JSC オーストリア=ハンガリー帝国 小艦艇セット・3 タトラ級駆逐艦”トリグラフ(SMS Triglav)”

いよいよ静岡ホビーショー目前、今年の出品作となる Paper-Replika 様のRPG-7が最終組立に入った筆者がお送りする、多分生涯に2回は話題にならなそうなマイナーアイテム紹介コーナー。今回はまだ続く、ポーランドJSC社からリリースされた オーストリア=ハンガリー帝国 小艦艇セット から タトラ級駆逐艦”トリグラフ(SMS Triglav)”を紹介。

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表紙。

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今回はこの写真のうち、4本煙突の大きい方が主役。
前回、小さい方250トン級水雷艇の記事で触れた通り、オーストリア=ハンガリー帝国(以下「帝国」)は開戦が近づいた1910年代になって、「どうやら次の世界大戦では主力艦で体当たりぶちかまして大勝利! なんて展開にはなりそうもないぞ」と気がついて小艦艇の整備に乗り出したが、開戦までに準備できたのは水雷艇約30隻、駆逐艦18隻にすぎなかった。
駆逐艦18隻の内訳は、フサール級12隻+タトラ級6隻だが、数の上で多数を占めるフサール級(Huszár class)はもともとイギリスで設計された船で、日本軍が日露戦争で使用した「雷(いかづち)型駆逐艦」とほぼ同型のタートルバック型駆逐艦だというから実質19世紀型の旧式艦であった。帝国はこの艦を1904年から1906年にかけて6隻建造したが、後にさらに7隻を追加建造している。1期6隻+2期7隻では計算が合わないが、1908年12月3日、よりにもよってネームシップの「フサール」が岩礁に乗り上げて沈没したため-1されて第一次大戦開戦時には12隻が配備されていた。
なお、沈んだはずの「フサール」はその後の第一次世界大戦で素知らぬ顔してしれっと帝国海軍に組み込まれてるが、これは2期建造7隻の1番艦(トータル7番艦)が「フサール」の名前を継いだためだ。沈んだ直後に2代目として同型艦に名前を引き継ぐってのは、ちょっと他の海軍では聞かない。
また、フサール級にはもう一隻、開戦時に中華民国海軍向けに「龍湍」として艤装中だった準同型艦が1隻あったが、これは帝国に接収され「ワラスディナー(Warasdiner)」の名前で帝国海軍に組み込まれている。

旧式化していたフサール級(排水量約400トン、石炭燃焼レシプロ蒸気機関で最大28ノット)に対して、質の上で主力となるはずだったのが、1912年から建造の始まった「タトラ級」で、その性能は排水量約900トン、石炭燃焼蒸気タービン機関で最大32.5ノットと、フサール級より大幅に向上していた。また、武装もフサール級の66ミリ砲1門、47ミリ砲7門、45センチ魚雷発射管2門に対しタトラ級は10センチ砲2門、66ミリ砲6門、45センチ魚雷発射管2門となり砲火力が大きく向上している。

前述の通り、帝国が第一次大戦に突入した時点での駆逐艦戦力はこれだけで全部である。
日本人の筆者としては太平洋戦争の数字を見慣れているせいで、一国の駆逐艦戦力としてはあまりにも少ない気がするがどうなんだろうか。せっかくだから、第一次大戦の各国海軍力を比べて見よう。
参考にしたのは第一次大戦の英国海軍とナポレオン戦争について詳しいイギリスMartin Gibson氏のブログ、「War and Security」内のエントリ、”The Naval Balance of Power in 1914”に掲載されている表で、この表自体は P. G. Halpern, A Naval History of World War I, (London: UCL Press, 1994)からの引用。各数値が意味する艦艇や、詳しい考察については引用元参照のこと。なお、当然のことながら数値の引用/計算間違いは全て自分の責任である。

まず、オーストリア=ハンガリー帝国海軍の開戦時戦力
・弩級戦艦 : 3隻+建造中3隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  3隻/6隻/3隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 2隻/3隻
・軽巡洋艦 : 2隻
・駆逐艦 : 18隻
・水雷艇 : 21~30隻

これに対して、敵となるはずのフランス海軍の開戦時戦力
・弩級戦艦 : 4隻+建造中8隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  6隻/14隻/1隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 19隻/9隻
・軽巡洋艦 : 2隻
・駆逐艦 : 81隻
・水雷艇 : 17隻

……いきなり勝てそうにない。
なんだ「前弩級戦艦14隻、装甲巡洋艦19隻」って。一生懸命増強した小型艦の数でも全然かなわないというこの惨状。フランス海軍って、強かったんだなぁ。
いや、まだチャンスはある。帝国はドイツと同盟を組んでいる。ドイツが参戦すれば、フランス艦隊の半分は大西洋に惹きつけられるはずだ。フランス海軍を2で割ると…………あっ、なんだ全然大丈夫! むしろ主力艦の数ではいい勝負だよ!

しかし、ここで新たな問題が。フランスはロシアと同盟を組んでいる。トルコがどちら側につくのかわからない(トルコ自体は主力艦が非弩級戦艦3隻、装甲巡洋艦2隻しかないので大した敵ではない)のでロシア黒海艦隊が地中海に進出してくる可能性もある。

ロシア帝国海軍の開戦時戦力
・弩級戦艦 : 0隻+建造中7隻+建造中巡洋戦艦4隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  0隻/10隻/1隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 6隻/8隻
・軽巡洋艦 : 0隻
・駆逐艦 : 42隻
・水雷艇 : 75隻

この表はロシア全体の数なので、バルト艦隊にいる分を引くと大体半分というところだろう。
まだ日露戦争の痛手から立ち直りきっていないために即戦力はそれほどでもないが、戦争が長引けば弩級戦艦が次々に地中海に入ってくる事態も予想される。
だが、まだ帝国にはもう一国、海洋国家の同盟国がある。イタリア王国だ。

イタリア海軍の開戦時戦力
・弩級戦艦 : 3隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  0隻/6~8隻/0隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 7隻/11隻
・軽巡洋艦 : 3隻
・駆逐艦 : 33隻
・水雷艇 : 71~85隻

おお、これだけの戦力があれば十分にロシア帝国地中海艦隊とやりあえる。まだ帝国海軍は終わってなかった!
と、思ったらイタリア海軍は連合側で参戦して上の戦力丸々敵になったよ。ぎゃふーん。

ここまで来て、「イタリアの裏切りさえなければ……」と一瞬思ったが、大事なことを忘れていた。
と、いうか、意図的に見えないことにしていた。
そう、フランスが参戦したらもちろんイギリスも参戦するという事実だ。

イギリス海軍の開戦時戦力
・弩級戦艦 : 22隻+建造中13隻+巡洋戦艦9隻+建造中巡洋戦艦1隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  0隻/40隻/0隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 34隻/52隻
・軽巡洋艦 : 35隻
・駆逐艦 : 221隻
・水雷艇 : 109隻

…………これまでの数字が全て無意味になった瞬間である。
一方、帝国最後の頼みの綱、ドイツ艦隊はと言えば、

ドイツ海軍の開戦時戦力
・弩級戦艦 : 15隻+建造中5隻+巡洋戦艦4隻+建造中巡洋戦艦3隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  0隻/22隻/8隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 8隻/17隻
・軽巡洋艦 : 16隻
・駆逐艦 : 90隻
・水雷艇 : 115隻

こんなん、本当に牽制にしかんらんわ。
せっかくだからまとめて見よう。

連合軍(イギリス+フランス+ロシア)
・弩級戦艦 : 26隻+建造中28隻+巡洋戦艦9隻+建造中巡洋戦艦5隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  6隻/64隻/2隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 59隻/69隻
・軽巡洋艦 : 37隻
・駆逐艦 : 344隻
・水雷艇 : 201隻

中央同盟軍(ドイツ+オーストリア=ハンガリー+イタリア)
・弩級戦艦 : 21隻+建造中8隻+巡洋戦艦4隻+建造中巡洋戦艦3隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  3隻/36隻/11隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 17隻/31隻
・軽巡洋艦 : 21隻
・駆逐艦 : 141隻
・水雷艇 : 207~230隻

(´・ω・`)ショボーン
もちろん艦船の数だけで勝敗が決まるわけではないとはいえ、なんでこんな連中に戦争ふっかけたんだと言いたくなる。そりゃイタリアも寝返るさ。
結局、中央同盟海軍はイギリス軍を主力とする連合軍艦隊に対して真正面の戦いを挑んだところで勝ち目などなく、それに気づいたところで小艦艇を充実させるにはすでに手遅れであった。
ちなみに、戦争が長引くと連合側にはさらに日本艦隊とアメリカ艦隊が加わる。

日本海軍の開戦時戦力
・弩級戦艦 : 2隻+建造中2隻+巡洋戦艦1隻+建造中巡洋戦艦3隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  0隻/10隻/4隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 12隻/15隻
・軽巡洋艦 : 6隻
・駆逐艦 : 50隻
・水雷艇 : 0隻(数値なし?)

アメリカ海軍の開戦時戦力
・弩級戦艦 : 10隻+建造中4隻
・準弩級戦艦/前弩級戦艦/海防(小型)戦艦 :  0隻/23隻/0隻
・装甲巡洋艦/防護巡洋艦 : 12隻/22隻
・軽巡洋艦 : 0隻
・駆逐艦 : 50隻
・水雷艇 : 23隻

日本はともかく、アメリカを戦争に巻き込んだらダメ! ゼッタイ! 無制限潜水艦作戦なんてもっての他!
とりあえず、帝国海軍の駆逐艦/水雷艇はやっぱり少なすぎるということはよくわかった。

そんなわけで、無情な数字が示す通り、なんの奇跡も起こらずに開戦と同時に帝国海軍はアドリア海に閉じ込められた。
皮肉にもイタリアが寝返ったことで、イタリア沿岸に対するヒットエンドラン戦法を繰り返すという役目ができた帝国海軍は連合軍の隙を見ての出撃を繰り返す。
1915年12月29日、帝国海軍駆逐艦戦隊は襲撃に出撃、遭遇したフランス潜水艦「Monge」(Pluviôse級)を撃沈(帝国海軍巡洋艦「ヘルゴラント」の体当たりで沈められたとする資料もある)したがフランス軍が敷設した機雷原に入り込み、タトラ級駆逐艦「リカ(Lika)」、「トリグラフ(Triglav)」が損傷。フランス軍の増援が迫っていたために曳航回収することができず2隻は自沈した。

1917年、ただでさえ少ない駆逐艦が減ったために帝国は新たにタトラ級4隻を追加建造する。
そのうちの2隻は戦没した艦の名を引き継ぎ、リカ、トリグラフと命名される。ややこしいことしないで!
同型艦ではあるものの、2期発注分は戦訓を取り入れ66ミリ砲4門が撤去され、代わりに45センチ魚雷発射管(連装)が1基増えている。完成見本写真を見ると魚雷発射管が2x2なので、キットのトリグラフは2代目ということになる。(2期4隻は「タトラ級代艦」という別クラスとして扱われることもある)
ちなみにタトラ級の各艦の名前は帝国内の山から名前を取られており、トリグラフはスロベニア最高峰(2,864m)に由来している。

初代リカ、トリグラフ以外は戦争を生き延び、タトラ級駆逐艦は終戦時に8隻(1期4隻+2期4隻)が現存していた。
これらのうち1隻、「Dukla」(2期)はフランスに引き渡され、残り7隻はイタリアへ引き渡された。それぞれの艦は新しい名前を与えられたが、全艦が1939年までに解体されており、タトラ級駆逐艦で第二次大戦に参加した艦はない。

今のところ筆者の知る限り、フサール級のカードモデルというのはリリースされたことがないようだ。つまり、オーストリア=ハンガリー帝国の駆逐艦は現時点ではこのキットが唯一のものとなる。オーストリア=ハンガリー海軍ファンのモデラーなら、このキットを見逃すべきではないだろう。


(第四回に続く)

キット画像はJSCショップサイトからの引用。


参考ページ:
https://ja.wikipedia.org/wiki/タトラ級駆逐艦
or
https://en.wikipedia.org/wiki/Tátra-class_destroyer

https://en.wikipedia.org/wiki/Huszár-class_destroyer

https://ja.wikipedia.org/wiki/オーストリア=ハンガリー帝国海軍艦艇一覧

https://warandsecurity.com
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