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Heinkel Models アメリカ衝角艦 USS Katahdin

先日、リモート飲み会の最中にペットの話になり、ここ数年家に居着いている元野良猫を紹介しようと抱き上げたらすごい嫌がられて逃げられた上に、足に刺さった爪の跡がまだ消えない筆者のお送りする世界のカードモデル情報。いつもはおとなしい猫なんですけどね。

さて、今回紹介するのはスペインのデザイナー、Fernando Pérez Yuste氏のブランド「Heinkel Models」の新製品だ。
Heinkel Modelsは自身のブランドページを畳んでしまってからしばらく取り扱いショップでも更新がなくなっていたのだが、最近になってecardmodels.comZARKOV MODELSに相次いで、再販品から新製品までずらりとキットが並んだ。異形の艦が多いHeinkel Modelsのラインナップ、その中でも特に興味深かったアイテムを今回から数回に渡って紹介していこう。
まず今回紹介するのは、アメリカ衝角艦 Katahdinatore だ。

HNKL-1200-USS-Katahdin-Grey-cover-scaled.jpg

タートルバック型水雷艇かな? それにしては、後ろの方まで甲板らしい甲板がないし、なんか、変わったカタチの水雷艇だな、と思ったら、こいつの武装は自衛用の6ポンド砲が前に2門、後ろに2門のみで雷装はない。
んんん? じゃあ、どうやって敵と戦うの? と思ったら、なんとこいつ、体当たり専用の「衝角艦」である。

19世紀中盤、アメリカ南北戦争で「装甲艦」が登場すると、世界中の海軍は大問題に直面する。
前装式で砲丸をぼっこんぼっこん発射する当時の艦載砲では、装甲艦の装甲を撃ち抜くことができなかったのである。
一方、装甲艦の登場と時を同じくして、イギリスのエンジニア、ロバート・ホワイトヘッド(Robert Whitehead)が「魚雷」を発明する。これは水線下で爆発し、船底に大穴を開けることで装甲艦の撃沈が期待できたので1873年にイギリス海軍はHMS ヴェスヴィアス(Vesuvius、アメリカのダイナマイト巡洋艦「USS Vesuvius」とは別の船)を建造する。この船は16インチ魚雷発射管1本だけが装備という男らしい船だったが、艦の最高速度はわずか10ノット、魚雷の射程は1キロあるかないか、なので基本的に夜陰にまぎれて敵艦に接近してほとんど接触状態からズドンと脇腹に魚雷をぶっぱなすという、暗殺者みたいな戦い方が想定されていた。

イギリス海軍の主任造艦設計者であったナサニエル・バーナビーは、「どうせなら、もっと高速で、装甲もされている船を作って、敵の攻撃の中を突っ込んでいって魚雷を撃つというのはどうだろうか」と男らしいアイデアを提出。さらに、「どうせ高速で突っ込んでいくなら、ついでに頑丈な艦首で敵を突き刺しちゃえばいいんじゃないだろうか」とロマン溢れるアイデアを盛り込んでしまう。
こうして1878年に建造されたのが、イギリス海軍衝角艦HMS ポリフェムス(Polyphemus)であった。
ポリフェムスは最高速度約18ノットで、14インチ魚雷発射管5基の雷装、そして艦首に衝角を備えていた。

PolyphemusShip.jpg

Wikipediaからの引用(以下この項、表紙及びキット写真以外同様)で、ポリフェムスの衝角。魚雷をぶっ放しながら突っ込んでいって、突き出している衝角で敵艦をドーンと殺ってしまおうという大変わかりやすいコンセプトである。

800px-Polyphemus_in_drydock_Malta_3.jpg

もう一枚、こちらもポリフェムスの写真だが、なんだか衝角の形状が違わない? どうも船体形状も違うような気もするのだが、特に大規模な改修を受けたという記述もないので、単にそう見えるだけなのかはよくわからない。
よく見ると衝角の先端、半球部分が微妙に艶の加減が異なっているように見えるが、この部分は上に開くキャップとなっていて、中に魚雷発射管が入っている。魚雷発射管で相手をド突くのか…… いざとなれば衝角が突き刺さったまま魚雷を発射すれば破壊力百倍だな。さらにキャップがドリルになっていればもっとカッチョ良かったと思うぞ。
また、白服の人物の右側に舵のようなものが写っているが、これは見たまんま舵で、この船首舵のおかげで旋回半径が1割ほど小さくなり、より衝角攻撃での命中が期待できるようになったという。

このアイデアをどこかで知ったのか、あるいは誰でも思いつくものなのか、アメリカ海軍では同時期にUSS イントレピッド(Intrepid、もちろん同名の空母とは別の船)を建造している。

514px-Uss_Intrepid_1874.jpg

真正面からなので衝角の感じが全然わからないが、イントレピッド。やはり衝角の中に魚雷発射管が入っている。こちらは他に発射管を持っておらず、発射管もこの1基だけという潔さ。

ポリフェムスもイントレピッドも、小口径の弾丸は装甲を貫通できないので、高速で近づいて魚雷をぶっ放してついでに衝角攻撃もしちゃうぞ、というコンセプトだったが、ライフル砲の発達によりちょっとやそっとの装甲ではけっこう貫徹されてしまうことがわかり、また、そもそも魚雷の射程が飛躍的に伸びたために19世紀末には衝角攻撃なんてしないで、魚雷で一撃離脱を行ったほうがいい、ということになった。
そんなわけでイギリスはポリフェムスの他に発注していた追加の衝角艦2隻の建造はキャンセルし、これ以降「衝角艦」という艦種を建造していない。

しかし、どういうわけかアメリカ海軍では、「だったら、もっと小さくてもっと高速な船で敵弾をかい潜って体当たりすればいいんじゃないか」と明後日の方向へ進んでいく。
こうして、1893年に建造されたのがおそらく史上最後の衝角艦、USS カタディン(Katahdin)である。(「カタディン」はメイン州の最高峰、カタディン山のこと。ちなみにメイン州に本拠を置くアウトドアメーカー「L.L.Bean」のロゴマークはこのカタディン山をモチーフにしている)

797px-Detroit_Photographic_Company_(1030).jpg

USS カタディンの勇姿。錨があるので手前が艦首。……なんというか、不気味な船である。なお、写真着色はデジタル処理ではなく、もともとの着色されている絵葉書からの引用らしい。
このスタイルなら乾舷がほとんどないので、自衛用の小口径砲の砲撃の的になりにくいという狙いだったようだ。
なお、最高速度は16ノットなので、実は言うほど高速でもない。

USS カタディンは誰がどう見てもわかるように船内があまりに狭く、また換気も悪く大変乗員に不快な船であった。
そして、誰がどう考えても体当たり専用艦なんて使いみちないので、衝角艦の建造はこのUSS カタディンをもって終了した。じゃあなんで作ったんだ、こんな船。

USS カタディンは一応、艦隊に組み込まれ米西戦争ではスペイン艦隊の来寇に備え沿岸防衛の任務についたが、スペイン艦隊は来なかったし、たぶん、来たところでカタディンの出番はなかっただろう。
結局、1909年7月9日に退役し、その年9月に射撃実験目標として撃沈された。

それでは、このなんとなく建造されたけどやっぱり使いみちがなかった衝角艦 USS Katahdinの姿を取り扱いショップページの完成見本写真で見てみよう。

HNKL-1200-USS-Katahdin-scaled.jpg

うーん、やっぱりなんて言ったらいいのやら、カツオブシに煙突と救命ボートを取り付けたような、不思議なカタチの船である。この艦首形状だと、速度出して波に突っ込んだら下向きの力がかかって思いっきり艦首が水没しそうだけど大丈夫なんだろうか。
あと、前掲の絵葉書では司令塔の上に露天ブリッジのようなものがあるが、こちらにはそれが存在しない。突撃時には天幕と共に撤去できる構造だったのか、それともさすがにブリッジなしじゃ扱いにくくて後から追加になったのだろうか。腕に覚えのあるモデラーなら、天幕とブリッジを追加して絵葉書の状態に近づけてみるのも面白いだろう。

HNKL-1200-USS-Katahdin-Grey-scaled.jpg

展開図のサンプル。表紙では妙な市松模様がうっすら見えているが、キットでは装甲板のパターンがテクスチャ再現されているようだ。また装甲板はベタ塗りではなく、一枚づつ調子を変えエッジを際立たせる処理のされた軽い質感表現がされていることがわかる。

HNKL-1200-USS-Katahdin-White-Buff-cover-scaled.jpg

Heinkel Modelsからは白船体、黄色構造物の19世紀米海軍平時塗装バージョンも同時発売されている。同じくHeinkel Modelsから発売されているUSS Maineなど、他の19世紀米軍艦艇と組み合わせるなら、こちらの塗装を選ぶのもありだろう。

アメリカ衝角艦 USS Katahdinは海モノ標準スケール200分の1で完成全長約38センチ。難易度は5段階評価の4(難しい)、販売はデジタル版のみで定価はecardmodels.comで9.85ドル、ZARKOV MODELSで8.35ユーロとなっている。
衝角艦ファンなら、このキットは見逃せない一品と言っていいだろう。

ところで、話のついでに。
衝角艦の時代はあっという間に終わってしまったが、実は世界で最も有名な「衝角艦」は実在する艦ではない。
H.G.ウェルズの著した古典SFの超傑作、「宇宙戦争」中に主人公が弟からの伝聞で、火星人に蹂躙されるイギリスから脱出する避難民を乗せた船が三本足の火星人戦闘兵器(トライポッド)に襲われ、あわやという場面でイギリス海軍の軍艦が熱戦攻撃を受けながらも果敢な体当たり攻撃を行い2基を破壊、1基を撃退(最後の1基とは相打ちになったとも読める)して船を守ったというエピソードが出てくるが、このイギリス軍艦こそが「衝角艦 HMS サンダーチャイルド(Thunder Child)」である(原著チャプター17”The Thunder Child”内で、”It was the torpedo ram, Thunder Child”と明言されている)。
「宇宙戦争」では毒ガスと熱戦をばらまく火星のトライポッドに人類の攻撃は全く歯が立たないが、唯一、人類側でこの恐るべき兵器を破壊した事が明確になっているのが、このサンダーチャイルドによる衝角攻撃である。
かくして、衝角艦は現実には全く役に立たなかったが、SF史においては宇宙人に一矢報いた大殊勲艦として名を残したのであった。
いつの時代も、宇宙人を倒すのは体当たりと相場が決まっているのである。

Correa-Martians_vs_Thunder_Child.jpg

火星人のトライポッドに体当たり攻撃を行うサンダーチャイルド。ただし、これは原著ではなく、1906年発行のフランス語版の挿絵。挿絵を描いたヘンリク・アルヴィム・コレア(Henrique Alvim Corréa)はサンダーチャイルドを戦艦クラスの大型艦として描いているが、これがフランス語訳に伴うものなのか、コレアが見栄えを優先したのかはわからない。この図体で体当たりぶちかまされたら、そりゃトライポッドもたまらんだろう。



キット写真はecardmodelsから引用。

参考ページ:
https://en.wikipedia.org/wiki/USS_Katahdin_(1893)
https://ja.wikipedia.org/wiki/水雷衝角艦
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