JSC オーストリア=ハンガリー帝国 小艦艇セット・4 潜水艦”SM U-5”

現場でお世話になっている上司の名字が少し特徴的なので由来をお尋ねしたところ、土蜘蛛退治で有名な源頼光まで家筋が遡れると聞いてテンション上がりまくった筆者がお送りするマイナーアイテム紹介コーナー。ちなみにうちの先祖は平家一門らしいです(眉唾)。
今回紹介するのはまさかの4回もの大連載になった ポーランドJSCの オーストリア=ハンガリー帝国 小艦艇セット から、 最終回となる 潜水艦”SM U-5”だ。

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お約束の表紙画像。
ドマイナー艦ばかりだった連載だが、実は今回のU-5がある意味最も有名な艦かも知れない。もっとも、「U-5」と聞いて「ああ、あの船か」と感づく読者は相当なオーストリア=ハンガリー通だろう。

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公式ページの完成見本写真。艦首フィンの赤白赤のオーストリア国旗塗装が目を引くが、ハンガリー国旗は書かなくていいんだろうか。JSCは潜水艦も船体上部のみのウォーターラインモデルでキット化することが多いが、今回は珍しくフルハルモデル。しかし、展示台がないのでなにか置き方を工夫しないと、写真のように波で打ち上げられたみたいな情けないことになってしまうぞ。

1904年、日本では日露戦争が始まったこの年にオーストリア=ハンガリー帝国(以下、「帝国」)は「どうやら他の国では『潜水艦』ってのを作ってるらしい」という情報をキャッチ。そんじゃまぁ、うちでも作ってみますか、と海軍技術部門に設計案の提出を命じた。
技術部ではこの未知の技術に1年かけて取り組み、成果として設計案をいくつか提出するが、海軍による検討の結果「全部実現不可能」として全てボツった。「海軍技術部門」って、なんなんだ……
自主開発を諦めた帝国は1907年、アメリカ人技師の”サイモン・レイク(Simon Lake)”、ドイツ人実業家「鉄鋼王」クルップ家の設立した”フリードリヒ・クルップ・ゲルマニアヴェルフト(Friedrich Krupp Germaniawerft)”、そしてイギリス領アイルランド人にして、世界初の実用潜水艦発明者である”ジョン・フィリップ・ホランド(John Philip Holland)”の三者に2隻づつの潜水艦を発注した。まだまだ潜水艦技術は揺籃期。3者の設計からいいとこ取りしちゃおうというわけだ。

1909年、注文に応じた3者から続々と潜水艦が届く。
まず、エントリーナンバー1番、サイモン・レイクの潜水艦2隻が「U-1」「U-2」として就航した(組み立ては当時帝国領のポーラ軍港)。
U-1級潜水艦はガソリンエンジンの効率が非常に悪く、艦内には排気が篭りがちであった。4枚の水中翼は極めて優れた水中運動性と良好な潜航能力を与えたが、海底走行用に艦底に収納式車輪を取り付けたのはどう見ても悪ノリの成せる技だったし、もちろんそんなものは役に立たなかった。
ちなみにサイモン・レイクは1912年に”レイク魚雷艇会社(Lake Torpedo Boat Company)”を興しアメリカ海軍向けに26隻の潜水艦を建造したが、会社は1924年に倒産した。

続いてエントリーナンバー2番、クルップの潜水艦、「U-3」と「U-4」。
ドイツのキール軍港で完成したこの2隻は1906年に就航したドイツ海軍最初の潜水艦、ドイツU-1級の改良発展型で、2ストローク灯油エンジンという変わったものを主導力としていた。この動力のおかげか、U-3級はトライアル3種のうちで最も信頼性、居住性に優れていると判断されたが、水中運動性がとにかくひどく、一回浮上すると頑として沈もうとしない、もうそれって潜水艦としてどうなのよ? な欠点があった。

最後が「本命」、ホランドの「U-5」、「U-6」。
この2隻はホランドがアメリカ海軍向けに設計した「C級潜水艦」とほぼ同型であり、その点での安心感は3者中で最も優れていた。なにしろホランドはこれまでにホランド潜水艦、A級、B級、C級と次々にアメリカ海軍のために潜水艦を設計してきた実績がある。
2隻はホランドが興したアメリカの”エレクトリック・ボート社”で基礎部分を製作し、ライセンスを受けた当時帝国領フィウメの”ホワイトヘッド社(Whitehead & Co)”で組み立てが行われた。名前でわかる通り、この会社は魚雷の発明者、”ロバート・ホワイトウッド(Robert Whitehead)”が設立した会社なんで、これまた信頼のブランドと言えるだろう。
U-5級は信頼性のある設計だったが、やや換気に難がありガソリンエンジンの排気が艦内に篭りやすいという欠点があった。
武装としては水平2連の魚雷発射艦が艦首に装備されている(普段は船体と一体化する流線型カバーがかかっているようだ)が、さらに2本の魚雷が上下に配置されており、2本の魚雷を発射したらこのクローバー型4連魚雷ラックを90度回転させてもう2本の魚雷が発射できるというギミックが組み込まれていたらしい。カッチョいい。

せっかく納品された3クラス6隻の潜水艦だが、帝国にはこれらをまとめたスーパー潜水艦を国産する時間は残されていなかった。
1914年、第一次大戦が勃発した時、U-1級はポンコツエンジンをなんとかしようとディーゼルに換装中だったので身動きが取れずにU-3級、U-5級だけで帝国は戦争に突入した。
U-5級はもう1隻、ホワイトヘッド社が自主的に建造した艦がありホワイトヘッドはこれをどこかの海軍に売り込もうとしてオーストリア=ハンガリー、ペルー、ポルトガル、オランダ、ブラジル、ブルガリアの各国海軍に軒並み断られていたが、第一次大戦の勃発により晴れてU-5級3番艦「U-12」として就航した。なお、番号が飛んでいるのはクルップにU-7からU-11を発注済みだったからだが、この5隻は開戦までに完成せず、建造していたキールからジブラルタル-地中海-オトラント海峡を突破してオーストリアに到着するのは不可能と判断されドイツ海軍U-66からU-70になった。
U-12を含めても帝国海軍の開戦時潜水艦戦力はわずか5隻。ちなみにフランス海軍の潜水艦戦力は67隻~75隻、イギリス海軍の潜水艦戦力73隻であった。

第一次大戦でU-5は1915年4月にフランス海軍の装甲巡洋艦、「レオン・ガンベッタ(Léon Gambetta)」排水量1万2千トンに魚雷2発を命中させ撃沈するという大戦果をあげている。また、1916年6月にはイタリアの兵員輸送船「SSプリンシプ・ウンベルト(SS Principe Umberto)」排水量8千トンを撃沈、1,926名が死亡するという第一次大戦最大の海難を起こしている(比較としては不適当かも知れないが、ドイツ軍Uボートに雷撃されて沈んだ大型客船「ルシタニア号」でも死者は1,198名に過ぎなかった)。
この、U-5の著名な戦果2件のうちの前者、レオン・ガンベッタ撃沈を果たしたのがオーストリア=ハンガリー帝国海軍軍人ゲオルク・ヨハネス・フォン・トラップ(Georg Johannes von Trapp)であった。
「オーストリア=ハンガリー帝国海軍軍人のトラップさん」でピントきた読者もいることだろう。そう、彼こそが映画「サウンド・オブ・ミュージック」などで有名なトラップ一家のお父さんである。
レオン・ガンベッタを沈めたトラップはその後、撃沈されたフランス海軍潜水艦「キュリー(Curie)」を浮揚・修理した「U-14」艦長に転任(U-5がP・ウンベルトを沈めたのはその後)、さらに戦果を伸ばし最終的に貨物船11隻、巡洋艦1隻(レオン・ガンベッタ)、潜水艦1隻(イタリア潜水艦「ネリーデ (Nereide)」)を沈め、戦果総トン数は4万5千トンに達している。
映画などでは元軍人として厳格な父に描写されるトラップパパだが実際には非常に穏やかな人格者で、家族は父の描かれ方に極めて不満を持っていたという。
なお、トラップパパは生涯に2度結婚しているが、猩紅熱で早くに亡くなった先の妻、アガーテは魚雷発明者のロバート・ホワイトヘッドの孫である。

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Wikipediaからの引用で、U-5潜水艦(当時の絵葉書)。横尾忠則画伯の絵のような色使いがグッと来る。

1917年5月、U-5は触雷して沈没したが浮揚の後に再び戦闘に戻っている。だが、再就航後は戦果はなく1918年に敗戦に伴いイタリアに賠償として引き渡された。その後、U-5は1920年ごろにスクラップとなっている。

トラップパパはその後、修道院から家庭教師としてやってきたマリアと再婚、全財産の預金を移して支援しようとした友人の銀行が破綻したことで破産したのを機に子どもたちで結成した合唱団が評判となり、ヨーロッパ各地を回る。
1938年、オーストリア併合でドイツ人となったパパにナチスドイツから「第一次大戦の英雄として海軍に復帰すべし」と要請がきたもののトラップパパはナチスの思想に共鳴できずにイタリアへ亡命(もともと、生地ザラが第一次大戦後にイタリア領になっていたのでイタリアの市民権を持っていた)、その後アメリカへ渡り1947年に肺ガンにより大波乱の人生を閉じた。

”SM U-5”はオーストリア=ハンガリー帝国海軍潜水艦カードモデルとしては現状唯一のキットである。帝国海軍ファン、第一次大戦潜水艦ファン、そしてサウンド・オブ・ミュージックファンのモデラーならこのキットを見逃すべきではないだろう。

と、いうわけで4回にも渡って紹介したJSCの オーストリア=ハンガリー帝国 小艦艇セット。
スケールはJSCの小艦艇スケール250分の1。定価は24ポーランドズロチ(約800円)とお手頃価格。
また、JSCはこのキット以外にもラデツキー級戦艦”ラデツキー”、テゲトフ級戦艦”フィリブス・ウニティス”、モナルヒ級海防戦艦”ウィーン”をリリースしている。オーストリア=ハンガリー帝国海軍ファンなら是非ともこれらをコンプリートし、机上に帝国艦隊を復活させたいものである。



キット画像はJSCショップサイトからの引用。

参考ページ:
https://en.wikipedia.org/wiki/U-1-class_submarine_(Austria-Hungary)
https://en.wikipedia.org/wiki/U-3-class_submarine_(Austria-Hungary)
https://en.wikipedia.org/wiki/U-5-class_submarine_(Austria-Hungary)
https://en.wikipedia.org/wiki/SM_U-5_(Austria-Hungary)
https://en.wikipedia.org/wiki/Georg_von_Trapp
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