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ドイツのカタパルト船について 追加・前編

非常事態宣言と前後していよいよ職場がテレワーク勤務となり、機材を自室に運び込んだら2つある工作台のうち広い方を占領されてしまった筆者のお送りする世界的紙模型情報。
今回は、前回までお送りしてきた「ドイツのカタパルト船について」の記事で「記事中に名前が上がらなかったカタパルト船のキットがポーランドJSC社からリリースされている」という情報をコメント欄でいただき、急いで確認してきた結果をあたかも「あー、ちょうど今から追加記事書くとこだったですわー」と言わんばかりにひけらかす記事である。

前回まで4回に渡って4隻のカタパルト船を紹介してきたが、サイトによってはカタパルト船の数は7隻となっている。
この差分の3隻は厳密には、ルフトハンザから徴用したカタパルト船(「Katapultschiff」4隻とは別の「Schleuderschiff(射出艦)」という艦種だった。「Schleuder」というのはスリングショット、つまりパチンコのことだ。
カタパルト船と射出艦、どちらも水上機をカタパルトで発進するために作られた船であり、資料によっては区別されていないこともあるがカタパルト船がもともとルフトハンザが郵便飛行用に建造した民間船だったのに対して射出艦は空軍が大戦に備え、最初から軍での使用を前提に建造した艦船だった。
さらりと書いてしまったが、重要なことなのでもう一度書いておこう。射出艦は空軍が建造した水上機母艦である。
よく、「日本陸軍は空母を建造した」(厳密には航空機で直掩を行うことができる揚陸艇母艦)と揶揄されるが、ドイツ空軍だって負けてない。これは国家元帥ゲーリングが空を飛ぶものには全部空軍の指揮権を主張したのでこんなわけのわからないことになったようだが、ぶっちゃけこの調子では空母グラーフ・ツェッペリンが仮に完成していたとしても、まともに運用できたかはかなり疑問である。

それはさておき、射出艦1番艦「スペルベル(Sperber)」は1938年に完成した。スペルベルというのは鳥の ハイタカ のことだが、そう言えばイタリアが大戦中に客船を改装して建造していた航空母艦「スパルヴィエロ(Sparviero)」も同じくイタリア語でハイタカのことであった。
スペルベルは全長約70メートル、排水量約1000トンの小柄な船で機関がなぜかたった640馬力しかなく、最高速度が驚きの8ノットというやる気を疑う超鈍足(潜航しているイギリス潜水艦T級にも追い抜かれる)だったので、おそらく試験的な船だったのだろう。

より本格的な射出艦は1940年から建造が始まった「ブッサート(Bussard、ノスリ)」と「ファルケ(Falke、)」の2隻である。
2隻は同型艦で、全長98メートル、排水量約2000トンとそれなりに本気っぽいサイズだったが相変わらず機関は1800馬力と非力で、最大速力は12ノットしかない(イギリス潜水艦T級が浮上したら追い抜かれる)のでもちろん艦隊に随伴したりはできない。
射出能力はハインケルの20トンカタパルトを積んでおり、射出される機は4Gの加速で2.5秒後に時速180キロに達するという性能だった。

ブッサートは1942年5月1日、そしてファルケは1942年11月22日に就航したが、正直なところこの2隻は何がやりたくて建造されたのか、さっぱりわからない。
カタパルト船の記事でも触れたが、対抗するイギリス海軍は本格空母を持っているので水上機母艦での奇襲攻撃など仕掛けられるとは思えないし、ヨーロッパの主戦場は大陸なので「離島防衛のために飛行場に代わって水上機母艦が水上戦闘機を運用する」というのもあり得ない。
他にこの手の船を使う用途としては哨戒機の母艦としての運用や通商破壊が考えられるが、そうなると今度はカタパルト射出する必要性がよくわからない。なにしろ、ドイツの水上機(ドルニエ Do 18ブローム・ウント・フォス Bv138)は搭載しているユンカース ユモ 205が世界的にも珍しい航空機用ディーゼルエンジンなので、必要なら友軍の潜水艦の近くに着水して給油することだってできる。

実際、ドイツ軍にも明確な運用ビジョンはなかったようで、スペルベルがデンマーク、ブッサートとファルケがノルウェーに配備されたようだが、特に戦果のようなものはない。
ノルウェーの2隻は頑張ってイギリスからムルマンスクへ向かうレンドリース船団を攻撃したかったのかもしれないが、ドイツ軍はなぜか航空機による船舶攻撃にはとんと興味がなくて、長距離哨戒機が船団を発見したらUボートが攻撃に向かうというなんか回りくどい方式を取っていた。
なお、イギリス軍はこの戦法に対抗するために、商船にカタパルトを搭載してホーカー・ハリケーン戦闘機を射出、ドイツ軍機を追い払うという戦法を取った。このカタパルトを装備した商船は「CAMシップ(Catapult Aircraft Merchant Ship)」と呼ばれたが、CAMシップはカタパルトを増設しただけで飛行機の回収能力がなく、そもそも搭載されたハリケーン戦闘機も水上機として改造されていたわけではないので射出されたら最後は機を捨ててパラシュート脱出し、船団に掬い上げてもらうといういくらなんでも他に方法なかったのか、という運用がされた(CAMシップは41年の夏から43年の初春まで運用され、9回の射出が行われたが41年11月に「SS Empire Foamから射出、Fw 200を撃退後に脱出したパイロットを回収」という記録もある。11月の北海って……)。

Hawker_Hurricane_launched_from_CAM_ship_c1941.jpg

Wikipediaからの引用で、1941年5月31日、SS Empire Rainbow から射出されるハリケーン戦闘機。スコットランドでのテストの際の写真。

この写真でわかるように、CAMシップのカタパルトは蒸気式や圧搾空気式ではなく、ロケットブースター付きのドリーに乗せて加速する方式だった。どうせ1機射出してしまえば2機目はないので射出能力も1発限りでいいという判断だったのだろう。
(後編に続く)
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No title

初めまして、いつも楽しく読ませて頂いてますカタパルト艦ブッサートはJSCのモデルで外見のインパクトに引かれて作った事があります、モデル化される位だから資料があると思ったら探しても見つからない見つからない
ところでJSCの同モデル、機雷敷設UボートのU117と試作飛行艇Bv238が付属しているのですが何かブッサート/ファルケと由来があったんでしょうか…?

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Re: No title

ladder-23さん、Twitterの方でも御交流させていただいている凄腕艦船モデラー様と存じますがコメントありがとうございます!
U-117とBv238、もしかするとカタパルト艦から補給を受けたのかもしれないんですが明確にそれを裏付ける資料は見つけけられませんでした……
実は会合したことがあるのか、それとも単に空いたスペースに適当なアイテムを押し込んだのか、ちょっとポーランドの人の考えることは図りかねます(笑)
引き続きよろしくお願いいたします!
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