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Orel ソビエト装甲トラクター ХТЗ-16・後編

あんまり3Dモデリングのセンスがないもんで、複雑な曲面で構成される形を作るのにいっそ紙粘土で原型作って3方から写真撮って3Dに起こした方が手っ取り早いんじゃないだろうか、とひらめいたものの紙粘土を買っただけでなんか満足してしまい、袋の中でカチカチに固まった紙粘土の塊だけが手元に残った筆者のお送りする世界のカードモデル最新情報。本日はウクライナOrel社からリリースされた新製品、ソビエト装甲トラクター ХТЗ-16の紹介3回目。

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1941年8月、СТЗ-3に装甲ボディを被せた車両は完成し「ХТ3-16(KhTZ-16)」の名前が与えられ直ちに量産が開始された。
トラクターに装甲ボディを被せただけの急造戦車ということで、НИ-1(いわゆる「オデッサ戦車」)と一緒に語られることもあるХТЗ-16だが、向こうがオデッサ守備隊がありあわせの資材ででっち上げた狭義の「急造車両」であったのに対し、ХТЗ-16は応急車両ながら、一応国防委員会が正式に認めた車両であり、「ХТ3-16」も公式な名称である(「НИ-1」は俗称)。ただし、一部の公式記録には「Т-16 (ХТЗ)」と記載されていることもあるそうだ。
ちょっと意外だが、ХТ3-16は正式な車両なので軍のトライアルに合格している。この試験でХТ3-16は470キロを走破し、路面の状態が良ければ時速17キロで走ることも可能だった。しかし装甲板に囲まれたエンジンは加熱しやすく、また背が高いために左右の傾斜に弱い(24度を超えると横転の危険性がある)という欠点があったという。

それでは、Orel社公式フォーラムから引用した完成見本写真でその姿を見てみよう。

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お、このアングルだとちょっと強そう。
主砲はT-26やBT戦車も積んでいる45ミリ砲なので意外と攻撃力はある。もとより真正面からドイツ戦車と撃ち合うような車両ではなく、待ち伏せして45ミリ砲弾を浴びせてすぐ移動する自走対戦車砲なのだから使いようによってはそれなりの戦果が期待できそうだ。なお、日本語版Wikipediaにのみ「武装は車両によってまちまちだが、DT機銃と軽量な山砲もしくは対戦車砲という組み合わせが多い」という記述があるが、この部分の引用元が書かれていないので何に基づいている情報なのかちょっとわからない(ロシア語版などでは武装は45ミリ砲と書かれている)。
また、「農業用トラクターを改造した」と表記されることの多いХТ3-16だが、厳密には軍用牽引トラクターСТЗ-3がベースなので農業用トラクターの改造ではない(もっともСТЗ-3の原型が農業用トラクターなので、あながち間違いでもない)。

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一見それなりに見えるХТЗ-16だが、やっぱり足回りの貧弱さは隠せない。主砲の45ミリ砲は1分間に5発の割合で発砲が可能だったが他の戦車に比べるとХТЗ-16の射撃は命中精度がやや劣ったそうで、これはサスペンションが柔らかすぎて発砲の動揺が収まるのに時間を要したからだろう。
ところでХТЗ-16の「16」ってどこから来た数字なんだろう。最初、重さなのかと思ったがХТ3-16の自重は7トン(資料によっては8.6トン)しかないので違うようだ。なお、自重7トンでも原型のトラクターの自重5トンよりは格段に重くなっているので、シャーシは強化されていたそうだ。また、履帯と転輪の一部はスターリングラードトラクター工場製砲兵トラクターСТЗ-5のものと交換されていた。

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一瞬だけ強そうに見えたХТЗ-16だが、冷静になってみるとやっぱり変なカタチだ。
ボンネット部分だけ装甲がリベット止めになっているが、これはおそらくエンジン交換時に装甲板を外せるようにだと思われる。装甲は側面13ミリしかなく小銃弾が防げる程度だったが、車体前面だけは30ミリもあり、これは20ミリ機関砲程度なら耐えられる計算だったので、2号戦車となら真正面向き合って撃ち合っても勝てそうだ。側面に回られたら負けちゃうけど。

ХТЗ-16は10月までにハリコフで1000輛、スターリングラードで500輛を組み立てるという壮大な計画が立てられたが、ドイツ軍の前進は想定以上に早く9月半ばにハリコフ工場は疎開準備に取り掛からなければならず、生産は遅々として進まなかった。
10月にはハリコフにドイツ軍が迫ったが、ブリヤンスク方面を突破して進むドイツ軍に対応するために戦車戦力を派遣していた赤軍はハリコフ防衛に割ける戦力がなく、第197突撃砲大隊の3号突撃砲12輛に支援されたドイツ軍に対してかき集められた装甲戦力は訓練用のT-27豆戦車25輛、修理中だったT-26戦車5輛(年式不明)、まさかのT-35多砲塔戦車4輛、そして13輛のХТ3-16というものだった(数字の上ではそれなりの数に見えるが、状態が不明で実際にどれほどの戦力となったのかは疑わしい)。
結局、キエフを占領して勢いに乗るドイツ軍を押し止めることはできず10月24日にハリコフは陥落する。
しかし、陥落直前の10月20日までに列車300編成に分乗してハリコフの工作機械はほとんどが運び出されており、これらは遠くウラル山脈で組み立て直され赤軍反攻のための貴重な戦力を生み出すこととなる。それを考えると、ハリコフ守備隊はわずかながらもドイツ軍を足止めするという目的をよく果たしたと言えるだろう。

ハリコフの陥落でХТЗ-16の生産は終了、最終的に完成したХТЗ-16は142輛に過ぎなかったとされている(スターリングラード工場はT-34の生産が忙しくって、ХТ3-16は1輛も作らなかった。ただし、資料によってはハリコフで生産されたのは約80輛で、他にパーツをスターリングラードに輸送して組み立てられたものが数十輛あったとしている)。
ハリコフで破壊されなかったХТЗ-16もドイツ軍の奔流の中次々に破壊されたが、モスクワ防衛戦時には第133戦車旅団が10輛程度のХТ3-16を保有していたことがわかっている。
ХТ3-16が最後に戦闘に参加したのは1942年5月、ハリコフ奪還のための戦い(第二次ハリコフ戦)だと考えられている。

なお、ウクライナ キエフの大祖国戦争博物館にХТ3-16とされる車両が展示されているが、どう見てもХТ3-16とは形が違う。

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(Wikipediaからの引用)
なんだか全体的にヘニャヘニャとした感じで、映画撮影かなにかのために作られた車両なのかもしれない。主砲も37ミリ機関砲っぽくて、日本語版Wikipediaの「武装は車両によってまちまち」という記述の出処はこの辺なのかも知れない。
また、クビンカにも似たような車両が展示されているが、そちらはそもそも足回りがХТ3-16と異なっている。
この2輛は世界中の現存車両情報がまとめられているSurviving Panzersによると、両方とも「reproduction」(再現車両)とのこと。
ウラル山脈東側、エカテリンブルクにほど近いヴェルフナヤ・ピシュマという場所にある軍事装備博物館に非常に状態のいいХТ3-16が展示されているが、これも近年になって作られた再現車両とのことである。

祖国を守るためにトラクターなりに頑張ったけど、まぁやっぱり無理だった感じのソビエト装甲トラクター ХТЗ-16は陸モノスケール25分の1で完成全長約17センチという小柄な車両。あんまりディティールもないので難易度は3段階評価の「2」(普通)、そして定価は226ウクライナ・フリヴニャ(約900円)となっている。当キットは急造装甲車両ファンのみならず、ソビエト製トラクター好きのモデラーにもオススメの一品と言えるだろう。
またMODELIKより発売されているT-27、T-26、T-35のキットと組み合わせデコボコハリコフ防衛隊を机上に再現するのもおもしろそうだ。



キット画像はOrel社公式フォーラムからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
https://ja.wikipedia.org/wiki/KhTZ-16
https://en.wikipedia.org/wiki/First_Battle_of_Kharkov
それぞれ日本語版、英語版、ロシア語版を参考とした。

https://nornegest.livejournal.com/497578.html
ХТ3-16の詳細な記事。貴重な写真も多い。

https://yuripasholok.livejournal.com/8920804.html
軍事装備博物館のХТ3-16紹介記事。砲などのパーツは一部他の車両から持ってきた本物を使用しているようだ。
今回のキットも、この車両を取材して作られたのかもしれない。
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