BETEXA スロベニア水力発電所  Hydroelekrárna FALA

先週、「この週末にはいろいろかたがついてラクチンになるよ!」とフラグを立てまくったせいで順調に納入が延期となった筆者が休日出勤の合間にお送りする世界のカードモデル情報。
今回紹介するのはチェコのカードモデル出版/販売サイト、BETEXAが自社ブランドでリリースした スロベニア水力発電所 Hydroelekrárna FALA だ。

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スロベニアの水力発電所である。念のためもう一度書いておこう。スロベニアである。スロバキアではない。スロバキアはかつてチェコスロバキアを構成した国、スロベニアはかつてユーゴスラビアを構成した国で、全然別の国である。国旗がクリソツ(スロバキアスロベニア)でも全然別の国である。筆者が途中までチェコBETEXAの商品だから、このダムもスロバキアにあるんだろうと勘違いして全然資料が出てこなくて困り果てたとしても別の国である。なお、名前が良く似てるのは両国名とも民族名の「スラブ」を語源としているから、という説もあるが確定的ではないようだ。

さて、そのスロベニアはFalaにあるのがこの水力発電所。とは言っても、現在は水力発電所としての役割はかなり縮小されていて、メインは博物館となっているようだ。
地図上での位置はここ
ちなみにFalaという地名は13世紀から地図に登場する。当時は「Vall」、「Valle」のように表記されていたが、15世紀終盤に頭文字がFになった。これはもともとVをF音で発音するドイツ語に由来する地名の表記が、発音に併せて変化したのではないかと考えられており、この場合Falaの語源は古い高地ドイツ語で「黄色みがかった」を意味する「falo」あたりが語源ということになる。おそらく、この地に進出したゲルマン人はドラーヴァ川の流れを見て「ずいぶん黄色い川だな」と思ったのだろう。
なお、もっと単純に「谷」を意味するラテン語「vallis」から派生したのではないかという説もあるが、これはスロベニアは神聖ローマ帝国領であったものの、ラテン語の流入は極めて限定的であったことから否定されているらしい。

オーストリアからスロベニアを突っ切り、ハンガリーとクロアチアの国境を流れドナウ川に合流するドラーヴァ川で水力発電を行うというアイデアは20世紀初頭からあったが、本格的にFalaで建設が始まったのは1913年から(当時スロベニアはオーストリア=ハンガリー帝国領)。工事は1913年11月に始まったが、わずか半年後には第一次大戦が勃発。多くの労働者がオーストリア=ハンガリー軍に動員されたために工事はちっとも進まなかった。
しかし、1916年になると、どうやらこの戦争はまだまだ続きそうだ、下手すりゃ数十年も続くかもしれんぞ、という恐ろしい予想が台頭してくる。そうなると、南米の窒素肥料輸入が途絶えているドイツ、オーストリアなどの中央帝国側は肥料として石灰窒素をどんどん作らないと国民の食料が賄えない。そして、石灰窒素の元になるカーバイド製造には大量の電気を使用する電気炉が必要となる。
と、いうわけで果然戦争は国内で「電力確保闘争」へと姿を変えた。これぞ総力戦。ちなみに窒素肥料のために発電所をどかどか建てる、というのは後に未曾有の公害病を起こしたことで歴史に名を残すことになった「チッソ」(旧:日本窒素肥料)が辿った道でもある。日窒は自社発電所で作った安価な電力で肥料を生産するというビジネスモデルが立ち行かなくなり、ケミカル産業へ舵を切ったのが間違いの始まりだった。
捕虜を投入した突貫工事で1918年5月6日、最初の3基のタービンが回転しFala水力発電所は発電を開始(設計上のタービン数は5基)。その半年後、中央帝国側は第一次大戦に敗退し、オーストリア=ハンガリー帝国は解体されスロベニアは「セルビア・クロアチア・スロベニア王国」を経てユーゴスラビアの一員となる。

それでは、ここで公式ページの完成見本写真を見てみよう。

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キットは何度か拡張を受けた後の、現在のダムの姿を再現。日本でいうと建設時期、形式とも栃木県の黒部ダム(1912年竣工。「黒部の太陽」の黒部ダムとは別のダム)に近いだろうか。堤体のみではなく付随施設まで含んだ情景キットとなっているので、ダムの構成を知るための資料としても使えそうだ。
堤体の足元にある尖った部分は流木や氷が直撃するのを避けるためのもの。
Fala水力発電所は第二次大戦中ドイツ軍に占領されていたが、アーチ式ではないのでランカスター爆撃機がダムバスター弾をぶつけにきたり、下流の鉄橋を落とすためにコマンド部隊に爆破されたりもせず、戦争を生き延びた。

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Wikipediaからの引用で、タービン棟の写真(絵葉書)。むき出しのシャフト、むき出しのタービンがそれでいいのか、という感じだ。現在、この部屋は一般に公開されており見学ができる。
手前に立っているフレディー・マーキュリー風の人物との対比でタービンのサイズがわかる。
奥の2基は手前5基と少し形状が異なるようだが、手前5基が最初に配置されたタービンで、残り2つはそれぞれ1925年、1932年に増設されたものなのでその差だと思われる。
さらに第8タービンが1974年に、第9、第10タービンが1991年に増設されている(8~10号は別の建物が建造された)。10基のタービンが揃った1991年、スロベニアはユーゴスラビアを脱退し、独立した。

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細部のディティールにクローズアップ。古びたコンクリートのテクスチャがいい雰囲気だ。チェコ式のペーパークラフトは基本的に芯材が入らないので、平面の「たるみ」が気になるようなら0.5ミリ程度の厚紙で裏打ちするとピシっとした仕上がりになる。
ベテランモデラーなら、艦船模型のように手すりを自作することでさらにクオリティアップを狙うのもいいだろう。
左側写真の建物が8~10号タービンのおさまる新タービン棟だろうか。

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何基も林立しているクレーンは水門開閉のためのもの。位置から推測するに、下にある緑色のハッチを開けて水門にアクセスするのだと思われるが、なんでわざわざそんな面倒な構造になっているんだろう。
1990年代中盤、旧式となった1号~7号までのタービンが運用終了となったが、当時すでにスロベニア最古の水力発電所であったFala水力発電所は、運用停止で不要となった部分を博物館に改装。1998年に「Muzej HE Fala」として公開、博物館は2008年にスロベニアの国定重要産業遺産に指定された。
2017年現在、博物館は月曜~金曜が開館という旧共産圏らしいスケジュールで運営。入場料は大人3.5ユーロ(約420円)となっている。

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組み立て説明図。チェコ式は展開図の取り付け位置に相手の部品番号が書き込まれているので組立説明図は少なめだ。

BETEXAからリリースされた、スロベニアの水力発電所 Hydroelekrárna FALA のスケールは300分の1。完成サイズの記載はないが、なかなか迫力のあるサイズとなりそうだ。難易度も記載がないが、5段階評価で「3」(普通)といったところか。そして定価は599チェココルナ(約2700円)となっている。

ダムのカードモデルというのはありそうで意外となかった。ダムファンのモデラーはこの歴史的なダムの模型を手に入れられるこの機会を見逃すべきではないだろう。もちろん、スロベニアファンのモデラーにも当キットはオススメの一品である。



キット画像はBETEXAショップページからの引用。


*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
https://sl.wikipedia.org/wiki/Hidroelektrarna_Fala
https://en.wikipedia.org/wiki/Fala,_Ruše
https://ja.wikipedia.org/wiki/スロベニア

https://maribor-pohorje.si/fala-hydroelectric-power-plant-museum.aspx
観光情報。

おまけ動画:
すごく微妙な感じのユルキャラと巡るFala水力発電所。上の絵葉書にある旧タービン棟の現在の様子も見られる。
part1 part2
このキャラは発電所のイメージキャラではなく、スロベニア電力協会の子供向け広報プログラムのもの。
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