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Draco アメリカ 試作無尾翼機 Burgess-Dunne BD-3・その5

制作中の33分の1瑞雲が、作業に進むにつれてどんどん全長全幅が大きくなっていって、そろそろ作業机からはみ出る勢いに、どうすんだこれ、と途方にくれている筆者のお送りするカードモデル最新情報。世界のカードモデルデザイナー参加型販売サイト、ecardmodels.comでリリースされているDraco氏デザイン、アメリカ 試作無尾翼機 Burgess-Dunne BD-3の紹介も、今回が最終回だ。

DCOBD-3-1.jpg

前回までのあらすじ。
無尾翼機の開発を続けてたジョン・ウィリアム・ダン(John William Dunne)が作ったD.8は性能がご機嫌だったのでアメリカのバージェス社がライセンス生産した。

1914年8月4日、中立国ベルギーに侵入したドイツ帝国に対し12時間の期限付きで撤退を行う旨を回答するよう要求したイギリスは、期限までにこれに対する返答がなかったためドイツに対し宣戦布告した。
参戦直後、イギリス連邦の一員であるカナダの防衛大臣、サム・ヒューズ(Sam Hughes)がイギリス本国に早急にカナダができる戦争支援について尋ねたところ、イギリスから「飛行機のパイロット、できれば6人、腕が立つのを送ってくんない?」という回答を受け取る。

これに応えるため、ヒューズは1914年9月16日、「カナダ航空軍団」(Canadian Aviation Corps、略してCAC)を編制する(1920年に編制された「カナダ空軍」とは別の組織)。
このCAC、名前は勇ましいが、人員は指揮官の他にパイロット1人、整備士1人、総員3人という冗談みたいな組織で、しかもカナダ軍は航空機を全く保有していなかったので、「これでなんかテケトーにえぇ飛行機を買いなはれ」と5千ドルをぽいっと渡されるという状況で、この5千ドルを握りしめて飛行機屋めぐりをしたCACが購入したのが、バージェス・ダン無尾翼複葉機の2番機だった。

Canadian_Aviation_Corps_-_Burgess-Dunne_Model_BD-1B_floatplane.jpg

Wikipediaからの引用で、少し小さい写真だがカナダ軍のバージェス・ダン無尾翼複葉機とされる写真。出典不明。背景の乱雑な町並みと相まって、なんだか「天空の城ラピュタ」のワンシーンのような絵面だ。

胴体内のレイアウトが変更され、複座となっていたバージェス・ダン無尾翼複葉機2号はテスト飛行の後に分解され客船SS.アセニア(SS Athenia)に積み込まれ、CACの総員3名と一緒にイギリスへ送られたが、どうも梱包の仕方が良くなかったようで、到着して梱包を解いたらぶっ壊れてた。とほほ。

どの程度真面目に修理しようとしていたのかわからないが、どうも勢いでイギリスに来てしまったCACにはちゃんとした格納庫も準備されていなかったようで、CAC指揮官アーネスト・ロイド・ジャニー(Ernest Lloyd Janney)がイギリス各地の航空機工場などを見学してるうちに放置してあった機体がイギリスの冬の寒さでマジ腐って修理不能となってしまった。とほほほほ。

結局、年が開けた1915年5月、「なんかもういいや」とCACには解散と帰国が命じられた。
持って帰るのも面倒だったのか、バージェス・ダン無尾翼複葉機2号はそのままソールズベリーの平原に放置されていたが、いつの間にかスクラップになっていた。

何をしに来たのかわからんまま解散したカナダ軍初の航空部隊だったが、そんなんでもバージェス・ダン無尾翼複葉機はカナダ軍が最初に装備した機体であり、現在、オンタリオの国立カナダ空軍博物館(National Air Force Museum of Canada)には精巧なレプリカが展示されている

しかし、よく考えたら、わざわざアメリカでライセンス生産されたバージェス・ダン無尾翼複葉機をイギリスに持ち込まなくても、手ぶらでイギリスに来て適当な機体を購入すればよかったんじゃないだろうか。そもそも、ダン無尾翼複葉機ってイギリスで開発された飛行機なんだから、カナダではアメリカで買ったバージェス・ダンで練習して、イギリスで改めてダンD.8を手配するという手も……あ、これじゃ予算が足りないか。
静岡ホビーショー併設モデラーズ合同展示会に作品を郵送する予定のモデラー読者諸氏も、このカナダ航空軍団を他山の石として梱包には気をつけたいところである。

アメリカはまだ第一次世界大戦に参戦していなかったが、航空戦力の整備は細々と続けていて、カナダの購入に刺激されたのか、アメリカ陸軍もバージェス・ダン無尾翼複葉機3号を購入している。
これは、エンジンとしてフランス製のサルムソンM9水冷星型9気筒エンジン(135馬力)を搭載していた。

なんで急にフランス製エンジンが搭載されたのかよくわからないが、もしかすると、なんらかの理由で胴体を再設計せずにエンジンを空冷にしようと思ったら、水冷で重いカーチスOXXエンジンの代わりになる(重心がそれほど変わらない)パワフルで重い空冷エンジンがサルムソンしかなかったのかもしれない。
また、海軍も2機のバージェス・ダン無尾翼複葉機を購入、AH-7、AH-10の制式名を与えているが、こちらはそれぞれ90馬力カーチス、100馬力カーチスとエンジンが異なっていた。

海軍の2機のバージェス・ダンのうち、100馬力エンジンを積んだ一機は1915年4月23日、1万フィート(約3千メートル)に達した初めてのアメリカ機となった。
しかし、これらの機体がどの程度使用され、いつごろ廃止されたのかはよくわかっていない。
最終的にバージェスはダン無尾翼複葉機の制作を各種合計26機で打ち切っている。戦時中、バージェス社はカーチス・モデルN複葉水上機を460機以上ライセンス生産しているので、そっちの方が忙しくなったのだろう。
結局、イギリス、フランス、カナダ、アメリカなどで注目されたダン無尾翼複葉機だったが、全て少数の生産に終わってしまった。

800px-Launch_of_plane_on_NY_Naval_militia,_1916

これもWikipediaからの引用で、バージェス・ダン無尾翼複葉機の水上機型。アメリカ議会図書館所蔵。1916年に撮影された写真だが、キャプションが「ニューヨーク海軍民兵(New York Naval Militia)」となっているので、海軍から払い下げられた機体なのかもしれない。


少し時間は巻き戻るが、もともと大病や大怪我を経験しているJ. W. ダンはD.8を制作した後、1913年ごろには健康状態が悪化し、それ以上の航空機開発はできなくなっていた。結局、ダンの「手放しでも飛ぶ飛行機」という発想は主流となることがないまま、ダンは航空業界を去る。

ダンはその後を思索と趣味に費やしたようで、1924年には「Sunshine and the Dry Fly」というフライ・フィッシングの本を出版している。
また、1927年には時間についての自身の理論を解説した「時間の実験(An Experiment with Time)」を出版。この中でダンは、時間は過去、現在、未来の全てが同時に存在し、人間はそれらを順番に知覚しているにすぎない、と提唱。夢などの無意識化ではその知覚の枠が外れ、過去や未来の時間を体験することができるのだ、ということを言っているのだと思うのだが、哲学的過ぎて到底無責任カードモデラーの筆者の理解の及ぶところではなかった。
「時間の実験」はかなり難しい内容だと思うのだが、当時の知識層の間では必読の書として知られていたらしい。

1928年、ダンは第18代セイエ・アンド・セイル男爵の娘シシリーと結婚。結婚後はオックスフォードのブロートン城(Broughton Castle)で暮らしていたが、1949年8月24日に74歳で死去した。

それでは、独特な姿の無尾翼複葉機Burgess-Dunne BD-3の姿を ecardmodels.com の商品ページに掲載されている完成見本写真で見てみよう。

DCOBD-3-3.jpg DCOBD-3-2.jpg

キットは陸軍が購入した、サルムソンM9水冷星型9気筒エンジンを搭載した3号機。写真を見る限りではむき出しのエンジンが円盤で表現されるなど、かなりイージーな構成となっているようだ。
ちょっと、正直、完成見本はヘニョくてアレなのだが、この独特なスタイルを見るためにサクっと仕上げるのもいいし、腕に覚えがあるモデラーなら適当なキットのパーツを転用して徹底的なディティールアップを行うのもいいだろう。
キットのスケールは空モノ標準スケール33分の1となっているが、デジタル販売であることを利用して、いっそミニスケールで仕上げるのもおもしろそうだ。

Draco氏デザイン、アメリカ 試作無尾翼機 Burgess-Dunne BD-3はスケールは前述の通り33分の1、難易度は5段階評価の「2」(易しい)ぐらいだろうか。定価は6ドル、デジタル版のみの販売となっている。
当キットは無尾翼複葉機やカナダ陸軍航空隊ファンのモデラーにとっては、まさに見逃せない一品と言えるだろう。

キット画像はEcardmodelsからの引用。

https://ecardmodels.com/product/1-33-burgess-dunne-bd-3-paper-model
商品直リン



参考ページ:
https://en.wikipedia.org/wiki/J._W._Dunne
https://ja.wikipedia.org/wiki/ダン_D.8
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