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ドイツのカタパルト船について・その2

室内に入る時に手のアルコール洗浄が徹底されたため、開発室が歯医者の待合室みたいな匂いになってきたと感じる筆者のお送りする世界のカードモデル的話題。今回も引き続きドイツのカタパルト船について。

前回までのあらすじ: ハインケルが『郵便飛行機用』として船舶用カタパルトとそこから射出される郵便飛行機を作ったら、なぜかソビエト海軍が買っていった。

まぁぶっちゃけ、ドイツも航空戦力の基礎としてカタパルトの研究を行っていたのをベルサイユ条約の制約で「郵便飛行機用」と誤魔化していたわけだが、郵便飛行機用のカタパルトってなんじゃらほい、と思ったら当時すでに船舶から郵便飛行機を飛ばすサービスというのがすでに存在して、それにも使えるんじゃね? という目論見だったようだ。

このサービスを行っていたのは当時のドイツ有数の客船会社、ノルデンドイッチャー・ロイド(Norddeutscher Lloyd 以下「NDL」と略)で、1927年に大西洋航路の客船「SS リュッツオウ」で水上飛行機で一足お先に郵便お届け、というサービスを行っていた。当時はまだ荷物を積んで大西洋を横断できる飛行機がなかったので郵便は客船に便乗して運ばれていたが、客船到着前に飛行機に積み替えて先発することで郵便の到着を1~2日早められる、というわけだ。

Luetzow_NDL.jpg

Wikipediaからの引用(この項の画像全て同様)で、SS リュッツオウ。1926年撮影。
SS リュッツオウはもちろん、巡洋戦艦リュッツオウ(SMS リュッツオウ)とは別の船で、1908年に建造された約9千トンの客船。
1914年の第一次大戦開戦時にはスエズにいたので開戦と同時にイギリスに拿捕され、「SS ハントセンド(Huntsend)」の名前で英軍に加えられ、1915年のガリポリ上陸作戦には病院船として参加した。
また、1917年1月3日にはクレタ島沖でドイツ帝国海軍潜水艦、SM UB-47に雷撃され損傷しているそうだが、あれ? 地中海にドイツの潜水艦なんていたの? と思ったら、ブレーメンの造船所で建造した潜水艦を分解して鉄道輸送し、オーストリア=ハンガリーで組み立て直すことでドイツ帝国は地中海にも潜水艦を複数保有していたそうだ(乗員の交代が面倒すぎるので後にオーストリア=ハンガリーに一部を売却している)。
NDLは1923年にこのSS リュッツオウをイギリスから買い戻し、ユンカース F.13の水上機型を搭載していた。

なお、SS リュッツオウは以前にも水上機発進のテストを行っているが、その時はクレーンで下ろすとかカタパルトや傾斜路で発進させるとかの普通の方法ではなく、船尾から海面に垂らしたシート状の滑り台で落とすという方法が試された。
この説明だと何がなんだかわからないので、実際の写真で見ていただこう。

800px-Lützow_tests_with_launching_seaplane_with_a_drag_sail_trailing_on_the_water,_WWI_(30507499932)

これは滑り台を畳んだ状態。船尾デッキの張り出しの下にある網に仕掛けが隠してある。

800px-SMS_Lützow,_tests_with_launching_seaplane_with_a_drag_sail_trailing_(30507498122) 800px-SMS_Lützow,_tests_with_launching_seaplane,_drag_sail_trailing_behind,_WWI_(29990591653) 800px-Tests_launching_seaplane_with_drag_sail_trailing_on_the_water,_Lutzow,_WWI_(29990588703)

ビローンと滑り台を展開した状態。ちょうど、飛行機の脱出シュートみたいな感じだが、時代的に考えてキャンバス地だろう。なんか、めっちゃ急角度に見えるんだけど大丈夫?

800px-German_Activities_WWI_Lutzow,_tests_with_launching_seaplane_(30536264461)

いってらっしゃーい。なるほど、垂らしてから船が進むことで滑り台がピンと張るのか……って、これ左右に踏み外して転落したら間違いなく死ぬぞ。一応、左右に折り返しがあって逸脱を防いでみたいだけど、いや、その程度じゃダメだろ。あと、まさかこの方法で収容もやるつもりじゃないよね? 使った後の滑り台を収容する方法もわからん。

この写真はもともと米海軍収蔵物から引用されており、あまり詳しい情報がない。キャプションも「第一次大戦中ドイツでの実験」となっているが、前述の通りSS リュッツオウは開戦時にイギリスに抑留されているので大戦中ということはあり得ない(水上機の形式から見て、戦後でもないだろう)。また、リュッツオウを「SMS リュッツオウ」と書いている写真もあるが、どうみでも巡洋戦艦の尻ではない。
とにかく、明らかなのはこの方法ではうまくいかなかった、ということだ。しかし、もしかするとSS リュッツオウの船尾にはこのテスト用の水上機設備が残されていたのかもしれない。

実際に運用している写真が見つけられなかったので、SS リュッツオウがユンカース F.13をどこに積んで、どうやって運用していたのか詳しいことはわからなかったが、尻から滑り台で落としていたということはないだろう。
と、いうことはクレーンでF.13を海面に下ろす必要があり、そのためには船を停めなければならない。郵便を早く届けるために船の到着が遅れるのでは本末転倒だ(まさかF.13を曳航していったということはないだろう)。

そこで、NDLは新造される5万トン級豪華客船「SS ブレーメン」に船舶用カタパルトを積むこととした。
「ブレーメン」という名前を聞いて梅澤春人先生のマンガ、「無頼男」を連想する読者も多いかと思うが、この場合はドイツ北部の都市、ブレーメンのことである。
NDLはブレーメンで創業した会社なので、代々フラグシップに「ブレーメン」の名前をつけており、今回のSS ブレーメン以前にも、
1858年の初代(創業時)、
1896年の二代目
1922年にアメリカから購入(元SS ポカホンタス)の三代目、
のブレーメンが在籍していた。
なお、日本語版Wikipediaでは1928年建造のブレーメンが「ブレーメン (客船・3代)」となっているが、なぜ3代目扱いなのかはわからない(英語版では「ブレーメンという名前を持つNDLの4番目の船だった」となっている)。在籍期間が短かった上に外国製だった元SS ポカホンタスを省いているのかもしれない。

なお、これ以外にも軽巡洋艦SMSブレーメンとか、まさかの潜水商船ブレーメン(第一次大戦中に英国の封鎖をくぐり抜けて中立国アメリカと貿易するために建造された)なんていう訳のわからないものもあるのだが、キリがないのでまた別の機会にしよう。
(その3に続く)



参考ページは最終回にまとめて掲載予定。
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