ノルウェー オスカシボルグ要塞・後編

前回までのあらすじ。
ノルウェー軍オスカシボルグ砲台を舐めプしていたドイツ軍重巡洋艦ブリュッヒャーは至近距離から命中弾を食らって大炎上中。

夜半にエリクソン大佐から呼び出されたアンデルセン臨時中佐(すでに13年前に退役して現在は年金生活中)は1909年から27年までこの魚雷陣地に勤務しており、発射装置については熟知していた。
しかし、問題は魚雷だった。40年前に製造されたオーストリア=ハンガリー帝国製ホワイトヘッド魚雷はこれまで合計して200回、訓練で発射、燃料(圧搾空気)切れ、回収、を繰り返してよく整備されていた。しかし、実際にその弾頭が作動するのかどうかは誰にもわからなかった。っていうか、魚雷って、そんなに繰り返し使うもんなんだろうか。
1940年4月9日4時30分。
アンデルセン中佐の目の前500メートルに炎上する重巡洋艦ブリュッヒャーがいた。
水面下3メートルまで沈められた魚雷が発進、最初の1発は中佐がブリュッヒャーの速度を速く見積もり過ぎていたために船体前部、A砲塔の下で爆発した。続く2発目では標準は修正されブリュッヒャーの船体中央に命中、船体隔壁を多数吹き飛ばした。

アンデルセン中佐は後続する艦艇に供えそれ以上の魚雷発射を控えたが、すでにブリュッヒャーの運命は決していた。
機関が停止し、漂流を始めたブリュッヒャーは座礁を防ぐために錨を降ろし、誘爆する前に全魚雷を陸地へ向けて発射したが5時30分、10.5センチ高角砲の弾薬庫に火が入り誘爆。船体側面が大きく裂けた上に艦の燃料に引火、さらに電源を喪失したために排水もできなくなり、もはや艦を救うことは不可能となった。
6時20分ごろブリュッヒャーは横転、艦首から沈み水面下に消えた。

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横転する重巡洋艦ブリュッヒャー。Wikipediaからの引用(この項キット表紙以外同じ)。
余談になるが、近代ドイツ海軍における「ブリュッヒャー」はこの船が2代目で、帝政ドイツ時代にもう一隻、装甲巡洋艦「SMSブリュッヒャー」という艦があるのだが、こちらの艦も1915年1月24日のドッガーバンク沖海戦で英軍艦隊の集中攻撃を受けて戦闘力を喪失した後、イギリス軍軽巡洋艦の雷撃を受けて横転沈没している。

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横転する装甲巡洋艦ブリュッヒャー。
偶然ながら、「ブリュッヒャー」は2代に渡って横転沈没する様が写真に収められた艦となった。

ブリュッヒャーの乗員とオスロ上陸要員の合計、約2200人のうち800人が犠牲となった(日本語版Wikipediaの「乗船していた2,202人の上陸部隊の内、830人が艦の火災や海に溺れ戦死した」という記述は上陸部隊と乗員の総計を混同しているものと思われる)。

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まだ冷たい5月の海から引き上げられた生存者。黒い服が海軍で、肩章襟章のついた少し明るいグレーの服が陸軍だろう。一番右の水兵、ほっとしたからって笑ってる場合じゃないぞ。

生存者(艦長と戦隊司令官含む)は全てノルウェー軍の捕虜となり近くの農場に集められたが、それを監視するような余分な兵力をノルウェー軍は持っていなかった。
夜18時30分、監視していたノルウェー軍が撤収。放ったらかしにされたドイツ軍は仕方ないのでみんなで負傷者を担いで歩いてオスロに行き、そこで病院に収容してもらった。

一方、ブリュッヒャーの後ろにいたリュッツォーその他はどうなったのかと言うと、ブリュッヒャーに水柱が立つのを見たリュッツォーはフィヨルドが機雷で封鎖されていると判断し後退。沿岸砲台の射程外から艦砲射撃を行ったがこれは命中しなかった。
4月9日の夜が明けるとドイツ空軍の空襲が始まる。要塞の対空戦力はわずかに40ミリボフォース砲2門(しかも1門は22発撃ったら故障した)と7門のコルトM29重機関銃(ブローニングM1917の輸出型)。これで世界最強のルフトヴァッフェを追い返せるはずもなく、9時間に渡る爆撃で要塞に対しておよそ200発の爆弾が投下されたが、どういうわけかこれまた一発も命中しなかった。

しかし、戦況はすでにノルウェーにとって致命的となりつつあった。各地でドイツ軍は上陸を成功させており、オスカシボルグ要塞にもオスロフィヨルド湾口に上陸したドイツ軍部隊が接近しつつあった。エリクセン大佐は寄せ集めの新兵では抵抗するだけ無駄と判断し、4月10に要塞を脱出。要塞はドイツ軍地上部隊によって無傷で占領された。同日、ドイツ軍オスロ占領。無防備都市になったオスロで薄ぼんやりしていたブリュッヒャー関係者も全員解放された。
オスカシボルグの戦いにおけるノルウェー側の損害はドイツ軍反撃の流れ弾による民間女性2名、うっかりドイツ軍掃海艇に近づいた紙運搬船の乗員2名(これも民間人)のみであったという。

オスカシボルグ要塞がオスロを守りきったのはたった1日だった。しかし、この貴重な1日の間にノルウェー王室、政府、議会はオスロを脱出。さらにオスロ中央銀行は備蓄してあった50トンの金の搬出に成功。それら全ては英国海軍によってイギリス本土へと送り届けられた。
さらに、ブリュッヒャーが沈没する際、事前に作成してあった軍政の計画、さらには逮捕すべき反動分子のリストなども失われており、ドイツ軍の占領政策は大きな遅れを取ったと言われている。

時は流れ1945年5月12日、ノルウェーを占領していたドイツ軍部隊が降伏。
オスカシボルグ要塞には40年4月9日に掲げられていたノルウェー国旗が再び掲揚された。
この式典にはエリクセン大佐も出席していたという。
戦後、エリクセン大佐は「要塞の放棄は早すぎたのではないか」との嫌疑をかけられ査問会が開かれたが、出された結論は当然ながら「まぁ、仕方ないよね」というもので無罪放免となった。大佐は1958年、82歳で死去。オスカシボルグのもう一人の老英雄、年金生活でブリュッヒャーを撃沈したアンデルセン中佐は1945年12月31日に亡くなっているが、同年12月13日の国王も列席した式典には出席しているので、なんらかの理由による急死だったようだ。

オスカシボルグ要塞は戦後さらなる改修を受け1990年頃まではオスロ防衛ラインに組み込まれていた。その後、砲兵士官学校となり2002年に6月28日に軍の施設としては閉鎖。要塞は博物館として整備され、現在は無料で公開されている。
2014年にドイツ軍のノルウェー侵攻とノルウェー軍の抵抗、そして国王の脱出を描いた映画「Kongens nei」撮影のために28センチ砲が実際に空砲を発射し、メディアは「1940年4月9日以来の発砲!」と書き立てたが、実際には50年代に試射が行われておりいささかこれはドラマチックな演出を狙いすぎたフカシ記事だったようだ。
さらに嬉しい情報。この「Kongens nei」、「ヒトラーに屈しなかった国王」の邦題で今年12月から日本で公開されることが決定(シネスイッチ銀座から、順次全国公開を予定)しているそうだ。ノルウェー軍ファンなら、大スクリーンでオスカシボルグ要塞の発砲が見られるこの機会を逃すべきではないだろう。

Google mapで見るオスカシボルグ要塞
特徴的な防盾付きの主砲が4門見えるが、よく見ると一番右側(リンクの地図は南北逆転しているので一番西側の1門)は砲身の短い30.5センチ砲。ストリートビューにも対応しているので、是非重砲の砲尾が並ぶ迫力を疑似体験していただきたい。

また、7月の段階では「近日発売」だったGPMの重巡ブリュッヒャーだが、8月になって定価が表示され販売が開始された。

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前編でも出したけども一回表紙。重巡といえども海モノ標準スケール200分の1で完成全長1メートルのビッグキット。難易度は意外にも3段階評価の「2」(普通)。定価は140ポーランドズロチ(約4600円)。また、手すりなど細い部品のディティールアップ用レーザーカット済パーツ、機銃座などの複数作成が必要な小部品のレーザーカット済パーツがそれぞれ140ズロチ(約4600円)、真鍮製砲身が50ズロチ(約1600円)で同時発売となる。
北欧作戦ファンのモデラーならこの冬は映画館に出向き、その余韻に浸りながらブリュッヒャーを製作するのもいいだろう。
GPMには是非とも200分の1オスカシボルグ要塞、もしくは25分の1オスカシボルグ28センチクルップ砲のキット化をお願いしたいところだ。



画像はGPM社サイトからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ
https://ja.wikipedia.org/wiki/ブリュッヒャー_(重巡洋艦)
https://en.wikipedia.org/wiki/Oscarsborg_Fortress
https://ja.wikipedia.org/wiki/オスロフィヨルドの戦い
https://en.wikipedia.org/wiki/Birger_Eriksen
https://no.wikipedia.org/wiki/Andreas_Anderssen
それぞれ、日本語、英語、ノルウェー語のページを参考とした。
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