
ところで、もし誰かが家の前にキャンベルタウンを置いていっても、触らない方がいいですよ。翌日の昼にいきなりドカン! という可能性もありますから(笑)
展開図公開中
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