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カードモデルで辿るリヒャルト・フォークト博士の軌跡 その8

この歳になって、ようやくジャガイモの皮を包丁で剥くことができるようになった筆者のお送りする世界のカードモデル情報。
去年から続いてるブローム・ウント・フォスとリヒャルト・フォークト博士が手掛けたオモシロ飛行機のキットを探す旅も、いよいよ今回で完結。

まずは前回のおさらい。
大口径機関砲を積んだ新型戦闘機として考案された、無尾翼レシプロ戦闘機がP 208(超カッコいい)。
それをジェット化したのがP 209.01(そこそこカッコいい)。
さらに緊急戦闘機計画に合わせてそれに尾翼をつけて辻褄合わせたのがP209.02(カッコ悪い)。
*()内は個人の感想です。

P 209は上記の通り「緊急戦闘機計画」(お手軽ジェット戦闘機調達計画)に調整されたものだったが、根本的な問題が一つあった。この機体はハインケル HeS 011ジェットエンジンに合わせて設計されていたが、緊急戦闘機計画ではエンジンはBMW 003が指定されていたのである。
以前にBv 141で「単発」仕様のコンペに単発機を送り込んだら双発機に負けたフォークト博士としてはエンジンの違いなんて大した問題じゃないと思ったのかもしれないが、やっぱりエンジンが仕様と違うと相手にしてくれないのでP 209.01をBMW 003にあわせて改修したP 210が設計される。
P 210は2008年にMODELIKから2008年にリリースされており、これは現在もカタログに掲載されている。

BV210 okladka n

Blohm and Voss rys1 Blohm and Voss rys2
Blohm and Voss ark1 Blohm and Voss ark2

MODELIK公式サイトからの引用で、表紙、組み立て説明書、展開図サンプル。あくまでもパッと見の感想だが、組みやすそうな展開図である。
表紙の絵を見ていて気がついたのだが、もともと重武装を機首に集中するために無尾翼機の形態を選んだのに、機首にインテイクを開けたらやっぱり機種に重武装積めないじゃないか。
MODELIKのP 210は空モノスケール33分の1で完成全幅約35センチ、定価25ポーランドズロチ(約800円)となっている。
お手軽価格なのでOrlikの P 208と作り比べてみるのもいいだろう。

なお、やっぱり無尾翼の操縦性が気になったのか、フォークト博士はP 210でもP 209と同様に尾翼をとりつけて通常形態としたP 211をP 210と同時に提出しているが、翼は芸のない四角形だし(矩形を後退させた後退翼バージョンのP 211.01とストレートのP 211.02があった)、そもそもエンジンの排熱で尻が燃えるというP 209.02の問題が全く解決されていないというやる気のなさだった。

この雑さが「緊急!」って感じで返ってウケたのか、空軍省は「一応、P 211は研究しといて」と指示を出している。しかし、緊急戦闘機計画には後にハインンケルのHe 162「ザラマンダー」が採用され、ブローム・ウント・フォスの無尾翼機は全て設計段階で破棄となった。
結局の所、ドイツ軍が制式採用したジェット機、Me262Ar234He162がどれもエンジンをポッドに入れて独立させているのを見ると、当時の信頼性が低く寿命も短いエンジンを胴体に埋め込んでしまうというアイデアそのもの間違っていたような気がする。これじゃエンジン破損したら機体全部分解しなきゃならない。

さて、緊急戦闘機計画は上述の通りHe 162の採用で終了したが、もちろんドイツ空軍は「もうすぐ敗戦だし、He162で開発もおしまいだな」と思っていたわけではなく、1945年初頭には次世代の緊急戦闘機の設計提出が各メーカーに求められた。
戦争が続けば、すでに日本本土に飛来していたB-29がヨーロッパ方面に投入されることは間違いなく、この次世代緊急戦闘機にはさらなる高性能が求められることとなる。
また、今度の仕様ではハインケルHeS 011ジェットエンジンがたぶんモノになるだろう(BMW003よりも推力で勝っていた)、というフラグっぽい淡い期待でハインケルHeS 011がエンジンに指定されていた。
ブローム・ウント・フォスはこの仕様に沿って、P 209.01 を再度整理した P 212を提出する。

P 212はインドネシアのカードモデラー、tekzo氏のブログpaperhobby無料公開されている。

P1150674.jpg P1150669.jpg

paperhobbyかの引用でP 212完成見本写真。
HeS 011を積んだ無尾翼機って、P 209 01とどう違うの? とも思うのだが、どうやら戦略物資を節約したり、細かい差異があるようだ。
というか、ぶっちゃけ素人目にパッと見ではP 209 01とP210とP212の違いがよくわからないので、それこそ3機種作り比べてみるというのも有りだろう。

cover4.jpg cover6.jpg isnt1.jpg isnt2.jpg

ちょっとディティールはあっさり気味だが、デジタルデータなので徹底的にディティールを書き込んで仕上げるのもありだろう。

P1150666.jpg

キットは嬉しい情景付き。ドイツ軍ジェット機の地上情景にはケッテンクラートがよく似合う。スケールは35分の1。
*キットのダウンロードはフリーですが作者は著作権を放棄していません。データは個人での利用のみが認められており、販売などはできません。

さすがにそろそろドイツはヤバそうだと感じたのか、フォークト博士は審査を待たずに早々にP 212の風洞実験を終え、さらに試作に取り掛かったが、試作に着手したのが1945年の5月ではもう何もかも手遅れだった。
結局、エンジンのハインケルHeS 011も戦争には間に合わなかったので、「戦争に間に合いそうにないエンジンのために戦争に間に合いそうにない機体を設計したら戦争に間に合わなかった」という順当な結果に終わった。

一方、B-29撃墜を目指す高性能緊急戦闘機計画とは別に、とにかく数を揃える緊急戦闘機計画ってのもあって、こちらでは高価だからってターボジェットエンジンさえ諦めて、原始的で構造の簡単なパルスジェットエンジンのアルグス As 014V-1飛行爆弾のエンジン)を積んだ戦闘機を計画しており、これに応じてフォークト博士はP 213を提出する。

213image01.jpg 213image02.jpg

画像はZarkov Modelsからの引用。Roman Vasyliev氏デザインの「Kampfflieger」シリーズからのリリース。
なんかもう、すごい悲しい感じのする戦闘機。
一応尾翼はあるけど垂直尾翼はなくて逆V字の水平尾翼で方向安定性を兼ねるつもりだったようだ。一応、排気ノズルの方が尾翼より後ろにあるので尻が燃える問題は解決した。
キットは48分の1で定価4.75ユーロ(約600円)となっている。

商品直リン
http://zarkovmodels.com/en/?pid=789

各社それぞれ悲しい感じの計画案を出してきたパルスジェットエンジン戦闘機計画だったが、よく考えてみたらパルスジェットエンジンって、前進する風圧で吸気するんで自力では発進できない(だからV-1爆弾はカタパルト発進か空中発進する)。もしこれが完成してもそれを発射するカタパルトを新たに作るか、あるいは空襲が始まったら母機が抱いて離陸して空中発進するしかなく、V-1の発射さえ空襲で不可能になりつつあるのにそんなことができるわけもなく1944年末には計画そのものが消えた。

その後、リヒャルト・フォークト博士はP 214、P 215とP 212の改修案を設計したがもちろん試作もできるはずもなく戦争は終わった。
戦後、フォークト博士はドイツの優秀な技術者を西側連合国に引き込むペーパークリップ作戦によってアメリカへ渡る。
博士はアメリカでアメリカ空軍、ボーイング社の技術者として働いたが、航空界への最大の貢献は翼の先端を折り曲げることで翼端の空気の流れを整形し、飛行性能を向上させるウィングレットの研究であった。このアイデアは現在でも多くの長距離旅客機で採用されている。
稀代の珍機、左右非対称機の開発者であったフォークト博士の残した最大の功績が長距離飛行の航続距離改善というのはなんだか意外な気もするが、博士が戦時中にも延々と戦後のために巨人旅客飛行艇を設計していたことを考えると、こちらの方が当人にとって希望する名の残し方だったのかも知れない。

1979年、異色の航空技術者リヒャルト・フォークト博士はカリフォルニア州サンタバーバラにおいて心筋梗塞により84歳で死去した。 現役引退後は、転覆しない安全なヨットの設計などを行っていたそうだ。



参考ページ:
https://ja.wikipedia.org/wiki/ブローム・ウント・フォス_P.212
https://en.wikipedia.org/wiki/Blohm_%26_Voss_P_213

https://ja.wikipedia.org/wiki/リヒャルト・フォークト
https://ja.wikipedia.org/wiki/ブローム・ウント・フォス
それぞれ、各国語版を参考とした
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