Lachezar Dragostinov アメリカ 280mm M65 Atomic Cannon

伸びすぎた庭木の枝を切ろうと、高枝切りバサミをぶん回してあっちをチョキリ、こっちをチョキリ、と一時間も奮闘してたら慣れない力仕事で今も腕がプルプルしてる筆者がお送りする世界のカードモデル最新情報。今回紹介するのはLachezar Dragostinov氏デザインの280mm M65 Atomic Cannon だ。

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28センチ砲キタコレ! カードモデル界、今年のトレンドは28センチ砲か。
デザインしたLachezar Dragostinov氏は自分のページは持っていないようだが、facebookの情報ではブルガリア在住の方らしい。
氏はいくつかのカードモデルショップにモデルの提供を行っているが、今回はおなじみEcardmodels版での紹介だ。

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今回は写真多めなので完成見本写真が早々登場。写真は白色モデルだが、これがテスト組みだからなのか、それともキットも白色モデルなのかはちょっとわからなかった。しかしデジタル販売なので、なんなら自分で展開図に着色してしまえば問題ないだろう。
迫力の大口径砲だが、28センチ砲を25分の1の陸モノスケールでキット化なんてしようものなら、「完成品は静岡ホビーショーに置いてきなさいね」と奥方に言われかねない巨大さになってしまうのでスケールは48分の1。Dragostinov氏は他にもドイツ軍軽装甲車SdKfz 222やイタリア軍軽戦車L6/40、スウェーデン軍Sタンクなども48分の1でキット化している。

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48分の1というと、カードモデルでは「ミニスケール」と言ってもいいスケールだが侮ることなかれ、キットは細かい部分ディティールまでしっかりと再現されており、決して雰囲気だけの「イージーキット」ではない。

さて、この28センチ砲、ただの28センチ砲ではない。タイトルでもわかる通り、M65は核砲弾を発射するために開発されたある意味「究極」の火砲なのである。

1949年、米軍は「都市を戦略爆撃するだけじゃなくてさ、敵部隊に向かって大砲でドカーンと核兵器を打ち込んだら超強くね?」なんていう、終夜営業のファミレス明け方4時ごろのノリで凄い兵器を思いついた。現代の我々からするとアホかこいつら、という感じだが、優勢なソ連地上軍に対抗するにはこれしかないと当時は真面目に思ったのだろう。アホみたいだが。
このアホみたいなプランを押し付けられたのが1880年設立の陸軍兵器研究所、ニュージャージー州のピカティニー・アーセナルであった。ここはもともと大砲の開発はやっておらず、火薬、爆薬の研究が専門だった(ちなみに1926年に落雷で爆薬に引火して三日三晩、爆発し続けた事がある)。
そんな研究所に、なぜ今回だけ大砲の開発が命じられたのか理由は良くわからない。最初、爆薬の専門集団だから「核砲弾」の開発とセットなのかと思ったが、核砲弾の方は当然ながらロス・アラモス研究所が設計を受け持ってるんでそういうわけでもないらしい。あるいは、単に一晩寝てスッキリしたら「専用の大砲で核兵器打ち込むとか、ないわー超ないわー」と気づいてテケトーにヒマそうな所に命じただけかもしれない。

そんな感じでイマイチ本気なんだかなんなんだか良くわからない兵器だったが、ピカティニー・アーセナルのロバート・シュワルツはドイツ軍の列車砲を参考にこの前代未聞の兵器のデザインを仕上げた。特にデザインの参考とされたのはクルップK5E、いわゆる「レオポルド」列車砲だという。そのため、M65はアンツィオ上陸作戦時に連合軍を苦しめた2門のK5Eに連合軍が捧げたあだ名「アンツィオ・アーニー」になぞらえて「アトミック・アーニー」とも呼ばれた(アンツィオのK5Eは、1門が「アンツィオ・アーニー」、もう1門を「アンツィオ・エクスプレス」と呼んだとする資料と、2門まとめて(両方とも)A.アーニー、あるいはA.エクスプレスと呼んだとする資料がある。連合軍側がどちらの砲が発砲したか知る術はなかっただろうから、個人的には後者の方が正しいような気がする)。

当初、M65の設計は口径24センチで開始された。これは当時米陸軍が保有していた最大の火砲が24センチ砲M1榴弾砲だったので、M1の通常砲弾も使用できるようにしたかったのか、あるいは弾薬運搬車などを共用にしたかったためだろう。しかし、どうやら核砲弾は口径28センチ以下に収まりそうにないということが途中で判明し、試作1門だけが24センチで完成し、残る量産型は28センチ砲として整備された。

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砲身を後座させ、トレーラーに吊り下げられた移動状態のM65。今回のキットはこの前後トレーラーもキットに含まれるが、完成後に移動状態/射撃状態を切り替えられるのかは不明。基本的には吊り下げているだけであり、実車は15分で移動状態/射撃状態を切り替えられたというからこのサイズの火砲としては驚異的な機動力と言えるだろう。吊り下げた感じは「レオポルド」というよりも、60センチ自走迫撃砲「カール」に近い雰囲気だ。

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前後トレーラーにクローズアップ。それぞれが375馬力を発揮する2台のトレーラーは何かの流用ではなく、M65運搬用に新たに設計された専用車輌。生産はトラックメーカーのケンワースが担当したようだ。

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タイヤのトレッドパターン、プロペラシャフトとギヤケースなどのシャーシ・メカもしっかり再現されており、こちらもミニスケールながら妥協のない仕上がりとなっている。

1953年5月25日午前8時30分(現地)。
アップショット・ノットホール作戦で行われた11回の核実験の10番目、グレイブル実験で実際にW9核砲弾がM65から発射された。この際の動画はYoutubeなどで「Atomic Cannon」で検索をかけると見ることができる。
この時発射されたW9核砲弾は実験用の「弱装弾」などではなく、実戦用のフルスペックの物が使用された。
核出力は約15キロトン。これは広島に投下された核爆弾の出力とほぼ等しい。米軍はこの砲弾を押し寄せるソビエト地上軍に対してドカドカと撃ちまくるつもりだった。
広島、長崎への核爆弾投下からわずか8年で、核兵器はここまで来てしまった。
米軍はこの後、より小型化した核砲弾を開発し、通常の203ミリ自走榴弾砲からも核兵器を発射できるようにしている(155ミリ砲用核砲弾は開発中止となった)。

わざわざ言うまでもないが、核砲弾が実戦で使用されることはなかった。核砲弾の発射実験もその後行われておらず、1953年に行われたグレイブル実験が米国において(おそらく、世界でも)最初の、そして唯一の火砲による核兵器の発射となった(米軍は後に「核迫撃砲」とも言われる「デイビー・クロケット」で核出力20トンの超小型核兵器の発射実験を行っているが、これは砲身の先に差し込んだ核兵器を空砲で飛ばすもので、「火砲(キャノン)による発射」には含まれない)。
20門が生産されたM65は西ドイツ、韓国に配備されたが、先制攻撃により制圧されてしまうことを避けるために常に配置場所は変更されていたという。
しかし、さらに小型の核砲弾が自走砲から発射できるようになるとM65は唯一の「核火砲」ではなくなってしまい、そうなると超重砲としてはスピーディーとは言え発射体勢への移行に15分かかるのは展開速度の早い現代戦には不向きであった。
また、中距離、短距離ミサイルの進歩により射程が短い(敵の攻撃を受けやすく、発射した部隊やそれを守る部隊が被曝しやすい)「核火砲」そのものが時代遅れとなってしまう。
結局、M65は採用からわずか10年後の1963年には一線から引退することとなった。これは火砲としては非常に短い寿命と言っていいだろう。
M65はたった20門しか作られなかったが、その迫力ある姿がウケるためか7門も現存している(バージニア州戦争博物館の1門は24センチの試作型)。このうち、オクラホマ州米陸軍砲兵博物館に展示されている1門が、グレイブル実験で砲弾を発射した砲である(前後のトラクターは事故で失われたため、別の砲の物が繋がれている)。

Lachezar Dragostinov氏デザインの アメリカ 280mm M65 Atomic Cannon は48分の1でのリリースだが、このスケールでも前後のトラクターをつなげると完成全長は50センチを超えるビッグなキット。定価はEcardmodelsで23.5ドルとなっており、これはデジタルリリースの個人製作キットとしてはちょっと高目の印象を受けてしまうが、28センチ砲とトラクター2両の3点セットだと考えればかなりお手頃な価格と言えるだろう。そして難易度は5段階評価の「4」(難しい)となっている。

冷戦とソビエト地上軍に対する恐怖が生み出した「究極の火砲」M65。
火砲ファンのモデラーなら、この進化の袋小路に入り込み滅びた「怪物」の姿を記憶に留めるため、当キットの購入を検討してはいかがだろうか。



画像はEcardmodelsからの引用。


参考ページ:
https://ja.wikipedia.org/wiki/M65_280mmカノン砲
https://ja.wikipedia.org/wiki/W9_(核砲弾)
https://ja.wikipedia.org/wiki/アップショット・ノットホール作戦
それぞれの英語版も参考とした。
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