FC2ブログ

Murph's Models フランス 長距離偵察機 Salmson-Moineau S.M.1・後編

6月から異動になり、年末に予想される次の納期まで一息ついた筆者のお送りする世界の最新風カードモデル情報。今回はアメリカはアリゾナ州のブランド、Murph's Modelsからの新製品、フランス 長距離偵察機 Salmson-Moineau S.M.1 の後編。

DSCN6459.jpg

前回はポンプ屋のサルムソンが機体に横置きした星型エンジンからシャフトで左右のプロペラを回すという斬新すぎる新型機を勢いで作ってしまった、というところまで説明した。
サルムソン的にはこうやって胴体内にエンジンを格納すれば、機首方向の視界が広がる。重心に近い位置に重量物のエンジンがあるので良好な操縦性も期待できる。そして、もしエンジントラブルがあれば飛行中に整備することだってできる。ビバ! 機内エンジン! ということを考えていたのだろう。

もちろん、そううまくはいかない。まず、誰でも思いつくが、問題は冷却である。空冷星型エンジンってのは、前に進むと全シリンダーの冷却フィンの間を空気が通り抜けることを前提に設計されている。それを横置きで胴体内に埋め込んだらどうなるか。当然、冷えない。仕方がないので空冷なのに機首左右にラジエターを置くというわけのわからないことになった。というか、サルムソンの設計師達はこれでどうにかなると本気で考えていたんだろうか。

見るだけでヤバい、機構を聞くとさらにヤバいS.M.1だが、どういうわけか量産命令が出され、少なくとも124機(写真から判別できるシリアル番号の最大数)、おそらく150機程度がホイホイと生産されてしまった。
量産機が戦場に出て、すぐにこの機体が実践向きでないことがわかった。まずギヤを介してプロペラを回す機構は整備が難しく、戦場では故障が頻発。さらに胴体が上下翼の間で宙吊りになっている構造のために支柱が多く、空力的なロスのために性能も大して高くはなかった。また、この構造のためにS.M.1は全体的に強度が足りず、地面が荒れていたり着陸が乱暴だったりすると簡単に機体が崩壊した。

Biplan_Moineau_-_Fonds_Berthelé_-_49Fi1878-54

Wikipediaからの引用(この項、完成見本写真以外全て同様)で、S.M.1エンジン部分のクローズアップ写真。これ、せめてもう数十センチでいいからエンジンを外に出して風が当たるようにすれば少しは違ったんじゃないだろうか。

そんなわけで、性能が低い上にすぐにぶっ壊れるS.M.1はすみやかに戦場から引き上げられ、残存機は当時駄作機の吹き溜まりになっていたロシア帝国へと送られたが、そこでも評判が悪かった。どれぐらい評判が悪かったかというと、ロシア後版WikipediaにS.M.1のページが存在しないぐらい評判が悪かった。そのため、S.M.1が何機ロシア帝国に送られ、いつごろまで使われていたのかさっぱりわからない。
なお、サルムソンは後にS.M.1をなんとかしようと機首にもう一基エンジンを追加し、2エンジン3プロペラ機とさらに複雑怪奇な機構になったS.M.2も制作したが、それでは肝心の横置きエンジンの問題は何一つ解決してないのでもちろん試作に終わった。

S.M.1で渾身の空振りを記録したサルムソン社だったがこれにめげず、1917年には「サルムソン2」を開発する(名前から「M」が消えているので、ルネ・モアノは設計から外されてしまったようだ)。
サルムソン2は尾翼全体が昇降舵を兼ねていて全部がギコギコと動く以外はびっくりするほど変わったところのない飛行機だったが、この普通さが幸いして実に3200機という当時としては記録的な多数が生産され、最終的に全フランス軍偵察機の3分の1がサルムソン2で占められるほどの大ヒットとなった。

800px-Salmson_2_WW1_recon_aircraft.jpg

1918年撮影のサルムソン2。S.M.1とうって変わってすごく普通。上翼の影になって見えないが、胴体側面には星条旗が描かれている(角がちょっとだけ見えている)アメリカ陸軍航空隊の所属機で、パイロットはWilliam Portwood Erwin、銃座射手がArthur Edmund Easterbrook。二人はこの機体で敵機5機を撃墜している(Erwinは他にも別のパートナーと3機撃墜している)。

サルムソン2はその良き凡庸さによって米ヨーロッパ派遣軍に700機が納入された他、日本では「乙式一型偵察機」として国産化までしている。ちなみに日本陸軍は国産化の際にライセンス生産権をサルムソンから購入したものの、これがエンジンの生産権だけだったのを機体全体と勘違いして600機~900機(はっきりしない)も作っちゃったもんでサルムソンからマジ怒られた。
なお、サルムソン2(乙式一型偵察機)は岐阜県のかがみはら航空宇宙博物館に素晴らしいクオリティの復元機と、現存する機体一部が展示されているので、サルムソンファンのモデラーは近くまで行った折には是非とも見学しておきたい。

戦後、サルムソンは自動車開発にも進出。後に自動車部門は別会社化し数種類のグランプリ・カーとクーペを開発したが売上はパッとせずに1953年に倒産し、生産設備はルノーが購入した。

800px-Salmson_Grand_Sport_1924_(1).jpg

素晴らしく美しいサルムソン グラン・スポルト1924。2017年の撮影。グリルのX型の意匠がサルムソンのトレードマークのようだ。この時代のグランプリ・カーはどいつもこいつもため息が出るほど美しい。

サルムソンの航空機部門は1934年にサルムソン D-1"Phrygane"(昆虫の「トビケラ」) という軽飛行機を開発したが、ごちゃごちゃと改良した発展型も含めて30機ほどしか生産されず、1950年ごろにサルムソンは航空機、及びエンジン部門からも撤退した。

Salmson_Phrygane_photo_LAerophile_October_1934.jpg

1934年に撮影されたサルムソン D-1。特にダメなところはなかったが、飛び抜けたところもなかったので全体的に元気のないフランス航空界でパッとしないまま消えた。

航空機、エンジン製造から撤退したサルムソンは事業をポンプだけに集約。何度か大きな企業グループの傘下を移動しているものの、現在もサルムソンの社名で営業中である。

Murph's Modelsからリリースされたフランス 長距離ダメダメ偵察機、Salmson-Moineau S.M.1は37分の1で完成全幅約47センチとなかなか存在感のあるサイズ。難易度は3段階評価の「2」といったところか。そして定価はたった3ドルというお値打ち価格となっている。当キットはこういうダメダメ飛行機が好きなモデラーなら見逃すことのできない一品と言えるだろう。
また、サルムソン2 は2006年にWAKからキットが発売されているので、サルムソンファンのモデラーなら両者を並べてみることができるこの機会を見逃すべきではないだろう。

キット写真はMurph's Models公式ページからの引用。

https://murphs-models.webs.com/salmson-moineau-sm1
商品直リン



参考ページ:
https://ja.wikipedia.org/wiki/サルムソン
https://ja.wikipedia.org/wiki/サルムソン=モアノ_S.M.1
https://ja.wikipedia.org/wiki/ルネ・モアノ
https://ja.wikipedia.org/wiki/サルムソン_2

それぞれの日本語、英語、フランス語ページを参考とした。

*お知らせ
長らく改装中だったecardmodels.comが販売を再開、世界中のカードモデルデザイナーが提供する素晴らしいキットが次々追加中です!
スポンサーサイト



テーマ : 趣味と日記
ジャンル : 趣味・実用

コメントの投稿

非公開コメント

展開図公開中
最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
プロフィール

のとっちょ

Author:のとっちょ
カードモデル初心者が苦闘するさまをご覧あれ。

検索フォーム
おすすめショップ
リンク(順不同、敬称略)
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
製作進展中