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Z-Art ルーマニア古城 Hrad Corvin ・前編

もう若くはないので、一回ヘバってしまうと回復までやたら時間を要するようになった筆者のお送りする世界のカードモデル情報。歳だねぇ。今回紹介するのはチェコ Z-Art ブランドの新商品、ルーマニア古城 Hrad Corvin だ。

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表紙からしておどろどろしい雰囲気のこのキットは「『ノスフェラトゥの城』オラヴァ城」「『血まみれ女伯爵の城』チェイテ城」に続く、「Z-Art怪奇城シリーズ」の最新作である。なお、「Z-Art怪奇城シリーズ」は公式がそう銘打っているわけではなく、筆者が勝手にまとめただけなので注意が必要である。

キット名は「Hrad Corvin(コルビン城)」となっているが、この城は城主の名前を取って「フニャド城」、または建っている場所、ルーマニアはトランシルバニアのフネドアラ県県都、フネドアラから「フネドアラ城」とも呼ばれる。
「フネドアラ」という名前は、なんだか中日ドラゴンズのマスコットキャラが船にのってやって来たような名前だが、これは「名前が焼豚勧めてるみたいでオモロイ」として有名なハンガリー王マーチャーシュ一世もその一員であるハンガリーの名門、フニャディ家にちなむ名前である。
なお、ミリタリー界隈の資料で第25SS武装擲弾兵師団(ハンガリー志願兵部隊)の名称を「フンヤディ」と記しているものがあり、そのイメージで筆者は長らく「Hunyadi」と書いて「フンヤディ」と読むのだと思い込んでいたのだが、どうも最近のトレンドは「フニャディ」表記のようだ。個人的にはふにゃっとした感じの「フニャディ」表記よりも、関西弁で「私はフン族ですよ」と言っているかのような「フンヤディ」表記の方が強そうだと思うのだが、どうだろうか。

さて、このフニャディ家だが、どうもその出自がはっきりしない。あるいはハンガリー貴族の血筋だといい、あるいはまたルーマニア貴族の血筋だともいう。
とにかく、はっきりとした記録に登場するのは1409年のことで、ハンガリー王にして神聖ローマ帝国皇帝、ジギスムントがハンガリー王宮に仕えていた人物に「これ、あげるよ」とフニャド城とその周辺領地をぽいっとくれたので名前を「フニャディ・ヴォイク (Hunyadi Voyk、ハンガリー式表記なので名字が先にくる)」に改めた、という書簡が残っているそうだ。だが、なんでこの人が皇帝からお城をもらったのかはよくわからないし、この人物のこともあまり記録がないようだ。神聖ローマ帝国皇帝って、町だの城だのポイポイ人にあげちゃうな。

では、そのフニャド城の名前がなにに由来するのかっていうと、これがわからなくって、しれっと「街の名前にちなむ」ってWikipediaに書いてあったりする。なるほど、フネドアラの街はフニャディ家にちなんでいて、フニャディ家はフニャド城にちなんでいて、フニャド城はフネドアラの街にちなんでいるのか。そんなわけあるかーい!
結局、調べてもよくわからなかったのだが、中世ヨーロッパ史なんて素人が手を出すもんじゃないので、まぁ、そういうもんなんだ、と無理やり納得して先へ進もう。

フニャド家がこの城を拝領した時点では、まだフニャド城は堀と土塁があるだけの砦程度の規模だったが、フニャディ家は1440年ごろから本格的な城を建造し、これが現在のフニャド城の基礎となっている。
第一期工事は1480年代まで続いたが、完成した城は塔、背の高い塀、大聖堂などを備えた立派なもので、東欧屈指の名城となった。これは、東欧における対オスマントルコ帝国戦の拠点として整備されたようだ。

その後、15世紀、16世紀は修復のみで大きな改装はされなかったが、大きな改修が行われたのは17世紀。新たに大宮殿が増設され、また火砲の発達もあり新たな兵器庫、銃眼の追加が行われ、いわばフニャディ城[改壱]となった。
しかし、もともとが火砲登場以前の城であるために、せっかく改修したものの軍事拠点としての価値を失い、それ以降はフネドアラで生産される鉄の倉庫として使用されていた。それこそ某殿に「無駄だったな」とか言われてしまいそうである。

その後は顧みる者もおらずフニャディ城は荒廃が進んだ。1807年、ハンガリー王フェレンツ1世(神聖ローマ帝国皇帝フランツ2世の肩書の方が有名)が立ち寄った際に、「あのお城、もうちょっときれいにしたら?」と修復を命じたが、1818年、落雷により火災が発生し修復は中止。さらに1854年に原因不明の火災で再度炎上してしまう。

しかし、時を同じくしてハンガリーは「オーストリア=ハンガリー二重帝国」の一部として王国の地位を取り戻し(それまではハプスブルグ家オーストリアの一部扱いだった)、それに伴う国民意識の高まりもあって、ハンガリー王も排出したフニャド家居城、フニャド城を再建しようという運動が国民の間でも高まった。

Burg_Vajad_Hunyad_(Rumaenien).jpg

Wikipediaからの引用(以下この項、表紙写真以外同様)で、19世紀中盤、廃墟だったころのフニャド城。手前半分の屋根が失われている。

そんなわけで1868年、民間からの公募を募り数十年に渡るフニャド城再建プロジェクトが始まる。
このプロジェクトを指揮したのがハンガリー科学アカデミーの一員であり建築家でもあるシュタインドル・イムレで、イムレは荘厳なゴシック洋式の傑作である素晴らしく美しいハンガリー国会議事堂の設計者としても知られる、この時代のハンガリーを代表する建築家であった。

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ハンガリー国会議事堂。これでもか、と言わんばかりの装飾。超豪華。

ところが、イムレはフニャド城を再建するにあたり、自身の信奉する最高の建築様式、ゴシック洋式に沿わせるために歴史的な経緯をざっくりと無視した。残されていた遺構を設計に合わないから、って撤去、解体もしたというからちょっと乱暴すぎる。まぁ、人間の科学と文化に対する万能感が半端ない19世紀のことなんで、イムレ個人だけを責めるのも酷であろう。
その結果、城は原型と関係なく再建された。ハンガリーの作家にして国会議員、そしてイムレと同じくハンガリー科学アカデミーの一員でもあったカルマン・ミクサースは「城の中の城、『城の王』と呼ぶに相応しい」と絶賛したらしいが、その美しさは歴史的なものではなく、いわばノイシュバンシュタイン城のような、作られた「美のための美」であった、と言ってしまっては酷であろうか。

ただし、これには当時からも批判はあったようで、この19世紀の大修復直後から元の姿を取り戻そうという動きはあったようだ。
その先導となったのが建築家、イストヴァン・メラーで、彼は資料にもとづきいくつかの箇所を改修している。この動きは戦後、1956年からは継続的なプロジェクトとなり、現在もそれは続いている。
現在、フニャド城は博物館として公開されており、朝9時から夜8時半まで見学できる(最終入場は夜7時45分。また、なぜか月曜だけ昼12時開館)。入場料は31ルーマニアレイ(約800円)。

ちなみに東欧には「フニャディ城」というお城はもうひとつあって、こちらはハンガリーの首都、ブダペストに建っている。
ただし、こちらはルーマニアのフニャディ城に輪をかけた文字通り「作り物」のお城で、マジャル人の大首長アールパード(Árpád)がハンガリー大公に就任してから一千年目となる1896年の5月2日から10月31日までぶっ通しで続いた「ハンガリー建国一千年祭(1896-os millenniumi ünnepségek)」の目玉として記念祭メイン会場の公園に建築された歴史パビリオンであった。
なので、一応はトランシルバニアのフニャド城を模してはいるものの、一千年のハンガリーの歴史が様式に取り込まれており、ロマネスク様式あり、ゴシック様式あり、バロック様式ありで一つの城というよりも建物の集合体と見たほうがいいだろう。
この城は納期が厳しかったのと予算の都合で当初なんと驚きの木造建築だったそうだが、非常に好評であったために建国一千年祭の後も残されることとなり、1904年から1908年にかけて石材で再構築されている。

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ブダペストのフニャディ城全景。

800px-Vajdahunyad_vára_(16291_számú_műemlék)_10 576px-Corvinesti_Castle_2011_-_Under_Restoration.jpg

ルーマニアとハンガリー、2つのフニャディ城の写真。左がハンガリー、右がルーマニア。確かによく似ているが、よく似てるのはここだけで、全体的にはそれほど似ていない。なお、ルーマニアのフニャディ城に足場が組まれているのは2011年に行われた改修中の写真であるため。

800px-Lugosi_Béla_(1882-1956)

ハンガリーのフニャディ城は現在も公開されており観光が可能(入場無料)だが、まぁ、いわば歴史を題材としたテーマパークなので、吸血鬼がハマリ役だった映画俳優、ベラ・ルゴシの胸像がいきなり飾ってあったりする。
なんでベラ・ルゴシなのかというと、ルーマニアのフニャディ城が「ドラキュラ城のモデルである」という噂があったためだが、そのあたりは後編で。
(後編に続く)



参考ページ:
https://en.wikipedia.org/wiki/Vajdahunyad_Castle
ハンガリーの方のフニャド城。
その他の参考ページは最終回にまとめて掲載予定。
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No title

建築物のカードモデルはやはりチェコのものがよくできていると思います。 ただしプラハ城を除けば日本人にはなじみがない建物ばかりなのが残念な所です。CADを駆使したミラン・バルトスのモデルのうちでDucaseやBetexaのものは持っており、正確性と美しいテクスチャーの両方が楽しめます。難易度を選べるオプションパーツが多量にあるのも嬉しいです。Z-artからも数点出ていますがFentensあたりでしか入手困難でしょう。 ミラン・バルトスのサイトは http://cockin-m.wz.cz/index.php でFentensのサイトは https://www.papermodel.com/ です。 ご紹介のフニャディ城(ミラン・バルトスのデザインではないですが)も入手できます

Re: No title

Abさん、情報ありがとうございます!
そうなんですよ! チェコのブランドは建物とタトラのトラックにすごく力を入れているようなんですが、どちらも日本人には馴染みのないチョイスで「欲しいけど要らない」アイテムばかりなんですよね。
一昔前はチェコのショップはどこもチェコ語版しかなくて、ポーランド経由でもなかなか手に入らなかったんですが、最近は英語のページがあるショップや、ポーランドのショップでの取り扱いも増えてきましたね。
個人的にはBetexaのショップが品揃えが良さそうなのですが、また注文したことはないです。そのBetexaのショップ、建物だけでも「シャトー」「キャッスル」「ビルディング」とカテゴリがあって、「ビルディング」の中にさらに「カテドラル」とか「チャーチ」とかのサブカテゴリがあるという充実っぷり。なにがチェコのモデラーをそこまで建物モデルに駆り立てるのでしょうか……
というか、シャトーとキャッスルの差が全くわかりません(笑)
引き続きよろしくお願いいたします。

No title

Betexaは2002年に数点買ったことがあります。 悪くなかったですが昔のことですから今はわかりません。 品揃えからするとFentensはお薦めです。一年前にどこでも品切れだったL Instant Durableのパリのノートルダム大聖堂やシャルトル大聖堂が買えました。ご存じのとおり「カテドラル」は「司教座」がある教会堂で「大聖堂」と訳します。司教座がない普通の教会堂は教会とか修道院と訳すのでしょうね。ついでに言えば「ノートルダム」は固有名詞ではなくて一般名詞なので各地にありますから混乱しないように「パリのノートルダム」とか「ランスのノートルダム」と言うようにしています。 想像ですが「シャトー」は「城館」、「キャッスル」は「城」という印象ですが、あくまでも想像です。「ノイシュバンシュタイン」のシュタインは石・宮殿・城の全部の意味がある気がします。

Re: No title

おおっ! 御教示ありがとうございます! その辺あいまいなまま記事書いてるのがバレちゃいますね(笑) 個人的には「牛久シャトー」の茨城育ちなので、実は「シャトー」には城よりもワイン農場のイメージが強かったりします。
Fentensは文字通り、世界中のキットが集まっていますね。見たこともないキットも多くて、ラインナップを見ているだけでも楽しくなってしまいます。情報ありがとございました!
引き続き、よろしくお願いいたします。

No title

初めてメールさせて頂きました。
紙模型の主に建築物を作ったり、集めていました。
Z-Art とDucase、オンドレへイジは小さな窓を作るのが大変で、それらが完成すると半分以上出来た様な気がします。
品揃えはやはりFentensが一番多いと思います。ユーロ建てでやや高いお値段とも思いますが、
元が安い物だし、何しろここでしか買えないとなると、つい買ってしまいます。
精緻なキットも良いですが、スペイン製(だったか)の緩い物も楽しいです。
紙質が結構厚くて、力業になります。
製作していると、ビックリ!(良い意味で)する物が有ったりします。

GPMも取り扱いは有りますが、新製品の入荷が遅かったり無かったりするみたいですね。
最近僅かですが、全体的に値上がりしたと思います。
でも古いキットがお安く出たり、新製品も割引されたりして、楽しいお店です。
自社開発の独軍に鹵獲されたT34を今度買いたいです。
Betexaは取り扱い品に幼児向けが多いですが、ジオラマ材料の完成品の樹木や、データ販売のキットを買いました。近頃は新製品の開発が止まっている様で、残念です。

長文失礼いたしました。

Re: No title

関西人さん、コメントありがとうございます!
建築物の窓は艦船の機銃、戦車の履帯と並ぶカードモデル大変ポイントの一つですね。と、言いつつもテクスチャ表現と立体表現の選択式になっていると、ついつい立体表現を選んでしまうわけですが(笑)
Fentensの品揃えは本当に魅力ですね。チェコやスペインの全然知らなかったキットが普通に並んでいたりして、見ているだけでも楽しくなってしまいます。個人的にはポーランドのsuper-hobby.comというショップが主にポーランドのキットを網羅しており、今度注文してみようと企んでおります。
引き続き、よろしくお願いいたします!
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