Orel フランス装甲艦 "Solferino"(後編)

最近、ほとんど放置状態のフェイスブックアカウントに、クロアチアから「以前に○○というゲームの製作に関わってましたか?」というメッセージが来て心底びっくりした筆者のお送りする世界のカードモデル最新情報。いや、海外でもリリースになったしスタッフロールにアルファベット表記で名前載ってるからあり得ないわけじゃないんだけど、あのゲーム出たのってもう15年も前よ!?

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ウクライナOrel社からの新製品、フランス装甲艦 "Solferino"の続き。

前回世界初の蒸気式戦列艦「ナポレオン」を就航させたフランス海軍だったが、造船技師アンリ・デュピュイ・ド・ロームとそのチームが目指しているのはさらにその先であった。
ナポレオン就航から10年、蒸気式戦列艦の衝撃からまだ世界が醒めやらぬうちにフランス海軍はさらなる次世代戦艦を大洋に解き放つ。
1860年、フランス海軍は世界初の装甲艦、「Gloire」(グロワール、”栄光”。カナ表記では定冠詞をつけて「ラ・グロワール」と表記されることも多い)を就航させる。蒸気航行可能な渡洋性能を持つ装甲された主力艦、「装甲艦」の登場である。
全長77メートル、排水量約5千トンのグロワールの船体は厚さ12センチの錬鉄で覆われ、2500馬力エンジンの力で最大13ノットでの航行が可能であった。
ただし、武装はちょっと控えめで単甲板に36門しか搭載していないが、これはおそらく多段式砲甲板に大砲ずらりと並べると、ただでさえ喫水線上の装甲でトップヘビーになってる船がひっくり返る恐れがあったからだと思われる(当時の分類では単甲板の艦船は主力と認められないので、グロワールを「装甲フリゲート」と分類している資料もある)。
グロワールは帆走装備も供えており、建造当初は3本マストの先頭だけ横帆、残り2本が縦帆を張る「バーケンティン」形式(1100平方メートル)だったが、実際に運用してみると帆の面積が不足していることがわかり一旦は3本マストとも横帆を張る「フルリグド・シップ」(2500平方メートル)形式に改められた。しかし、いざフルリグで帆を展開してみるとグロワールは危険なほどにローリングするためにすぐに帆布面積が縮小されたというので、やはりトップヘビーだったのだろう。

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フランス海軍博物館所蔵に展示されている素晴らしいクオリティのグロワールの模型。画像はWikipediaから引用(この項キット画像以外は全て同様)。
現代の目でみるとややずんぐりむっくりした感じなのは古典的な戦列艦のかたちを受け継いでいるから。帆布配置は最終的な縮小フルリグド形式だろうか。

グロワールの登場は世界中の海軍にとって衝撃であった。もはや風がないと動けない帆船や、当時各国が実戦配備を進めていた榴弾が簡単に貫通する木造船ではいくら数を揃えたところで戦力とはならず、全ての海軍力が一から作り直しになってしまったのだ。
仲がいいようで悪いイギリスはグロワール建造中に情報をキャッチし、急いで独自の装甲艦「ウォーリア」を就航させる。木製船体に錬鉄装甲板を貼ったグロワールに対し、ウォーリアは鉄製船殻を持つ真の「甲鉄艦」であった。
フランス海軍もグロワール就航後に建艦競争に突入することに気づいており、急ぎグロワール級2隻を追加建造したが、この追加
の2隻は建造を急いだために木材の乾燥が不十分で、就航後10年で腐食のために解体されている(グロワールはもう10年頑張った)。
なお、追加2隻の名前は「アンヴァンシブル(Invincible)」と「ノルマンディー(Normandie)」。アンヴァンシブルは無敵艦隊でおなじみの「無敵」だが、3隻目で唐突に「ノルマンディー」と地名になるのはなぜだ。日曜朝のスーパー戦隊で「装甲戦隊グロワール」が始まったとして、メンバーが「栄光レッド!」「無敵ブルー!」「ノルマンディーイエロー!」だったら変じゃないか。

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2000年にポーツマスで撮影された装甲艦ウォーリア。ウォーリアは1883年に退役後、全ての装備を外した船殻が浮き倉庫として使用されていたが、1960年代終盤にその価値を再評価されほとんど残骸状態から再建され現在は記念艦となっている。比較的良質な建材で建造され、長持ちしたグロワールでさえ20世紀まで耐えられなかったことを考えると、金属製船殻の頑丈さが桁違いであることがわかる。

もちろん、フランスだって木製錬鉄貼りの装甲艦で満足しているわけではない。
ウォーリアが完成した翌年、フランス初の完全金属船殻の装甲艦、「クーロンヌ」が就航する。

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絵葉書のクーロンヌ。「クーロンヌ」という名前は筆者が住んでる隣町のパン屋(おいしい)と同じであるためにイマイチ迫力を感じないが、本来の意味は「王冠」だ。「エクレア(稲妻)」よりはましか。
画像では砲列が2段あるように見えるが、よく見ると砲の突き出している砲門は上段のみ。ただし、後に射界の広い上部甲板にも砲が追加されている。金属船殻のクーロンヌも木造船とは段違いの耐久性を発揮し、スクラップになったのは1930年代である。

他国も同じ蒸気航行・金属船殻の装甲艦を持ったとなれば、後は巨大化によって優位性を確保するしかない。
1862年、フランス海軍は新型装甲艦「Magenta」(マジェンタ)を就航させる。
「マジェンタ」という艦名は1859年6月4日、独立のために戦うイタリア軍(サルディーニャ)と共同してオーストリア軍を打ち破った「マジェンタの戦い」にちなむ。ちなみにこの「マジェンタ」は現在のミラノにある地名だが、この戦いでフランス軍が来ていた軍服の色が勝利にちなんで「マゼンダ」と呼ばれるようになったそうだ。

マジェンタは世界初の2段砲甲板装甲艦であった。
武装は34門+16門の50門と追撃用に上甲板に2門。それまでの装甲艦がだいたい三十数門の砲を装備していたのに対して1.5倍の攻撃力となる。なお、どういうわけか日本語版のWikipediaでは砲数が34門+追撃用2門となっており、甲板1段分がまるまる足りない。砲甲板2段であることは間違いないので、おそらく日本語版がなんらかの誤りと思われる。
マジェンタ級は2隻が建造され、マジェンタの半年後に2番艦、「ソルフェリーノ」(この名前もイタリア独立戦争に伴う「ソルフェリーノの戦い」にちなむ)が竣工する。ここまできてやっと標題のアイテム登場だ。

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画像は絵画だが、大迫力のフランス海軍主力艦隊。グレーの2隻がマジェンタ級。間の1隻は前編に登場した「ナポレオン」だ。
マジェンタ級は下顎が突き出しているが、これは装甲衝角が装備されているため。これもマジェンタ級で初めて装備された。

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こちらはキットの試作写真。新兵器である衝角の形状が良く分かる。マストと二段砲甲板は帆船時代の戦列艦のイメージを残しており、まさしく木造帆船と装甲蒸気艦をつなぐ橋渡しの艦と言えるだろう。

当時最強の火力を誇るマジェンタ級だったが、イギリスはこれに対抗した多段砲甲板の装甲艦を建造することはなかった。
1862年3月8日、南北戦争で南北両海軍の装甲艦が激突し両軍とも砲弾を滅多打ちしたが、互いに1発も貫通しなかったことで、いくら多数の砲で連射を浴びせても、貫通不能な装甲艦相手には全く意味がないことが判明したのだ。
これ以降、海軍の主力艦は重装甲を打ち破るための少数・大口径火砲を装甲砲郭に搭載する方向へ発展し、その究極として「戦艦」が誕生する。
存在価値のなくなったソルフェリーノは1884年に除籍、解体される。またマジェンタは1875年に失火により弾薬庫に引火爆沈している。
マジェンタ級2隻は、海軍史において唯一の多段砲甲板式装甲艦となった。

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展開図と組み立て説明書のサンプル。鳥を模した船首像も時代がかっていて楽しい。試作では省略されているが、帆走装備はじっくりと取り組んで帆船なんだか蒸気船なんだかよくわからない感じをしっかり再現したい。

先進的なんだが進む方向を間違えた黎明期装甲艦の徒花、フランス装甲艦 "Solferino"は海もの標準スケール200分の1で完成全長約43センチ。難易度は3段階評価の「3」(難しい)、そして定価は480ウクライナフリブニャ(約1800円)となっている。
当キットはその構造から、最後期戦列艦ファン、極初期装甲艦ファン、どちらも楽しめるおいしいキットと言っても過言ではないだろう。
なお、Orelからは同時に黎明期装甲艦がもう1隻、リリースとなっており、、黎明期装甲艦ファンのモデラーはこちらも見逃せない。

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またモニターかよ!



表紙、展開図画像はOrel社ショップページからの引用。

*定価はあくまでも現地で購入する場合の値段です。日本国内で購入する場合には輸送費などを考慮し、2倍~3倍程度になるとお考えください。

参考ページ:
https://ja.wikipedia.org/wiki/ラ・グロワール
https://ja.wikipedia.org/wiki/ウォーリア_(装甲艦)
https://en.wikipedia.org/wiki/French_ironclad_Couronne
https://en.wikipedia.org/wiki/French_ironclad_Magenta
https://en.wikipedia.org/wiki/French_ironclad_Solférino
それぞれの英語版、日本語版、フランス語版も参考とした。
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