Orel ソビエト軍巡洋艦 Киров

プラモデル界では、「そういえば、そんなのあったっけ?」という感じの扱いをされることの多いソビエト海軍だが、もともと東側で発展したカードモデル界においては忘れることのできない重要な一ジャンルを構成している、と言っても過言ではないだろう。
今回はその中から、ウクライナOrel社が2010年の秋ごろにリリースしていたが、うっかりと紹介するのを忘れていたソビエト軍巡洋艦、Кировを紹介しよう。

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ソビエトの巡洋艦”Киров”(キーロフ)といえば、ゲーム「ソビエトストライク」でヘリ一機にボコられて大炎上していたミサイル巡洋艦キーロフ(たぶん、本物は強いよ)を思い出す読者も多いだろう。だが、今回Orelがリリースしたこのキーロフはいわばその「先代」にあたる。
革命後、ソビエト海軍は内戦で荒廃し、大型水上艦艇はその多くが失われていた。いくらソビエトが陸軍国とはいえ、海軍に艦船がないのはちょっとアヴァンギャルド過ぎるので再整備計画が立てられ、それに基づいて設計が開始されたのが、このキーロフ級(プロジェクト26)であった。
しかし、内戦で疲弊したソビエトには大型艦艇をデザインできる技術者がいなかった。そこで、ソビエトはイタリアから「モンテクッコリ級」巡洋艦の設計図をゲットする。イタリアは昔から軍艦の輸出が産業の一つとなっている(日露戦争時の日本海軍装甲巡洋艦「日進」「春日」もイタリアから買ったものだった)イメージがあるが、当時すでにイタリアは反共主義を掲げるムッソリーニ政権下だったのにいいんだろうか?
ソビエトでは、地中海の穏やかな海に向けて設計されたモンテクッコリの船体形状を砕氷性能を持つ船首に改め、イタリア艦の特徴であるオモシロ形状の艦橋を古典的な三脚式に変更するなどの改良を加え、「キーロフ級」として纏め上げる。原型では主砲は15センチ砲連装砲塔4基だったのだが、ソビエトには適当な15センチ砲がなく、勢い余って18センチ砲を三連装砲塔3基に突っ込んでしまったのがキーロフの特徴である。だが、わずか8千トンの船体に載せられる幅の狭い砲塔にこの主砲を三連装で搭載するのには無理があり、普通は一門づつ砲架に装備する主砲は3門まとめて一つの砲架に装備されていた。そのため各砲が交互に射撃、装填をすることができず、常に砲塔ごとで斉射することになってしまい、そうすると今度は砲と砲があまりに近いために互いの爆風で砲弾がアサッテの方向へ飛んでいくという、デカい砲を積めばいいってもんじゃない、という感じの艦になった。
それでも、まぁ、せっかく設計したんだし、というわけでキーロフ級はキーロフ、ヴォロシーロフ(Ворошилов)、マクシム・ゴーリキー(Максим Горький)、モロトフ(Молотов)の4隻が戦前に建造され、さらに戦時中に極東方面でカガノヴィチ(аганович)、カリーニン(Калинин)の2隻が完成した。なお、マクシム・ゴーリキー以降の4隻は設計に小変更が加えられているため、「マクシム・ゴーリキー級」と称する場合もある。
1938年、バルト艦隊に編入されたキーロフは1939年のソ・フィン国境紛争でフィンランド軍沿岸砲台を砲撃するために出撃したが、たった35発撃っただけで(主砲9門だから4斉射だ)、至近弾により損傷。慌てて引き上げている。
1941年の独ソ開戦時にはバルト三国のリガ(ラトビア)にいたが、ドイツ軍の前進が早すぎて危なく鹵獲されるところだった。複雑な島嶼の間を抜け、キーロフはタリン(エストニア)に脱出、迫り来るドイツ軍に艦砲射撃を加えるもその前進を止めることはできず、8月に他の艦艇とともにレニングラードへ脱出。ここでドイツ軍の機雷により封鎖される。
バルト艦隊はレニングラード防衛のために支援砲撃を続けたが、空爆、砲撃の損害も大きく、キーロフは42年四月に三発の爆弾と15センチ砲弾を浴びて多数の死者を出している。1944年、レニングラードは解放されたがキーロフはそのまま軍港に留まった。
1945年10月、戦争は終わったのに残っていたドイツ軍の機雷に触れ損傷。修理したり近代的改修を受けたりしながら頑張っていたが1960年に訓練艦となり、1974年、スクラップとして売却された。
なお、キーロフの前部背負い式砲塔二基は、現在もセント・ペテルスブルグにモニュメントとして残されている

そんな、微妙に存在感の薄い割に説明がメチャクチャ長くなった巡洋艦キーロフがOrelよりリリースされた。
けれど、完成写真がないので組み立て説明書からのCGイメージでなんとか話を進めよう。

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三連装砲塔のせいで大柄な船体に見えるが、海軍軍縮条約(ソビエトは非加盟)に従えば排水量は8千トンなので「軽巡洋艦」である。しかし、主砲は18センチもあるので「重巡洋艦」ともいえる。この辺は日本軍の「重巡洋艦の砲塔を積んだ軽巡洋艦」との共通点があって面白い(大きさ的には日本海軍の「青葉級重巡洋艦」と似ている)。余計なことせずに連装砲塔4基にしときゃよかったのに。

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テクスチャは汚しのないスッキリとしたタイプ。左側の画像の右上の黒部分は、なんか画像がぶっ壊れてた。
先ほどのCGイメージの周囲に散らばっている艤装部品の組み立て説明でもわかる通り、なかなか細かい部品の多い手ごたえのありそうな内容だ。

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組み立て説明書はCG表現のクローズアップ方式。あまりクリアな画像では見ることのできないソビエト艦艇の艦橋構造にも要注目だ。

Orel社のソビエト軍巡洋艦 Кировはスケールは海戦スケールの200分の1で約96センチというスラリとした船体が特徴。難易度は3段階評価の「3」(難しい)となっているが、この間のЛа-5戦闘機と難易度が一緒、ってのはなんだか納得いかないぞ。また、定価は155ウクライナフリブニャ(約1800円)となっている。
「海モノモデラー」の読者はこのキットでイタリア起源のスタイルを楽しむのもいいし、キーロフ級とマクシム・ゴーリキー級の次級にあたるチャパエフ級巡洋艦と作り比べてみるのも面白いだろう。もちろん、日本海軍の巡洋艦達と並べてみるのも興味深そうだ。
ソビエト海軍ファン、そして巡洋艦ファンのモデラーはこのキットを見逃すべきではないだろう。


画像はOrel社サイト公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。
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No title

はじめまして,azukenと申します。
いつも,ひっそりと楽しく拝見させていただいていますが,今回はキーロフということで,いてもたってもおられずコメントしてしまいました。
私は,普段海モノ模型ばかり作っているのですが,特にソ連とかイタリアの船を中心に作っております。現在は,今回紹介されているキーロフの準姉妹艦モロトフを作っているのですが,小さい船体に巨砲を9門も積んだアンバランスな船体は,へんてこな魅力に溢れております。
今後も,このようなみょうちくりんな兵器をたくさんご紹介いただけるとありがたいです。
また,もしよろしければ,私のブログからリンクをはらせてもらってもよろしいでしょうか?

Re: No title

azukenさん、初めまして!
このような、大した知識もないのにネットで集めてきた知識でつっかえつっかえ知ったかぶりをしている拙ブログにお越しいただき、ありがとうございます。カードモデルは東側で発展したために、聞いた事のないポーランドやソビエト、果てはブルガリアのマイナー艦がゾロゾロでてきて嬉しいやら、眩暈がするやら、といった感じです(フランス艦やイタリア艦もけっこう豊富)。
海モノを専門とされているazukenさんから見れば、解説にもなんとももどかしい部分もあるかと思いますが、このような内容でもよろしければリンク大歓迎です!

azukenさんのブログも拝見させていただきました。
マイナー艦が生き生きと甦るさま、まさに感服です! モロトフの完成も楽しみです。是非ともこれからも興味深く拝見させていただきたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします!
展開図公開中
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